この春、デノンから2モデルのヘッドホンが発売された。ひとつは上級クラスの「AH-D5200」で、ハイエンドクラスの「AH-D7200」の弟機に位置する製品。もうひとつの「AH-D1200」は、根強い人気を保つハイコストパフォーマンスモデル「AH-D1100」の後継モデルとして開発された製品となっている。今回は、この2モデルについて詳細を紹介していこう。
最初は「AH-D5200」について。こちらは、外観は「AH-D7200」に近いデザインが踏襲され、まさに兄弟モデルといったイメージだが、部分的に共通パーツを採用しているものの、詳細はずいぶんと異なっている。
まず、ハウジング部は同じ天然木素材ながらもアメリカン・ウォールナットからゼブラウッドへと変更。これにより、コストを抑えただけでなく、硬度の高いゼブラウッドならではの緻密なディテール表現を確保しているという。
また、音質の要となるドライバーは、動板外周をロールエッジで保持するフリーエッジ構造の50mm口径ユニットという部分に変化はないものの、振動板素材やマグネットが変更されるなど、コストに配慮しつつも音質を犠牲にしない工夫が施されている。
美しい縞模様が特徴で、高級家具にも使われる天然のゼブラウッド素材をハウジング部に採用
いっぽうで、一般的な人工皮革の約2倍の耐久性を持つ人工皮革と最適なフィット感が得られる形状記憶フォームを採用するイヤーパッドや、アルミダイキャスト製のハンガー部など、装着感や耐久性に関しては変わらないばかりか、後発モデルだけに細々とした改良が施されている印象を持つ。
形状記憶フォームを採用するイヤーパッドは、耳をやさしく包み込んでくれる
また、3.5mm2極プラグを採用する両出しの着脱式ケーブルは、「AH-D7200」と互換性を保つものの、芯線を4N OFCに変更することでコストパフォーマンスに貢献している。そのかわり、付属ケーブルのアンプ側端子が3.5mmステレオミニ端子に変更(6.3mm変換部ラグも付属)され、使い勝手が高まっている。このあたりはありがたいかぎりだ。
4N OFCを線材に使用した付属ケーブル。アンプ側端子が3.5mmステレオミニ端子になり、ハイレゾDAPやポータブルヘッドホンアンプと手軽に接続できるようになった
このように、いくつかの部分でコスト調整が行われ、結構お得感のある価格となった「AH-D5200」だが、その最大の魅力はコストパフォーマンスではなく、あくまでもサウンドキャラクターにある点が秀逸だ。アコースティック楽器、特にクラシックや女性ボーカルなどを得意としていた「AH-D7200」に対して、「AH-D5200」はオールジャンルな傾向、どんな音楽ジャンルであってもその魅力をしっかりと引き出してくれるオールマイティさを持ち合わせているのだ。
「AH-D5200」を試聴中
具体的な表現をすると、中域をしっかり聴かせる帯域バランスで、高域は煌びやかさを持ち合わせているものの、決して前に出過ぎず、歌声や演奏にちょっとした色気や艶やかさを持たせる範疇にとどまっている。おかげで、女性ボーカルはややハスキーながらも聴き馴染みのあるストレートな歌声を楽しませてくれる。
いっぽうで低域は、かなりタイトに引き締まっており、ベースの音がよく見え、ドラムのキレもよい。そのおかげで、ハードロックやジャズなどは、グルーヴ感の高いノリノリの演奏が楽しめる。それでいて、ゼブラウッドハウジングのおかげもあってか、尖りすぎることのない、聴き心地のよさも持ち合わせているのだ。筆者のような、Jポップからテクノ、ロック、クラシックまで、さまざまなジャンルの音楽をまんべんなく聴く人には、ぜひ「AH-D5200」をオススメしたい。
もうひとつの製品「AH-D1200」は、コストパフォーマンスの高さからいまも高い人気を保ち続けている「AH-D1100」をベースに、磁気回路を強化した新開発50mmドライバーやアルミダイキャスト製ハンガー部、高耐久人工皮革と形状記憶フォームを採用するイヤーパッドを採用するなど、随所にかなりのグレードアップが施されたモデルとなっている。
「AH-D1100」をベースにさまざまなブラッシュアップを施したという「AH-D1200」
イヤーパッドは同時発表された「AH-D5200」同様、高耐久人工皮革と形状記憶フォームを採用する最新仕様。奥に見えるドライバーユニットも、磁気回路を強化した新開発のものが採用されている
ハンガー部はアルミダイキャスト製となり、耐久性も向上している
また、50mmドライバーとアラウンドイヤーパッドを採用しつつも小柄なサイズにまとめられあげられたハウジング部や、スイーベル機構、260gという軽量さ、着脱式の片出しケーブルなど、ポータブルヘッドホンとしての使い勝手もさらなる追及がなされている。
なお、ケーブルは音質を最優先したストレートケーブルと、iOSデバイス対応のリモコン搭載の2種類(ともに1.3mm)が同梱されているので、好みや環境に応じて使い分けることができる。ボディカラーは、オフブラックのハウジング部とブラックメッキのハンガー部を持つ「ブラック」と、オフホワイトのハウジングとシルバーのハンガー部、ブラウンのヘッドバンド&イヤーパッドを持つ「ホワイト」の2バリエーションがラインアップされている。
ホワイトとブラックの2色のカラーバリエーションをラインアップ
ちなみに、この「AH-D1200」は当初「AH-D1100」の後継モデルとして開発されたようだが、価格やデザインが異なることもあって「AH-D1100」も引き続き販売が継続されるとのこと。事実上、「AH-D1200」は「AH-D1100」の上位機種と捉えるのが妥当そうだ。
実際のサウンドは、確かに「AH-D1100」の延長線上にあるもの。ヌケのよい、メリハリがハッキリとしているエネルギッシュなサウンドキャラクターは変わらないが、明らかに歪み感が減少し、聴感上の解像度感もぐっとよくなっている。ハードロックを聴くと、エネルギーに満ちたパワフルな演奏を楽しませてくれるが、ギターの歪みに突抜感だけでなくぶ厚さを感じたり、ベースの音が明瞭で確かな存在感を主張していたりと、演奏のひとつひとつから音の素性のよさが垣間見られる。
特に男性ボーカルの表現がなかなかのもので、低域の付帯音がしっかりと伝わってくれるため、たっぷりとした厚みのある、同時に高域のヌケもよいセクシーでいてのびのびとした歌声を聴かせてくれる。なかなか魅力的な表現をもつヘッドホンだ。
「AH-D1200」を試聴中
このように「AH-D5200」と「AH-D1200」は、製品コンセプトもサウンドキャラクターも価格も大きく異なる製品となっているが、音の良質さや耐久性の追求などに関しては、双方ともにデノンらしい、生真面目なほどの真摯さが感じられ、結果として完成度の高い製品に作り上げられている。また、「AH-D5200」にはオールマイティなサウンドキャラクターがあり、「AH-D7200」とはグレードだけでない明確な差別化が図られているし、「AH-D1200」にはコンパクト&軽量デザインから来る使い勝手のよさがある。今後は「AH-D1200」のBluetoothワイヤレスモデルにも期待したいところだが、そういった製品が発売された後も変わらず人気を保ち続けるだろう。どちらもそれぞれ、十分な魅力をもつ製品だ。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。