マランツから、同社Hi-Fi製品の最新モデルである「12」シリーズが登場した。USB-DAC搭載SACDプレーヤー「SA-12」と、プリメインアンプ「PM-12」をラインアップする。マランツの開発陣が、同社Hi-Fi製品の“新世代”とアピールする2機種だ。そんな「12」シリーズの魅力を紹介しよう。
「SA-12」(上)と「PM-12」(下)は、2018年7月13日に発売。メーカー希望小売価格はそれぞれ300,000円(税別)
SA-12/PM-12は、製品のグレードとしてはマランツの上位機種「SA-10」「PM-10」の次位に位置づけられる。「10」シリーズの技術を継承しつつ、本体サイズは下位モデル「SA-14S1」「PM-14S1」と同等を実現した。
しかし、単純に「10」シリーズをベースにコストダウンしたわけではないという。マランツによれば「12」シリーズは、そのサウンドを上位モデルに肉薄させるべく、これまでの同社製品にはなかった新しい内部設計・構成が取り入れられたのだとか。以下より、順番にその詳細を見ていこう。
マランツのプレミアムHi-Fiシリーズラインアップ一覧。SA-10/PM-10に続く次位モデルとして、SA-12/PM-12が追加された形となる
SA-12/PM-12(写真右)とも、既存の下位モデルSA-14S1/PM-14S1(写真左)と同等の筐体サイズを実現している(「12」シリーズの登場をもって「14」シリーズは販売を終了する)
まずはSA-12から。本機は、USB-DAC機能を搭載するSACDプレーヤーだ。メカエンジンは、上位機種SA-10と同じオリジナルの「SACDM-3」を採用。USB-DAC部の対応スペックもSA-10と共通で、最大384kHz/32bit PCMおよび11.2MHz DSDまでの入力ソースに対応する。
SA-12の本体サイズは440(幅)×123(高さ)×419(奥行き)mmで、重量は16.4kg
トップカバーを開けたところ。内部には、トロイダルトランスやカスタム・ブロックコンデンサー、精密メルフ抵抗、高音質電解コンデンサーなど、高音質パーツをふんだんに採用
入力端子は同軸デジタル/光デジタル/USB-A/USB-Bを備え、USB入力経由で最大384kHz/32bit PCMおよび11.2MHz DSDに対応する。出力端子はアナログバランス/同軸デジタル/光デジタル/ヘッドホンを装備する
マランツオリジナルの第7世代ドライブメカ「SACDM-3」を搭載。なお、ドライブメカ自体はSA-10と同じものだが、SA-10では10mm厚だったスチールベースの厚みを2mm厚に変更している
マランツのSACDプレーヤーといえば、既存の1チップDACではなく、デジタルフィルターとディスクリートDACによるD/A変換部を持つことが大きな特徴。SA-12も、もちろんこの構成を受け継いでいる。
具体的には、オーバーサンプリングデジタルフィルターとΔΣモジュレーターによって構成される「MMM-Stream」で、全てのPCM入力信号をいったんDSD変換し、それを、FIRフィルターを搭載したディスクリート構成DAC「MMM-Conversion」でD/A変換するという構造だ。
ディスクリート設計ならではのポイントとして、音質に影響するパーツを自由に組み合わせ、回路規模を自由に構成していること、デジタル変換する直前でノイズをアイソレーションする「コンプリートアイソレーションシステム」を搭載していることなどがあげられる。
オリジナルのアルゴリズムによってPCM入力データをDSDデータ(11.2MHz/12.3MHz)に変換処理することで、DSDと全く同じD/A変換プロセスで再生できる。なお、DSD入力データは「MMM-Stream」内で信号処理を行わず、「MMM-Conversion」に伝送される
全入力系統に適用される「コンプリートアイソレーションシステム」も採用。デジタル/アナログステージをD/A変換内部で完全に分離し、高周波ノイズの影響を排除する
こちらが「MMM Stream」を担う基板。後段はシンプルなアナログフィルターのみとしている
なお、SA-12はクロック部が新しくなっている。最新世代の超低位相雑音クリスタルを採用したことにより、SA-10と比較して位相雑音が15dB改善したという。
44.1kHz系と48KHz系それぞれに、専用のクロックを搭載する
そしてアナログ部の回路は、マランツ独自の高速アンプモジュール「HDAM-SA3」を搭載したフルディスクリート構成としている。DACからのディファレンシャル出力を、初段はFET入力のHDAM-SA3バッファーアンプ(兼1次ローパスフィルター)で受け取り、次にHDAM-SA3電流帰還型差動アンプ(兼2次ローパスフィルター)を通して出力する構成だ。
SA-12はXLR出力端子を省略したため、SA-10と比べてアナログ部の基板がコンパクト化しており、回路自体を改良することが可能となった。そこで不燃抵抗を排除し、高音質化を図っているのがポイントだ。
DAC以降のアナログステージは、フルディスクリート構成のオーディオ回路としている
ヘッドホン回路は、HDAM-SA2都債のフルディスクリート電流帰還型アンプ。回路定数を見直し、音質チューニングを行っている。3段階のゲイン切り替えが可能で、ヘッドホン回路自体のオン/オフ操作もできる
続いて、PM-12をご紹介しよう。本機は、アナログプリアンプとスイッチングパワーアンプを組み合わせたプリメインアンプ。マランツはこれまでにも、ワイドレンジで分解能の高い近代のスピーカー製品に対応できるプリメインアンプの実現を図り、スイッチングアンプ(クラスDアンプ)を採用した開発を行ってきた。PM-12もその流れを汲むモデルとなる。
PM-12の本体サイズは440(幅)×123(高さ)×453(奥行き)mmで、重量は15.3kg
トップカバーを開けたところ。プリアンプ回路やフォノイコライザー回路には、ハイグレードな高音質フィルムコンデンサーやマイカコンデンサー、高音質電解コンデンサー、精密メルフ抵抗など、試聴を繰り返して厳選したパーツを使用
入力端子はアンバランスを5系統のほか、フォノ入力とパワーアンプ入力を備える。出力端子はスピーカー出力のほか、RECアウトとヘッドホンを装備。アンバランス入力とフォノ入力には純銅削り出しのピンジャック、スピーカー出力にも同様に純銅削り出しのターミナルを採用している。表面処理は、1層のニッケルメッキに変更された
プリ部の回路はPM-12のために新しく開発されたもの。マランツ独自の高速アンプモジュール「HDAM-SA3」を用いた電流帰還型アンプに、JFET入力とDCサーボ回路を組み合わせた1段構成としている。
さらに、従来の4倍の電源供給能力を持つというプリ部専用の電源回路を搭載することで、パワーアンプによる電力消費量の変動を受けず、安定した電源供給が行えるよう配慮されている。
ボリューム回路には、新しくJRC製の高性能ボリュームコントロールICを搭載。ゼロクロス検出によるゲイン切り替え機能で、ボリューム操作時のクリックノイズの発生もない。可変抵抗体は不使用のため、ボリュームパーツの経年変化にともなう音質変化も抑えられる。また、最大4台(8チャンネル)までPM-12のボリュームを連動させられるF.C.B.S.機能を搭載しており、PM-12を複数台使ったバイアンプドライブやマルチアンプドライブなど拡張にも対応する
プリ部の専用電源回路には、大容量トロイダルトランスを配置。トランス外周にはケイ素鋼板とスチールケースによる2重のシールドを施すことで、漏洩磁束による周辺回路への悪影響を抑えている。整流回路には、超低リーク電流ショットキーバリアダイオードを採用し、平滑回路には新規開発のエルナー製カスタム・ブロックコンデンサー(6800μF/35V)を搭載
そして、パワーアンプ部にはHypex製のスイッチングパワーアンプモジュール「NC500」を採用している。PM-10では4基のモジュールをBTL構成で使用していたが、PM-12では2基のモジュールを使用し、定格出力200W+200W(4Ω)を確保した。
マランツの開発陣が「12」シリーズを“新世代”とアピールする技術の大きなものとして、このパワーアンプモジュールの接続方法があげられる。
同社が“ダイレクト接続”と呼称する方法で、簡単に言うと、パワーアンプモジュールを横向きに倒して挿入し、スピーカー基板に直接接続するというものだ。これにより接点を減らし、パワーアンプからスピーカー出力までの経路が大幅に短縮化され、結果としてダンピングファクターをPM-10比で2倍も高めているという。
イメージとしてはこのような形。パワーアンプモジュールを横倒しにして、スピーカー基板に直接接続する
接続の概念図としてはこのような形になる。アンプ基板を廃し、ワイヤーによる接続をなくしたことで、経路を大幅に短縮化。最終的に、ダンピングファクターを大きく高めた
2基のアンプモジュールが、スピーカー基板にほぼダイレクトに接続されているのがおわかりいただけるだろうか。ちなみに、パワーアンプ部の専用電源にはPM-10と同じHyrex社製「SMPS600」を採用
ダイレクト接続を実現するためには、高いレベルで寸法精度の正確さが求められる。そこでマランツでは、ダイレクト接続を行うために組み立て用のツールを新規作成した
PM-10のパワーアンプ基板と比較すると、PM-12のほうはかなりコンパクト化しているのがわかる。基板が薄型化したため、どのように接続するのが最適であるか、ゼロベースで考え出した結果が“ダイレクト接続”であったという
そのほか、MM/MC型の両方に対応するフォノ回路も新開発されており、20dBのゲインを持つMCヘッドアンプと、40dBのゲインを持つ無帰還型フォノイコライザーアンプの2段構成を採用。1段あたりのゲインを抑え、低歪を図っている。
信号経路はすべてディスクリート回路によって構成しており、JFET入力とDCサーボ回路の追加によってカップリングコンデンサーを非搭載としているのもポイントだ。
フォノイコライザー基板は、スチール+ケイ素鋼版のシールドケースに収め、外来ノイズの影響を受けないように工夫
視認性の高い有機ELディスプレイを備えるのもポイント。操作時には一時点に表示を大きくして見やすくするなど工夫されている
オーディオ&ビジュアル専門サイトの記者/編集を経て価格.comマガジンへ。私生活はJ-POP好きで朝ドラウォッチャー、愛読書は月刊ムーで時計はセイコー5……と、なかなか趣味が一貫しないミーハーです。