レビュー
真空技術を応用したスピーカーとヘッドホン

魔法びんと音楽のイイ関係って? あのサーモスが作ったオーディオ8機種まとめ聴き!

サーモス(THERMOS)と聞けば、誰もが保温性にすぐれたステンレス製の水筒(=魔法びん)を思い浮かべるのではないだろうか? 夏に冷たい飲み物を、冬に温かい飲み物を1日中持ち運べる、まさに「魔法」のような容器だ。同社はその真空技術を応用し、ほかにも弁当箱、マグカップ、タンブラー、ポットやコーヒーメーカー、調理用鍋などの製品を手がけている。我々の食生活を豊かにしてくれる身近な存在と言えるだろう。

実はそのサーモスが、オーディオ機器も製品化し販売しているのをご存じだろうか? 魔法びん開発で培ってきた真空技術を生かし、2015年にオーディオブランド「VECLOS」(ベクロス)を立ち上げ、第1弾モデルのコンパクトなBluetoothスピーカーでデビューを果たした。その後もラインナップを拡大し、オーディオの世界で知名度が急上昇中である。

今回はそんなVECLOSに注目し、ヘッドホン/イヤホン/スピーカー全8機種をまとめて音質チェック! 真空技術とオーディオの関係に迫ってみたい。

真空技術とオーディオのイイ関係って?

サーモスは、誕生から100年を超える歴史を持つドイツのブランド。魔法びんのパイオニアである。なお、魔法びんの原型はガラス製だったそうだが、1907年に金属製の保護ケースを採り入れる構造とし、これを期に「THERMOS」(ドイツ語読みでは「テルモス」)ブランドが設立された。

価格.comでも売れ筋のサーモスの魔法びん「真空断熱ケータイマグ」(写真は0.5Lタイプの「JNL-503」)

価格.comでも売れ筋のサーモスの魔法びん「真空断熱ケータイマグ」(写真は0.5Lタイプの「JNL-503」)

現在のサーモスの魔法びんは、主に薄いステンレス素材を2重にした構造で、内部の空気を極限まで吸い出して真空状態に近づけることで、すぐれた断熱性能を発揮する。理科の授業で、宇宙のような空気がない空間では熱は伝わらないと習った記憶があるが、まさにその原理を応用している。

では、この真空技術がオーディオとどう関係するのか? ポイントは「遮音」と「剛性」だ。

▼スピーカーの「箱」(エンクロージャー)の話

まず一般的なスピーカーの基本構造として、音が鳴る「ドライバー」の周りに「箱」(=エンクロージャー)が付いている理由を説明しよう。簡単に言うと、ドライバーの正面から放出される「聞きたい音」はそのままに、同時に裏面から放出されてしまう「余計な音」を封じ込めるためだ。この余計な音を抑えるほど、正面から放たれる聞きたい音のピュアネスが増す(=イイ音に近づけられる)。

一般的な家庭用スピーカーの多くは、音を出しているとき箱に手を触れると、振動しているのがわかる。ドライバーの振動に加え、いくらか箱が「鳴く」ことによって不要な音が漏れ伝わっている状態なのだ。このいわゆる「箱鳴り」は、箱の素材固有の音が音色として再生音に乗ってしまうので、本来好ましくない。製品によっては、その響きを利用して音を豊かに表現する場合もあるが、よほどの高級品を除き、箱鳴りはしないほうがよい。

そんな理由から、高級なスピーカーほど、背面から放たれる不要音と箱鳴りを抑えるために、本体が頑丈で大型になる傾向にある。

▼サーモスの「真空エンクロージャー」なら小型で高音質に!

そこでVECLOSが考案したのが、魔法びんで培った真空技術を応用したスピーカー筐体構造「真空エンクロージャー」なのである。エンクロージャー自体が真空構造になっているという、従来のスピーカーとは全く異なるアプローチだが、その特性は実に魅力的。真空状態ならば、熱だけでなく音も伝わらない。つまり、不要な音の漏れを少なくできるのだ。

画像は、ステンレス二重構造の真空エンクロージャー断面図。内筒と外筒との間の層は、1,000万分の1気圧以下の高真空状態になっている。この真空層と大気との圧力差によって内筒と外筒に高い張力が発生し、エンクロージャーの剛性が高くなりすぐれたダンピング特性を発揮するとのこと

真空状態(左)と非真空状態(右)で、エンクロージャーの内筒側に、一定荷重を与えたときの変形量の違いを表したイメージ。青部分が多いほど、赤〜緑の部分が少ないほど剛性が高いことを示している

また、内部の気圧が低くて真空に近い状態とは、言い換えると、全方向からくまなく大気のプレッシャーを受けて押し固められている状態になる。この大気圧を利用して、筐体の強度を高めているのも、真空エンクロージャーのポイント。

つまりVECLOSのオーディオ製品は、真空エンクロージャー構造を採用することで、小型軽量サイズでありながら、大型スピーカーのように強固でオーディオ的にすぐれた特性を発揮できるというわけだ。

サーモスのオーディオ製品8機種まとめてレビュー!

VECLOSブランドのオーディオ製品は、コンパクトなBluetoothスピーカー「SSA-40」からスタートし、現在ではヘッドホン2機種、イヤホン4機種、高級デスクトップモニタースピーカー2機種へラインアップを拡大している。

いずれの製品も、先述の小型軽量かつ高遮音/高剛性という真空エンクロージャーの特性を生かし、コンパクトでありつつ原音に忠実な再生を行うのが魅力だ。

1.イヤホン(4製品)

イヤホン市場全体が活況を呈している中、VECLOSからもドドンと2シリーズ4製品がラインアップされている。「EPTシリーズ」はチタン素材を用いたモデルで、ツイスト仕様の銀コートOFC 4N 線ケーブルが付属。もうひとつの「EPSシリーズ」はステンレス素材を用いたモデルで、ケーブルはストレート仕様のOFC 3N 線が付属する。いずれもバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを採用し、型番末尾の数字「700」のモデルは2基、「500」は1基を搭載する。

つまり、主にエンクロージャーの素材とドライバー数の組み合わせで、4パターンを用意しているというわけだ。いずれの製品もMMCXコネクターによるケーブルの着脱が可能で、リケーブルを楽しめるのもポイント。

▼「EPT-700」
・素材:チタン
・ドライバー数:2基

響きの少ないチタン素材の特性を生かしたモデルで、原音を色づけなく高解像度に引き出してくれる。2基のBAドライバーを搭載する2Way構成で、低音から高音までワイドレンジかつダイナミックな再生力も魅力だ。ハイレゾ再生をメインにしたり、アコースティック楽器の音色やボーカルの息使いをよりリアルに感じたいユーザーにはもってこい。

▼「EPT-500」
・素材:チタン
・ドライバー数:1基

EPT-700と同様、高解像度でリアルな音色が持ち味だ。搭載ドライバー数は1基で、さすがに重低音の再現能力はEPT-700にかなわないが、輪郭を感じるキレのよい低音とスッキリした音場感が魅力。手に届きやすい価格帯もうれしい。

▼「EPS-700」
・素材:ステンレス
・ドライバー数:2基

ステンレス素材の響きを感じさせる、華やかで広がりのあるサウンドが特徴。きらびやかで解像感も高い。もちろんステンレスならではの響きは、はっきりと聞こえるレベルではなく、音や空間にうるおいを与える方向に作用する。情報が欠落した圧縮音源を豊かに楽しむにも好適だ。

▼「EPS-500」
・素材:ステンレス
・ドライバー数:1基

VECLOSイヤホンの中でもっとも手が届きやすいモデル。1ドライバーで低域から高域まで素直に表現するそのクオリティは、真空エンクロージャーの醍醐味を味わうに十分な仕上がりだ。

2.ヘッドホン(2製品)

続いてヘッドホンも、形状こそウリふたつながら個性の異なる2製品をラインアップする。上位の「HPT-700」は、ハウジング部にチタン素材の真空エンクロージャーを採用し、いっぽうの「HPS-500」はステンレス素材であるのが大きな違い。

このほか、型番が「700」と「500」になっていることからもわかるように、細かい部分で差別化が図られている。「HPT-700」はドライバーをマウントするバッフルがアルミダイキャスト製。樹脂製に比べて剛性が高く、ドライバーをガッチリ受け止める設計だ。しかもチタン素材の恩恵で、わずか4gの差ではあるが、「HPS-500」よりも「HPT-700」のほうが軽いことにも注目だ。

両モデルとも見た目は少し肉厚な雰囲気だが、もちろんハウジング部は中空構造なので軽量だし、ヘッドバンドに対して90°回転して折りたためるなど、携帯性も配慮されている。

▼「HPT-700」
・素材:チタン
・ドライバー:φ40mmフリーエッジ・カーボンペーパードライバー

高解像度で繊細な表現が持ち味のヘッドホン。それでいながら刺さるような刺激もなく、完成度の高さは老舗オーディオブランドばりだ。

後述するHPS-500との違いは、個性よりも原音に忠実であること。言い換えると、モニターライクな音調だ。内部損失が高く、固有の音色をほとんど持たないチタンの特性が生かされていると言える。

特にハイレゾ音源には、繊細な余韻成分もより多く収録されているので、再生側が味付けを抑えれば抑えるほど、空間の広さも的確に引き出すことができる。澄み切った空間に浮かぶテクスチャーの濃い音や、ニュアンスが豊かで息使いが耳元に迫るボーカルは、ハッとさせられるほどの再生クオリティ。ヘッドホン環境でハイレゾ音源の魅力を存分に引き出したいなら、本機はおもしろい選択だ。

▼「HPS-500」
・素材:ステンレス
・ドライバー:φ40mmフリーエッジ・カーボンペーパードライバー

解像度の観点では、上位のHPT-700と互角のクオリティを持っている。それでいて売価は本機のほうが1万円ほど安いので、買い得感がかなり高い。

HPT-700に比べると、音色にうっすらとステンレスらしい響きが加わり、華やかな印象がある。特にスチール弦などのキラキラ感が心地よく、音楽ジャンルによってはハマってしまうユーザーも多いに違いない。もちろん、響きが乗るといってもごくわずかで、ステンレスの透明感ある響きは、一般的な樹脂素材の鈍い響きのように音をにごさないのがよい。

どんなジャンルの音楽も高品位に再生でき、明るく華やかな音調を求めるユーザーによいだろう。たとえば、音楽ストリーミングサービスで配信される楽曲はほとんどが圧縮音源なので、聴感上ドライに聞こえがち。そんなストリーミング楽曲も、本機を使えば明るく華やかに楽しめるはず。

3.スピーカー(2製品)

VECLOSブランドで初めて発売されたのが、2015年の「SSA-40」シリーズだった。握りこぶし大のコンパクトなバッテリー内蔵Bluetoothスピーカーで、「モノラルタイプ」と「ステレオタイプ」(L/R型)をラインアップし、現在も引き続き販売されている。

そしてスピーカーの最新製品が、デスクトップ用途を想定したアクティブスピーカー「SSB-380S」だ。先に発売されたプロ向けのアナログ入力専用アクティブスピーカー「MSA-380S」に、ハイレゾ対応USB-DAC機能やBluetooth接続機能を搭載するなどして、ホームユースに仕立てたものとなる。

▼「SSA-40」
・ドライバー数:1基(40mm)
・実用最大出力:2.7W+2.7W(ステレオタイプ)
・実用最大出力:3W(モノラルタイプ)

2015年に発売されたVECLOSブランドの第1弾製品。高剛性の真空エンクロージャー技術を用い、コンパクトながらクリアなサウンドが特徴だ。Bluetooth対応でスマホとも好相性。

ステレオタイプは、バッテリーやアンプを搭載しないパッシブタイプのスピーカー2基を有線接続して2chに拡張している。一般的な樹脂製のスピーカーに比べて音にキレがあり、耳触りのよい音が楽しめる。ステレオ利用なら、コンパクトなスピーカーとは思えないほどに広がり感が大幅に増す。

▼「SSB-380S」
・ドライバー数:1基(52mmコーン型フルレンジ)
・実用最大出力:9W+9W(4Ω、1 kHz)

同社のプロ用モニタースピーカー「MSA-380S」をベースに開発された製品だけあって、見た目も、出てくる音も本格的だ。

原音に忠実でモニターライクな音調を基本に、1音1音が粒立ちよく輪郭を伴って耳に飛び込んでくる。また、音源に含まれる空気感も余さず引きだし、広大なサウンドステージを作り上げる様は圧巻。これほどコンパクトなシステムで、このようなサウンド体験を可能にしたのは、VECLOSならではの真空エンクロージャー技術なくしては考えられない。

YouTube動画など、音源の質があまりよくないソースでも、本機のようにスピーカー側で波形の劣化が少ないと、そこそこ聴けてしまうのも新たな発見だった。

さらに高品位なUSB-DACを内蔵し、デスクトップPCやノートPCとの組み合わせで最高の音質を追求できるのもポイント。また、LDAC対応のBluetooth接続機能を利用し、ワイヤレスで手軽に高音質を楽しむのもヨシと、現代のライフスタイルにピッタリな製品だ。

なお、少し高価に感じるかもしれないが、ここまでの音質をこのコンパクトなサイズにまとめたと考えると、価格以上の価値が感じられる好製品である。

PCとUSB接続して高品位なPCオーディオ環境を構築できる。最大768kHz/32bit PCM、11.2MHz DSDに対応

PCとUSB接続して高品位なPCオーディオ環境を構築できる。最大768kHz/32bit PCM、11.2MHz DSDに対応

まとめ

一般的に、日本の企業は自社の持てる技術の利用を優先しがちで、製品企画にユーザー不在、つまり失敗が多いと言われている。確かに、ユーザー目線を無視した技術のゴリ押しは感心できるものではないし、現在成功している企業の製品は、ユーザー体験に根ざしたものが多いのも事実である。

いっぽう、確固たる技術なくしてはブレイクスルーを果たせないのも事実。その点、日本企業にもまだまだチャンスはある。正直に言うと、サーモスのオーディオブランド VECLOSについても、最初にその存在を知ったときは技術のゴリ押しかと思った。しかし、実際にこれらの製品に触れれば触れるほど、真空エンクロージャーとオーディオの相性のよさに気付かされ、単なる技術のゴリ押しではないことを実感できた。

他社がマネできない高度な真空技術を持つVECLOSブランドは、明らかにユニークな存在で、今回レビューしたように音質面でのアドバンテージも確かである。ぜひ1度体験してほしい、新しいオーディオのカタチだ。

鴻池賢三

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。

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