この10年ほどで「ニュース」の入手ルートは大きく変わった。言わずもがな、高速モバイル通信網の整備とスマートフォンの急速な普及によって、動画のようなまとまった量の情報をマスに届けることが可能になり、SNSの活用で個人がニュース発信源となるケースも珍しくなくなった。
しかし、ひとたび大規模災害が発生するとその脆弱性が顕わになる。平成30年7月の西日本豪雨では、多くの地域でインターネット回線(有線)が利用不能となり、携帯電話回線も停電や伝送系の故障によりつながりにくい状況が頻発した。地上波でリアルタイムに、かつマスに情報を配信できるテレビ/ラジオの災害時における優位性を再認識した人も多いのではないだろうか。
今回取り上げる「YTM-RTV200」は、AM/FM波とワンセグの受信が可能なポータブルテレビ&ラジオ。手回し充電に対応するなど、"防災家電"としての機能に磨きをかけたところがポイントだ。
筐体サイズは143(幅)×85(高さ)×40(奥行)mm、重量は約300g
上部にはテレビ/FM波受信用のロッドアンテナのほか、各種ボタンが配置されている
YTM-RTV200の製造元であるYAMAZENは、暖房機器や調理家電など"白物"に強いメーカーとして知られているが、テレビやシアタースピーカー、ディスクプレイヤーといった"黒物"も手がけている。そのブランドが「Qriom(キュリオム)」であり、YTM-RTV200もQriomのラインアップに含まれる。
本製品の目玉は、「手回し充電対応」かつ「ワンセグの受信が可能」なこと。画面サイズは約2.8型、アスペクト比は4:3と映像を楽しめるとは言いがたいが、手回し充電で地上波の映像・音声を視聴できる製品は貴重だ。受信周波数はAMが522〜1710kHz、FMが76.0〜108MHz(ワイドFM対応)、ワンセグがUHF 13〜62chと、防災家電として必要十分なスペックを持つ。
手回し充電の機構部(ハンドルや回転台)は、裏面に少し突き出ているが、ハンドルの大半は凹みに格納されるようデザインされている。回転にかかる負荷を減らすためか、ハンドルは約10cmと長めにとられており、回転台にしっかりかん合されることもあり回しやすい。ダイナモはそこそこの負荷があり、2秒1回転程度のペースで回すと3分を過ぎたあたりで腕がダルくなるが、電源がないという緊急事態を考えればやむを得ない。
なお、メーカー公称値によれば、満充電時のAMラジオ聴取は約60分、FMラジオは約48分、ワンセグテレビは約5分という(いずれもスピーカー出力)。満充電には150回転/分の手回しを約10分間続けなければならず、成人男性であってもかなりハードなタスクになるが、ラジオのニュースを少し聞く程度なら1〜2分の手回しで賄えるわけで、十分対応できそう。
ところで、本製品に内蔵の充電池はリチウムイオンなど近ごろのデジタル家電で主流の二次電池ではなく、「コンデンサー充電池」だ。正確にいえば容量2.7V/100Fの二重層キャパシタであり、蓄電容量はリチウムイオン電池には及ばないが、急速充放電が可能で充放電による劣化が少なく、百万回以上繰り返し使用しても支障ないとされるメンテナンスフリー特性は、いつ必要になるかわからない防災家電向きであり、目の付けどころがいい。
手回し充電のほかにAC電源、乾電池(単3×3)、モバイルバッテリー(USB micro-B)という「4WAY電源」に対応したこともポイントだ。手回し充電はどのような状況下でも電力を調達できるという安心感はあるが、満充電で5分という動作時間は少々厳しい。平時用に位置付けられるAC電源はともかく、乾電池とモバイルバッテリーに対応したことは実用性を考えると納得だ。
裏面のハンドルを引き起こすと、手回し充電できる
電源には乾電池(単3×3)やモバイルバッテリー(USB micro-B)も利用できる
本製品には電力供給機能も用意されている。前面のシリコン製カバーを外すと現れるUSB A端子を利用し、スマートフォンなどの小型機器を充電できるのだ。充電率20%程度(推定)の状況でUSB電流/電圧チェッカーを使い測定したところ、コンスタントに5V/0.35A前後の出力を得られていたので、スマートフォンのバッテリーが尽きていても、数分ほど手回し充電を頑張れば音声通話やSNSを短時間使う程度には回復できる。
肝心のテレビ/ラジオ視聴だが、AM波は内蔵のフェライトアンテナ、FM波とワンセグテレビはロッドアンテナを利用することになる。鉄筋コンクリートの建物を避ければかなり広範に受信できるAM波はともかく、簡易的なロッドアンテナではワンセグの受信はやや厳しいため、実際(災害発生時)には電波が安定する位置を探し回ることになるだろう。
ただし、スマートフォンを利用したワンセグ視聴に比べれば印象は悪くない。いまどきのスマートフォンは画素数が多く、全画面表示すると拡大処理の関係でモザイク状に見えてしまうが、本機の場合必ずドットバイドット表示となるため粗が目立ちにくい。電波さえ掴めれば、ワンセグとしては上々の画質を得られるはずだ。
前面のシリコン製カバーを外すと、スマートフォンなどを充電できるUSB A端子が現れる
0.35A前後と電力はやや弱いが、スマートフォン/携帯電話に充電できるのはうれしい
LEDライトも装備するが、闇夜で足下を照らすには明るさが足りない
YTM-RTV200を1週間ほど利用すると、なかなか安定しないワンセグの映像に腹は立つし、重くて辛い手回し充電は避けたくなるが、防災家電である本機が真価を発揮するのは"もしも"の場面。電力を気にせずテレビ/ラジオの情報を入手できることは大きな安心材料になるし、スマートフォン/携帯電話を充電できることも重宝されるはず。
十数分間必死になって手回し充電してもテレビを5分しか視聴できないと聞くと、なんだそんなものかと感じてしまうが、もし東日本大震災の計画停電発生時にこのようなデバイスが手もとにあれば、さぞ心強く感じたに違いない。電源をオフにするとき勢いが強いとサイレンが鳴ってしまうスライドスイッチの構造は改良の余地があるし、連続点灯時間を犠牲にしてでももう少しLEDライトを明るくすべきとは思うものの、価格は1万円台前半というありがたさ。10年ノーメンテでも使える二重層キャパシタを搭載することもあり、費用対効果ならぬ"費用対安心感"では、いまのところ最強レベルなのではないだろうか。
ワンセグは2.8インチディスプレイをフルに使える4:3画面のほか、16:9画面も選択できる
電源スイッチはスライド式でサイレン機能も兼ねるため、音を出さずにオフにすることが難しい
IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。