レビュー
ES9038PRO×2のぶっ飛び仕様!

Astell&Kern「KANN CUBE」はイヤモニから上級ヘッドホンまで直差しOKの優秀機

ここの2年ほど常に持ち歩き、仕事も趣味も分け隔てなくリファレンスとして活用しているポータブルDAPがある。それはAstell&Kern「KANN(カン)」だ。“もっと高級モデルをメインに使っているかと思った”“持ち運びしやすい小型モデルかと思った”などと皆さん意外に思われるかもしれないが、多機能さがなにかと便利で、うまく使いこなせば数台のDAPを持ち歩かなくて済むし、ホームオーディオ用プレーヤーとしても活躍できる優等性っぷりを発揮してくれる製品だったりする。

そんな「KANN」に、上位モデルとして新製品「KANN CUBE(カン キューブ)」が登場した。常日頃から「KANN」を愛用している人間としては、大いに気に掛かる存在だ。ということで、さっそく借用して2週間ほどいろいろと試してみることにした。

Astell&Kern「KANN CUBE」

ESS社製の最新8ch DAC「ES9038PRO」をデュアル構成で搭載したぶっ飛び仕様!

さて、まずは「KANN CUBE」の特徴を、「KANN」との比較を交えつつ紹介していこう。

「KANN CUBE」最大の特徴といえば、やはりESS社製の最新8ch DAC「ES9038PRO」をデュアル構成で搭載していることだろう。元々の「KANN」には旭化成エレクトロニクス社製2チャンネルDAC「AKM4490」をシングル搭載するオーソドックスなスタイルだった。それが「KANN CUBE」では、最高級クラスの最新8ch DAC「ES9038PRO」を左右1基ずつ搭載。それぞれ8chをフル活用してD/A変換を行うことで、限りなく正確なサウンドを実現したとメーカーはアピールしている。

もちろん、ポータブルDAPへ「ES9038PRO」をデュアル搭載したのは「KANN CUBE」が初めて。ホームオーディオ用というか、高級マルチチャンネルアンプ用に設計されたDACを左右独立で2基も積んでいるのだから、誰もマネをしようとは思わないだろう(1基ならまだしも)。それほどまでに、「ES9038PRO」デュアルDACという構成はぶっ飛んでる仕様となっている。その消費電力も尋常じゃないため、同じ構成を採用するメーカーは今後も現れることはないと思う。

ESS社製の最新8ch DAC「ES9038PRO」をデュアル構成で搭載。これは、ポータブルDAPとしては世界初だ

ESS社製の最新8ch DAC「ES9038PRO」をデュアル構成で搭載。これは、ポータブルDAPとしては世界初だ

しかしながら、「KANN CUBE」の魅力はそれだけではない。次に注目したいのが、ヘッドホン出力だ。「KANN」も高インピーダンスのヘッドホンをきちんと鳴らせる高出力を持っていたが、「KANN CUBE」ではそのあたりがさらにグレードアップ。なんと、出力ゲインが「High」「Mid」「Low」の3ポジションになり(「KANN」は「High」「Nomal」の2つだった)、そのうち「High」は3.5mmアンバランス6Vrms、2.5mmバランス12Vrmsとなっている。この値は、初代「KANN」はもちろん、ほかのAstell&Kern製ポータブルDAPと比べても倍近い高出力となっている。単体のポータブルDAPとしては驚異的なスペックだ。

「KANN CUBE」と先代の「KANN」、「AK380+AMP」のヘッドホン出力の比較図。「KANN」や「AK380+AMP」もかなり高出力だったが、「KANN CUBE」はそれらを凌駕する出力スペックとなっている

さらに、タッチパネルは5インチサイズへと拡大し、メニューも「SP1000」などと同じ新世代スタイルへと変更。使い勝手は最新モデルとほぼ同様となった。なお、USB Type-Cコネクター採用とUSB3.0のサポートにより、最大10Gbps(理論値)のファイル転送速度が可能となったうえ、高速充電にも対応してくれたのはありがたい。なにせ、「KANN CUBE」には7400mAhもの大容量バッテリーを搭載しているのにもかかわらず連続再生は約8時間(FLAC/44.1kHz/16bit)と、なかなかの(電力)大食らいっぷりがうかがえるためだ。実際、音楽再生中に充電して様子を見たのだが、1A対応の充電器ではあきらかにバッテリーが減っていく!? あわてて3A出力を持つPD充電器に交換したところ、無事に充電が進むようになった。後ほど試してみたところ、2A充電器でも大丈夫な(減っていくことはない)ようだった。

「KANN CUBE」の付属品。充電ケーブルは付属するが、充電器は付属しないため、充電器を別途用意する場合は2A以上の出力をもつものを選んだほうがよさそうだ

このほかにも、PCM 384kHz/32bit、DSD256(11.2MHz/1bit)のネイティブ再生、独自の「AK Connect」に加え、DLNAや「Open APP Service」といったネットワーク機能も搭載。Wi-Fi、aptX HDコーデック対応のBluetoothワイヤレスなど、Astell&Kern製ポータブルDAPならではの便利機能もそつなく備わっている。なお、内蔵メモリーは128GBが内蔵され、加えてmicroSDメモリーカードスロットが1基備わっている。残念ながら、個人的に使い勝手のよかったSDメモリーカードスロットは今回省かれてしまった。microSDメモリーカードに対して(あくまで個人的な体験の話ではあるが)リードエラーが少ない印象のSDカードが使えなくなってしまったのは残念な限り。せめてmicroSDメモリーカードスロットが2基搭載されていればよかったのだが。

「Open APP Service」機能も搭載。ネットワークにつなぐことで、DAP単体でさまざまな音楽ストリーミングサービスを楽しめるようになっている

このように、音質と高出力に集中しただけあって、「KANN CUBE」にはいくつか「KANN」に対しておやっと思う変更点があるもの確か。まずは外観サイズだ。はっきりいって、かなり大きい。「KANN」を普段持ち運んでいた人間にとっても持ち運びはギリギリのラインに思えた。キャリングケースなど、持ち運びしやすいケースが必要になりそう。とはいえ、大容量バッテリーの搭載や排熱の問題を考えると、このサイズは致し方ないのだろう。

「KANN CUBE」と「KANN」の大きさを比較。「KANN」もそれなりに大きいサイズ感だったが、「KANN CUBE」はそれ以上だ

また、ここまでサイズが大きいのだから、ついでに4.4mmバランス端子を付けてくれてもよかったのでは、とは思う。過去の財産を無駄にしないためにも、2.5mmバランスは必須だが、この頃は4.4mm系のケーブルも増えてきているので、どちらも搭載されているとユーザーフレンドリーだったと思う。

ヘッドホン出力は、本体上部に3.5mmアンバランスと2.5mmバランスの2系統を用意

ヘッドホン出力は、本体上部に3.5mmアンバランスと2.5mmバランスの2系統を用意

いっぽうで、5pinのminiXLRによるライン出力採用については大歓迎だ。「KANN」ではライン出力が別端子(こちらも3.5mmアンバランスと2.5mmバランスの2つ)で用意されていて、高インピーダンスのヘッドホンなどはこちらを使って強引に鳴らしてみたり便利なこともあったのだが(ヘッドホンが故障したり聴覚に問題を与える可能性があるのでマネしないでくださいね、もしくは先に音を出してからヘッドホンを装着するなど細心の注意を払いつつ、そしてなによりもメーカーが対応している活用法補ではないため自己責任でお願いします)、確実安全なライン出力接続ができるようになったのは、ホームユースを考えると嬉しい限り。もちろん、変換ケーブルは必要だが、音質やコネクターの耐久性を考えると、嬉しい進化といえる。

本体左側面に用意された5pin miniXLRタイプのライン出力

本体左側面に用意された5pin miniXLRタイプのライン出力

ホームオーディオ、イヤホン、ヘッドホンを接続して実力をチェック!

ということで、ここからは肝心の音質、試聴した際の感触を伝えていこう。

まずは、仕事場のホームオーディオに接続して試聴を行うことにした。その際、当然のごとくライン出力ケーブルを所有していなかったので、急遽Brise Audioにお願いしてminiXLR 5pin→XLR 3pin×2ケーブルを製作してもらっている。

ホームオーディオとの接続に使用したBrise Audio「STR7-CONV 8wire KANN CUBE専用ラインバランス出力ケーブル」。オーダーメイド製品となっており、価格は1.0mで35,000円(税別)で、+10cm毎に3,000円加算となる

一聴してビックリさせられる、とてもクリアでとてもダイレクトなサウンド。歪み感はいっさい感じられず、ただただありのまま、鮮度感の高いストレートな音が再生されている。ボーカルがありのまま、その人の声の特徴をあまさず伝えてくれるし、歌い方の強弱や感情の込め方など、些細なニュアンスまでしっかりと感じられる。この歪み感の少なさ、そしてSN感のよさは格別といえる。同価格帯の据え置き単体DACにも引けを取らない実力を持ち合わせている。実は、本体がほぼ新品に近いものだった(ケーブルも新品)ということもあってか、高域や左右の広がり感にクセのある音だったが、20時間も再生し続けていると、フォーカスのよさはそのままに、ずいぶんと自然な音色と音場に落ち着いてくれた。ことホームユースに関しては、完璧といえるくらいの良モデルだ。

ちなみに、ライン出力の設定に関しては、固定出力の最大値「4V」が望ましかった。このあたりは組み合わせる機器や環境によって変わっていくだろうから、皆さんも入手した際にはいろいろと試してみて欲しい。

いっぽう、本来のポータブルDAPとしてはいかがなものだろうか。まずはJVC「SOLIDEGE 01 inner HA-FD01」を使って試聴してみる。接続は2.5mmバランスをチョイス。アンプ出力は「Low」だ。ゾクッとするくらいダイレクト感が高く、そして、とても距離感の近い音。ボーカルがすぐ目の前、というか頭の中で朗々と歌ってくれる。歌声はややドライで、いつもよりちょっと大人っぽい印象を覚える。解像感がとても高いため、ギターの音、ベースの音、ドラムの音がしっかりとセパレーションされていて、それぞれの演奏に集中して追うこともできる。音場的には、奥行き方向よりも左右に大きく広がるイメージで、定位感はしっかりしている。

続いて聴いたAcoustune「HS1670SS」は、キレッキレの、とてつもなくフォーカス感の高いサウンドを聴かせてくれた。特にアコースティック楽器との相性が抜群で、チェロは深みのある音色に、ヴァイオリンのソロは普段よりちょっとだけ前に出てきたかのような、印象の強まった演奏となった。ピアノも倍音のノリがよく、音が華やかだ。

さらに、FitEar「EST Custom」をアンバランスで聴いてみる。こちらではさらに肩の力が抜けたかのような、聴き心地のよい音色にシフト。それでも、それぞれの楽器の特徴、それぞれの演奏の様子がしっかりと伝わってくる。このイヤホン3モデルの中では、この「EST Custom」が一番相性がよかったといえる。

最後にヘッドホンも試してみた。組み合わせたのは、長らくリファレンスとして利用しているFOSTEX「T50RP MK3」。音量を調整したところ、アンプ出力は「High」に変更するのがベストだった。エッジのハッキリした、メリハリのよいサウンド、鮮度感が高く、高域がしゃらしゃらした音色にも感じられるが、全体的にはごくごくオーソドックスなサウンドで、普段の音色と違和感がない。ヘッドホンも充分に鳴らせるというのは、誇大表現のない確かなアピールポイントだ。

このように「KANN CUBE」は、プレーヤー機能付き高性能DACと呼べるくらいの良質なサウンドを持ち合わせ、同時にイヤーモニターから上級ヘッドホンまで、さまざまな製品が“直差し”で実力発揮できる万能モデルとなっている。大柄なボディサイズなど、いくつか気になる部分もあるが、それを払拭してあまりある実力の持ち主であることは確かだ。ホームユースが多くなるかもしれないが、個人的にも導入を検討したい優秀機だ。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
「価格.comマガジン」プレゼントマンデー
ページトップへ戻る