レビュー
最強インパクトの国産オーディオが誕生

この音、もはやケタ違い。デノン新フラッグシップHi-Fi「SX-1 LIMITED」の衝撃

世の中には数千円のヘッドホンやDAPなどのポータブル機器から、数百万円もする本格的なHi-Fiコンポーネントまで、それこそ価格が天と地ほど違うたくさんのオーディオ製品が存在する。安価で手軽に音楽を聴けるアイテムが山ほどある中で、オーディオファンがそこにお金をかける理由はただひとつ。「音がよい」というシンプルな1点で、大きく感動したいからだ。

今回は、最近筆者が「コレにはお金をかけられる! むしろかけたい!」と思ったオーディオ機器を紹介したい。デノン(DENON)から登場したSACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」と、プリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」である。この2機種を聴いたときの衝撃は忘れられない。

その価格は、前者が750,000円、後者が780,000円(いずれも税別)と、一般的な感覚では高価である。しかしもうメチャクチャに音がよく、2機種の前で筆者は評論家としての立場も忘れ、ひとりの音楽ファンに戻ってしまったほどだった。もはやケタ違いと言えるサウンドを鳴らす、デノンHi-Fiオーディオの新フラッグシップ「SX-1 LIMITED」シリーズを掘り下げていこう。

実は発売される予定がなかった(?)フラッグシップ機

DCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDはそれぞれ、2013年発売のCDプレーヤー「DCD-SX1」と、2014年発売のプリメインアンプ「PMA-SX1」の後継機である。久しぶりにデノンHi-Fiのフラッグシップ機が刷新された形だ。

しかし、2機種ともデノンらしさを備えながらも、これまでとは大きく音の方向が変わっている。サウンドの詳細は後述するが、しなやかで朗々とした最上級の音楽性とでも言えばよいか。

それもそのはず、実はこの2機種、元々は発売される予定がなかったモデルで、「とある事情」によりコストや期間を度外視し開発された経緯がある。2機種のスペックを確認しながら、その事情について明かしていこう。

▼SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」

まずDCD-SX1 LIMITEDは、アルミ砂型鋳物ベースを採用した、同社独自のドライブ・メカニズムを採用したSACD/CDプレーヤーだ。ボディカラーは淡いシャンパンゴールドで幅430mm、シャーシ高149mmで重量は23.5kg。近年は小型・軽量で音のよいオーディオ製品も多いが、フルサイズのボディと重量感のあるシャーシは導入した人だけにその先の世界を聴かせるハイエンドコンポーネントたる面持ちだ。

音の要となるDACチップにTI製「PCM1795」を左右独立で2基搭載し、同社のお家芸であるアナログ波形再現技術「Advanced AL32 Processing」を採用。SACD/CD再生のほか、USB-DAC機能を備え、最大192kHz/24bitのPCM、5.6MHz DSDファイルの再生にも対応する。ディスクドライブはアルミ砂型鋳物ベースの「Advanced S.V.H. Mechanism」を内蔵

▼プリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」

いっぽうのPMA-SX1 LIMITEDは、シャーシ高181mmで重量は29.5 kgと、こちらも威風堂々としたたたずまいのプリメインアンプ。定格出力100W+100W(4Ω、1kHz、THD 0.7%)を確保する。音声入力は、バランス×1、アンバランス×5に加え、MC/MMのフォノ入力も装備。プリアンプ部からパワーアンプ部まで全段バランス構成で、デノンならではの「シンプル&ストレート思想」を徹底した回路構成が特徴だ。また、フォノイコライザー回路が3個並列接続されたデュアルFET差動入力回路のCR型を搭載するなど、細部まで手抜きがない。

PMA-SX1 LIMITEDには大容量電源トランスや大型アナログ式ボリュームを採用

PMA-SX1 LIMITEDの内部には大容量電源トランスや大型アナログ式ボリュームを採用する

……と、ここまでは2機種とも、従来モデルの意匠を継承した正当な後継機に見える。しかし内部をつぶさに確認すると、それぞれ前世代モデルから約400か所にもおよぶパーツや回路が刷新されており、しかも市販品ではない特注のカスタムパーツが大量投入されているのだ。

もはやフルモデルチェンジ! 特注カスタムパーツ大量使用の内部設計

2機種まとめて使用されたカスタムコンデンサーは、なんと37種類。そのうち、デノンの開発者がパーツメーカーと共同開発したスペシャル品「S.Yコンデンサー」は7種類にもおよぶ。

従来モデルと比較した場合、PMA-SX1 LIMITEDでは、ボリューム周りの制御基板に使われるものは50%、パワーアンプ部は80%、そして入力・フォノ回路周りに至っては90%ものコンデンサーを変更。DCD-SX1 LIMITEDでは、デジタル回路部が30%、デジタル電源ブロックは90%、アナログ電源ブロックにおいてはすべてのコンデンサーが変更された。

DCD-SX1 LIMITEDの内部設計イメージ

DCD-SX1 LIMITEDの内部設計イメージ

PMA-SX1 LIMITEDの内部設計イメージ

PMA-SX1 LIMITEDの内部設計イメージ

さらに、本体のトップカバーとインシュレーターの素材には、ゼロ戦のボディにも使用された「A7075」(超々ジュラルミン)を採用。このあたりも合わせて、実質的にフルモデルチェンジと呼ぶほどの変更になっているのだ。

トップカバーとインシュレーターに採用された素材「A7075」(超々ジュラルミン)は、アルミに亜鉛とマグネシウムが添加された合金。アルミ合金の中では最も強度にすぐれるとされる

筆者がオーディオ評論の世界に入ってから数年経つが、「LIMITEDモデル」をうたいつつ、ベースモデルからここまでの変更とカスタムパーツが投入された製品は見たことがない。なお、組み立ては福島県にあるデノンの白河工場で1名のスタッフが1台ずつ行なっているそうで、まるで門外不出の特注品のようである。

初めて「SX-1 LIMITED」を聴いたときの衝撃

筆者が初めてSX-1 LIMITEDシリーズの音を体験したのは、デノンの試聴室。B&Wの大型スピーカー「802D3」を組み合わせて、女性ジャズボーカルの愛聴盤Lyn Stanley「Moonlight Sessions 1」のSACDを再生するという環境だった。

音が出た瞬間、上下の帯域レンジ、静寂感、ダイナミックさなどのオーディオ的要素の高さに加え、聴き手に猛烈に訴えかけてくる圧倒的なボーカル表現に思わず息を飲んだ。普段はハイレゾなどのデジタルファイルを試聴ソースの中心とする筆者だが、このときばかりは次から次へと手持ちのSACD/CDを再生。もちろんスピーカーの性能も高いが、ベースとなるサウンドを作り出しているのはアンプとプレーヤーであることを聴きながら実感した。

デノンの試聴室にて。B&W「802D3」と組み合わせてドライブしたとき、あまりのサウンドに衝撃を受けた

デノンの試聴室にて。B&W「802D3」と組み合わせてドライブしたとき、あまりのサウンドに衝撃を受けた。この試聴室は音響特性に優れており開発時の強力な助けとなっている

「なぜここまでエモーショナルな音楽を鳴らす製品が作れたのか」。これが、SX1 LIMITEDシリーズと初めて遭遇したときの感想だ。もちろん、カスタムパーツを大量投入した高音質設計のたまものである。しかし、製品開発にかける時間やコストに制限のあるいちメーカーが、ここまで徹底的に音質を突き詰めた製品を作ることはたやすくないはずだ。

実は開発者の試聴機として製造! コスト度外視の設計がそのまま新製品に

SX-1 LIMITEDのケタ外れのサウンドの秘密とは? 実は2機種は元々、2015年に就任したデノンのサウンドマネージャー・山内慎一(やまうちしんいち)氏が「自身の開発リファレンス用」に制作したもの。時間とコストを惜しまず、山内氏がほぼ個人的にコツコツ作っていたスペシャルモデルとなる。つまり上述の「とある事情」とは、「元々は開発者の試聴用に製造されていた」ということなのだ。

デノンのサウンドマネージャー・山内慎一氏。開発メンバーのひとりで、製品の音を決める担当である。デノン全社員の中でもサウンドマネージャーになれるのはたった1名だけ。山内氏は普通に話すととてもおだやかな方だが、耳のよさと鋭い感性を持つ。そして、とにかく音楽が大好き

しかし2機種のプロトタイプは、ふとしたことから同社の上層部の目にとまり、その音に感銘を受けた経営サイドが発売を許可する流れに。昨年の「東京インターナショナルオーディオショウ」で次世代コンセプトモデル「MODEL X」としてお披露目されたのち、2019年になって正式に製品化されたという経緯なのである。

結果的に開発期間は4年と、国産オーディオ製品としては異例の長さ。通常、デノンがひとつの製品にかける開発期間は1年前後、さらにパーツやプラットフォームがその価格帯のオーディオ機器で最良のコスト感になるように調整される。しかし本機はそもそも発売するものではなかったので、開発期間と予算に実質的な制限がなく、設計を突き詰められたというわけだ。

山内氏は音のフィロソフィーに「Vivid & Spacious(ビビッド・アンド・スペーシャス)」という2つの要素を掲げる(上の画像はそのイメージを可視化したもの)。ビビッドとは時間軸方向のビートやグルーブ、音の粒立ちや分離の総称で、そこがすぐれているとベールをかぶらない鮮明な音になる。スペーシャスとはサウンドステージやfレンジ/Dレンジなど、いわゆるオーディオ的に全体を眺めたときの尺度の表現を意味する。SX-1 LIMITEDシリーズは、まさにそれを実現したフラッグシップ機だ

デノン開発者がほぼ“個人的”に作った最強インパクトの国産オーディオ

いかがだっただろうか? ものすごく簡単に言えば、DCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDは、基礎的な部分にしっかりと前世代モデルの仕様を踏襲しつつ、カスタムパーツの大量投入と凄耳の担当者による徹底したサウンドチューニングで生まれ変わったフラッグシップ機となる。

しかしSX-1 LIMITEDの魅力を語るには、それだけでは十分ではないことを最後に付け加えておきたい。デノンのスタッフに聞くところ、「2機種とも、開発者の山内が定時外や土日に出社して、コソコソと作り上げたんです」という。

「合議主義で作られる国産オーディオ製品は、全方位的な音の良さはあるが音楽性が不足している」とは昔からよく言われてきた話。コアなオーディオファンは、音楽性が高いと言われる海外メーカーや、音を決める人間が露出しやすいガレージメーカーにあこがれることも多い。

しかし、今回のSX-1 LIMITEDシリーズは違う。音楽好きのサウンドマネージャーがいい意味で独善的に音を決め、きわめて“個人的”に近い形で作り上げ、大メーカーのパーツ調達力がそれを後押した結果、音楽性の豊かなすごい国産オーディオ製品が誕生したと言えるだろう。ここだけの話、別ブランドの開発者が「うちではあのような開発手法は取れない。同業としてうらやましい」とSX-1 LIMITEDシリーズについて語っていたくらいだ。

大メーカーの製造能力と、海外メーカーやガレージメーカーのような「顔の見える開発者」が両立することによって実現した、ケタ違いのサウンド。SX-1 LIMITEDの登場は国産オーディオの立ち位置に少なくないインパクトを与えるはずで、ぜひ多くの方に聴いていただきたい逸品だ。2機種のサウンドを聴けば、「よい音とは何か」の意味がきっとわかる。

土方久明

土方久明

ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーAVの評論家として活躍中。

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