DAP界のリファレンス、ソニー・ウォークマンが、新しい時代に突き進もうとしている。
この11月に登場した新ウォークマン「NW-A100」シリーズと「NW-ZX500」シリーズは、それぞれ「A50」シリーズと「ZX300」シリーズの後継に位置する製品ながら、Android OSを採用してストリーミング音源の再生に対応するなど、新しいコンセプトをもつ製品に生まれ変わっている。ここでは、使い勝手と音質を中心に、新ウォークマンの特徴について、チェックしていこうと思う。
ウォークマン「ZX500」シリーズ
まずは、個人的にも大いに気になる「ZX500」シリーズから。こちら、筆者も使用している「ZX300」シリーズの後継といえる製品で、細長筐体の上辺に3.5mmアンバランスと4.4mmバランスのヘッドホン出力がある外観の基本デザインはほぼ変わらず、それでいてディテールはまったくといっていいほど異なっている。とにかく、随分と持ちやすく、手に馴染むようになった。これは、下辺両角が丸められたことが主な理由だが、加えてボディ塗装方法の変更や背面パッド部分の厚みの変更なども関係しているようで、あまり金属っぽさを主張しない感触へと変化した。また、フロントパネルはつや消しから光沢タイプに変更され、こちらによっても見かけの印象がかなり変わって感じる。右サイドの操作ボタンも、ボディのアールにあわせたものとなり、いちだんとスマートな見栄えとなった。
本体上部に3.5mmアンバランス出力と4.4mm5極バランス出力を用意
「ZX500」シリーズと「ZX300」シリーズを並べたところ。本体サイズはほぼ同じだが、細部のディテールは大きく異なる
本体下部は丸みを帯びて手になじむようになった
サイドの物理ボタンのデザインも若干変更されている
使い勝手の面では、ソニー独自、ウォークマン独自のWMポートがとうとう廃止され、新たにUSB Type-C端子を採用したのが大きなトピックといえる。WMポートは伝送速度もまずまずの速さだったし、大きなコネクターのため耐久性も高かったのでそれほど悪い印象はなかったものの、専用ケーブルを持ち歩かなければならないのでやや利便性に欠けていたのも確か。実際、外出時に専用ケーブルを持っておらず、不便な思いをしたことが何度もあった。USB Type-Cケーブルであればイマドキは必ず持っているだろうし、もし忘れてしまっても容易に入手することができる。これは、大きなメリットといえるだろう。ちなみに、USB Type-C端子のコネクターは下辺ではなく左サイドに配置されている(下辺にはストラップ用の穴のみ)。スマートに活用するには、L字型コネクターを持つUSB Type Cケーブルを利用した方がよさそうだ。
データ転送&充電用のUSB Type-Cは、本体左サイドに用意されている
左サイドにはもうひとつ、microSDメモリーカードスロットも配置されている。こちらは、これまでのような蓋付タイプではなく、最新スマートフォンのようなトレイ式に変更されている。とはいえ、こちらのトレイは開閉ピン不要で、爪をひっかけて開くようになっているため、なかなかに便利。こういった気づかいは、ありがたいかぎりだ。
microSDメモリーカードスロットはトレイ式になった
そして、新ウォークマンのコンセプトとなっている「ストリーミング」だが、OSに最新のAndroid 9.0を採用することで、さまざまなアプリがインストール可能。多くのストリーミングサービスを利用することができる。ちなみに、新ウォークマンはGoogle Playストアにもしっかり対応しているため、アプリがインストールできないとか、上手く動作しないなどのトラプルは生じないので安心だ。
Google Playに対応しており、各種音楽ストリーミングサービスアプリもインストール可能だ
なお、Android OSは8.0以降「AAudio」という新しいオーディオAPIが採用されたため、こちらを利用していない古いアプリだと16bit再生になってしまう、という状況が発生している模様。現在、「Amazon Music(HD)」アプリがその代表例となっている。しかしこれは、Android OS採用スマートフォンにもいえることで、ウォークマンに限った話ではなく、アプリ側で早期に対応して欲しいところではある。とはいえ、ウォークマン用音楽再生アプリ「W.ミュージック」では、Androidの音楽回路をバイパスしてアナログ出力するため、11.2MHzのDSDをネイティブ再生できるようになっている。こちらを部分的に活用すればイケルのでは、とソフト開発者の苦労を知らない人間はついつい考えてしまうが、そのあたりは今後の動向を見守りたいところだ。
11月上旬時点では、Amazon Music HDでハイレゾ音源をダウンロードしても標準音質にダウンコンバートされて出力されていた
このように、Android OSの採用によって格段に機能性が高まり、まさにストリーミングサービスも良好なサウンドで楽しめるようになった「ZX500」シリーズだが、やはり、いちばんのアピールポイントといえば音質だろう。
ハードウェア面では、電源系が強化され、バランス出力用アンプブロックの電源には「DMP-Z1」で採用した高分子コンデンサー「FT CAP2」を4基搭載したほか、アンバランス出力には「NW-ZX300」シリーズの2倍以上の容量となる1000μFの「POS-CAP」を採用。さらに、グラウンドも従来の銅プレートではなく銅切削のブロックへと変更し、New高音質はんだをヘッドホン出力やバッテリーまわりまで採用範囲を広げている。
いっぽう、ソフトウェア面では、バイナルプロセッサーなどのユニーク機能は踏襲され、逆に「DSEE HX」はAIタイプへと進化している。OSを変更しつつも、このあたりの機能性が変わらないことは、素直に歓迎したい。
「バイナルプロセッサー」や「DSEE HX」といったソニー独自の高音質化機能は、プリインストールされている「音楽設定アプリ」経由で操作する形になっている
さて、ここからは実機を使ってサウンドをチェック。音質については、「ZX300」シリーズに対して、一聴してすぐに分かる程の進化が感じられた。特に3.5mmアンバランスは、SN感がグッと高まり、歪み感も抑えられ、見通しのよい表現となった。音色傾向もやや明るい印象にシフト、ピアノの音が軽やかに弾む。そのいっぽうで、低域はかなり主張するようになり、ベースの音がかなり力強いというか支配的な印象になり、重心の低い、落ち着きのある音色へとシフトしている。おかげで、男性ボーカルも低域側の付帯音がしっかりと感じられ、深みのある歌声となった。
対して4.4mmバランスは、こちらもSN感のよさが向上しており、「ZX300」シリーズよりも幾分クリアな印象のサウンドへとシフトしている。3.5mm同様に低域のボリューム感はある程度確保されているのだが、フォーカスのよい音色となっているため、グルーヴ感のよい演奏が楽しめる。Android OSの採用による音質的なデメリットをいっさい感じさせない、絶妙なサウンドチューニングといえる。
また、両端子に共通しているのがヘッドホンアンプ部の駆動力の向上だ。「ZX500」シリーズでは、数値的にヘッドホン出力が向上しているが、それ以上に、高負荷のハイクラスイヤホンであってもしっかり鳴らしきる素性のよさを持ち合わせている。JVC「HA-FW10000」も躍動的なベースの演奏が楽しめる。調子に乗ってAKG「K701」なども試してみたが、さすがにここまで鳴らしにくいヘッドホンだとハイ上がりなバランスで音場的な広がりも平坦になりってしまうが、ボリュームは充分な量が確保できている点はありがたい限りだ。
それ以上に素晴らしいと感じたのは、操作感のよさ、使い勝手の向上だ。「W.ミュージック」はまったく違和感なく独自OS時代のプレーヤーを再現できているのだが、操作に対する反応も比較的素早くなかなかに扱いやすい。何よりも、もっと根本の部分、ロック画面やメインメニューなどが(当然ながら)Androidそのものなので、圧倒的な扱いやすさがある。弱点を強いて挙げるとすれば、タッチパネルが光沢となったため、指紋などが目立つようになったくらいか。総じて、高い完成度をもつ製品といえる。