今年こそは「ミニマムシアター」のグレードアップ(4K HDR & Dolby Atmos化)を完成させるぞ! と意気込みも新たにスタートした2020年だが、世間では新型コロナウイルス問題をはじめとするさまざまな突発事項があり、その余波というわけではないが、この計画も春を前にしてズルズルと予定が後ろにスライドしている状況だったりする。とはいえ、いまできることからひとつずつ進めていこう! ということで、「ミニマムシアター」グレードアップ計画は、どんな製品にするか、どうやって取り付けるかなどの準備だけは進めつつある。
ということで、今回はまずスピーカーの選択について、計画を紹介していきたいと思う。
もう10年近く前の話になるが、とある取材がきっかけでアニメ作品などの音響を手がける、岩浪美和音響監督と出会うことができた。その後、仕事だけでなく(ボランティアなど)趣味に近い企画をいくつかご一緒させてもらい、大いに勉強させてもらった。特に、映画館とホームシアターシステムとのさまざまな違いについては、岩浪音響監督のセッティングをすぐ横で見させてもらうことで、とても経験になった。そういった経験のなかで、岩浪音響監督の持論であり、大いに共感させられたのがホームシアターシステム“全チャンネル同一スピーカーで統一”設置という方法論だ。
一般的なホームシアターシステムは、5.1chにしても7.1chにしても、Dolby Atmosであっても、映像のあるシアタールームの前面に重きを置いたスピーカー配置となっているパターンが大半だ。具体的には、フロント左右には、マルチチャンネルシステムのなかでも一番良質な(または大型の)スピーカーを使い、その間の中央にはスクリーンを邪魔しないよう横置きにしつつも音色や音質で統一感を持たされた専用設計のセンタースピーカーを設置。そして、サラウンドや天井スピーカーなどは、フロントに比べて小型のものをチョイスして配置する、というのが現在の上級シアタースピーカーシステムでは主流となっている。これには理由があって、映像コンテンツで最も活用される前面の音質を重視することでコストパフォーマンスのいいシステムを作り上げることや、ステレオスピーカーシステムとの共存など、さまざまなトライ&エラーを繰り返して完成していったプランでもある。
一般的なホームシアターにとって、こういった主流システムがベストな(少なくともベターといえる)のは確かだが、同時に、Dolby Atmosなど、立体的な空間表現を得意とし、スピーカー間の自然なつながりが重要となる新世代フォーマットだと、気になってくる部分もでてくる。特に、以前からセンタースピーカーの音色的に違和感を覚え、せめてフロント3本を同一スピーカーに揃えたいと思い続けていた筆者にとって、岩浪音響監督がユニバーサルシアターと呼ばれる小さな映画館「CINEMA Chupki TABATA(シネマチュプキタバタ)」で実践した全チャンネルDALI「OPTICON 1」で統一した7.2.4chシステムは、まさに目からウロコが落ちる心境をもたらしてくれた。実は、いつの日かこのような上質なサラウンド空間を自分の「ミニマムシアター」でも実現したい、というのが、4K HDR & Dolby Atmos化計画のそもそもの発端でもある。
岩浪音響監督がコーディネートした「CINEMA Chupki TABATA(シネマチュプキタバタ)」
館内のスピーカーはすべてDALI「OPTICON 1」で統一されている
ということで、スピーカーのチョイスについては、フロント3本、サラウンド、サテライトの全てを統一することは確定事項として考えている。しかしながら、現実はいろいろと厳しい制約があり、設置において大いに悩んでいるのが現状だ。
まず、理想としては、ステレオスピーカーとしても利用することができる、音質、音色傾向ともにとても気に入っている“ブックシェルフスピーカー”を全チャンネルに配置できれば問題はない。ここ数年でいろいろな製品を聴き、上記のコンセプトで候補に挙がってきたのがKEFの「Q150」だ。こちら、KEFお馴染みの同軸配置ユニットUni-Qを搭載。しかも、ウーハー口径が130mmと、同社製のアクティブスピーカー「LS50」と同サイズが採用されている。そのおかげもあってか、ブックシェルフスピーカーとして、バランスのとれたサウンドを奏でてくれる。また、先日ウォールブラケットも発売されて壁掛け配置も可能となり、これでほぼ決まりか!? と思ったものの、残念ながらそう簡単にはいかなかった。
まず、筐体サイズがブックシェルフ型のなかではやや大柄なことが問題となってきた。サラウンドはさておき、天井スピーカー設置の際に大幅な補強が必要そう(築50年以上の家屋なため)。また、新発売されたウォールブラケットも、壁面へ水平に設置するためのもので、サラウンドや天井用に合わせて角度をつけたいと思ったら、さらにベース部分の製作が必要となってくる。なかなか、一筋縄では済まないかな、という様子がわかってきた。
では、天井にも手軽に設置できそうな、小型のスピーカーユニットを利用するのはどうだろう。
実は、KEF以前から候補に考えていた製品として、ELAC「BS302」がある。こちら、筆者が使用している「BS312」の弟分といえるモデルで、ELACの代名詞といえるJETツイーターこそ採用していないものの、金属筐体を採用することで、コンパクトさと良質なサウンドを巧みに両立している。こちらを採用した5.1chシアターシステム「CINEMA 30」もラインアップされているうえ、壁掛け用のステーも用意されているので、こちらと「BS302」ペア3セットで7.1.4chシステムを比較的手軽に構築することができる。
しかし、残念ながら「BS302」には2つほどの弱点がある。ひとつは価格が高いこと。今回のシステムは、スピーカーの値段だけで60万円近い金額になってしまう。また、「BS302」はそのコンパクトさ故にローエンドの伸びも量感もなく、低域はサブウーハーに頼りがちとなってしまう。「CINEMA 30」にセットされるサブウーハー「SUB2030」はなかなか上出来な製品で、「BS302」とのマッチングもよかったので、なかなか悪くない選択肢と思ってはいるのだが、決め手に欠けているのか、いままで入手しなかったという経緯がある。
もうひとつ、ケンブリッジオーディオのミニマムスピーカー「MIN22」を利用する手も考えたが、こちらは実際のサウンドを聴いていないため、はたして今回のシステムに向いているか否か未知数な部分がある。
そうやって悩み続けていたところ、なかなかユニークなプランを教えられた。それは、ジェネレックのパワードモニターを活用するというものだ。こちら、ジェネレックが2019年に発表した新世代システムで、パワードスピーカーにCAT5のLANケーブルを接続。LANケーブルのみでオーディオ信号はもとより、電源の供給も行われるという画期的なもの。しかも、室内音響のキャリブレーションやスピーカーシステムのセットアップなどもPCから行えるため、かなり環境にマッチしたマルチチャンネルシステムを構築できそう。残念ながらたいした資料がなく、マルチチャンネル音声をどうやって入力すればよいか(アナログ??)など詳細は把握できていないが、価格と使い勝手さえOKであればこちらを検討することもあり得る(まあ重さに関してはKEF同様厳しいだろうけれど……)。
ジェネレックが2019年に発表した、LANケーブルのみで構築できるという新世代システム
このように、まだまだ悩んでいる最中ではあるが、おおよそ、方向性は定まってきたといえる。音を優先して設置を頑張るか、スマートなスピーカーサイズを選ぶか、最新のインテリジェントシステムにトライしてみるか。おおよそ、焦点は定まってきたといえる。年内の決定&スピーカー取り付けまでは、充分に実現の可能性が高まったと思う。
もうひとつ、今回は先日導入したパナソニックの4K放送録画対応ブルーレイレコーダー「おうちクラウドディーガ DMR-4W400」について、2か月ほど使い続けて気がついたメリットや使いこなし方法なども紹介していきたいと思う。
まずは、ネットワーク経由のダビングについて。パナソニック製のHDDレコーダーには「お引越しダビング」という機能を持っているものがある(2017年モデル以降/実は筆者が使っている「UBZ2030」にも同機能がある)。これを利用すると、ネットワーク経由でHD録画番組をダビングすることができるので、なかなか便利だったりする。
しかし、その使い方にはややクセがあり、ビエラ(テレビ)からディーガ(レコーダー)へのダビングや、東芝製レコーダーから「ネットdeダビング」を利用したダビングのような手軽さ、わかりやすさまではいかない。たとえば、設定をした後すぐにダビングが始まるのではなく、ダビング元、ダビング先両方のレコーダーの電源がオフになっていないとスタートしてくれない。こちらが知らぬ間にやってくれる点はありがたいが、できればそのうち、電源をオンにしていてもダビングできるようにして欲しいと思う。
<「お引越しダビング」の画面。電源がオンの状態でもダビングしてくれるほうが、初心者でもわかりやすいのかなと思う
また、これはディーガに限った話ではないのだが、ネット経由のダビングには4Kコンテンツに対応していなかったり、一気に9回分のムーブを行うこともできない。ダビングの速度も遅いため、BD-RWを利用してドライブ経由でダビングしたほうが、いまは現実的かもしれない。ネット経由のダビングはなかなか手軽なので、いつか対応してもらえたらと思う。
このほかにも、「DMR-4W400」の使いこなしにちょっとしたクセがある部分も見つけた。前回の記事でも触れたが、録画予約を行うと「4K対応チューナー」から先に指定される傾向があるようで、3番組目の同時録画として4K番組を選択すると、重複エラーがでてしまうのだ。こちらは、4K放送対応チューナーを使用している録画予約を一度消して、4K番組→HD番組という感じで予約をやり直さなければならない。筆者がいまだサブ機として活用しているレコーダー、東芝「RD-X10」あたりの時代だと、チューナーの指定はごく当たり前のように行っていたが、近年の製品ではチューナーの種類を意識する必要がほとんどなかったため、多少戸惑ってしまった。一度理解してしまえばどうということはないので、皆さんも録画予約の際は、そういった可能性があることを頭の片隅にでも覚えておいて欲しい。
「DMR-4W400」は、録画予約の順番によって重複エラーが出てくる場合がある
重複エラーを解消するには、録画予約の順番を見直すしかない
最後に画質について。これまで使っていた「UBZ2030」は(低価格帯)専用BDプレーヤーの画質に匹敵するクオリティを持ち合わせていたので、充分に満足していたが、「DMR-4W400」はそれ以上のクオリティを実現していたので大いに驚いた。鮮明感が高く、細部までしっかりと情報が届いてくるのだ。特にアニメは、ああ、最近のフルHD制作作品でこんなにも情報量が上がっているのね、と感心する次第。たとえば、TVアニメ「魔法科高校の劣等生」の再放送を見ると、本編はこれまでと変わらない、スムージングのせいか何かでややぼんやりしたエッジ部分に感じられる映像となっているが、新たに7月から放送予定となっている続編のCMが始まると、コントラストの高さ、線の細やかさなど、映像クオリティに圧倒的な違いがあることがひと目でわかる。そういった、4KだけでなくフルHDコンテンツに関しても、造りの違いをしっかりと表現してくれるのが「DMR-4W400」の魅力であり、実力の高さの証明といえるだろう。
いっぽうで、絶妙なチューニングを感じさせてくれる部分にも好感が持てた。いま、4K放送で2Kからのアップコン映像は明暗のメリハリが弱く全体的に暗い絵になりがち、ということが言われているが、「DMR-4W400」ではそういったイメージはまったく感じられず、そういった話をすっかり忘れていた。何も設定変更しなし状態で見ていると、逆に、やや明るめの映像に感じられるくらいだったりする。
4K放送であることを変に意識することなく、良質な映像をひたすら手軽に楽しめる。このあたりは、パナソニックならではのこだわりなのかもしれない。もちろん、映像設定に関してはこれからいろいろいじっていくつもりだが、主に設定が必要となってくるのは“モニターに合わせてベストな4K HDR出力を設定する”ことがメインであるのは皆さんもご承知の通り。そういった意味でも、基礎体力の高い映像を体験できる「DMR-4W400」は、なかなかいい買い物だったといえる。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。