レビュー
同じ素材でどこまでサウンドキャラクターに違いが出る?

ピュアベリリウム振動板採用の高級イヤホン、final「A8000」とDUNU「LUNA」を聴き比べ!

以前からいろいろな場所で言ってきたというか、いろいろな製品の原稿で書かせてもらってきたことがある。それは、ダイナミック型ドライバーの振動板のベリリウム振動板という表記は正確ではなく、それらのほぼすべてがベリリウム“コート”振動板だ、ということだ。

まず、両者には近いようで大きな隔たりがある。マテリアルの話をすれば、18金ペンダントと18金メッキ・ペンダントとの違いのようなもので、両者の価値は別物といっていい。当然、コスト的にも大きな隔たりがある。

また、オーディオ的にいえば、コーティングだけでも特性の向上はなかなかのものだが、当然ながらピュアベリリウムに数値では叶わず、性能面でも大きな隔たりがある。また、ベリリウムを振動板に活用するのは高い工作精度や技術力が必要となるため、作り上げるのは相当困難だったりする。そのため、コストもかなり高価になってしまっていた。

強くて硬い、さらには内部損失が大きいベリリウムは、スピーカーユニットの振動板として理想的な素材のひとつと言われ続けてきたが、過去にほとんど採用実績がないのは、そういった扱いにくさがあったためだ。実際、近年まではパイオニアのプロ用ブランドであるTADの高域用ドライバーユニットや、フランスFocal社のツイーターユニットなど、一部の製品で実現しているのみとなっていた。

それが最近になって、続々とベリリウム振動板を採用する製品が登場。イヤホン/ヘッドホン製品においても、先日、Focalからベリリウム振動板を搭載したヘッドホンが発売されている。これは、真空蒸着法によって高品位のベリリウム箔が作られるようになったため。これまでのような粉末冶金法ではなかなか上手くいかなかった細かい造形も可能となったため、急激に採用実績が広がってきた。

そして2020年には、finalとDUNUの2社からベリリウム振動板搭載のイヤホンが発売された。もちろん、両者ともに搭載ユニットはベリリウムコート振動板ではなく、きちんとしたピュアベリリウム振動板を採用したものとなっている。ここでは、この2製品を取り上げ、それぞれの特徴とともに、ベリリウム振動板のメリットはいかなるものかも拾い上げていきたいと思う。

final「A8000」とDUNU「LUNA」

final「A8000」とDUNU「LUNA」

とまあ、技術的な内容が多いため冒頭はかなり堅い話になってしまったが、この記事を企画した発端は至ってシンプルで、ピュアベリリウム振動板ならではの共通のメリットは存在するのか、ということと、同じ素材を使ってどこまでサウンドキャラクターに違いが出せるのだろうか、ということを確認したかったこともある。オーディオ機器にとって素材はあくまでも素材で、それがすべてではないものの、すぐれた(当然ながら高価な)素材を採用するにはちゃんとした理由が必要となってくるからだ。理由がなければ、そんな高価なもの誰も買わないよね、という話でもある。

ということで、単純な対決記事にはならないかもしれないが、最後までお付き合いいただければありがたいと思う。

新世代final製イヤホンのフラッグシップモデル、final「A8000」

final「A8000」

final「A8000」

まずは、final「A8000」から取り上げよう。finalとして初めてピュアベリリウム振動板を搭載した「A8000」は、Eシリーズから始まった新世代final製イヤホンのフラッグシップモデルで、「トランスペアレントな音(透明感のあるサウンド)」を追求したことが最大の特徴となっている。イヤホンだからこういう音、こういう音場だ、ということに甘えずこだわらず、ヘッドホン「D8000」同様、明瞭度の高い音色や定位感を実現すべく、サウンドチューニングを突き詰めていったということなのだろう。

音質をとことん追求した製品なので、技術面以外ではあまり細やかに語ることはなかったりするが、逆にいえば、ベリリウム振動板ありきではなく、理想の音を作り上げるために特性にすぐれたベリリウム振動板を採用した、というのが「A8000」が生まれるまでの流れとなっている。

外観もこれまでMAKEシリーズやBシリーズなどで採用されているものと同じフィット感に配慮されたIEMデザインとなっているが、ドライバー背面が2重構造になっていたり、フェイスプレート形状が異なっていたり、耳のあたる部分のデザインをリデザインしたりと、「A8000」独自のものとなっている。

なお、イヤホン本体の素材はステンレスを採用。このため、重量は約41gと有線イヤホンの中ではかなり重い部類に入る。また、MAKEのようにユーザーが内部にアクセスできる構造は採用されていないが、長く使い続けてもらうためだろう、ノズル先端のフィルターは予備が付属している。このあたりは、finalならではの配慮といえる部分だ。また、イヤーピースは、同社オリジナルのものが5サイズ同梱されている。IEMタイプのイヤホンに付属するイヤーフックも、「A8000」からさらに改良されたものとなった。

final「A8000」の付属品。専用ケースのほかにも、オリジナルイヤーピースや、MMCXコネクターを簡単に取り外すことができる「MMCX ASSIST」、ロック機構を備えたイヤーフックなど、同社が独自開発したアイテムが満載。ノズル先端の予備フィルターもしかっり用意さえている点もありがたい

いっぽう、MMCXコネクターを採用する着脱式ケーブルは、finalユーザーの間ではすっかりおなじみとなっているシルバーコートOFCケーブルが組み合わされている。プラグは3.5mmとなっているので、2.5mmや4.4mmバランス接続を利用したい人は、別売のリケーブルを利用する必要があるが、MMCXコネクターであれば他社製も利用可能な場合が多いため、それほどコストの負担にはならないだろう(MMCX端子は精度がシビアなため当然final自社製ケーブル以外はメーカー保証対象外となってしまうが)。

付属のケーブルは、finalの高級イヤホンでおなじみのシルバーコートOFCケーブルだ

付属のケーブルは、finalの高級イヤホンでおなじみのシルバーコートOFCケーブルだ

イヤホンのケーブル接続部は汎用性の高いMMCXコネクターなので、リケーブルも楽しめる

イヤホンのケーブル接続部は汎用性の高いMMCXコネクターなので、リケーブルも楽しめる

はたして、肝心のサウンドはどうだろう。一聴して感じるのは、とても素直な、とてもニュートラルなサウンドキャラクターを持ち合わせていることだ。解像度感は高く、メリハリ表現もしっかりしていて、さらにはトランジェント、応答性もよく音の輪郭がクッキリと浮かび上がってくるのだが、決して高域が鋭く突き刺さることはない。メーカーのアピールするコンセプトどおり、明瞭度がとても高いサウンドだ。その結果、定位感もハッキリしていて、イヤホンであることを忘れるくらいに自然な広がりを持つ、開放型ヘッドホンを使用しているかのような音場表現が味わえる。

実は、この音色と抑揚表現にはとてもなじみがある。仕事場でリファレンスとして使っているTAD製のモニタースピーカーユニット、TAD 「TL-1601b」「TD-4001」の組み合わせに共通するニュアンスを持ち合わせているのだ。ホーンドライバーユニット「TD-4001」がベリリウム振動板を採用している共通点はあるが、どちらかというと、本来の音を正確にそのまま再現しようとする両者のコンセプトの近さが生み出したものだろう。差異は、ユニットとの距離が極端に使い「A8000」のほうが、圧倒的なダイレクト感の高さを持ち合わせているくらいか。はっきりいって、個人的にはとてもわかりやすい、なじみのあるサウンドだ。

ダイナミック型1基で勝負! DUNUフラッグシップモデル「LUNA」

DUNU「LUNA」

DUNU「LUNA」

DUNU「LUNA」は、ベリリウム振動板を採用する10mm口径ドライバーを搭載したモデル。ハイブリッドドライバー構成のイヤホンで有名なDUNUだが、フラッグシップモデルとなる「LUNA」はダイナミック型1基のみの構成となる。また、「LUNA」はドライバーユニットについての詳細も公表されていて、ピュアベリリウムのドーム型振動板にポリウレタンのエッジ部分が組み合わされている。また、イヤホン本体はハウジング部もフロント側も削り出しのチタン素材を採用。音質のために、随所にこだわりのパーツが採用されているのが特徴だ。

また、「LUNA」は付属品の多さも特徴となっている。イヤーピースは医療グレード素材を採用した標準のシリコンタイプのほか、SpinFitが「CP100」と「CP360」改良版の2種類、さらにはComplyまで付属している。さらに、イヤホンケースは大小2タイプが付属。スマートフォンと接続するUSB Type C端子のアダプターまで同梱されているのだから恐れ入る。ほかには滅多に見ない、充実した内容といえる。

DUNU「LUNA」は、とにかく付属品が豪華。イヤーピースだけでも、シリコンタイプ2種類とフォームタイプ1種類が付属する

イヤホンジャックのないスマートフォンとも接続できるように、USB Type C端子アダプターまで付属されている

イヤホンジャックのないスマートフォンとも接続できるように、USB Type C端子アダプターまで付属されている

また、MMCXコネクター採用の着脱式ケーブルも、「LUNA」オリジナルのものが同梱されている。以前のモデルにも採用され、単体発売も行われているスイッチングコネクターであることは変わらないものの、線材が大きくグレードアップして、サウンドにも影響を与えているという。なお、ワンタッチで交換可能なプラグは、3.5mm、4.4mmバランス、2.5mmバランス、3.5mmPROバランス(中国などで活用されているもの)の4タイプが付属されている。

付属ケーブルはスイッチングコネクターを採用。付属のアダプターを交換することで、3.5mm、4.4mmバランス、2.5mmバランス、3.5mmPROバランスの4種類の接続に対応する

さて、肝心の音質はというと、これまでのどのDUNU製品とも異なる、とてもピュアで上質なサウンドを持ち合わせている。硬質な中高域表現、心地よさを持つゆったりとした低域表現などから確かにDUNUらしさを感じるのだが、無理をして解像感を高めていないというか、肩の力が抜けたかのような、ニュートラルな音色を聴かせてくれるのだ。ピアノの演奏は音がコロコロと転がるかのような軽やかさを持ち、チェロはやや高域成分多めの堅さを感じる音色なのだが、抑揚表現の幅に余裕があるのか、とてもリラックスして聴ける。ややリスニングを意識した、サウンドキャラクターであることがうかがえる。

いっぽうで、ボーカルのリアルさには「A8000」とも共通項がある。「LUNA」のほうが距離感の近い立ち位置だが、声のリアルさやダイレクト感はそう変わらない。アーティストの歌声の魅力がたっぷり伝わってくる、素性のいいサウンドだ。

まとめ ピュアベリリウム振動板を採用した2モデルを聴き比べてわかった共通項

2製品を続けて試聴したことで、両者に共通する特徴も見えてきた。音がとてもスピーディーで、キレがいいことだ。しかも、キレがいいのに、高域が痛々しくない、自然なバランスのチューニングでまとめられている。そのおかげもあってか、中域、特にボーカルはリアルな、血肉を感じる歌声を楽しむことができる。解像度の高さは、ライブ音源の拍手もリアルに感じさせてくれる。両者でチューニングによる共通点があることも否めないが、キレがいいのに痛くない高域やリアルさ満点の歌声や拍手は、ベリリウム振動板あってこそ実現が可能となったものだろうと思う。イヤホンとして利用するとハイハットの音色などにほんのちょっとだけクセ(金属的な音がやや強調されているような印象)を感じるが、それ以外はなんと素直な音だろうと、とても感心させられる。

やはり、ピュアベリリウム振動板はいい。それぞれにサウンドキャラクターは異なるものの、どちらも魅力的な音を持つ製品に仕上がっているのは確かだ。ちなみに、筆者はこの記事に先んじて「A8000」を購入しているが(写真のイヤホン本体に多少の傷が入っているがすでに使い込んでいる個体なので大目に見て欲しい)、いまは「LUNA」も手元に置きたくなっていて大変困っている。それほどに、両者は別の魅力を持つ、それでいて音の良質さでは共通項のある製品となっているのだ。ぜひ、自分にとってはどちらがベストか、チャンスがあれば聴き比べて欲しい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

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