選び方・特集
GRADOの最新モデル「Timbre」シリーズを使って徹底試聴

レコードカートリッジのグレードの違いで音はどう変わるか聴き比べてみた

アナログレコードにとって、針の部分、いわゆるカートリッジと呼ばれる部分は音質を大きく左右する重要な製品だ。アナログレコードから音を拾い上げるのはこのカートリッジの先端部分であり、振動を電気に換えるのもこの部分。故に、ちょっとした違いでも大きく音が変化してしまうことがある。

とはいえ、カートリッジにはピンからキリまで、それこそ数千円から数百万円まで、あり得ないほどの価格差が存在する。同じメーカーの同じシリーズであっても、数万円〜数十万円まで、その差はかなり幅広かったりするのだ。一体、そこまで価格が異なっているのはなぜなのだろう。何が違っていて、音質的にはどういった影響をもたらしているのだろうか。

そういった疑問を解決するために、ぴったりな製品が発売された。それがGRADOの最新モデル「Timbre」シリーズだ。

GRADO「Timbre」シリーズ

こちら、定価税抜き3万円弱のスタンダードモデルから16.5万円のトップモデルまで、5種類がラインアップ。1シリーズで5倍以上の価格差となっている。はたして、この価格差は音にどういった影響を与えているのだろうか。ということで、今回Timbreシリーズ全5製品を借用して、ひとつひとつ、サウンドをじっくりチェック。製品としての違いを確認してみることにした。はたして、グレードによってサウンドはどう変化していくのだろうか。また、金額の差が納得できるほど音質の差を感じ取ることができるのだろうか。

なお、今回はプレーヤーにTechnics「SL-1200MK7」を使用し、フォノイコライザーにケンブリッジオーディオ「DUO」を組み合わせつつ、仕事場のメインシステム(TADプロ用モニタースピーカー+サンバレー「SV-192A/D」+CHORD「SPM1500E」)で音の違いを確認してみた。

なお、試聴曲はいつもアナログレコード系の取材に利用しているスティング「Nothing Like the Sun」(重量盤)やEarth, Wind & Fire「Raise!」、NIRVANAベスト、ビリー・ジョエル「52nd Street」、バーンスタイン指揮Gershiwin「An American in Paris / Rhapsody in Blue」を使用。加えて、12月8日に発売が予定されているTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、テクノボーイズ)の「VISIBLE INVISIBLE」(サンプル盤)も入手できたので、こちらも一緒に試聴してみた。

ちなみに、「VISIBLE INVISIBLE」はテクノボーイズの3rdアルバムで、久々のオリジナルアルバム。384/64floatマルチトラック録音されており、ハイレゾは最高384/32版がリリースされる予定となっている。また、テクノボーイズ初のアナログレコード盤も数量限定で発売予定となっているので、気になる方はぜひ、ハイレゾ版とともにアナログ盤もチェックしてほしい。

GRADO「Timbre」シリーズ

さて、今回の比較試聴用にもってこいというか、今回の記事そのものの発端となっているのが、GRADOの最新モデルにして中核となるミドルクラスとなるTimbreシリーズだ。

GRADO製カートリッジは、ミドルクラス以上で木材の筐体を使用しているのが特徴となっている。このTimbreシリーズも、オーストラリア産ジャラ材を使用していて(ベーシックモデルの「Opus3」のみメイプル材を使用)、他社製品とは趣の異なる、ひと目見ただけでもそれと分かる特徴的な外観となっている。

また、独自のOTL(Optimized Transmission Line=最適化された伝送経路)カンチレバーや、カンチレバーの実効質量を最小レベルにする「FLUX-BRIDGER設計」などによって共振を徹底的に排除している点など、かなり特徴的な製品となっている。また、5モデルともに、ステレオ用とモノラル用、高出力(4mV)タイプと低出力(1mV)タイプをラインアップしている点もユニークだ。

しかしながら、その分シリーズ内の外観的な見分けは難しく、外観ではカンチレバー台座部分の英文字でなんとか識別できる程度。スペック表のデータを確認しないと、違いもほとんど分からない。そこで、今回はステレオ用低出力(1mV)タイプを借用し、ベーシックモデルの「Opus3」から最上級「Reference3」まで、価格順に製品を試聴してみた。

外観が似ており、判別はカンチレバー台座部分に刻印された英文字で行う形だ

外観が似ており、判別はカンチレバー台座部分に刻印された英文字で行う形だ

Opus3(Stereo, Low) 29,800円(税別)

Opus3(Stereo, Low)

まずはもっとも安価なモデル、「Opus3」から試聴してみる。

安価というよりも、これまでのラインアップにないまったく新しい製品、という表現のほうがぴったりくる製品となっているのが、この「Opus3」だ。既存モデルと同じく木製筐体を採用しているが、既存モデルとは違いメイプル材を採用しているため明るい色合いとなっているし、筐体デザインもこれまでの製品とはずいぶん異なっているように感じられる。

いっぽう、メカニズムとしては「4ピース構造OTLカンチレバー」「4コイル採用による最適なLRバランス」「FLUX-BRIDGER設計」「楕円形ダイヤモンド針採用」など、シリーズ共通の技術や特徴はしっかり採用されている。

そのサウンドは、伸びやかで清々しいボーカルと、量感のある低域によって、重心が低く、とても落ち着いた印象のサウンドを聴かせてくれる。Earth, Wind & Fireは落ち着いた、それでいてグルーヴ感のよい演奏を聴かせてくれるし、スティングは普段より歌声が前に出て、かつ声に深みがあって普段よりカッコイイ!とさえ思える。

正直、これで十分なんじゃないか、魅力的な音といえるのでは、と思える実力の高さを持ち合わせている。テクノボーイズの新譜を聴いたときの音の広がり感やSN感の印象から、もしかすると「SL-1200MK7」には今回試聴した低出力タイプよりも高出力タイプのほうが相性いいかも、と思ったくらいで、総じて高い満足感を与えてくれる製品だった。

Platinum3 (Stereo, Low) 44,000円(税別)

Platinum3 (Stereo, Low)

Timbreシリーズのなかで、オーストラリア産ジャラ材を筐体に採用した製品としてもっとも安価なモデル。とはいえ、先代にあたるPrestigeシリーズに比べて10%の質量削減を実現した4ピース構成のOTLカンチレバーや、コイルには上位モデルと同じ高純度のUHPLC(Ultra high purity long crystal)無酸素銅を採用するなど、決して手抜かりはないモデルとなっている。針には、人工ダイヤモンドを使用した楕円形針を採用している。

一聴して違いが分かる、かなりクリアで見通しのよい音。セパレーションもよく、テクノボーイズの楽曲が、本来のステージングに近い姿で楽しめる。音のキレやそろいがよく、音圧が高まったかのようにも感じる。いや、実際音圧は高まっているのだろう、メリハリもしっかりしている。

声も楽器も、ひとつひとつが印象的だ。音のキレがよいため、スネアは跳ねるようなリズムを聴かせてくれるし、シンセサイザーの音はずいぶんと厚みが感じられる。いっぽう、スティングの声はリアルさが増し、張り上げたときも伸び伸びとした歌声になった。

先の「Opus3」との違いをひとことで言い表すならば、帯域バランスとSNの違いが顕著ということ。長年ノウハウを蓄えてきただろう、オーストラリア産ジャラ材のアドバンテージは大きいということだろうか。もしMCフォノイコライザーを活用するのだったら、「Opus3」よりも「Platinum3」のほうがよさそうだ。1.5倍の価格差は十分に納得できる違いだった。

Sonata3(Stereo, Low) 66,000円(税別)

Sonata3(Stereo, Low)

続いて、そのひとつ上にあたる「Sonata3」を試聴してみる。
こちらは、「Platinum3」同様の4ピース構成のOTLカンチレバーとオーストラリア産ジャラ材の筐体を採用。これにひとつ上のモデル「Master3」と同じ人工ダイヤモンドを使用した無垢の楕円形針が組み合わされている。なお、コイルにも上位モデルと同様の高純度UHPLC無酸素銅が使用されている。

要するに、「Platinum3」に対してほぼ針先だけが変わっただけに近い仕様が「Sonata3」だが、ずいぶんと雰囲気が変わっているから恐れ入る。解像感の変化というよりも、芯のしっかりした音になり、同時に音に厚みが加わったというイメージ。「Platinum3」単体ではまったく感じなかったが、音の強弱で微妙に影響されていた音色変化、その不安定さがなくなり、落ち着きのある、かなりハイファイなサウンドへと変化した。おかけで、小音量でもかなり通りのよい音になっている。アルバムとしては、Earth, Wind & Fireとの相性がなかなかよかった。

「Platinum3」との価格差は1.5倍ほどあり、確かなクオリティアップがあるものの、それよりもキャラクターの違いが印象に残った。「SL-1200MK7」など高く安定したドライブ力を持つ製品は「Platinum3」でも十分かもしれない。いっぽう、ベルトドライブで繊細な表現を得意とするアナログプレーヤーにはこの「Sonata3」を組み合わせると、面白い化学変化が生じてくれるかもしれない。

Master3(Stereo, Low) 110,000円(税別)

Master3(Stereo, Low)

Master3(Stereo, Low)

価格がかなり上がるこの「Master3」から、(採用する内部機構の)ディテールがかなり変化する。針先は「Sonata3」と同じ人工ダイヤモンドを使用した無垢楕円形針だが、OTLカンチレバーは5ピース構造のものとなり(先代「Prestige」シリーズに比べて5%の質量削減)、オーストラリア産ジャラ材の筐体は硬度を上げるため独自処理を行ったものへと変更されている。なお、コイルにUHPLC無酸素銅を使用している点は同じだ。

自然でいて、中域の存在感が強い基本的なサウンドキャラクターは変わらず、SN感、音のクリアさが格段に向上。まったくの別シリーズ!?と思えるくらい、音のリアリティが高まっている。テクノボーイズのドラム演奏はいままでのカートリッジに比べ格段に生音っぽさを感じるし、女性ボーカルもリアルさと清々しさが絶妙にバランスされていて、とても聴き心地がよい。

スティングの歌声もリアルだ。マイクの前に立っている彼の姿が想像できるような、実体感を感じる。また、サックスをはじめとする各楽器も伸び伸びとした音が楽しめ、かつ存在感が強い。パートがハッキリとしていて、それでいながら全体のバランスは上手くまとまっている。なかなかに絶妙なサウンドといえるだろう。

確かに高価な製品だが、ここまでの違いを聴かせられると、ついついこちらを選びたくなってしまう。そんな気持ちにさせる、とても魅力的な製品だった。

Reference3(Stereo, Low) 165,000円(税別)

Reference3(Stereo, Low)

Reference3(Stereo, Low)

最後に、トップモデルの「Reference3」を試聴。こちらは、「5ピース構造OTLカンチレバー」「UHPLC無酸素銅線採用コイル」「硬度を上げるための独自処理を施し高度を上げたオーストラリア産ジャラ材筐体」などは「Master3」からそのままに、独自設計となる天然ダイヤモンド製の楕円形無垢針が組み合わされている。

こちらのサウンドは、「Platinum3」から「Sonata3」への変化とも似ているかもしれない。音質は向上し、特に雑味がグッと減って、繊細な表現を持つとてもピュアな音となった。同時に、定位が前に出過ぎず、落ち着いた印象のサウンドへと変化したため、テクノボーイズとは抜群の相性を見せた。楽器やボーカルがとてもリアルに感じられるし、音場表現もスムーズなため、ふわっと広がる自然なサウンドフィールドに没頭できる。

「SL-1200MK7」のようなダイレクトドライブ系のプレーヤーよりも、ベルトドライブ系とのマッチングがよさそう。もちろん、シリーズ共通の音の厚みやまとまりのよさも持ち合わせているので、総合的なサウンドキャラクターとしては、繊細な表現を得意とする高級アナログプレーヤーとの組み合わせが似合いそうだ。

このように、価格が上がるたびに音質差はしっかり感じられ、カートリッジは同じシリーズであっても、ちょっとした違いであっても大きな違いが音に表れる、ということがしっかり確認でき、この金額差は十分に納得できた。

また、プレーヤーとの相性もあるなと感じられたのも、今回の取材で得られた情報だと思う。「SL-1200MK7」との組み合わせとしては、「Platinum3」と「Master3」が抜群というか、イチオシといえ、いっぽうで「Sonata3」や「Reference3 」は、ベルトドライブ式の高級プレーヤーで本領を発揮しそう。なかなかに、奥の深い製品ジャンルといえるだろう。

【番外編】オーディオテクニカ VMカートリッジ

もうひとつ、同シリーズの製品違いについてとても分かりやすい製品があるので紹介しよう。それは、オーディオテクニカのVMカートリッジだ。SPレコード用、モノーラル用も含めて、9モデルがラインアップされているVMシリーズだが、その構成がとても分かりやすかったりする。というのも、筐体部分はアルミ・ダイキャスト製の700シリーズ、樹脂製のステレオ500シリーズ、モノラルの樹脂製600シリーズの合計3つと、7種類の針を組み合わせることで9つの製品が構成されているからだ。要するに、各製品は、ハウジングの違いと針の違いのみで構成され、それ以外に異なるところはない。針先や筐体部分の違いでどういった音の変化が表れるのか、ポイントが把握しやすくなっているのだ。

ちなみに、VMというのはオーディオテクニカ独自の方式で、左右2chの音溝に対して独立した2つのマグネットをV字に配置しているのが特徴で、1967年の初号機「AT-35X」以降作り続けられている方式。また、出力はMM型に近い高出力を発揮するので、フォノイコライザーは一般的なMM型と組み合わせることとなる。

こちらも、価格によってずいぶんと音の印象が変わっていくので、興味のある方はぜひ試してみてほしい。たとえば、「VM510CB」もしくは「VM520EB」を購入し、他の交換針をいろいろと試してみると針による音の違いが分かって興味深いし、「VM740ML」を購入してのちに針先をグレードアップしていくのも楽しい。

オーディオテクニカ「VM510CB」

オーディオテクニカ「VM510CB」

オーディオテクニカ「VM740ML」

オーディオテクニカ「VM740ML」

ちなみに、筆者のイチオシは、樹脂製の500シリーズ筐体と無垢マイクロリニア針が組み合わされた「VM540ML」と、アルミ製筐体の700シリーズと無垢シバタ針が組み合わされた「VM750SH」の2つ。ぜひ、いろいろと楽しんでほしい。

【オーディオテクニカ VMカートリッジ ラインアップ】

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

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