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お値段約18万円。ゼンハイザーの新フラッグシップイヤホン「IE 900」の本気度を見た

ゼンハイザーの新フラッグシップイヤホン「IE 900」

ゼンハイザーの新フラッグシップイヤホン「IE 900」

ドイツのハイエンドイヤホン・ヘッドホンの名門ブランド、ゼンハイザー。コンシューマー事業のSonovaへの譲渡でこのところ話題となっているが、コンシューマー向けオーディオ製品は事業譲渡後もこれまでと変わらず“ゼンハイザー”というワンブランドで展開、原点に立ち返ったオーディオファイル向けの製品開発にも注力するそうで、今後も魅力的な製品を送り出していく予定だという。

ゼンハイザーブランドとして今後もコンシューマー製品に全力で取り組んでいく、そんなメッセージをユーザーに力強くアピールするかのように、インイヤーモニターの新製品「IE 900」が発表された。ゼンハイザーの思い描く理想を体現するため、2年以上の期間をかけて開発したというIEMの新たなフラッグシップモデル。発売前の製品をお借りすることができたので、ここでは実機の写真を交えながら、新製品の特徴やインプレッションをお届けしよう。

「IE 300」ライクのアルミ削り出し筐体。ドライバーユニットとチャンバー構造を刷新

ゼンハイザーの新しいIEMフラッグシップモデルとして2021年6月1日に発売となる「IE 900」。2017年11月に発売された「IE 800S」から「IE 900」が発売されるまでの約3年半の間、同社のIEMには「IE 40 PRO」「IE 100 PRO」「IE 300」「IE 400 PRO」「IE 500 PRO」という5モデルが加わっているが、今回の「IE 900」は、PROが付かないコンシューマー向けの製品となっている。

ゼンハイザーのIEMといえば、一貫して自社開発のダイナミック型ドライバーをシングル構成で搭載しているが、「IE 900」もその伝統をしっかりと踏襲している。同社が「TrueResponse(トゥルーレスポンス)トランスデューサー」と呼ぶ7mm径のダイナミック型ドライバーは、振動板にポリマーブレンド素材を採用。軽量化によるスムーズな振幅動作の実現や、振幅動作によって伸び縮みする振動板の厚みムラによる悪影響を抑えるため、「IE 300」で導入されたプレーンなドーム形状や、振動板のコーティングレス構造を採用したという。

また、「IE 900」ではボイスコイルを再設計したのもポイントだ。ドライバーユニットの重量のうち70%近くを占めるボイスコイルを軽量化するとともに、ボイスコイルの巻き数を増やしてネオジウムマグネットのパフォーマンスを高めることで、高域の再現性をさらに高めたという。さらに、「IE 300」で導入された「バック・ボリューム機構」と呼ばれる振動板のはね返りによる不要な音を排除するギミックについても、改良したものが搭載されたそうだ。

「IE 900」の分解図。「TrueResponse(トゥルーレスポンス)トランスデューサー」と呼ぶ7mm径の自社開発ダイナミック型ドライバーを搭載する

「IE 900」の分解図。「TrueResponse(トゥルーレスポンス)トランスデューサー」と呼ぶ7mm径の自社開発ダイナミック型ドライバーを搭載する

ハウジング素材については、「IE 800S」で採用したセラミックではなく、新たにアルミニウムを採用し、アルミニウムの塊から約40分かけてひとつのハウジングを精密に削り出しているという。形状については2021年初めに発売された「IE 300」が最も近く、アルミニウム素材を使用したこともあり、非常に軽く仕上がっている。

アルミニウムの塊から削り出したハウジングを採用。イヤホン単体で約4gと非常に軽量に仕上がっている

アルミニウムの塊から削り出したハウジングを採用。イヤホン単体で約4gと非常に軽量に仕上がっている

左が「IE 900」、右が「IE 40 PRO」。ダイナミック型ドライバーが7mm径と小さいこともあり、イヤホン本体もかなりコンパクトにまとまっていることがわかるはずだ

左が「IE 900」、右が「IE 40 PRO」。ダイナミック型ドライバーが7mm径と小さいこともあり、イヤホン本体もかなりコンパクトにまとまっていることがわかるはずだ

ちなみに「IE 900」では、精巧な削り出しが可能なアルミニウム切削の特徴を生かし、削り出し工程でドライバーユニット前部分に「トリプルレゾネーターチャンバー」と呼ばれる溝と、音導管につながるホール状の「アコースティックヴォルテックス」という独自のアコースティックチャンバー構造が加工されている。「レゾネーターチャンバー」は「IE 300」でも導入されたが、「IE 300」が1つの溝だけだったのに対し、「IE 900」は溝が3つに増えている。

「トリプルレゾネーターチャンバー」で6.5〜10kHzあたりで発生しやすい不要なピークを抑制し、「アコースティックヴォルテックス」で音導管に流れる音を整えており、コーティングレスとプレーンなドーム形状で不要な共振と歪みを最小限に抑えた「TrueResponse(トゥルーレスポンス)トランスデューサー」との組み合わせで、最終的にゼンハイザーの目指す自然で忠実な音の再現を狙ったということだ。

3つの溝が「トリプルレゾネーターチャンバー」、波型になっている中心部のホールが「アコースティックヴォルテックス」だ

3つの溝が「トリプルレゾネーターチャンバー」、波型になっている中心部のホールが「アコースティックヴォルテックス」だ

「アコースティックヴォルテックス」で音導管に流れる最終的な音を整えている

「アコースティックヴォルテックス」で音導管に流れる最終的な音を整えている

「IE 900」と「IE 800」の周波数特性を比較したグラフ。5KHzあたりから上が大きく変わっていることがわかる

「IE 900」と「IE 800」の周波数特性を比較したグラフ。5KHzあたりから上が大きく変わっていることがわかる

リケーブル対応。標準で3本のケーブルが付属するなど、フラッグシップにふさわしいパッケージング

「IE 900」はここ最近のゼンハイザーIEM同様、リケーブルにも対応している。コネクター形状は、「IE 300」にも採用された「gold-plated Fidelity+MMCX」。MMCXという名前が付いているが、接続部に独自の溝を設けて嵌合(かんごう)性を高めているため、一般的なMMCXコネクター採用のリケーブルとの互換性はない。

なお、「IE 900」はフラッグシップモデルということもあり、3.5mmプラグを採用したケーブルだけでなく、2.5mmと4.4mmのバランスケーブルも標準で付属する形になっている。購入した直後から、自分のリスニング環境にあったケーブルをチョイスできるのは大きなメリットと言えそうだ。

コネクター形状は、「IE 300」にも採用された「gold-plated Fidelity+MMCX」

コネクター形状は、「IE 300」にも採用された「gold-plated Fidelity+MMCX」

「IE 900」に標準で付属する3本のケーブルは、「IE 300」にも採用されたパラアミド繊維を使用した高耐久仕様で、プラグ形状はすべてL型となっている

「IE 900」に標準で付属する3本のケーブルは、「IE 300」にも採用されたパラアミド繊維を使用した高耐久仕様で、プラグ形状はすべてL型となっている

イヤーピースは内部にスポンジ状のフィルターを備えている点は「IE 400 PRO」や「IE 500PRO」などと共通だが、形状は「IE 300」から採用された新形状のものになっている。標準でシリコンタイプ3サイズ、フォームタイプ3サイズが付属しており、好みにあったものをユーザーが選択できる点はこれまでのゼンハイザーIEMシリーズと同じだ。

「IE 900」の付属イヤーピース

「IE 900」の付属イヤーピース

軸の部分にスポンジ状のフィルターを備えている

軸の部分にスポンジ状のフィルターを備えている

ほかにも、セミハードタイプのキャリングケースや、クリーニングツール、クリーニングクロスなどが付属。キャリングケースには、製品の製造番号が刻印されたプレートもついてくる。このあたりのパッケージング豪華さは、さすがフラッグシップモデルといったところだ。

ケーブル以外のパッケージに付属する付属品がこちら

ケーブル以外のパッケージに付属する付属品がこちら

キャリングケースには製造番号が刻印されている

キャリングケースには製造番号が刻印されている

より現代的なサウンドにリファインされた「IE 900」

今回、短時間ながら「IE 900」を試聴することができたので、最後に音質インプレッションをお届けしよう。なお、試聴に使用した個体は20時間ほどのエージングを実施したものでDAPにはAstell&Kern「KANN ALPHA」を組み合わせている。

Astell&Kern「KANN ALPHA」を組み合わせて試聴した

Astell&Kern「KANN ALPHA」を組み合わせて試聴した

ダイナミック型ドライバー1基というシンプルな構成と独自のアコースティックチャンバー構造のおかげなのだろう。とにかく音のつながり、自然な音の広がり感は圧倒的だ。元々「IE 800S」もこのあたりは得意だったが、「IE 900」の音は「IE 800S」よりも違和感なくスッと体の中に落ちていくような印象だった。「シンプルさは究極の洗練である」というレオナルド・ダ・ヴィンチの名言があるが、ダイナミックドライバー1基でも、これだけ細部まで作り込むとここまでできるのかと改めて感心させられた。

低域については瞬発力のある感じで「IE 800S」に近いイメージだが、レスポンスがよくなったことで、さらにキレが増していた。中高域については、ひとつひとつ粒立ちよくクリアに鳴らしつつ、なめらかに伸びていくので、レンジがさらに広くなったように感じられた。中高域の鮮明さ、特にハイハットやストリングスの響きがよりリアルになったことで、より現代的なサウンドにシフトしたイメージだ。このあたりの絶妙なチューニングは、さすがゼンハイザーといったところだろう。

ちなみに余談だが、筆者は普段Mサイズのイヤーピースを使っているのだが、「IE 900」ではイヤーピースのサイズがひと回り小さいようで、今回はLサイズのイヤーピースを使用した。「IE 900」はイヤホン本体が非常に軽く仕上がっていることもあり、イヤーピースでしっかりと密閉してやらないと低域が抜けてしまうためだ。低域の土台がしっかりしていないとかえって中高域が悪目立ちするので、イヤーピースのフィッティングはしっかりと実施したほうがいいだろう。

IEMのフラッグシップモデルということで、市場想定価格も179,080円前後とかなりのプレミアが付いているが、クラフトマンシップが息づく唯一無二の存在感を放つ「IE 900」は、ダイナミック型ドライバー1基構成のハイエンドイヤホンの新たな選択肢として、大きな注目を集めることは間違いなさそうだ。

遠山俊介(編集部)

遠山俊介(編集部)

PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。最近はもっぱらカスタムIEMに散財してます。

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