最近、サウンドバーのカテゴリーがアツい。自宅で映画を劇場と同じ5.1chサラウンドで体験する……と表現してしまうと昔ながらのホームシアターの趣味と変わらないが、最近はライトなAVファンでもNetflixやAmazonプライム・ビデオといった映画や海外ドラマを見放題で楽しめる動画配信サービス(VOD)の普及により、5.1chどころか“Dolby Atmos”の立体音響にまで対応した作品も楽しめるように。PS5を始めとするゲーミングの世界もサラウンド全盛だ。
そんな流れの中で11月18日に登場した米Sonosの最新サウンドバーが、Dolby Atmos対応のコンパクトモデル「Sonos Beam (Gen 2)」。価格は59,800円(税込)なので、サウンドバー全体としては中価格帯といったところだろうか。
「Sonos Beam (Gen 2)」。価格は59,800円
「Sonos Beam (Gen 2)」は最新サウンドバーだが、製品レビューの前に、その生い立ちから注釈が必要な製品だと思う。Sonosは日本に2018年に上陸し、海外で人気のWi-Fiスピーカー。「Sonos One」などの製品がSpotifyなど音楽リスニングカルチャーの文脈で語られることが多かった。
そんなSonosが2020年1月に同社が映像機器と組み合わせる初のサウンドバーとして投入したのが初代の「Sonos Beam」で、次に投入したのがサウンドバーの上位モデル「Sonos Arc」。そして今回紹介する「Sonos Beam (Gen 2)」はそのアップデート版という位置付けだ。
アップデートのポイントは、立体音響のDolby Atmosへの対応。ちなみに、僕は過去にもSonosのサウンドバー「Sonos Arc」を中心としたサラウンド環境を構築している(詳細な記事はコチラ)。今回も僕の自宅で最新の「Sonos Beam (Gen 2) 」をテストしてみた。
まずは「Sonos Beam (Gen 2)」のセットアップから始めていこう。スピーカーは一体型のバー一本のコンパクト設計。サイズは幅651(幅)×69(高さ)×100(奥行)mmなので、32V型ほどのテレビでも合うサイズだが……今回はちょっと不釣り合いと思いつつ65V型の液晶テレビと組み合わせている。「Sonos Beam (Gen 2)」のスピーカー構成は、ツイーターと4基ミッドウーハー、3基のパッシブラジエーターで、これらをクラスDデジタルアンプでドライブする形だ。
「Sonos Beam (Gen 2)」は幅651mmとやや小ぶりのサイズ。ちなみに今回使用したマットホワイトのほかにマットブラックもラインアップされている
さて、今どきの一般的なサウンドバーのセットアップというと、薄型テレビのHDMI ARC端子(eARC端子)と接続してほぼ終わりというパターンが多く、「Sonos Beam (Gen 2)」も最新のeARC端子対応なので、テレビ接続はHDMIケーブルでつなぐだけだ。
接続端子はHDMI ARC端子(eARC端子)。HDMIケーブルを使った接続のみサポートする形で、光デジタル端子はない
65V型のテレビの前に設置すると、いかに「Sonos Beam (Gen 2)」がコンパクトかおわかりいただけるだろう
「Sonos Beam (Gen 2)」はSonosファミリーの製品であって、音楽リスニング用のWi-Fiスピーカーも兼用しているため、スマホのSonosアプリからアカウントを登録してセットアップ。テレビにHDMIで接続するだけのサウンドバーと比べると面倒くさいと思ってしまうところだが、各種セットアップが済んだ後に部屋の音響環境に合わせてサウンドチューニングを行う自動音場補正機能「Trueplay」を実行するため、ひと通りのセットアップをしておこう。
スマホのSonosアプリからセットアップ
部屋を歩き回り、部屋の音響特性に合わせて自動で音場を補正してくれる「Trueplay」を実行
アプリからセットアップを済ませると、「Sonos Beam (Gen 2)」の使用準備が整う。「Sonos Beam (Gen 2)」のユニークなポイントとして、サウンドバーでありながら製品にリモコンが付属していない。これは不便では?と思ってしまいそうだが、今やサウンドバーテレビとHDMI ARC(eARC)端子で接続するので、テレビと連動するためテレビ側のリモコン操作が常識。そして、音楽リスニングや細かな設定はアプリ経由と、合理的に割り切った仕様となっている。
テレビとの接続が完了。これで音量操作もテレビ側からできる
「Sonos Beam (Gen 2)」に触れる操作や設定はこれで完了、あとはテレビ側の設定だ。今回組み合わせているテレビはシャープの4Kアクオスなのだが、デジタル音声出力をビットストリームに設定することでDolby Atmosを含むサラウンド音声対応となる。
テレビ側のデジタル音声出力はビットストリームに変更
……なのだが、「Sonos Beam (Gen 2)」を接続後、テレビと組み合わせて普通にテレビ放送を視聴していて気づいてしまった。「Sonos Beam (Gen 2)」は地デジ放送の音声フォーマットであるMPEG-2 AACに対応していないのだ。もちろん、テレビ側のデジタル音声出力をPCMに設定しておけば音は出るが、その場合には今度はNetflixなどでDolby Atmosの音声を出力しなくなる。ソースに応じて設定を変えれば対応できるが、やはり不便と呼ぶほかない。
気を取り直して、Android TV版のNetflixアプリから『イカゲーム』を視聴。Netflixアプリ側からきちんとDolby Atmos対応として認識してくれている。
テレビ内蔵版のNetflixアプリでDolby Atmos対応として認識
実際に『イカゲーム』エピソード1の「だるまさんがころんだ」のシーンを体験してみると、「Sonos Beam (Gen 2)」のサラウンドはかなり優秀だった。セリフは画面と一致する位置から聴こえ、声もナチュラルで深みがあり、再現性はなかなかのもの。ゲームが始まる前の参加者のどよめきは耳の横近い位置にまでザワザワと広がる。ゲーム参加者に降り注ぐ銃声も、高さ方向を使ってバンッと乾いた音のように響く。さすがに背後まで音は回っていないが、高さ位置もある程度出ており、コンパクトなボディでもサラウンドらしさ十分に感じられる。
『イカゲーム』を視聴したが、音の広がりと臨場感がスゴイ
Netflixの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(5.1chのサラウンドで配信)の火のエレメンタルズと対峙するシーンも、65V型の画面サイズを超えた音のスケール感がしっかりと表現されている。カーニバルの街の花火が上がるシーンの音の広がり、そしてバトルが始まってからの低音のパワーも劇場のような臨場感。低音は映画再生としては十分だが、部屋を振動するほどの轟音ではないところも日本の住宅事情ともマッチする。
続いて、テレビ経由で接続したPS5で『Call of Duty: Black Ops Cold War』をプレイしてみると……前方から横にかけてサウンドフィールドを展開。テレビ画面より広いスケール感と、空間の広がりがかなり優秀。『原神』もプレイしてみたが、前方のボイスをややハッキリとさせるような鮮やかさがいい。音空間の広がりを作りつつ、音に響きを付けたり加工じみた聴こえ方がしないところがSonosらしいポイントだ。
続いて、テレビにつないだPS5のゲームでサラウンドをチェック
『Call of Duty: Black Ops Cold War』をプレイ
『原神』もプレイしてみた
さて、「Sonos Beam (Gen 2) 」はSonosファミリーの製品なので、Wi-Fiによる音楽リスニングも強く意識して作り込まれている。Sonosとしてのメインの使い方は、Sonosアプリに対して音楽配信サービスを登録した上で音楽リスニングをする方法。だが、「Sonos Beam (Gen 2) 」はAirPlay 2にも対応しているので、実はアプリを使わなくてもWi-Fiにさえつないでおけば各種音楽配信アプリから直接音楽を飛ばせる。
SonosアプリもAppleMusic、AmazonMusic、Spotify、YouTubeMusicなどに対応
ただ実は音楽配信を登録しなくてもAirPlay 2による連携も可能。iPhoneユーザーならこのほうが圧倒的に簡単だ
実際にiPhoneからAirPlay 2で飛ばして音楽リスニングにも活用してみた。まず、宇多田ヒカル『あなた』を聴いてみたが、Sonosらしいナチュラルで高精細系の音質が好印象。厚みあるクッキリとした歌声は尖らない、派手すぎない絶妙なバランス。引き締まった低音もモニター系スピーカー風で通好みだ。ビリー・アイリッシュ『bad guy』も、どこまでもゴリゴリと深く引き締まった低音に、ベースとバスドラの音は分離していて優秀。YOASOBI『三原色』を聴いても、派手さには振らずに肉厚でナチュラルに情報量を出す。部屋全体を上手く音楽で満たすサウンドも完成度が高い。
「Sonos Beam (Gen 2)」を自宅で使ってみた感想は、さすがはSonosと呼ぶべきか、とにかくサウンドの満足度が高かった。サラウンドとしても特にNetflixの映画にもいいのだが、日本の地デジ放送などで採用しているMPEG2-AAC非対応はかなり残念なところ。
なお、「Sonos Beam (Gen 2)」ならではの面白みとしてはSonosファミリーの製品とWi-Fiで連携して、サラウンドを拡張する使い方もできる。たとえば、「SONO One SL」なら直販価格24,800円なので2台で約5万円の追加で、リアルなサラウンド環境の構築も可能。またサブウーハーの「Sub(Gen 3)」も94,800円と高価だが追加が可能だ。将来的な拡張性も含めて、いろいろと遊べるサウンドバーとして魅力的な製品なのは間違いないだろう。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。