ドン・キホーテが2021年12月6日に発売した「チューナーレススマートTV」が今、世間をざわつかせている。「チューナー非搭載でAndroid TV搭載」という斬新な仕様にすることで、インターネットでの動画視聴に特化した製品だ。手ごろな価格と、NHK(日本放送協会)の放送受信料の支払い義務が発生しないこともあって、発売から継続して人気を集めている。今回、「チューナーレススマートTV」の24V型モデルを手に入れたので、その特徴と実際に使ってみてわかった点をまとめたい。
ドン・キホーテの「チューナーレススマートTV」(24V型)。ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」のテレビ製品としては初めてAndroid TVを搭載するモデルだ
ドン・キホーテの「チューナーレススマートTV」の正式な商品名は、「Android TV機能搭載フルHDチューナーレススマートテレビ」。“Android TV機能搭載”“チューナーレス”が商品名に入っていることからもわかるように、一般的なテレビに搭載されているチューナー(テレビ放送を受信する設備)はあえて省略し、OSにAndroid TV(Androidをベースにしたテレビ用のOS)を採用することで、「Netflix」「Amazon Prime Video」「YouTube」といった動画配信サービスの視聴に特化した、ユニークな製品だ。
フルハイビジョン液晶パネルを採用した、24V型「TSM-2401F2K」と42V型「TSM-4201F2K」の2モデルの展開で、価格は24V型が21,780円、42V型が32,780円(いずれも税込)。特に42V型はお買い得で、チューナーを搭載し、動画配信サービスにも対応する同等画面サイズのフルハイビジョン液晶テレビと比べて1万円ほど安くなっている。全国のドン・キホーテ系列店舗(一部店舗を除く)の店頭のみで販売されている商品だが、初回生産分はすぐに完売し、追加生産・販売するほどの売れ行きを見せている。
そこまでのヒット商品になった要因は、販売価格の安さとあわせて、「このテレビを所有していてもNHKの放送受信料を支払う必要がない」ということが大きい。詳細は割愛するが、放送法第64条1項と日本放送協会放送受信規約の第1条・第5条に基づき、地上波放送や衛星放送を受信できるチューナー搭載機器を所有する場合は、NHKと受信契約を締結して放送受信料を支払う義務が発生する。簡単に言えば、普通のテレビを所有していたら、NHKを見る・見ないにかかわらず、NHKと受信契約をしたうえで受信料を支払わなければならないのだが、“チューナーがないテレビ”であれば、受信契約の根拠がなくなり、支払い義務も発生しないというわけだ。
放送受信料額は2020年2月現在、地上契約の場合は月額1,275円、衛星契約の場合は月額2,220円(※いずれも口座・クレジット払いや前払いの場合は多少支払い額が減る。また、沖縄県の料額は異なる)。NHKは公共放送(営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送)であり、単純に比較するものではないのは承知のうえだが、「Netflix」の月額990〜1,980円(画質と同時視聴可能機器数によって異なる)、「Amazonプライム」の月額500円/年間4900円という料金と比較しても、決して安い額ではない。
動画配信サービスやゲームを楽しむためのテレビは欲しいけど、テレビ番組のリアルタイム視聴は必要ない(NHKの放送受信料を支払いたくない)という人にとっては、まさに待望のテレビ。動画配信サービスの普及によるテレビの使われ方の変化と潜在的なニーズをうまくくみ取った製品と言えよう。
「チューナーレススマートTV」(24V型)のパッケージ。Android TVなどのロゴが記載されているほか、ドン・キホーテのプライベートブランド「情熱価格」のシールも貼られている。背面には、製品の企画・開発がドン・キホーテ、輸入元がティーズネットワークと表記されており、海外製のOEMであることがうかがえる。ユーザーサポートもティーズネットワークが担当している
取扱説明書の表紙には、「テレビのようでテレビじゃない!!」「ついに作ってしまった!」というキャッチコピーとともに、「あえてテレビチューナーを外したネット動画専用TV」と書かれている
では、「チューナーレススマートTV」の細かいスペックを紹介しよう。24V型と42V型でコントラストや輝度など画面に関するスペックは異なるものの、CPUやメモリーなどの性能は同じで、搭載するインターフェイスの種類・レイアウトや、ボタンレイアウト、付属リモコンなども共通となっている。
「Android TV機能搭載フルHDチューナーレススマートテレビ」の主な仕様
・解像度:1920×1080
・パネルサイズ:23.8インチ(24V型)、41.5インチ(42V型)
・LEDバックライト:DLED
・アスペクト比:16:9
・コントラスト:1200:1(24V型)、3000:1(42V型)
・輝度:180カンデラ(24V型)、200カンデラ(42V型)
・応答速度:8ms
・表示色:16.7M色
・OS:Android 9 Pie
・CPU:MSD6683(クアッドコアCPU)
・メモリー:1GB
・ストレージ:8GB(eMMC Flash)
・HDMI端子:3(1.4、HDMI 1はARC&CEC対応、HDMI 2/3はCEC対応)
・コンポーネント端子(MINI YPbPr):1
・AV端子(RCA端子):1
・USB端子:2
・光デジタル端子:1
・ヘッドホン出力:1
・LAN端子:1(100BASE-TX/10BASE-T)
・無線LAN:2.4GHz
・Bluetooth:対応(バージョン5.0)
・リモコン:音声対応
・スマートスピーカー:対応
・Googleアシスタント:対応
・Chromecast built-in:対応
・ソフトウェア更新方法:Google OTA/USB
・スタンド取り付け時のサイズ(W×H×D):約550.7×373.5×172.1mm(24V型)、約952×588.3×197mm(42V型)
・重量:約2.6 kg(24V型)、約5.82kg(42V型)
・消費電力/待機電力:28W/待機電力0.5W(24V型)、74W/待機電力0.5W(42V型)
・年間消費電力:42kwh/年(24V型)、108kwh/年(40V型)
「チューナーレススマートTV」が採用するAndroid TVのバージョンは「Android 9 Pie」。「Netflix」「Amazon Prime Video」「YouTube」といった動画配信サービスのアプリは初期設定で入っていて、「TVer」や「ABEMA」などそのほかのサービスのアプリについても、一般的なスマートフォン・タブレットと同様、「Google Play」ストアからダウンロードして使用できる。機能面では、「Googleアシスタント」での音声操作・検索に対応するほか、「Chromecast built-in」仕様なのでスマートフォンの画面をテレビに映すことも可能だ。
ハードウェアは、CPUに台湾Media Tek製のクアッドコアCPU「MSD6683」を採用。メモリー容量は1GB、ストレージ容量は8GB(eMMC Flash)。Android端末として見ると、決してハイスペックではないが、価格を考慮すると妥当なところではないだろうか。Wi-Fiが2.4GHz帯のみ対応なのは注意点で、ほかの2.4GHz機器との干渉は覚悟する必要がある。
インターフェイスは充実しており、特にHDMIを3系統搭載するのが魅力。24V型で3系統も持っているものは珍しく、ゲーム機やレコーダー・プレーヤー、パソコンなど複数の外部機器を接続したい場合に重宝する。また、RCA端子も備わっているので、古いゲーム機などを接続して楽しむこともできる。
24V型の奥行はテレビ本体が約81mmで、スタンドを取り付けると約172.1mmとなる
本体下部に、左右のスピーカーを挟んで、LAN端子、光デジタル端子、HDMI端子×3、AV端子(RCA端子)、ヘッドホン端子といったインターフェイス類を搭載。電源ボタンや音量調整ボタンなども背面に配置されている。なお、スタンドは固定式でチルトなどには対応していない
コンポーネント端子(MINI YPbPr)とUSB端子×2は背面の右側面(正面から見て左側面)にレイアウト。補助的な機能になるが、USBメモリー内のデータを再生するメディアプレーヤー機能も備わっている(※デバイス検出時のみ選択可能で再生解像度が低い)。また、壁掛け用のねじ穴が用意されていて、24V型は100×100mm、42V型は200×200mmのVESA規格対応となっている
リモコンは、使わないボタンがいくつかあるのが気になったが、「Netflix」「YouTube」「Google Play」「Amazon Prime Video」アプリをダイレクトに起動する専用ボタンを搭載しているのがポイント。音声入力ボタンも備わっている。HDMIで接続したCEC対応レコーダーに対して、チャンネルの変更や、数字ボタンでのチャンネル選択もこのリモコンから行える
続いて、24V型モデルを使ってみてわかった、「チューナーレススマートTV」のよかった点と気になった点をレポートしよう。
Android TV搭載ということで、初期設定の手順やホーム画面のデザインは、Android TV(Android 9 Pie)に沿った内容になっている。初期設定は言語設定に始まり、リモコンのペアリング、Wi-Fi接続、Googleアカウントの設定、テレビの設定を順に行う。Androidスマートフォンを使えばクイックセットアップが可能で、Wi-Fi接続などは自動的に完了する。
初期設定の画面。左がリモコンのペアリング、右がGoogleアカウントの設定
ホーム画面は、画面上部にタブ形式のナビゲーションがあるデザインで、よく使うアプリや、動画配信サービスのおすすめコンテンツにアクセスしやすい構成になっている。特に難しいユーザーインターフェイスではないので、使い始めから操作にとまどうことはないはずだ。
ホーム画面は、よく使うアプリや、おすすめコンテンツにアクセスしやすい構成。お気に入りのアプリの左右の並び順、ならびにおすすめコンテンツの上下の並び順はホーム画面上で入れ替えることが可能。おすすめコンテンツの内容もある程度カスタマイズできる
操作のレスポンスは思ったよりもよく、ホーム画面や設定画面での項目の移動、ホーム画面⇔外部入力の切り替えに関しては、素早く操作しようとすると多少引っかかる時があるくらいで、低価格なテレビとしては比較的スムーズだ。動画配信サービスのアプリの起動については、やや時間がかかる場合があるものの、許容できる範囲。音声検索も実用的な範囲の時間内で結果を表示してくれる。使っていて気になったのは電源オンの時間で、5〜6秒程度以上の時間がかかる場合があって少々ストレスを感じた。
外部入力の選択画面。ホーム画面⇔外部入力の切り替えは比較的スムーズで、各入力の切り替えもストレスなく行える
画質・音質の設定はホーム画面と外部入力で別系統になっており、ホーム画面から呼び出す動画配信サービスの画質・音質と、HDMIなどに接続した外部機器(ゲーム機やレコーダー・プレーヤー)の画質・音質を別々に調整・登録することが可能だ。
画質の設定では、プリセットの画像モードとして「標準」「ビビッド」「スポーツ」「映画」「ゲーム」「省エネ」の計6種類が用意されている。調整すると自動的にユーザーモードに登録・設定される項目(バックライト、明るさ、コントラスト、彩度など)と、各画像モード内で調整できる項目(色温度、ノイズリダクションなど)に分けられているのが少々使いにくいところだが、項目数が多く、かなり細かいところまで調整できるようになっている。
とはいえ、細かく追い込んでもそれほど画質が向上するわけではないので、調整するにしても「見やすい明るさ・色にする」程度でいいだろう。色については、「標準」(初期設定)や「ビビッド」「スポーツ」の画像モードでは、色温度が青みの強い「寒色」に設定されているので、使用している照明の色と合わないようなら、色温度を「標準」もしくは「暖色」に変更したいところ。また、特にHDMI端子で接続したレコーダー・プレーヤーを使用する際に、コンテンツや視聴距離によってはノイズリダクションが少し強いと感じるかもしれないので、その場合はDNR(ダイナミックNR)を「弱」に設定してもいいだろう。
画像モードは、「ユーザー」「標準」「ビビッド」「スポーツ」「映画」「ゲーム」「省エネ」を選択可能。「ユーザー」はいわゆるユーザーモードで、細かい画質調整を行うと自動的に登録・設定されるモードとなっている
画像モードによっては色温度の初期設定が「寒色」になっているので、青みが気になるようなら「標準」もしくは「暖色」に切り替えたい。色温度は各画像モード内で調整可能だ
「高性能動画」のメニュー内にノイズリダクション(DNR、MPEG NR)の設定が用意されている。このメニューではゲームモードやPCモードも選択できる
バックライト、明るさ、コントラスト、彩度、色調、シャープネス、ガンマといった細かい項目も用意されている。これらの項目を調整すると自動的にユーザーモード(画像モードの「ユーザー」)に登録・設定される仕様になっている
画質以上に気になったのが音質で、全体的に音がこもった感じがするのと、同じコンテンツを再生していてもシーンによって体感の音量が変わることがあるのが、ややストレスに感じた。サウンドスタイル(音質モード)やイコライザーを調整してもあまり変わりなく、そういうものと割り切って使ったほうがいいだろう。光デジタル端子とBluetoothに対応しているので、どうしても気になるようなら外部スピーカーを接続するのも手だ。
画質と同様、音質も細かい調整が可能。サウンドスタイルはプリセット6種類+ユーザーモードが用意されていて、イコライザー機能も利用できる。ただ、細かいところを調整しても音がこもる感じはあまり改善されない
“チューナーがないテレビ”は、テレビ放送を受信するのが前提であった、これまでの常識からすると考えられない仕様だ。だが最近は、動画配信サービスが充実し、動画コンテンツの楽しみ方の幅が広がったことで、テレビに求められる機能も変わりつつあり、「テレビ放送のリアルタイム視聴はしないのでチューナーは必要ないし、NHKの放送受信料も支払いたくない」と考える人が増えてきているようだ。今回紹介した、ドン・キホーテの「チューナーレススマートTV」が人気を集めているのは、そう考える人が予想以上に多く、チューナーレステレビに対する潜在的なニーズが高いことを裏付けていると言ってもいいだろう。
ただ、この製品は決して理想的なチューナーレステレビというわけではない。画面解像度は42V型モデルでもフルハイビジョンに抑えられていて、CPUやメモリーの性能もそれほど高くない。価格を考慮すると必要十分ではあるが、このCPU(Media TekのMSD6683)とメモリー(容量1GB)で、今後のOSのアップデートに対応できるのかは不透明だ。さすがに1〜2年で使えなくなることはないだろうが、10年後も各種アプリが問題なく使えるというものではないだろう。Android端末としてはそこそこの性能であることを理解して、割り切って選択する製品である。
また、チューナー付きのテレビを手放す(自宅からチューナー付きのテレビをなくす)ことを前提にこの製品を手に入れる場合は、テレビで「緊急警報放送」と「緊急地震速報」を受信できなくなるので注意したい。「スマートフォンやラジオがあればいい」と判断するかもしれないが、災害発生時の情報収集ツールをひとつ手放すことになるので、何で補完するかはあらかじめ考えておいたほうがいいだろう。
この「チューナーレススマートTV」の人気の高さを受けて、今後は、ドン・キホーテだけでなく、他メーカー・他ブランドからも似たようなチューナーレステレビが登場することになるだろう。すでにその動きは始まっていて、STAYERホールディングスは、Android TV搭載の「4K対応43V型チューナーレススマートテレビ」を2022年5月に発売すると発表している。本格的な広がりを見せるかどうかは、大手メーカーが製品をラインアップするかどうかにかかっている。今後の動向にも目が離せない。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。