ホームオーディオのド定番ブランドのひとつであるBose。2月24日にサウンドバーのハイエンド製品「Smart Soundbar 900」を発表した。同社サウンドバーで初めてDolby Atmosに対応した注目製品だ。さっそく実機をお借りすることができたので、自宅に設置して詳しくレビューしてみた。
Bose「Smart Soundbar 900」を自宅に設置してレビュー
最初に「Smart Soundbar 900」の全体像を紹介していこう。いわゆる一本バータイプのサウンドバーで、立体音響のひとつであるDolby Atmosに対応したモデルとなっている。今どきDolby Atmos対応のサウンドバーは数万円クラスから存在しているが、「Smart Soundbar 900」の特徴は、同社がホームシアター機器の開発で培ってきた独自のアコースティックなオーディオ技術を多数搭載していることだ。
独自技術はスピーカーまわりに搭載されているため、ほとんど外から見えないのだが、スピーカー構成は、楕円形メインスピーカーを4基、センターツイーター1基を中央寄りに搭載。さらに、立体音響の高さを再現するためのアップファイアリング(天井反射)ダイポールスピーカーも搭載されている。Dolby Atmosで高さを表現するスピーカーというとイネーブルドスピーカーがスタンダードだが、「Smart Soundbar 900」は真上に音を放出する独自方式で若干考え方が異なる。
上向きに音を放出するアップファイアリング(天井反射)ダイポールスピーカー
もうひとつ、Boseの独自技術がビーム状に音を放出して音の定位を自在にコントロールするアナログ技術「PhaseGuideテクノロジー」だ。このスピーカーはスピーカー正面から見て左右ワイドな位置を占めている。立体音響時代のデジタル技術だけに頼らず、これまで開発してきたアコースティックな音響技術を併用しているところが「Smart Soundbar 900」の特徴なのだ。
本体サイズは104.5(幅)×5.82(高さ)×10.7(奥行)cm。テレビの画面サイズとしては50V型クラス以上を想定しているようだ
サウンドバーとしては一般的な仕様に準じていて、テレビとの接続はHDMI eARC対応のためケーブル一本で接続可能。光デジタル入力にも対応している。テレビと接続する際にもWi-Fi接続で「Bose Music」アプリを利用する前提の作りになっており、有線LAN接続にも対応している。AirPlay、Spotify Connect、スマートスピーカー連携、スマホとBluetooth接続も可能だ。
HDMI eARCにも対応。ロスレスのDolby Atmosにもしっかりと対応している
さらに、付属の専用マイクで部屋の反響特性を測定して音響を最適化する独自の自動音場補正「ADAPTiQ」も搭載されている。ちなみに、リビングなどに設置すると、たとえば家族ユーザーなら理想的なリスニング位置のみで常に音を聴くとは限らないわけで、「ADAPTiQ」では必ず部屋の中の5つのポイントで測定することが求められる。僕自身Boseのホームシアター製品とはかれこれ10年以上の付き合いがあるのだが、「Smart Soundbar 900」は古くから存在するBoseの音響技術の数々を搭載したオールスター的な存在でニヤリとしてしまう。
セットアップは「Bose Music」アプリから実行
付属の想定用マイクを頭に装着し、自動音場補正「ADAPTiQ」を実行する流れ
ひと通りのセットアップが完了したら、スマホと「Bose Music」アプリの出番は、各種設定変更や「Bose Music」経由の音楽再生をする時のみ。ただし、音楽リスニングだけなら、アップルユーザーならAirPlay 2、またSpotify Connectを使って操作するほうが手っ取り早い。
付属リモコン。HDMI eARC接続なら音量操作はテレビリモコン、音楽操作はアプリを使うので出番は少なめ
ここらは、「Smart Soundbar 900」の実際のサウンドを体験してみる。
ひと通りのセットアップを済ませた「Smart Soundbar 900」
まずはテレビの地デジ放送の音声から流してみると、「Smart Soundbar 900」の音質は想像以上に高音質で驚いた。音の特徴として、音がサウンドバーの中央部分から若干画面上のはみ出すあたりにパワーが集中しているようで、ニュース番組やバラエティ番組の人の声に深みと奥行きが生まれるので、予想以上に地デジ放送の視聴用にマッチしているのだ。音声フォーマットは、テレビ側はビットストリームに設定しているが、アプリから確認するとLPCMとして認識しているようだ。
予想外に高音質な地デジ番組の音質
テレビ内蔵のYouTubeアプリで音楽を流してみても、現代的な精細感のあるサウンドで、女性ボーカルの歌声もしっかりと浮かびあがる。低音の量感もあるので躍動感もあり、音楽リスニングもしっかりと楽しめる。空間の作り方もユニークで、画面中央付近にパワーバランスを集中しつつ、画面幅くらいまで使って楽器が聴こえるようなイメージ。ステージに広がるような聴こえ方はとても面白い。
続いて、「Smart Soundbar 900」の最大のウリである、立体音響のDolby Atmos対応コンテンツを試聴してみる。まずは、テレビ内蔵のNetflixアプリで『イカゲーム』の「だるまさんがころんだ」のシーンを視聴。
NetflixアプリからもしっかりとDolby Atmosとして認識される
サラウンド効果としては……前方に広い壁のような空間を展開していて、その上で空間上の位置から降り注ぐ銃声のような音が鳴る。これぞBose得意の「PhaseGuideテクノロジー」の効果だ。ただ、耳の後ろや背後までは音の回り込みは感じ取れず、前方の空間で高さも横も広いところが特徴といったところか。
続いて、『スパイダーマンファーフロムホーム』の火のエレメンタルズと対峙するシーンを視聴してみる。こちらも、臨場感と重厚感あるサウンドで空間が満たされ、“これぞエンターテイメントのサラウンド音響だ!”と言わんばかりの没入感が出る。背後まで音が回るタイプではないものの、前方の音の位置感はかなり優秀だ。
前方上方からの音の位置もしっかりと再現
爆音の響くようなアクション映画は音のスケール感がとてもいい
最後に、ゲームコンテンツとの相性をチェックするため、テレビ経由で接続したPS5で『エルデンリング』をプレイしてみたが、やっぱり重厚感ある高音質のサウンドはとてもプレイ体験を豊かにしてくれる。正面高い位置までBGMが空間をともなって広がるため、ゲーム世界への没入感がかなり高まる。アクションRPGのゲームだけあって、音の回り込みはゲーム体験に直結していて、多数の敵に囲まれて逃げ回ってカメラから敵が外れる……なんて時には「Smart Soundbar 900」サラウンドによる音方向の再現がゲーム的にも有利だ。ゲーム後半になると、建物の通路の影に敵が潜んでいて不意打ちを食らうことが多く、そんな時の驚く感じが相当アップした(サラウンドになったところで、先に存在を察知して回避できるわけではなさそう)。ちなみに、サラウンドの効果として最も感じられたのは、屋内の暖炉の火の音がパチパチと聴こえるようなシーンだ。
『エルデンリング』では多数の敵に追い回される……なんて時の敵の方向感把握にも役立つ
終盤の“崩れゆくファルム・アズラ”のフィールドで渦巻いている竜巻の轟音も迫力満点
「Smart Soundbar 900」を体験してみると、さすがBoseと呼ぶべきか、ただ高音質を狙っただけでなく、今日のエンターテイメントに求められているサウンドを熟知したような表現力だ。まず、地デジ放送でも音楽でも映画でも人の声の情報量や厚みが飛び抜けていて、躍動感の再現がうまい。アップファイアリング(天井反射)ダイポールスピーカーや「PhaseGuideテクノロジー」、「ADAPTiQ」といった独自技術によって高さのある仮想的な音の出どころの配置もかなりしっかりと作り込まれている。ただ、音が背後まで回るわけではないため、本当に理想的なサラウンド空間を求めるなら、オプションの「SURROUND SPEAKERS」(45,100円)をリアスピーカーとして加えるという考え方なのだろう。ちなみに、オプションには、サブウーハーの「Bass Module 500」(58,300円)、「Bass Module 700」(94,600円)もラインアップされている。
記事を執筆している3月下旬で、「Smart Soundbar 900」は11万円前後とプレミアムな価格。決して安くはないが期待は裏切らない、そんなBoseらしい立ち位置のよく現れたサウンドバーと言えそうだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。