超大画面の映像体験を届けるプロジェクターに“ゲーミング”というキーワードを持ち込んだ先進的ブランドがBenQ。2022年3月に発売された最新のゲーミングプロジェクター「X3000i」は、4K UHD対応に加え、“オープンワールドゲームにふさわしい極上の没入感”を届けるというところが大きなコンセプトとなっている。2022年5月2日時点の価格.com最安価格は258,300円だ。
BenQの4K UHDゲーミングプロジェクター「X3000i」をレビュー
先代のゲーミングプロジェクター「TH685i」で掲げていた高速応答・低入力遅延8.3ms(120Hz動作時)という性能も、「X3000i」では1080p/240Hz動作時で4.16ms、 1080p/120Hz動作時8.33ms、1080pおよび4K/60Hz動作時で16.7msと、入力信号に対する低遅延はむしろスペックアップして継承している。今回は、そんな「X3000i」をPS5と組み合わせてレビューしてみた。
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BenQ「TH685i」は低遅延で輝度性能も優秀なゲーミングプロジェクター
まずは「X3000i」のプロジェクターとしての基本スペックをおさらいしておこう。
「X3000i」は、DLPパネルによる“4K UHD”(3840×2160)に対応したモデルとなっている。あえて“”で括って表記したのは、“4K UHD”とはフルHDのDLPデバイスで画素ずらし技術を使ったものだと知っているからだ。実際に4Kに近い解像度があるものの、ネイティブの4K解像度パネルを使ったものとは異なるので注意したい。ちなみに、同様の表記をしている他社製品も基本的には同じ画素ずらし技術を使っている。
画質スペックは、コントラスト50000:1(Dynamic Black機能有効時)で、輝度スペックは3000ルーメン。「TH685i」の3500ルーメンから少し落ちたが、一般的なホームシアタープロジェクターは2000〜2500ルーメン程度が多いことを考えると、業界内ではかなり高輝度の部類に入る。もちろん、きちんと明るさが信用できるANSIルーメンの数値だ。そしてDCI-P3カバー率100%という色再現性のこだわりも優秀だ。
「X3000i」の実機を前にしてみる、細部までかなり作り込まれている機種だということがわかる。
本体サイズは272(幅)×197.1(高さ)×259.4(奥行)mm。キュービックデザインはゲーミングを意識した意匠らしい
背面には2系統のHDMI端子(1系統はARC対応)を搭載するほか、最近のBenQのホームプロジェクターでは定番となっているスティック型のメディアストリーミング端末も付属。見た目上はAndroid TV内蔵の一体型モデルとして使えるWi-Fi内蔵のプロジェクターでもあるのだ。
背面端子はHDMI端子2系統、アナログ音声出力、光デジタル出力など充実している
付属のAndroid TV搭載のスティック型メディアストリーミング端末を本体に内蔵可能
投写レンズは1.3倍のズームに対応。僕の部屋で約1.3mの距離から投写した際の投写サイズは最大約51インチで、実はこの距離は説明書に記載されている推奨範囲外になる(推奨最小サイズは60インチで、最短距離は1.508m)。100インチを投写するには最短で2.526m、最長で3.301メートルが必要で、広い部屋で設置するのが本来のスタイルだろう。ちなみに、「X3000i」は上下逆さまでも設置可能で、背の高い本棚などがある場合に疑似天吊りも可能となっている。
ズームとフォーカスは手動設置
今回のテストは白色の壁への壁投写で検証している。「X3000i」は色にもこだわった機種ではあるが、画質重視であればスクリーン投写推奨だ。
暗室での投写イメージ
照明下での投写イメージ
日中の投写イメージ
付属のAndroid TV搭載スティック型メディアストリーミングデバイスの機能面は以前レビューした「TH685i」(https://kakakumag.com/av-kaden/?id=16899)と基本的に同じ。音声操作対応にも対応できる。Amazonプライム・ビデオ、TVer、Hulu、DAZNなどのメジャーな映像配信アプリにも対応している。ただ、残念なことにNetflixのアプリはインストールすることができない。
Android TV搭載でアプリ導入も可能。実質Wi-Fi内蔵プロジェクターとして利用できる
付属リモコンはAndroid TV搭載スティック型メディアストリーミングデバイスと共用。Googleアシスタントにも対応する
もっとも「X3000i」はゲーミングプロジェクターだし、たとえばPS5ユーザーならPS5側のアプリでNetflixの視聴も可能。そう考えると、Amazonプライム・ビデオやYouTubeもPS5側で視聴すればいいわけで、Android TV搭載デバイスとしての活用方法はゲーム機側との兼ね合いで考えてみてほしい。
PS5接続ならPS5側で動画配信も利用可能。もちろんPCでも問題ない
今回は「X3000i」のゲーミング性能を中心にテストするため、PS5を接続して実際のゲームをプレイしてみた。ちなみに、PS5接続時には、映像モードは「HDR Game」へと切り替わる。
照明を消して『エルデンリング』『原神』とゲームをプレイしてみたが……まずゲーム画面から相当に高画質。4K信号入力できるので解像感もあるし、暗所・明所の再現性や精細感もしっかりと出ている。近年、BenQは色の正確さを重視し、「X3000i」も色再現はDCI-P3 カバー率100%となっている。実際に暗室で「X3000i」の映像を見ても、色鮮やかかつ色バランスは正確で、意図してバランスを変えたいのでなければ映像モードの調整は不要だ。
PS5で『エルデンリング』をプレイ。4K/60pの高解像でコントラストも優秀
さらりと書いてしまったが、「X3000i」の画質のよさは、”ゲーミング”の売り文句らしからぬ、ホームシアター用でも通用する正統派の高画質であるということ。“4K UHD”による映像の密度感、色バランスの正確さは、Wi-Fi内蔵のカジュアルプロジェクターとは一線を画す。特にコントラストの高さからゲーム内の夜景の美しさは、ちょっとした4K液晶テレビでプレイするよりキレイ。プロジェクターであるメリットは投写サイズの大きさにある訳で、“オープンワールドゲームにふさわしい極上の没入感”という売り文句も、実機で体験すると納得してしまう。
『原神』のプレイ画面。ビビッドな色もバランスよく表示できる
照明をつけた状態でプレイするとこんな感じ
「X3000i」では、ゲーム機接続時にはさらにゲームモードの設定が可能で、FPS/RPG/SPGの3つのモードから選択できる。FPSでは“詳細を調整”(不自然な日本語だが、暗部を明るくしてディテールを見せるという意味)が有効になることと、サウンドも音のクリアさ重視にシフト。“高速モード”を使うと、表示映像の応答時間が短くなる(この時、台形補正が無効になるためゲーミング目当てでは斜め投写は非推奨)。
『フォートナイトでは“高速モード”のブレの少なさを確認
ちなみに、動画遅延については『エルデンリング』『原神』ではまったくわからない水準。『フォートナイト』で1080p/120hz入力で対応して動きのぼやけ具合を確認すると画面ブレの少なさを確認できた。
そして「X3000i」は背の高い本体デザインのおかげで、プロジェクターとは思えないくらい内蔵スピーカーの音質が優秀なのも見逃せない。5Wのスピーカーを2台のステレオ構成に搭載し、Bongiovi DPS技術を組み合わせたもので、容積もしっかりとれて深みのある重低音も出るし、きちんと空間を作るナチュラルなサウンドを楽しめる。ゲーミング目的で初めてプロジェクターを導入したような人なら十分楽しめるはずだ。
なお、モードはスピーカーのサウンドモードに連動しているが、個別調整も可能。モードにはシネマ/音楽/ゲーム/スポーツ/カスタムとあるが、RPGならシネマの設定がデフォルトで、音の広がりと低音のパワーのバランス重視。ゲームはFPS、スポーツはSPGに対応する。
ゲームに応じてサウンドモードも切り替えが可能だ
ただ、「X3000i」は20万円台後半のプライスタグがつくホームシアター製品。音のよさがどの程度かというと……たとえるならアンダー1万円のBluetoothスピーカーくらい。プロジェクターとしては高音質の部類だが、画質のよさには若干釣り合わない。画面のサイズに合わせた大迫力や臨場感を望むなら、背面のARC端子を活用して3、4万円以上の外付けのサウンドバーを取りつけると幸せになれそうだ。
今回、BenQ「X3000i」をゲーミングメインで使ってみたが……予想外に画質を作り込んだプロジェクターだった。照明をつけたままでもゲームプレイができる3000ルーメンという輝度スペックや、1080pおよび4K/60Hz動作時で16.7msという高速応答、そしてゲーム向けのモードの対応など、ゲーミング的な機能が充実しているのはもちろんだが、それを差し置いて、映画用、ホームシアター用に導入しても全然アリだと思えるくらいしっかり高画質を楽しめるモデルだと思う。
個人的に気になるところがあるとすれば、投写距離が若干長めの設計となっているということ。ホームシアター向けのプロジェクターでは天吊り設置も想定するため普通なのだが、カジュアルなWi-Fi内蔵プロジェクターは投写距離が短い短焦点が主流なので、「X3000i」はやや方向性が異なる。もっとも、プロジェクターに求められる設置性は視聴環境、もといゲームのプレイ環境次第なので、うまく設置性をクリアして導入できればクオリティの高さに大満足できるはずだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。