レビュー

穴あきじゃないソニー「LinkBuds S」の実力は? 「LinkBuds」や「WF-1000XM4」と比較レビュー

ソニーが6月3日に発売した完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds S(WF-LS900N)」。同じ「LinkBuds」シリーズとして2月に発売された「LinkBuds(WF-L900)」は完全ワイヤレスイヤホンなのに穴のあいた“リング型デザイン”を採用し、装着したまま周囲の音が聴こえるというこれまでになかった斬新なコンセプトでヒットしたが、今回取り上げる最新の「LinkBuds S」は、なんと穴のあいた構造ではなくなり、一般的な完全ワイヤレスイヤホンと似たようなモデルとなっている。

6月3日発売のソニー「LinkBuds S」(WF-LS900N)

6月3日発売のソニー「LinkBuds S」(WF-LS900N)

僕自身、初代「LinkBuds」の穴あきという発想とコンセプトを高く評価していたので、穴あきでない「LinkBuds S」の登場には面食らってしまった。だが、名称はあくまで名称だし、むしろ何を根拠に“LinkBuds”と名付けたのかも気になってくる。今回はそんな「LinkBuds S」を、兄弟モデルの「LinkBuds」、同社の完全ワイヤレスイヤホンの定番・最上位モデル「WF-1000XM4」と比較しつつレビューしていこう。

「LinkBuds S」を「LinkBuds」、「WF-1000XM4」と比較しつつレビュー

「LinkBuds S」を「LinkBuds」、「WF-1000XM4」と比較しつつレビュー

“常時装着スタイル”にぴったりな小型・軽量イヤホン

名称の問題はひとまず置いておくとして、「LinkBuds S」はソニー直販ストアの発表時の価格が26,400円。ソニーの完全ワイヤレスイヤホンのラインアップで「WF-1000XM4」に次ぐ2番目に高価なモデルという立ち位置を押さえておきたい。

内部的には「WF-1000XM4」と同じ総合プロセッサー「V1」によるノイズキャンセリング機能と新開発の小型5mmドライバー、そしてLDACコーデック対応のハイレゾワイヤレス伝送、DSEE Extremeという全部入り。見た目だけでなく、スペックもノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレスイヤホンとほぼ変わらないのだ。

小型・軽量が特徴の「LinkBuds S」

小型・軽量が特徴の「LinkBuds S」

そこでポイントとなるのは“常時装着スタイル”というコンセプトのための小型・軽量ボディだ。「LinkBuds S」を装着した写真がこちら。

「LinkBuds S」の装着時の写真

「LinkBuds S」の装着時の写真

完全ワイヤレスイヤホンとしてトップクラスの小ささだ。本体重量4.8gも軽いだけでなく、装着時の見た目のコンパクトさ、耳からの飛び出しの少なさも特筆モノ。これでノイズキャンセリング機能搭載、LDACコーデック対応の高機能まで揃うところはほめるべきだろう。

「LinkBuds S」は耳からの飛び出しが少ない

「LinkBuds S」は耳からの飛び出しが少ない

「WF-1000XM4」は耳からやや飛び出す

「WF-1000XM4」は耳からやや飛び出す

イヤーピース以外にフィットを支えるフィンなどもなく、一見すると丸みを帯びたシンプルな形状だが、耳への収まり具合はなかなか優秀。適度に小さいことで、耳栓のような感じでも使える。僕の耳では上側にすき間ができているが、耳側に重心がかかる設計となっていて落ちる気配もない。「Headphones Connect」に最近流行りのイヤーピースの測定機能もあるので、自分にあったイヤーピースのサイズ選びも安心だ。

「Headphones Connect」アプリからイヤーピースの装着状態も確認できる

「Headphones Connect」アプリからイヤーピースの装着状態も確認できる

まったく外見の違う初代「LinkBuds」はともかく、「WF-1000XM4」は耳元で存在感のあるタイプだったことを考えると、「LinkBuds S」のこの小型・軽量さは製品の魅力ととらえていいだろう。

ちなみに、小型・軽量は充電ケースも含めて徹底していて、とてもコンパクト。バッテリーはノイズキャンセリング機能ONで本体のみ連続再生6時間、連続通話3.5時間。充電ケース併用で最大20時間の音楽再生に対応している。

「LinkBuds S」と「WF-1000XM4」のケースも比較

「LinkBuds S」と「WF-1000XM4」のケースも比較

LDACコーデック対応で情報量重視の高音質サウンド

「LinkBuds S」のどこが“Linkbuds”という問題を深掘りする前に、実機による音質チェックをしていこう。

試聴端末はLDACコーデックに対応した「Xperia1 II」だ。「Headphones Connect」アプリからBluetoothの接続品質を「音質優先」に、スマホ側のLDACの設定を「音質優先」にしてLDACコーデックの最高条件で試聴してみた。ちなみに、この設定は電車内などで使うとひんぱんに音切れするので「自動」を推奨。あくまで室内での高音質音楽リスニング用の設定だ。

ハイレゾ級ワイヤレスを楽しめるLDACコーデックの最高音質のセッティングで試聴

ハイレゾ級ワイヤレスを楽しめるLDACコーデックの最高音質のセッティングで試聴

宇多田ヒカル『あなた』を聴いてみると、音の情報量を豊富に持つナチュラルサウンドが耳に飛び込んできた。歌声を立てずに存在感が出ていて、それでいて声の質感もリアル。ピアノの余韻や楽器やコーラスといった繊細な音表現も得意だ。続いてYOASOBI『三原色』を聴いてみたが、歌声も楽器の音もナチュラルでやさしく広がり、リズムの機材も適度に深く上質。サウンドフィールドが大きく臨場感もある。BTS『Dynamite』は、重低音は十分深くハリのある上質な鳴りとなるいっぽうで、歌声は目立ち過ぎないバランス型。ナチュラルで空間重視、そして客観性重視のサウンドだ。

Amazon Musicのハイレゾ音源で試聴

Amazon Musicのハイレゾ音源で試聴

改めて「WF-1000XM4」と聴き比べてみると、「WF-1000XM4」のほうが歌声の鮮明さ、高域の楽器の情報量や空間の広さなど全方面で上回る。「LinkBuds S」のサウンドは気に入ったが、攻め過ぎない2番手らしいまとまりのよさだ。念のため、「LinkBuds」も聴き比べてみたが、こちらはやっぱり別モノ。音質で語るのであれば、言うまでもなく「LinkBuds S」のほうがはるかに高音質だ。

「WF-1000XM4」や「LinkBuds」とも聴き比べてみた

「WF-1000XM4」や「LinkBuds」とも聴き比べてみた

「LinkBuds S」をiPhoneと接続したAACコーデックの音質もチェックしてみたが、歌声に適度にシャープさが加わり好印象。アプリのイコライザーなどで調整できる好みの範囲ではあるが、iPhoneユーザーにも安心しておすすめできるサウンドだ。

外音取り込み/ノイズキャンセリングを切り替えて使うというコンセプト

「LinkBuds S」のコンセプトとして重要なことは、「LinkBuds」でも打ち出された“常時装着”。周囲の音が聴こえるという特徴を、「LinkBuds S」では周囲の音を取り込む外音取り込みとして再現している。いっぽうで、「LinkBuds S」はノイズキャンセリング対応でもあるので、外音取り込み/ノイズキャンセリングを切り替えることができる。状況に応じてこれらを使いこなすというのが「LinkBuds S」のキモなのだろう。

左イヤホン1回タップで外音取り込み/ノイズキャンセリングを切り替え

左イヤホン1回タップで外音取り込み/ノイズキャンセリングを切り替え

まず「LinkBuds S」の外音取り込みの部分だが、これは確かに性能アップを感じる。「WF-1000XM4」にも外音取り込み(アンビエントサウンド)の機能はあったが、「LinkBuds S」では単純に外の音を取り込む量が増えた。実際に「LinkBuds S」で音楽を流さずに動画を視聴してみても、違和感なく周囲の音を確認できる。そして、音楽を流しつつ周囲の音も聴こえやすく、音楽に対して外音取り込みが負けにくい。街中や駅構内でも音楽を流したまま周囲の状況をちゃんと確認できるので、実用性はかなりのものだ。ちなみに、外音の取り込み量は「Headphones Connect」アプリから調整することもできる。

「LinkBuds S」の外音取り込みはなかなかに優秀。イヤホンを身に着けた状態で周囲の音を確認しながら動画視聴も余裕で行える

「LinkBuds S」の外音取り込みはなかなかに優秀。イヤホンを身に着けた状態で周囲の音を確認しながら動画視聴も余裕で行える

「LinkBuds S」を身に付けて音楽を聴きている状態でも、周囲の音もしっかりと確認できる

「LinkBuds S」を身に付けて音楽を聴きている状態でも、周囲の音もしっかりと確認できる

そしてもうひとつ、「LinkBuds S」はノイズキャンセリング機能がなかなか優秀だ。「LinkBuds S」単体で聴いても電車の走行時の重低音やガタガタとした音も大幅に低減するところを確認できた。今回、比較用に「WF-1000XM4」も同じ環境に持ち込んでみたが、実際に比較してみると、耳のフィット感の高さからか「LinkBuds S」のほうが電車の走行音は抑えられていた。いっぽう、カフェの雑踏のような騒音など、特に中高域についてのノイズ低減は「WF-1000XM4」のほうが有効だった。

「WF-1000XM4」と比較しながら、「LinkBuds S」のノイズキャンセリング機能もチェック

「WF-1000XM4」と比較しながら、「LinkBuds S」のノイズキャンセリング機能もチェック

屋内、屋外と「LinkBuds S」を使っていて感じるのは装着感の軽さと、外音取り込み/ノイズキャンセリングを左イヤホン1タップで切り替える手軽さ、そして常時装着し続けることの心理的なハードルの低さだ。ただ、それでも初代「LinkBuds」の“本当にずっと付けっぱなしでいい、操作もしなくてよい”とは方向性の異なるものだ。

そんな文句に先回りしてか(?)「LinkBuds S」が手がけるのがアプリによる新提案。「Auto Play」という常駐型アプリによって、“通話後に自動的に音楽が流れる”、“歩きだしたら音楽が再生される”といった自動再生と、仕事などをじゃましない通知読み上げという機能が提供される。

独立した「Auto Play」アプリと連携して動作

独立した「Auto Play」アプリと連携して動作

僕も「Auto Play」を実際に試したが、これが成立するのは、ワークタイム中(アプリで時間帯が設定可能)はPCにずっと向かっているなど、型にハマったスタイルの人だろう。たとえば、PCから離れてコーヒーを淹れに席を立つ時に音楽を流してくれるのはうれしいが、僕が撮影をしようとPCの前から離れた場合でも動作してしまい、音楽再生が始まってしまう。“それは違うよね”と思ってしまうとオフにしたくなる訳で……これは生活スタイルに合うかどうか、一度試してみたほうがいいだろう。また、対応音楽アプリが限られるところもやや不便だ。

通話後や仕事中に席を立つと音楽が流れるというのがユニーク

通話後や仕事中に席を立つと音楽が流れるというのがユニーク

また細かな事だが「Auto Play」を有効にすると、イヤホン片側が常時接続になるし、LDACコーデックも利用できなくなる。高音質追求とは相容れないライフスタイル志向の取り組みだ。

もうひとつ、ソニーからの提案として「Locatone」というイヤホンで音声ガイドを聴きながら現実世界を歩くお散歩アプリ的なものが公開されている。安全性から周囲の音が聴こえるほうが好ましいので、「LinkBuds S」とは相性がよさそうだ。またソニーの公式機能という訳ではないが、最近美術館のオーディオガイドのWebアプリ化が進んでいるので、「LinkBuds S」で音声ガイドを聴きつつ鑑賞するのにも便利だった。

最後に通話についてもふれておこう。「LinkBuds S」では“AI技術を活用した高精度ボイスピックアップテクノロジー”という高機能な通話機能を搭載している。MacとペアリングしてZOOMの通話でテストしてみたが、騒音のない状態では声だけでなく部屋の響きなども含めて幅広く音を拾うタイプではあるが、なかなか高音質だった。騒音を流しながらテストすると一気に僕の声だけにフォーカス。声と騒音の被りこそ若干あるが、クリアに通話できているようだ。

通話品質もなかなか優秀。装着者の声のしっかりとフォーカスしてくれる

通話品質もなかなか優秀。装着者の声のしっかりとフォーカスしてくれる

まとめ

ソニー「LinkBuds S」は、ハードウェアはよくできていると思う。小型・軽量で装着感も悪くなく、ノイキャンも外音取り込みも優秀。LDACコーデック対応で音質もなかなかのレベルだ。「LinkBuds S」を「WF-1000XM4」のミニ版ととらえれば、できはいい。ただ、どうも引っかかるのが“LinkBuds”という製品名とコンセプトとの兼ね合い。「LinkBuds」の穴あきで常時外の音が聴こえる発想がすばらしかったが、「LinkBuds S」はそうではない。

では、なぜ「LinkBuds S」に“LinkBuds”という名前が付いているかというと、コンセプトやソフトウェア周りという話になるだろうが、まだ納得感が足りない。ただ、そもそも“LinkBuds”自体ソニーが作った製品名なのだから、僕が“これはLinkBudsじゃない”と文句を付けるのもおかしな話だ。このモヤモヤを解消しくてれる決定的な何かの登場に期待するとしよう。

折原一也

折原一也

PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。

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