2022年のテレビ事情を俯瞰すると、高画質実現のための「量子ドット」技術の採用がトレンドのひとつであることは間違いない。
特に注目されるのは液晶テレビへの採用だ。量子ドット技術で広色域(高い色再現性)を得たうえで、ミニ LEDのバックライトを使い、高コントラストも同時に実現する。これが高級液晶テレビの最新トレンドと言える。
TVS REGZA(東芝)の「REGZA(レグザ)」では、この量子ドット技術を積極的に採用し、2022年モデルではミニ LEDと“組み合わせない”液晶テレビもラインアップする。細かなバックライトの個別駆動で映像のコントラストを高めるミニ LEDについては直感的なわかりやすさがあるものの、量子ドット技術のメリットの理解はもう少し難しい。そこで実施されたのは、広色域量子ドット技術のメリット訴求のためのメディア向け説明会。TVS REGZAが考える、量子ドット技術のメリットとは何か。その内容をお伝えしよう。
なお、量子ドット技術を採用した2022年のレグザは以下のとおり。「Z875L/Z870L」シリーズはミニ LEDバックライト搭載モデル、「Z770L」「Z670L」が量子ドット技術のみを採用したモデルだ。
有機EL、液晶テレビともに2022年のトレンドは「色」の再現だとして、「液晶の高画質は色で決まる」とアピールする
テレビの高画質とはどのように実現されるか。レグザでは「きめ細やかさ」「自然な色」「コントラスト」を3大要素としている
まず紹介されたのはTVS REGZAが考えるテレビの高画質の条件。「きめ細やかさ」「自然な色」「コントラスト」の3要素からなり、それらが総合的に高いレベルになったときに、肉眼で見えるリアルな世界により近づける、つまり高画質であるという。
「きめ細やかさ」は4K以上の解像度で、「コントラスト」については有機ELパネルの採用、液晶パネルでのミニ LEDの採用で表現力を高めてきた。それでは「自然な色」の表現力をどう高めるか、ここで注目されるのが量子ドット技術だ。
テレビなどのディスプレイにおける量子ドットとは、半導体微粒子を数百から数千個集めたもの、ならびにそこに入射した光を別の色に変換する技術のこと。ブルーの光を当てると、量子ドットの大きさに応じた異なる色を発する特性があるのだ。量子ドットの大きさを厳密に管理することで、波長幅の短い、色純度の高い再現性を期待できる。
量子ドット素材内の電子が励起(れいき:外からの刺激などで高いエネルギー状態になること)され、そのエネルギーギャップの違いが色(波長)の違いとして表れる
管理された大きさの量子ドットをテレビのために選ぶことで、波長幅の狭いRGBを取り出せる。つまり意図した色を取り出しやすくなるということだ
量子ドットを“練り込んだ”シートを青色LEDバックライトの前に配置し、効率のよい色変換と純度の高い色再現を同時に実現するのがこの技術の基本的な考え方だ。従来型の一般的な液晶テレビでは、白色発光のバックライトにカラーフィルターを組み合わせてR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)を取り出すため、光をフィルタリングする際に発生する大きなロスを避けられなかった。量子ドット技術を使うことで、そうした変換効率の問題の改善も期待できるのだ。
レグザに採用される広色域量子ドットパネルの概念図。バックライトはミニ LEDではないものの、直下型LED方式。エッジ型よりも高コントラストを期待できる。中央が量子ドットシートで、さらに液晶パネルが光の制御を行う仕組み
こちらは青色バックライトの前面に量子ドットシートが配置されたモックアップ。左半分が量子ドットシートで、実際はこのさらに前面に液晶パネルが配置される
実はこの量子ドット技術はそこまで目新しいものではい。2017年初のCESでサムスンが量子ドット技術を採用したテレビを「QLED TV」として訴求したことから、徐々にユーザーの間でも認知度は高まっていた。もちろんTVS REGZAとしてもそれ以前から技術の研究は行っていたが、実際の製品に組み込む意義を見いだしたのがこのタイミングとなった。
そこには、理論的には色域拡大効果がありそうだとしても、輝度のアップをともなわないことにはインパクトを最大化できないという判断があったそうだ。輝度アップを最大化する方法のひとつがミニ LEDバックライトとセットで使うことだが、わざわざミニ LEDを使わずとも、現在の技術ならば従来型のバックライトの輝度を上げて広色域を活かせそうだと考え、「Z770L」「Z670L」シリーズの発売にいたった。
75インチの「75Z770L」とレグザの従来モデル「75M550L」を比較した色度図。「75Z770L」ではRGB各方向に再現範囲が広がっているとわかる(デジタルシネマ規格DCI-P3比で110%の面積を達成)。純度が高いとは、たとえば緑の再現範囲が広がった場合でも変に青に色が回り込まず、自然な色再現ができるということ。説明会では、これを“キレがいい”とも表現していた
色度図で表すと、「Z770L」シリーズの色再現領域は日本の放送波で使われるBT.709よりも広い。そこで、レグザでは放送コンテンツの色再現を“復元”して鮮やかに見せることを志向している。そこに独自の輝度制御技術「リアルブラックエリアコントロール」を掛け合わせ、量子ドット技術のメリットを最大化するという。なお、この復元処理は再生時の映像モード次第でオフにすることも可能だ
また、単純に色再現の幅を広げて輝度を上げるだけでなく、最終的には再現の幅が広がった能力をどうマネージメントするかが重要になる。原色を鮮やかに映し出すことは、必ずしも「自然な色」につながらない。中間色の表現には映像エンジンによる処理が必要なわけで、そのマネージメントのうまさがレグザの強みだとも説明された。元々レグザの映像エンジンは「カラーイメージコントロール」という色再現を司る機能を持っていたが、それを活かせるポテンシャルの高いパネルが登場したことで、高画質表現に磨きがかかったとしている。
従来モデル「M550L」(左)と「Z770L」(右)を並べ、製品説明をするTVS REGZA 営業本部 ブランド統括マネージャーの本村裕史氏。写真で表現力の違いを見せるのは難しいが、Z770Lの輝度が上がっていることは伝わるだろう
歴代レグザにおいては「Z」という型番が持つ意味は大きい。高スペックと高パフォーマンス、そして適正な価格を備える、つまり本当の意味で高コストパフォーマンスである一推しモデルに冠されるのが「Z」だった。本説明会ではさらりとしか触れられなかったが、「Z770L」はレグザが誇る「タイムシフトマシン(全録)機能」も持つ多機能な製品だ。『今季は型番に「Z」の付く製品が多くなってしまったが、「Z」の王道はZ770Lかもしれない』とレグザブランド統括マネージャー本村裕史氏は言う。その「Z770L」シリーズは8月31日発売。ぜひ注目していただきたい。
最後に、量子ドットと聞いて有機ELのことを思い出した方もいるのではないだろうか。サムスンディスプレイが供給する有機ELパネル「QD-OLED」のことだ。青色の有機ELパネルに量子ドット技術を組み合わせたこのパネルは、すでにソニー「BRAVIA(ブラビア)A95K」などで採用されている。
量子ドット“推し”のレグザではあるが、有機ELテレビで採用しているのはいまのところLGディスプレイが供給するRGBWのカラーフィルター方式パネルのみ。やはり高画質は冒頭の3大要素がバランスよく実現される必要があり、量子ドットによる広色域だけを優先するわけにもいかないということだろう。
LGディスプレイの有機ELパネルも常に進化しているのは間違いない。そのいっぽう、今後は有機ELパネルでの量子ドット技術展開からも目が離せない。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。