パナソニックは簡単に壁に設置できる「ウォールフィットテレビ(LW1シリーズ)」を発表した。55V型(インチ)のディスプレイ部とチューナー部からなる有機ELテレビで、双方は無線で接続される。
市場想定価格はチューナーに2TBのHDDを内蔵する「TH-55LW1」が37万円前後、HDD別売の「TH-55LW1L」が33万円前後。発売日はどちらも2022年11月18日。
2TBのHDDをチューナー部に内蔵。番組録画に対応する「TH-55LW1」
左がHDD別売(非内蔵)の「TH-55LW1L」、右がHDD内蔵の「TH-55LW1」のチューナー部
「TH-55LW1」(上)「TH-55LW1L」(下)のチューナー部はともにHDMI入力を持たない。外部機器と連携したい場合はディスプレイ部に直接つなぐことになる。ゲーム機などを接続する場合には注意したい
「TH-55LW1」の主な仕様は以下のとおり。
●パネル:有機EL
●画面サイズ:55V型(インチ)
●画素数:3,840×2,160
●チューナー:地上デジタル×3、BS/110度CSデジタル×3、BS4K/110度CS4K×2
●HDMI入力:2系統(ディスプレイ部のみ)
●ネット動画サービス対応(Netflix、Amazon Prime Video、Disney+、Hulu、U-NEXT、ABEMA、YouTube、TVerなど)
チューナー部とディスプレイ部が分離された構造はパナソニックの「レイアウトフリーテレビ(LF1シリーズ)」と同様。テレビのアンテナ端子の位置に関わらずディスプレイを設置できるという長所を引き継ぎ、さらに専用金具を付属することで簡単な壁掛け設置を可能とした。ここでのポイントは、金具が一般的な石膏ボード用であり、大がかりな工事なしにユーザー自身が簡単に施工できること。製品発表会では、ユーザーがディスプレイを設置するイメージ動画も紹介された。
薄型かつ壁に寄りそうように設計された「TH-55LW1」。壁から画面までは約3.5cm。別売でディスプレイを据え置き型にできる専用スタンド「TY-ST5L1」も用意される
壁掛けのために付属するメインのフック金具2個と補助用のマグネット金具2個。専用工具を使い、ピンを石膏ボードに刺していく(メイン用は10本、補助用は5本)。もちろん、すべて付属品だ
ガイド用紙を使って水平をとりつつ、金具を壁に固定。ここにディスプレイを「掛ける」だけでテレビの設置が完了する
また、ディスプレイ部についてはスタンダードモデル「LZ1000」シリーズに準じたもので、「Dot Contrast パネルコントローラー」による有機ELパネル制御や「ヘキサクロマドライブ プラス」による映像調整などを受け継いでいる。テレビの機能として大きく異なるのはスピーカーシステムだ。「LW1シリーズ」では、薄型ディスプレイを実現するため、有機ELパネルにアクチュエーターを仕込み、画面自体を振動板として“鳴らす”方式を導入したのだ。アクチュエーターを使って画面を鳴らすという方式自体はソニーや東芝(TVSレグザ)が先行して製品に採用している。
「LW1シリーズ」のスピーカーシステムはアクチュエーター2つのみをフルレンジで使う格好。10Wのアンプを2つ搭載し、それぞれのアクチュエーターを駆動する。低域を補助するウーハーなどを搭載しないので、音質については壁掛けでのバッフル効果を狙った仕上げなのだろう
ここからは、「ウォールフィットテレビ」の発表会の模様をお伝えしよう。上記のとおり、パナソニックがチューナーとディスプレイ別体のテレビをリリースするのは初めてではない。2021年10月には「レイアウトフリーテレビ」として、キャスター付きのディスプレイスタンドが付属する製品を発売。チューナー部が分離されており、テレビの設置性を向上させる提案をしていた。さらに以前の2012年にはアンテナを内蔵した「ポータブルテレビ」を発売。現在は「プライベート・ビエラ」という名称で展開され、浴室などでも使える小型テレビとして親しまれている。
「レイアウトフリーテレビ(LF1シリーズ)」は43V型4K液晶ディスプレイにキャスター付きのスタンドが付属する。「ウォールフィットテレビ」の発売に合わせて、チューナー部をHDD非内蔵とした「TH-43LF1L」が追加された
アンテナを内蔵したポータブルテレビ「プライベート・ビエラ」。防水と非防水のモデルがラインアップされる
パナソニック(松下電器)が初めてテレビを発売したのは、1952年。以後、「お茶の間」の中心であり続けたテレビだが、家庭でのエンターテイメントが多様化するに従い、中心ではいられなくなった。そこでパナソニックが考えたのが「テレビ中心のくらし」から「くらし中心のテレビ」への転換。テレビがあるところが中心なのではなく、ユーザー各々のスタイルにフィットするテレビを提案するというスタンスだ。
具体的には、「プライベート・ビエラ」「レイアウトフリーテレビ」に「ウォールフィットテレビ(LW1シリーズ)」を加えて、これらを「くらしスタイルシリーズ」として展開する。なお、「LW1シリーズ」もパナソニックのテレビシリーズ「ビエラ」の一員ではあるものの、それを前面に押し出した形にはならないそうだ。
「お茶の間」つまりくらしの中心であったテレビは、その画質を向上させることこそが正しい進化だった
「くらし中心」のためのコンセプトとして、「LW1シリーズ」で掲げられたのは「どこでも置ける」「すっきり置ける」「壁に簡単に掛けられる」の3つ。
(1)「どこでも置ける」
チューナー部が独立しているため、それをアンテナ端子の近くに設置、ディスプレイの位置は「フリー」にできる。これは「レイアウトフリーテレビ」とまったく同じコンセプトと言える。ここには、これまで「ビエラ」や「ディーガ」で培ってきた無線伝送・高画質圧縮技術が生かされているという。
チューナーとディスプレイが分かれていれば、テレビ設置場所の自由度は上がる
(2)「すっきり置ける」
ぴったりと壁に寄りそう薄型デザインを採用。壁に掛けることを前提としているので、テレビ台を用意する必要もない。金具が本体の中に収まる設計やスピーカーボックスを廃止して有機ELパネル自体を鳴らす構造とするなど、薄型ディスプレイ実現への徹底した施策が盛り込まれた。
ディスプレイを薄型化するだけでなく、金具の設計も工夫することで壁にフィットするデザインを実現した
(3)「壁に簡単に掛けられる」
壁にかかる重量を従来比で4割削減。付属の石膏ボード用固定金具で簡単に壁に掛けられる設計だ。ここが何より画期的なポイントだろう。有機ELテレビは液晶テレビに比べて非常に薄型に仕上げられるため、壁にぴったりと寄せて掛けられるデザインはこれまでにも存在していた。しかし、それを実現するには重量級の金具と壁の補強、専門業者による施工がセットで必要だったと言っていい。
「LW1シリーズ」は石膏ボードに対してピンを差し込んで固定する金具を付属。ユーザー自身の手で簡単にテレビを壁に掛けられるのだ。ディスプレイ部の重さは約12.5kg。2名で作業にあたれば大きな危険はなさそうだ。
ディスプレイ側の設置金具は本体に収納され、写真のように稼働する。設置時にディスプレイを傾けられるため、より簡単に壁掛けできる仕組み。また、取り付けに使う赤い専用工具は落下防止ロックのためのパーツにもなる。紛失も防げる一石二鳥のアイデアだ
設置時のイメージ動画も披露された
発表会にはインテリアのプロフェッショナルも登壇。インテリアを重視したライフスタイルの中への溶け込みやすさを訴求した。
部屋の中で渋滞しがちな床にテレビを置くことを避けて、簡単に壁に配置できるのは魅力的だと話したのはインテリアスタイリストの窪川勝哉氏。これまでのテレビには、正面から見た場合はともかく、回り込んで見ると美しくないという弱点を感じていたという。「LW1シリーズ」は、横から見られることも計算されていて美しく、唯一ディスプレイから伸びる電源ケーブルの色、形までしっかり配慮されていると語る。
インテリアスタイリストの窪川勝哉氏
発表会のメインステージは窪川氏のスタイリング。部屋において大きな面積を占める壁面をうまく使う趣旨で、テレビ以外にもアクセントを置いたことがポイントだという。テレビ台がないため、ソファやテーブルなどにボリューム感のあるものを選べるメリットも生まれるそうだ
こちらは窪川氏の部屋を模したというコーディネート。床が青、ラックが茶という組み合わせは、イタリアのファッションセオリー「アズーロ・エ・マローネ」を意識したものとのこと。ラックにはさりげなく「TH-55LW1」のチューナー部が設置されている
こちらが「TH-55LW1」の電源ケーブル。白いだけでなく、しっかりと形もケアされている
ディスプレイ裏には電源ケーブルの長さを調整する機構もあり
インテリアトータルコーディネーターのMAKO氏は、アンテナ端子の位置によって家具の位置が制限されるのを避けられるのはとてもありがたいと言う。テレビありきでインテリアを検討すると、家具の位置だけでなく、サイズなども限定されてしまいがちなのだ。
株式会社Laugh style代表/インテリアトータルコーディネーターのMAKO氏
こちらはMAKO氏の自室を模したというコーディネート例。家具はグレーやベージュの淡い色でまとめつつ、黒っぽい椅子などで「締める」スタイリング。本来はテレビを置いていない部屋とのことだが、その場合にもなじみがよいと話す
ちなみに、石膏ボードは内装下地に使われる建材。一般的な住宅の壁の多くは石膏ボードの上に壁紙を張って仕上げられている。「LW1シリーズ」のように石膏ボードに簡単にテレビを掛けられるアイデアは広く歓迎されるだろう。ただし、ディスプレイ部のサイズは今のところ55V型のみ。これが拡充され、さらに選択肢が広がることを期待したい。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。