レビュー

“リアル4K”プロジェクター比較!「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」vs.「DLA-V90R」

プロジェクターは、映画館と同じようにスクリーンに映像を投写するタイプのディスプレイだ。最近では片手で持てるようなモバイルプロジェクターや、10〜30万円ほどの価格で4K解像度表示に対応したプロジェクターが人気となっているが、ホームシアター向けの高級モデルでは価格が100万円を超えるものも多い。

確かに高価だが、100インチを超えるような特大の画面を実現できることを考えると話は変わってくる。薄型テレビも80V型(インチ)クラスの製品が登場しているが、かなり高価なモデルが多く、100インチ級の大画面で薄型テレビと同等の高画質を求めると、価格的にはあまり差はない。

薄型テレビならば、部屋を暗くしなくても十分な画面の明るさがあり、使い勝手もすぐれるのは確かだ。しかし、現代のプロジェクターは高輝度化が進み、テレビ放送を気軽に楽しむならば明るい部屋でもそのままでOK。ただし、映画などをじっくり見るなら部屋を暗くしたほうが画質的に優位ではある。映画館のように部屋を暗くすると、「映画を見るぞ」という気持ちになれるのもよい。スクリーン投写だから、映像の感触も映画館に近いというのも熱心なファンの多い理由だ。

高級プロジェクターというと、ソニーとビクター(JVC)が長い間ライバルとして競争を繰り広げてきた。いち早く液晶パネルの4K化を実現したのはソニーだが、ビクターも4Kパネルを開発し、しかも最新モデルでは画素ずらし技術を用いた「8K/e-shift X」で8K映像の表示まで可能にしている。また、レーザー光源の初採用はほぼ同時期で、それぞれに独自に開発した光源を搭載。投写レンズではビクターがオールガラスレンズにこだわるいっぽうで、ソニーは設計の自由度が高く、低コストですぐれた性能を実現できるプラスチックレンズを積極的に採用するなど、設計や製品にも違いがあり、それぞれにファンがいる。

そして2022年、ソニーが設計を一新した「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」を発売した。0.61型の「4K SXRD」は解像度3,840×2,160画素の新設計反射型液晶パネルだ。外観も改められ、わずかながらサイズもコンパクトになっただけでなく、両方のモデルでレーザー光源「Z-Phosphor」を採用。さらに投写レンズも新設計とかなり意欲的だ。ソニーのプロジェクターユーザーはもちろん、ビクターと比べて画質がどう違うのか、気になる人も多いだろう。そこで、普段は自宅でビクターの「DLA-V90R」を使用している筆者が、ソニーの新しいプロジェクターの実力をチェックさせてもらうことになった。

「VPL-XW7000」と「VPL-XW5000」に採用されたネイティブ(リアル)4K液晶パネル「4K SXRD」。多くの家庭用「4K プロジェクター」は、フルHD(1,920×1,080画素)ないしは2,716×1,528画素の液晶パネル/DMDを使い、時分割(画素ずらし)によって4K表示を実現している。パネルに4K素子を使った製品はソニー、ビクター(JVC)の高級品に限定されるのが現状だ

「VPL-XW7000」と「VPL-XW5000」に採用されたネイティブ(リアル)4K液晶パネル「4K SXRD」。多くの家庭用「4K プロジェクター」は、フルHD(1,920×1,080画素)ないしは2,716×1,528画素の液晶パネル/DMDを使い、時分割(画素ずらし)によって4K表示を実現している。パネルに4K素子を使った製品はソニー、ビクター(JVC)の高級品に限定されるのが現状だ

自宅の視聴室に常設しているビクター「DLA-V90R」。希望小売価格は2,882,000円(税込)。「VPL-XW7000」よりも100万円ほど高価な製品だ。ビクターは本製品のほか、希望小売価格1,705,000円(税込)の「DLA-V80R」、同1,305,000円(税込)の「DLA-V70R」、同800,000円(税込)の「DLA-V50」をラインアップする

自宅の視聴室に常設しているビクター「DLA-V90R」。希望小売価格は2,882,000円(税込)。「VPL-XW7000」よりも100万円ほど高価な製品だ。ビクターは本製品のほか、希望小売価格1,705,000円(税込)の「DLA-V80R」、同1,305,000円(税込)の「DLA-V70R」、同800,000円(税込)の「DLA-V50」をラインアップする

VPL-XW7000とVPL-XW5000の違いは、レンズ周りとレーザーの明るさ

「VPL-XW5000」には、本体のカラーバリエーションとしてホワイトとブラックが用意されている

「VPL-XW5000」には、本体のカラーバリエーションとしてホワイトとブラックが用意されている

「VPL-XW7000」の本体色はブラックのみ

「VPL-XW7000」の本体色はブラックのみ

まずはソニーの2製品の違いとともに概要を紹介しよう。表示デバイスはどちらも4K解像度(3,840×2,160画素)の0.61型 「4K SXRD」だ。レーザー光源は「Z-Phosphor」で共通となるが、「VPL-XW7000」は光出力(明るさ)が3,200ルーメンとなる。「VPL-XW5000」は2,000ルーメンだ。家庭用高級プロジェクターとして2,000ルーメンは十分に明るく、同価格帯のビクター「DLA-V50」は1,900ルーメンだ。

「VPL-XW7000」の3,200ルーメンという数値はかなりの明るさで、ライバルと目されるビクター「DLA-V90R」(3,000ルーメン)のさらに上を行く。もはや薄型テレビに迫る高輝度を実現できると考えてよい。明るいリビングでテレビのように気軽に使いたい人には大きな魅力だ。レーザー光源なので寿命は約2万時間とかなり長い。高圧水銀ランプを使ったプロジェクターのようにランプ交換を行う必要はなく、実質的なメンテナンスは不要だ。

「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」はどちらもレーザー光源を搭載する。「2万時間」の寿命とは、明るさが半減するタイミングのことをさす

「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」はどちらもレーザー光源を搭載する。「2万時間」の寿命とは、明るさが半減するタイミングのことをさす

サイズについて、「VPL-XW7000」は460(幅)×517(奥行)×210(高さ)mm。「VPL-XW5000」は460(幅)×472(奥行)×200(高さ)mmで奥行きが少し短い。重量は「VPL-XW7000」が約14kg、「VPL-XW5000」は約13kgとこのクラスとしてはかなり軽い。従来の同等モデルと比べるとどちらも少しコンパクトになっているが、天井取り付け用金具は従来のソニー製プロジェクターと同じで、天吊り用金具などは共通。

「VPL-XW7000」の背面には排気口があり、吸気口は前面。熱された空気が投写映像へ影響してしまうことを防ぐ設計だ。「VPL-XW5000」も同じく前面吸気・背面排気

「VPL-XW7000」の背面には排気口があり、吸気口は前面。熱された空気が投写映像へ影響してしまうことを防ぐ設計だ。「VPL-XW5000」も同じく前面吸気・背面排気

「VPL-XW7000」の後方からボディ全体を見た様子。天面は平らではないので、上に物などは置けない。「VPL-XW5000」も形状としてはほぼ同様

「VPL-XW7000」の後方からボディ全体を見た様子。天面は平らではないので、上に物などは置けない。「VPL-XW5000」も形状としてはほぼ同様

また、「VPL-XW7000」は新開発の2.14倍ズームACF(アドバンストクリスプフォーカス)レンズを搭載。非球面フロントレンズは70mm。フォーカスエリアが広く、画面の隅まで鮮明な映像を投写できる。「VPL-XW5000」は1.6倍ズームレンズとなっていて、画質面では明るさとともにレンズによる違いが差となるだろう。

「VPL-XW7000」のみ、「ACFレンズ」を搭載。フロントレンズは70o。2つの可動レンズグループ(フローティンググループ、フォーカスグループ)を組み合わせたシステムを「フローティングフォーカスシステム」と呼ぶ

「VPL-XW7000」のみ、「ACFレンズ」を搭載。フロントレンズは70o。2つの可動レンズグループ(フローティンググループ、フォーカスグループ)を組み合わせたシステムを「フローティングフォーカスシステム」と呼ぶ

ここからは、「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」ともに共通となる。映像処理エンジンは「X1 Ultimate for projector」。薄型テレビ「BRAVIA(ブラビア)」でも定評のあるエンジンをプロジェクター向けに最適化したもので、「オブジェクト型超解像」などをはじめとした高画質機能を備えている。また、レンズの光学的な特性をデジタル処理で補正・最適化し、表示の精度を高める「デジタルフォーカスオプティマイザー」も備える。

画質モードも共通で、独自の映画視聴モード「シネマフィルム1」「シネマフィルム2」を始め、モニターライクな「リファレンス」、明るい部屋で映画を楽しめる「ブライトシネマ」「ブライトTV」、そしてIMAX用のデジタルリマスターされた4K&HDRコンテンツに最適化された「IMAX Enhanced」の10種類がある。このあたりは、従来のソニー製プロジェクターを引き継いでいる。

映像処理エンジンはソニーのテレビで実績のある「X1 Ultimate」をカスタマイズしたもの。映像中のオブジェクトをリアルタイムで検出し、最適化を図る

映像処理エンジンはソニーのテレビで実績のある「X1 Ultimate」をカスタマイズしたもの。映像中のオブジェクトをリアルタイムで検出し、最適化を図る

「VPL-XW7000」の画質設定の画面。操作画面は「VPL-XW5000」もまったく同じ。ピクチャープリセット(画質モード)の変更を始め、各種画質機能を切り替えられる

「VPL-XW7000」の画質設定の画面。操作画面は「VPL-XW5000」もまったく同じ。ピクチャープリセット(画質モード)の変更を始め、各種画質機能を切り替えられる

画質モードの一覧。明るい部屋用のモードや「IMAX Enhanced」などがある。ゲームのプレイ時には、別途低遅延表示も可能だ

画質モードの一覧。明るい部屋用のモードや「IMAX Enhanced」などがある。ゲームのプレイ時には、別途低遅延表示も可能だ

HDMI入力はいずれも18Gbps対応

HDMI入力は2系統で、4K/60pや4K/24p入力に対応する18Gbps仕様。最新のHDMI2.1規格ではないので、4K/120pやVRRなどの新機能には対応しないが、実用上の大きな不満はないだろう。このほか、LAN端子やリモート用のRS-232C端子、USB端子などがある。ここでの大きな違いは、「VPL-XW7000」は3D映像再生用のトランスミッターと接続する3Dシンクロ端子があり、「VPL-XW5000」には3Dシンクロ端子がないこと。つまり、「VPL-XW7000」は3Dトランスミッターを別途購入すれば3D映像も楽しめるが、「VPL-XW5000」は3D映像に非対応ということ。ただし、「VPL-XW7000」の3Dトランスミッターは社外品のかなり高価なものしかなく、3D映像を楽しみたい人にはハードルは高めだ。

「VPL-XW7000」の側面にも吸気口があり、その横に本体操作のボタン、下に入出力端子がある。この構成は「VPL-XW5000」も同様

「VPL-XW7000」の側面にも吸気口があり、その横に本体操作のボタン、下に入出力端子がある。この構成は「VPL-XW5000」も同様

「VPL-XW7000」の接続端子部。LAN端子、2系統のHDMI入力、トリガー入力、IR端子、リモート端子、USB端子、3Dシンクロ端子が並ぶ。「VPL-XW5000」には3Dシンクロ端子がないほかはこれと同じだ

「VPL-XW7000」の接続端子部。LAN端子、2系統のHDMI入力、トリガー入力、IR端子、リモート端子、USB端子、3Dシンクロ端子が並ぶ。「VPL-XW5000」には3Dシンクロ端子がないほかはこれと同じだ

「VPL-XW5000」のレンズ操作は手動。ここを割り切れるかどうかがポイント

最後にもうひとつ、「VPL-XW7000」と「VPL-XW5000」の大きな違いについて説明しよう。「VPL-XW7000」ではレンズのズーム/フォーカス/シフトは電動で、リモコンの操作で調整ができる。「VPL-XW5000」はこれらが手動となるので、本体やレンズ部のリングで調整する必要がある。この価格帯でズーム/フォーカス/シフトが手動となるのはちょっと異例ではある。だが、多くの場合、これらの調整は初めての設置時に済ませてしまうだろう。天井への吊り設置だと調整が大変だとは思うが、ひんぱんにレンズ周りの調整を行う人でもない限り、電動調整は必須ではない。「VPL-XW5000」の手動レンズは、価格を可能な限り抑えるための潔い割り切りだ。このため、「VPL-XW5000」には天面の前方に取り外し可能なカバーがあり、カバー内にレンズシフトの調整用のダイヤルがある。

「VPL-XW5000」の天面にある、レンズシフトの調整用ダイヤル

「VPL-XW5000」の天面にある、レンズシフトの調整用ダイヤル

レンズズーム/フォーカス/シフトの調整時に表示する調整用画面。解像度が3,840×2,160となったため、従来モデルとはグリッドが異なる

レンズズーム/フォーカス/シフトの調整時に表示する調整用画面。解像度が3,840×2,160となったため、従来モデルとはグリッドが異なる

そしてリモコンも、「VPL-XW5000」ではレンズズーム/フォーカス/シフトボタンが必要なくなるため、(微妙な違いだが)それぞれ専用のリモコンが付属する。違いはレンズズーム/フォーカス/シフトのボタンがなくなっているだけだが、自照式ライトの色が異なっており、「VPL-XW7000」は青色系、「VPL-XW5000」は橙色系。

付属のリモコン。左が「VPL-XW5000」用で、右が「VPL-XW7000」用。どちらも自照式で、点灯色が異なる

付属のリモコン。左が「VPL-XW5000」用で、右が「VPL-XW7000」用。どちらも自照式で、点灯色が異なる

アナモフィックレンズの使用時や異なるスクリーンを使い分ける場合に便利な「ピクチャーポジション」。レンズズーム/フォーカス/シフトの位置を記憶しておく機能で、電動レンズの「VPL-XW7000」で利用できる

アナモフィックレンズの使用時や異なるスクリーンを使い分ける場合に便利な「ピクチャーポジション」。レンズズーム/フォーカス/シフトの位置を記憶しておく機能で、電動レンズの「VPL-XW7000」で利用できる

天井へ吊り設置時の画像反転やアナモフィックレンズの切り替えなどの設定を行う、設置設定の画面。パネルアライメントもここで調整する

天井へ吊り設置時の画像反転やアナモフィックレンズの切り替えなどの設定を行う、設置設定の画面。パネルアライメントもここで調整する

HDMI信号フォーマットの設定。4K映像信号を入力する場合は「拡張フォーマット」を選んでおくこと

HDMI信号フォーマットの設定。4K映像信号を入力する場合は「拡張フォーマット」を選んでおくこと

パネルアライメントの設定。シフト(画面全体)、ゾーン(各グリッド)で調整が可能。RGBの色ズレが目立つ場合に、デジタル領域で補正・調整を行う機能だ

パネルアライメントの設定。シフト(画面全体)、ゾーン(各グリッド)で調整が可能。RGBの色ズレが目立つ場合に、デジタル領域で補正・調整を行う機能だ

大空を飛翔する感覚を得られる! 「トップガン マーヴェリック」をじっくりと視聴

ではいよいよ設置・調整を行い、テストをしよう。今回は自宅の視聴室に常設しているビクター「DLA-V90R」と同じく、背の高いラック(耐震対策済み)に乗せて設置。「DLA-V90R」は重量があるため、1人での設置作業は推奨しない。「VPL-XW7000」や「VPL-XW5000」は比較的軽量なため1人でも作業はできるが、安全のために2人以上で行ったほうがよいだろう。万が一の事故で100万円を超える製品を壊してしまうようなことは絶対に避けるべきだ。

試聴に使った「トップガン マーヴェリック」は、Apple TV(iTunes)で購入したもの。Apple TV 4KのHDMI出力をAVアンプ経由でプロジェクターに接続している。映像はDolby Vision、音声はDolby Atmosとなっており、画質的にはなかなか優秀。ただし、プロジェクターはDolby Visionには対応しないので、HDR10での4K&HDR表示となる。これは「DLA-V90R」も同様だ。

「トップガン マーヴェリック」では、IMAXカメラを使用した空戦シーンは16:9で、ドラマのシーンはシネスコサイズでの表示となる。現代の映画として質の高い撮影が行われているが、特に印象的な冒頭の空母での離着陸のシーンやドラマのシーンは、オリジナルの「トップガン」との親和性を意識したのかフィルムライクな感触の映像に寄せた感じもある。空中戦のシーンのスピード感たっぷりにめまぐるしく動く映像の精細さにも注目だ。

「VPL-XW7000」の映像は、精細度が高く見晴らしがよい。新開発のACFレンズの威力を存分に実感できる。目を見張るのは地形に沿って戦闘機を飛ばすシーンでの、左右を流れる地形が鮮明なこと。地面の様子や森が鮮明に見えるので、スピード感が高まるし、実際にコクピットに居るかのような臨場感がある。レンズの収差などをデジタル処理で最適化する「DF(デジタルフォーカス)オプティマイザ」の「入」/「切」を試してみたが、「入」ではより精密にフォーカスを合わせたように精細度が高まる。この見え方はドキュメンタリーなどの生の映像を高精細に映したものだと感動的なレベルだ。自宅のスクリーンは120インチ(16:9)で、今回も120インチで投写しているが、ここには、大画面だからこそ味わえる迫力がある。

「リアリティークリエーション」の調整画面。従来と同様に「精細度」「ノイズ処理」「DFオプティマイザ」を個別に調整できる

「リアリティークリエーション」の調整画面。従来と同様に「精細度」「ノイズ処理」「DFオプティマイザ」を個別に調整できる

また、空に輝く太陽の眩しさなど、HDRのピーク感も力強いし、なによりも画面全体が明るく迫力がある。テストでは「シネマフィルム1」モードを暗室で見ているが、カーテンなどで外光を抑えればリビングなどでも十分に楽しめる明るさがある。もちろん「ブライトシネマ」などを使えば薄型テレビとそん色のない明るい映像が楽しめる。

そのいっぽうで、シネスコサイズ(2.35:1)でのドラマシーンでは、映像が硬くなりすぎるようなこともなく、フィルム調の柔らかな画調をストレートに描く。「DLA−V90R」のビクター画質に慣れていると、いかにもデジタルシネマという感じの鮮明さを感じてしまうかもしれないと予想したが、それは杞憂だった。全体的な画調として高精細で鮮明な映像ではあるが、あくまでもソースに対してストレートな表現だと言える。

そのため、色に関してはむしろ控えめと感じるほどで、登場人物の肌の赤みなどを抑えたモニター調の画質。この点では、ビクター画質が色を濃厚に乗せたリッチな画調と感じるくらいだ。だから、空の青さはやや薄く感じるが、雲の階調表現は豊かだし、機体の色や輝きもしっかりと出る。この点では薄型テレビのBRAVIA以上に業務用モニターの色調に近い忠実な描写だと感じた。

精細感と明るさの「VPL-XW7000」、黒の締まりとフィルムトーンの「DLA-V90R」

ビクター「DLA-V90R」との比較で言うと、暗いシーンでの暗部の階調性は同等と言ってよいレベルだが、最暗部の黒の締まりでは「DLA-V90R」がややすぐれていると感じた。とはいえ、これまでも黒の締まりではビクターが優勢と言われてきたが、従来ほどの差ではなくソニー機としては黒の締まりはかなり向上していることは確かだ。このあたりは新開発の「SXRD」の実力がよく出ていると思える部分だ。映像の精細さについては、明らかに「VPL-XW7000」が上と言えるレベルで、最新のデジタル制作の鮮明な映像を好む人ならば「VPL-XW7000」が好ましいと感じるだろう。逆に言えばフィルム撮影の穏やかなトーンをデリケートに描く点では「DLA-V90R」が好ましい。ディティールの再現などはどちらも優秀なため、これは見え方の好みの差と言える。「DLA-V90R」との直接対決となれば総合点で「DLA-V90R」に軍配を上げたくなるが、ほぼ同価格となる「DLA-V80R」との比較となれば、精細感の高さや高輝度による映像の力強さなどの点で「VPL-XW7000」を選ぶ人も多いのではないかと思う。

「シネマブラックプロ」の調整画面。「レーザーライト設定」(光出力の調整)と映像処理でHDRの再現性を高める「D.HDRエンハンサー」を設定できる

「シネマブラックプロ」の調整画面。「レーザーライト設定」(光出力の調整)と映像処理でHDRの再現性を高める「D.HDRエンハンサー」を設定できる

「レーザーライト設定」では、「ダイナミックコントロール」を「フル」または「リミテッド」に選択可能。これは、映像に合わせて適応的にレーザー(光)を調整する設定だ。「リミテッド」の選択時には、レーザー出力の強さを好みで調整できる

「レーザーライト設定」では、「ダイナミックコントロール」を「フル」または「リミテッド」に選択可能。これは、映像に合わせて適応的にレーザー(光)を調整する設定だ。「リミテッド」の選択時には、レーザー出力の強さを好みで調整できる

間口を広くとった“味付け”の「VPL-XW5000」

さて次は「VPL-XW5000」。まず気がつくのは、画面の明るさ感の違い。暗室で「シネマフィルム1」で見ていれば画面が暗く感じるほどではないが、空撮シーンの太陽の明るさや戦闘機の機体の輝きの力強さには差を感じる。突き抜けた明るさや鮮明さはやや差があるが、明暗のコントラスト感は絶妙にチューニングされているようだ。雲の階調表現はスムーズだし、逆光で影になった人物の姿もしっかりと描き、黒の締まり感はむしろ「VPL-XW7000」よりもすぐれているかと感じるほど。そのため、空戦シーンのスピード感や迫力もそん色がないどころか手に汗握る感じで楽しめてしまうし、シネスコサイズでのドラマシーンもなかなか味わい深い陰影が再現され、見応えがある。

レンズの違いによる精細度の違いについては、ディティールの再現力が不足するほどの差はないし、「VPL-XW7000」のカチっとした感触に近いものがある。「VPL-XW5000」のレンズについての詳細な情報はないが、従来モデルのレンズを継承しているのだろうと思われる。そのため画作りにおいても熟成度の高さを感じる。

「VPL-XW7000」と比較すると、空戦シーンの見晴らしのよさやコクピットから見える景色の密度の高さなどに多少の差はあるが、極端な落差は感じさせない。また、スペック上の明るさは3,200ルーメンから2,000ルーメンに下がっているが、画面全体の“明るさ感”の差はごくわずかで、映像処理でのコントラスト調整で十分な力強さを感じられる。色再現の点では、こちらは多少テレビ的な見映えを意識した画作りで色乗りもよく、見ていて楽しい映像だ。つまり、ハイエンドの「VPL-XW7000」に対して、「VPL-XW5000」は間口の広い画作りになっていると思う。もちろん、これは両者を比べた場合の話で、「VPL-XW5000」も全体的な画調としてはモニター調の、素材に対する忠実感のある画質だし、精細感の高さでもかなりのレベルだ。ごくわずかの味付けの違いで、あらゆる映像をストレートに描くモニター的な「VPL-XW7000」と、さまざまなソースを魅力的な画質で楽しめる「VPL-XW5000」という具合にキャラクターを分けていると思われる。

ビクター派も一見の価値あり。「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」は高い実力を備えた意欲的モデルだ!

こうして見てみると、「VPL-XW7000」はソニーらしい画作りを高いレベルで実現したと言える。薄型テレビのBRAVIAの画質に慣れた人にもなじみやすく、それでいてより高いレベルの投写映像表現を楽しめるモデルになっていると感じた。いっぽうで「VPL-XW5000」はその画質を受け継ぎながらもよりバランスのよい画作りをしており、その実力は驚くほど高い。ズームなどのレンズ操作が手動であることや、3D非対応という点での割り切りは必要だが、100万円分の大きな画質差があるとはとは思えない。「VPL-XW5000」は非常にコストパフォーマンスの高いモデルだ。

手の届く価格と言うと、20〜30万円ほどの4Kプロジェクターも値頃感があるが、今回俎上に載せたリアル4K画素のプロジェクターは4K映像の精細感がはっきりと違う。画素ずらしによる4K表示との差もあるが、レンズの実力にも差を感じるし、レーザー光源の余裕のある輝度など、長く使っていると満足度には価格相応の差を感じるだろう。この先、8Kプロジェクターが主流になるということはありそうにないので、安価なモデルを数年で買い換えるよりも、本格的な実力を持つモデルを10年単位で使うほうが満足度も高い。よい物を長く使うのが正しいのは昔も今も変わらないのだ。

「VPL-XW7000」「VPL-XW5000」ともに、最新のデジタルシネマのような精細感の高い映像ととても相性のよい魅力的な製品だと思うし、アニメやゲームといった映像との相性もよい。ビクターにもニュアンス豊かな映像表現など独自の魅力があるので、プロジェクター選びはますます難しくなった。今からこの価格帯のプロジェクターの購入や買い換えを考えるならば、絶対に両者を見比べてから決めたほうがよいと思う。

テストは自宅の視聴室にて実施。スクリーンはオーエスのピュアマットIII(120インチ、16:9)。天井に吊り設置されているのはソニー「VPL-VW500ES」。かつてのメインプロジェクターだ

テストは自宅の視聴室にて実施。スクリーンはオーエスのピュアマットIII(120インチ、16:9)。天井に吊り設置されているのはソニー「VPL-VW500ES」。かつてのメインプロジェクターだ

鳥居一豊

鳥居一豊

映画とアニメをこよなく愛するAVライター。自宅ホームシアタールームは「6.2.4」のDolby Atmos対応仕様。最近は天井のスピーカーの追加も検討している。

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