JBLから、完全ワイヤレスイヤホンの新時代を感じさせるニューモデル「TUNE FLEX」が登場した。クリアボディのイヤホン本体・充電ケースに、アクティブノイズキャンセリング機能搭載、そして開放型、密閉型と2種類のイヤーピースで“ながら聴き”用途にも対応できるという注目モデルだ。
基本スペックはイヤホン部が12mm径ダイナミック型ドライバー搭載、Bluetoothはバージョン5.2でコーデックはSBC、AAC対応。マルチポイント接続には対応ではない。連続再生はイヤホン単体で最大8時間、充電ケース併用で最大24時間(いずれもアクティブノイズキャンセリングオフ)だ。
10月7日に発売されたJBL「TUNE FLEX」。直販価格は13,200円
さっそく「TUNE FLEX」の実機からチェックしていこう。
僕が「TUNE FLEX」に真っ先に惹かれたポイントが、デザインのカッコよさ。イヤホン本体・充電ケースとも筐体表面のほとんど透明で、中の基盤や部品が見えるこれまでにない斬新なデザインだ。イヤホンを装着した際に見えるスティック部外側には着色されたパーツが使われており、パッと見た感じだとクリアであることはわからないのだが、手に持った際には内側が透けているし、充電ケースも内部のチップが見える構造。このSFチックさを融合させたデザインが最高だ。
イヤホン本体の外側はホワイトだが、内側はクリアで基板が見える
充電ケースも外装はクリアでとても近未来的なデザインだ
操作性はスティック部分のタッチ操作で、再生コントロールやアクティブノイズキャンセリング・外音取り込みのオン/オフ操作が可能。タッチ操作の感度のやや高めで、イヤホンの装着や取り外しの際には誤反応に注意したい。なお、イヤホンからの音量操作はデフォルトではできないが、スマートフォン向けアプリ「JBL Headphones」から設定変更が可能になる。
「TUNE FLEX」の個性とも呼べるのが、開放型(オープン型)と密閉型の2通りで使用できる構造だろう。
標準状態は開放型(オープン型)の状態
出荷時の状態ではイヤーチップを取り付けるノズル部分をカバーする専用小型イヤーチップが装着済み。これを取り外して通常のイヤーチップに交換すると、一般的な密閉型の構造になる仕組みだ。イヤーチップ交換時にはアプリ「JBL Headphones」から設定変更が推奨されている。
開放型も小型イヤーチップで、密閉型イヤーチップに交換可能
ユーザーが気になるのは装着感と遮音性や音漏れだろう。まず開放型イヤーチップを付けた状態だが、予想どおり耳への収まりは浅い。だが、「TUNE FLEX」は耳の溝に引っかけるように装着する形なので、意外にも耳からポロっと落下することはなかった。開放型イヤーチップは遮音性が非常に低く、イヤホンを装着した状態でも周囲の音がほぼそのまま飛び込んでくる。音漏れも一般的なイヤホンと比較すると大きい部類だ。
開放型イヤーチップの状態
これを密閉型イヤーチップへと交換してみると……予想外ながら密閉型イヤーチップに交換しても遮音性はあまりなく、周囲の音もそれなりに入ってくる。密閉型イヤーチップであっても耳穴の奥に詰め込むような形でなく、開放型に近い浅いデザインとなっているためか、耳に軽くふたをする程度の遮音性しかないようだ。一般的な音量で音楽を流してみても、余裕で外の音を確認できるくらい。さすがに音漏れは密閉型のほうが抑えられているが、それでも一般的なカナル型イヤホンよりも音漏れする点は注意したい。
密閉型イヤーチップの状態
「TUNE FLEX」はアクティブノイズキャンセリング対応なので、“圧迫感の少ない低めの密閉性にしつつ、アクティブノイズキャンセリングでカバーする設計思想なのでは?”と思ったのだが、ノイズキャンセリングを屋内、街中、電車内で試してみたものの、どうやらそうでもなさそうだ。
「TUNE FLEX」は基本的にはアクティブノイズキャンセリングか外音取り込みをオンの状態で使うことになるが(オフにするにはアプリ操作が必要)、開放型のイヤーチップでアクティブノイズキャンセリングをオンにしても、ノイズ低減効果はとても小さい。アクティブノイズキャンセリングをオンにしたままでイヤホンを付けたり外したりしても差分がほとんどないのだ。密閉型イヤーチップの状態だと、アクティブノイズキャンセリングオンでは全帯域の騒音を少しだけ落とすのだが、たとえば電車の走行音など重低音寄りでそれなりに大きい騒音だと、結構聴こえてきてしまう。
周囲の騒音が大きいだと、密閉型イヤーチップに変えてアクティブノイズキャンセリングをオンにしても騒音が耳に入ってくる
アクティブノイズキャンセリングは、「JBL Headphones」アプリからノイズ低減する周波数帯域違いで6種類のモードから設定を切り替えできるのだが、ある程度の騒音レベルを超えるとノイズ低減効果が薄まる感じだ。利用するシーンの騒音レベル次第ではあるが、ある程度大きい騒音環境下ではアクティブノイズキャンセリングの効果はあまり期待できないかもしれない。
街中で装着していても基本的に周囲の音が全部入ってくる
ちなみに、「TUNE FLEX」にはアンビエントサウンド(外音取り込み)の機能がある。ただ、アンビエントサウンドの状態では、マイクで取り込んでいることがはっきりと確認できる感じでホワイトノイズが入ってしまう。開放型イヤーチップ装着時はアンビエントサウンドを使わなくても周囲の音を確認できるし、密閉型イヤーチップ装着時もそれほど遮音性が高いわけではないので、これが活躍する機会もあまりないかもしれない。なお、会話用に音量を下げるトークスルーの設定も利用可能だ。
ここからは、「TUNE FLEX」の気になるサウンドをチェックしていこう。対応コーデックはSBC/AACなので、今回はiPhoneを組み合わせて検証している。
まず、開放型イヤーチップでYOASOBI『三原色』から聴いてみる。音空間が頭外まで広がり、音楽に包まれるライブ志向のサウンドだ。若干高域側がナローで解像感が物足りず、手放しで最高音質だと言えるタイプではないが、歌声も存在感があって小音量リスニングも得意。BTS『Dynamite』では空間を満たす重低音がズンズンと響く。楽器の音の位置や距離感も頭の外まで広がっていて、開放的な音楽リスニングを楽しめる。開放型としてはまさに絶妙なチューニングと言えるだろう。
iPhoneとペアリングして音質テスト
続いて、密閉型イヤーチップをチェックしてみる。イヤーチップを密閉型に交換し、アプリから「イヤーチップを開く」(オープン型のこと)から「シーリングイヤーチップ」(密閉型)へと切り替えると、サウンドのバランスが少し変わり高域までシャキシャキとした伸びが出て、細かな音も鳴って躍動感がアップする。ただ、楽器の音の情報量は多くないので、密閉型のほうが解像度の低さが多少目立つ。個人的には開放型のサウンドのほうが好みだ。
密閉型イヤーチップでも音質テスト
さらに、「TUNE FLEX」を使っていて音質面での課題にも気が付いた。それは、電車内での音楽リスニング時のバランス。イヤーチップを開放型にしても密閉型にしても遮音性がそれほどなく、アクティブノイズキャンセリングの効果も弱いため、電車走行中には外音に負けてしまう。音楽を流しても重低音がマスキングされて、中高域のみが聴こえてくるため、音質面では残念な状態に。音量を上げて解決しようとすると音漏れがあるので、これも非推奨。電車内では、音量控えめで軽やかなサウンドとして聴くことになりそうだ。
もうひとつ、「TUNE FLEX」のマイク性能についてもレポートしておこう。今回はMacBook Airと接続してテストしてみたが、マイク音質的に最高というわけではないが、男性の低めの声まで拾っていて実用になる水準。テレワークでオンライン会議などが増えているが、「TUNE FLEX」は軽い付け心地で耳も痛くなりにくいので、長時間のオンライン会議などでも積極的に使っていけそうだ。
「TUNE FLEX」はマイク性能もしっかりと担保されており、オンライン会議にもどんどん使っていけそう
このほか、「TUNE FLEX」には、アプリ「JBL Headphones」から使える「スマートオーディオモード」という機能も用意されている。“オーディオモード”から”ビデオ”に切り替えるとリップシンククオリティが上がるという説明があるので、これはいわゆる低遅延モードのことだ。実際に価格.comマガジンのYouTube動画で確認してみると、“オーディオモード”では映像と音のズレがはっきりわかったものが、“ビデオ”がかなり低減されていた。動画視聴時などにぜひ使いたい機能と言える。
音ズレを低減する「スマートオーディオモード」は動画視聴で活用したい
カッコいい外見とスペックから高い期待値を持って検証をスタートした「TUNE FLEX」だが、まとめとして最初に語るべきはイヤーチップを密閉型にしても遮音性はそれほど高くなく、アクティブノイズキャンセリングの効果もやや弱いので、「TUNE FLEX」を評価するには、通常の完全ワイヤレスイヤホンから発想の転換が必要だということ。
「TUNE FLEX」は、常に外の音が聴こえる“ながら聴き”に特化したイヤホンなのだ。開放型、密閉型のイヤーチップ交換も、アクティブノイズキャンセリング機能も、“ながら聴き”としての聴こえ方を微調整する目的のものであって、カナル型イヤホンのような音楽に集中するリスニングは最初から想定していない。「TUNE FLEX」は、穴あき構造で話題になったソニーの「LinkBuds」、アップル「AirPods」などと並べて語るべき製品なのだ。
そんな理解で「TUNE FLEX」を語ると、評価は一気にポジティブになる。開放型イヤーチップを付けた時の装着感は軽いし、周囲の音の聴こえ方も自然でまったくストレスがない。音質面でも開放的で軽やかな音楽リスニング用途向きとして個人的には気に入った。
予想外の結果ではあったが、「TUNE FLEX」は今どきの“ながら聴き”音楽リスニングスタイルに向けた製品としては大いにアリだ。くれぐれも、通常のアクティブノイズキャンセリング搭載の完全ワイヤレスイヤホンだと間違えて購入しないように。
デザインだけじゃなく使い方も新しい1台
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。