今、ホームシアターの新勢力として存在感を増しているSonosから、9月14日に同社最小サイズのサウンドバー「Sonos Ray」が、10月7日にサブウーハーの「Sonos Sub Mini」が登場した。今回は最新の「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」の組み合わせで実機レビューをお届けしよう。
「Sonos Ray」と「Sonos Sub Mini」を組み合わせた実機レビューをお届け
「Sonos Ray」は薄型テレビと組み合わせるサウンドバーだが、Sonosの元の出自はホームシアターやサウンドバーのブランドではない。本来得意としてきた製品は「Sonos One」などのWi-Fi対応スピーカーなど音楽リスニング向けのスピーカー。「Sonos Ray」には、そんな同社の立ち位置が顕著に表れた、正直言ってかなりクセあるサウンドバーだ。
「Sonos Ray」は直販価格で39,800円となっており、Sonosのサウンドバーとしては最も安いモデルとなっているが、国内のサウンドバー市場は大手メーカーでも2万円台のエントリーモデルを取り扱っていることも多く、決して激安と呼べるほど安くはない。また、サブウーハーの「Sonos Sub Mini」は直販価格で64,800円と「Sonos Ray」本体よりさらに高い値が付いている。「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」の直販価格を単純に足し上げると合計104,600円、セットで考えると、サウンドバーとしては結構なハイエンド製品というところを最初に押さえておきたい。
Sonosサウンドバー史上最小サイズの「Sonos Ray」
「Sonos Ray」の外見は幅559(幅)×95(奥行)×71(高さ)mmというコンパクトボディで、ボディの中に2基のミッドウーハーとツイーターを搭載。これがSonos史上最小サイズということである。そして重要なポイントはサウンドバーとしても最低限の機能に絞っていること。
まず、「Sonos Ray」の入力端子は光デジタル入力のみだ。2022年に発売されるサウンドバーとして、1万円以下の激安サウンドバーを除けばほとんどがHDMI端子(特にHDMI ARC端子)を搭載しているので、39,800円のサウンドバーとしてはかなり割り切った仕様。海外では279ドルなので、円安の影響で割高に見えるところはあるかもしれない。
入力端子は光デジタルのみとかなり潔い仕様だ
対応する音声フォーマットはステレオPCM、Dolby Digital 5.1、DTSデジタルサラウンド。後者2つは公式サイトに「認定デコーダーを示すものではありません。」と注釈があるが、動作上対応している。ただ、光デジタルは古い技術でロスレスの5.1chは入力できないし、Dolby Atmosにも対応しない。なお、日本の地デジ放送に必要なAACにも対応していないが、これは光デジタルの制限ではなくSonosファミリーの仕様上の制約だ。
こう説明していくと「Sonos Ray」を残念な製品と思うかもしれないが……「Sonos Ray」にはほかのサウンドバーにはない強みがある。それがSonos製品のアイデンティティともいえる強力なWi-Fiによるネットワーク音楽再生機能、そしてAirPlay対応であることだ。「Sonos Ray」にはリモコンも付属しないので、初期設定からすべてアプリ経由でスマホアプリからをWi-Fiに接続、Sonosアカウントを登録してルームを登録すると、Sonosの音楽再生機能、そしてAirPlayによる音楽再生も可能になる。
セットアップ段階からSonosアプリを利用
価格.comマガジンでは過去に「Sonos Beam」(https://kakakumag.com/av-kaden/?id=17771)や「Sonos Arc」(https://kakakumag.com/av-kaden/?id=16490)、そして「Sonos One」(https://kakakumag.com/av-kaden/?id=14633)もレビューしているが……セットアップの流れはまったく同じ。そして、これらのSonosファミリーのスピーカーと同じアプリに登録すると、複数の部屋で同期して音楽を流すような使い方もできる。これはマルチルームと呼ばれる欧米でSonosが絶大な人気を誇る理由となっている機能なのだが……日本ではあまり需要がないようだ。
そして、もうひとつユニークな存在が「Sonos Sub Mini」だ。「Sonos Sub Mini」は製品自体としては「Sonos Ray」専用品ではなくSonosファミリーのほかの機種も含むオプションのサブウーハーであって、音楽リスニングも想定している。230(直径)×305(高さ)mmの円柱型で、「Sonos Ray」と組み合わせるとやや大きめサイズと呼ぶべきか。
本体に穴がぽっかりと開いた「Sonos Sub Mini」
外見にも特徴があり、スピーカー本体に反対側が見える大きな穴が開いており、その内側に2つの6インチウーハーを内側で相対して搭載。これによりフォースキャンセリング、つまり振動を抑える構造なのだ。この振動の抑える効果がすばらしく、音楽を流して重低音がズンズン鳴っている状態で手を触れても「Sonos Sub Mini」からはまったく振動を感じないほど。
手で触れても振動をまったく感じない
なお、「Sonos Ray」に「Sonos Sub Mini」を追加する操作もアプリ上から操作する。「Sonos Sub Mini」自体もWi-Fi(有線LANも可能)で接続する仕組み。サウンドバーとサブウーハーの接続まで(独自の無線ではなく)Wi-Fi接続というのは業界内を見回しても結構レアな存在だ。
ネットワークを通して「Sonos Ray」に「Sonos Sub Mini」を追加
「Sonos Ray」「Sonos Sub Mini」の設置を済ませたら、スマホを手にリスニング位置で測定、その後スマホを持って部屋中を歩き回り、音響環境に合わせてサウンドチューニングを行う自動音場補正機能「Trueplay」を実行する。これがSonosファミリーの高音質への評価を支える部屋の音響特性を測定し、音質チューニングを行う機能。実行にはiPhoneなどのiOSデバイスが必要で、Androidスマホでは実行できないことは要注意。
iOSデバイスのマイクを利用した自動音場補正機能「Trueplay」。Sonos製品の導入で必要な儀式だ
あとはテレビと接続して「Sonos Ray」「Sonos Sub Mini」の高音質を体験するだけ……と言いたいところなどだが、考えるべき問題がいくつかある。
まず、「Sonos Ray」とテレビとの接続。光デジタルなので、大抵のテレビとは難なく接続できるのだが……AAC音声に対応しないため、地デジの音声も流すためにはテレビ側の設定をリニアPCMにすることが推奨されている。ただ、出力をリニアPCMに固定すると、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどのDolby Digital 5.1サラウンドなどの音声は伝送できなくなってしまう。
ただ、僕が今回接続したTVS REGZAのレグザシリーズをはじめ、大手メーカーのテレビであれば、デジタル音声の形式を「オート」に設定しておくと、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどはDolby Digital 5.1chで出力しつつ、地デジのAAC音声はリニアPCMに変換して出力してくれる。「Sonos Ray」をフルに使いこなすには、テレビ側がこの設定を持っていることが必須なので、購入前に手元のテレビで確認しておいたほうがよさそうだ。
テレビ側でデジタル音声出力の設定に「オート」がないと活用が難しい
それから音量操作に関しても注意点がある。先にも触れたとおり、「Sonos Ray」にはリモコンが付属していない。そして光デジタル出力には音声操作する仕組みがなく、テレビ側のリモコンで音量操作はできないので、音量操作の方法をしっかりと検討しておく必要がある(ちなみにHDMI ARC端子は音量可変かつ音量を操作する仕組みがある)。Sonos推奨の使い方はテレビ側の音量を0に固定して、「Sonos Ray」の音量を操作するスタイルだ。
「Sonos Ray」で間違いなく使える音量操作の方法は、本体にあるタッチボタンで音量+/-の操作をする方法。もうひとつはスマホでSonosアプリを開いている状態か、AirPlayなどで音楽を再生している状態でスマホの音量ボタンを使う方法。
本体上のタッチ操作で音量操作
アプリを開いた状態でスマホの音量上下ボタンで操作も可能
そして「Sonos Ray」の本体にはテレビのリモコン信号を学習する機能があるので、この仕組みでテレビのリモコンで音量操作をすることも可能……なのだが、実際に我が家のレグザのリモコンは学習させて操作することができたが、リモコンを向けて操作するとテレビ側の音量も一緒に動いてしまい結構不便だった。テレビ側にミュート以外の手段で音量を0で固定する機能が存在しないと扱いにくい。ちなみに日本で売られているテレビの大部分にこの機能はない。
テレビのリモコン学習も可能だが、テレビ側も動いてしまうので不便
僕自身、いろいろと試行錯誤もしたのだが、最終的にスマホアプリで音量操作をするようにした。ただ、たとえばスマホを充電しながら映画を見ていていたらすぐに音量操作できないし、電話が鳴った時にすぐにミュートにできないところなど、不自由を感じることが多々あった。
「Sonos Ray」音量操作問題を本気で解決しようと、“Sonosと接続したテレビと別メーカーのテレビのリモコンを用意して、そのリモコン信号を学習させてSonos Rayの音量操作専用に使う”というトンデモ解決策を思いついた。ただ、実際にやってみるとすべての赤外線リモコン信号を学習するわけではないようで、テレビでも対応メーカーが限られるので(たとえばシャープ製テレビのリモコンを試しても学習不可だった)、これも解決策にならなかったことも付け加えて報告しておこう。
音質面については、なかなかの実力派だ。まずは「Sonos Ray」のみの状態でテレビ放送のサウンドをチェックしてみたが、ナチュラルで伸びやかなバランス志向のサウンドだ。ニュースやアニメだと、人の声の情報量を見事に再現している。続いて、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』でサラウンドをチェックしてみたが、Dolby Digital 5.1サラウンドながら、躍動感ある音をしっかりと再現できていた。Sonosは米国メーカーなので、BOSEのような迫力志向のサウンドを想像しがちだが、サウンドの傾向は正反対でナチュラルかつバランス志向、情報量志向を徹底している。
Netflixでサラウンド配信されている対応コンテンツであれば、Dolby Digital 5.1サラウンドで楽しめる
そして「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」のサウンドを体験してみると、音質のアップグレード具合に驚く。ただの地デジ放送のニュース番組やアニメなのに、伸びやかな人の声の美しさと人の声の定位感がすばらしい。「Sonos Sub Mini」が加わると帯域バランスがよくなり、一体型スピーカーのように音質が向上するようだ。Netflixの『ストレンジャー・シングス』も、空間を満たすような重低音の再現が抜群にうまい。音が回り込むサラウンド的な表現が得意というわけではなく、あくまで画面のある前方方向の情報量を重視し、高さと奥行きの立体感を精緻に再現する感じだ。そんなストイック志向な高音質なので、Hi-Fiオーディオ用スピーカーでのサウンド体験に似ている。PS5でゲームを体験してみても音は回らないが、とにかく音分離のよいサウンド体験は同じだった。
PS5のゲームも体験。音質はよいが、サラウンドは後ろまでは回らない
ネットワーク再生については、Sonosアプリによる登録とAirPlay 2によるネットワーク再生を利用可能。利便性を考えると、音楽再生アプリから直接操作できるAirPlayのほうが扱いやすいだろう。さっそく、iPhoneからYAOSOBI『三原色』を選んで再生してみると、躍動感と音の広がりのあるサウンド。歌声の聴こえ方もクリアで、なかなかの実力派だ。続いてBTS『Dynamite』を流してみたが、ハイキーで気持ちよく伸びる歌声、そして音の止めのメリハリを効いた再現、そして深くタイトルな低音の再現性が抜群に気持ちいい。楽曲の持ち味を余すことなく引き出す、コントロールのしっかりと効いた音質だ。そして、圧倒的だと感じたのがビリー・アイリッシュ『bad guy』。あの空気を振動させるディープな重低音を完璧に再現しているのに、空気のみを震わせ、部屋には振動による影響がまったく及ばない。この音が目の前の「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」から再生されていることが信じられないと言いたくなるほど、どこまでも計算尽くされた音楽体験が味わえる。
ビリー・アイリッシュ『bad guy』はここまで再現できるのかと驚きだった
「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」は、良し悪しがハッキリと語れる機種だ。よいところは、そのサウンドクオリティ。「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」の組み合わせは10万円もするのだから高音質なのは当然と言えば当然だか、よくある迫力重視のサウンドバーではなく、ハイエンドのHi-Fiオーディオ風に完璧チューニングされた高音質であるところは褒めるべきポイントだろう。
「Sonos Ray」+「Sonos Sub Mini」の組み合わせは音質面では文句なし
だが、どうしても気になってしまうのは、「Sonos Ray」はテレビと接続するサウンドバーとしての使い勝手の悪さだ。これはHDMI ARC端子を採用せず、リモコンまで省いてしまったところがダブルパンチで効いている。ユーザーが自分ひとりだけなら色々と工夫してカバーできるが、リビングに置いて家族も触れるケースでは、まず使いこなせない。
もっとも、SonosアプリやAirPlay経由で音楽を聴く用途であれば、スマホが手元にあるので音量操作に困ることはない。ただ、テレビ接続をまったく考えないのであればWi-Fiスピーカーの「Sonos One」(直販価格31,800円)を選べばいいわけで……「Sonos Ray」はなんとも評価の難しい製品だ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。