マランツが新AVアンプ「CINEMA」シリーズを発表したことは既報のとおり。AVプリアンプとパワーアンプを分離した、セパレートタイプの「AV10」「AMP10」コンビは2023年発売予定。それに連なる注目製品が「2022東京インターナショナルオーディオショウ」で参考展示された。2023年発売予定の一体型AVセンター、デノン「AVC-A1H」だ。
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15chアンプを内蔵したデノンの最上位AVアンプ「AVC-A1H」。発売日、希望小売価格などは未定
ご存じのとおり、デノンとマランツは「D&Mホールディングス」が展開するブランド。つまり、同じ会社がふたつのブランドを持っている状態ということ。近年ではマランツはセパレート型、デノンは一体型AVセンターで最上位モデルをラインアップすることで一種の棲み分けをしていた。その風習を踏襲して、デノンが待望の一体型最上位モデル「AVC-A1H」をお披露目した格好だ。
実はすでにアメリカのホームシアター系展示会「CEDIA Expo 2022」で展示されていた製品だが、その反響が大きかったのか「2022東京インターナショナルオーディオショウ」でも急遽展示とデモンストレーションが決まったという。
仕様のすべてが明らかになったわけではないが、当日明かされた内容は以下のとおり。なお、北米市場では「AVR-A1H」というラジオチューナー入りモデルが発表されている。こちらの希望小売価格は6,499 USドル。基本的には同スペックの製品だと考えてよいだろう。
「AVC-A1H」主要スペック
●15chアンプ内蔵
●最大出力は260W(6Ω、1kHz、THD10%、1ch駆動時)
●最大15.4chプロセッシング対応(最大9.4.6対応)
●Dolby Atmos、DTS:X、IMAX Enhanced、Auro-3D、MPEG-4 AAC、360 Reality Audioなどに対応
●HDMI入出力はすべて40Gbps(8K/60Hz、4K/120Hz)対応
●プリアンプモード搭載
●サブウーハー最大4本による「指向性」モード搭載
「AVC-A1H」の背面パネル。特徴的なのは、サブウーハー用のプリアウトがXLR/RCAともに用意されていること。しかもこのXLR端子は別のch用にアサインもできる。フロントスピーカー用のパワーアンプにXLR端子しかない、という場合などに重宝するだろう
さて、この「AVC-A1H」はデノン110周年記念モデルとして企画された「AVC-A110」をさらにブラッシュアップし、最新の機能を搭載した、と考えて間違いないようだ。デノンの「A1」と言えば、歴代のAVアンプ中でも特別な製品にのみ冠される型番。2007年の一体型AVアンプ「AVC-A1HD」、AVプリアンプ「AVP-A1HD」、10chパワーアンプ「POA-A1HD」がすぐに想起されるところだ。「AVC-A1H」が2023年に発売されれば、実に16年ぶりの高級モデルということになる。
デモンストレーションの際には、設計へのこだわりの一部が紹介された。まず、デノンが一貫して取り組む信号経路の短絡化のために、4層基板を採用。ワイヤリングを避けて効率のよい経路の実現と、ワイヤーからのノイズの飛び込みを防止している。また、基板パターンの銅箔の厚みは現在の最上位モデル「AVC-X8500H」の2倍。これは「AVC-A110」でも採用された手法で、低インピーダンス化に寄与する。
15chものパワーアンプを支える電源部も当然強化されている。とにかく容量の多い電源トランスを探したところ、結果として搭載するトランスだけで質量は11.5kg。本体の質量は32kgに及ぶ(AVC-A110の質量は25.4kg)。また、「AVC-A110」でも電源部の22,000μFカスタムブロックコンデンサーの採用が話題になったが、このパーツについてもさらに検討を重ね、より大容量(33,000μF)のコンデンサーを搭載しているという。
そのほか、3層構造のシャーシを採用しただけでなく、ボトムシャーシは「AVC-X8500H」の1.4倍の厚み。脚部は鋳鉄製とするなど、剛性の強化にもこだわった。
「AVC-A1H」の内部。「DENON」の文字が記された電源トランスケースを中心として、両サイドに15ch分のパワーアンプモジュールがずらりと並ぶ。すべてディスクリート(個別)パーツで構成された同一クオリティ品だ。トランスの上が大容量カスタムブロックコンデンサー。目視できなかったが、DACチップはESSテクノロジー製の2ch仕様品を採用しているとのこと
増幅素子がヒートシンクに触れるように配置されており、効率のよい放熱を志向する。ヒートシンクとの間に見えるのは銅のプレート。これは放熱効率の向上とヒートシンクの鳴き止めを兼ねた方法で、プレートの厚みは「AVC-A110」の2倍だという。なお、隣り合ったモジュール同士で素子が互い違いになるよう、モジュールにはふたつのパターンが存在する。これも効率のよい放熱のための工夫だ
「AVC-A1H」の開発担当は高橋佑規氏。「AVC-A110」の開発担当でもあった敏腕エンジニアだ。それをサウンドマスターの山内慎一氏が仕上げた。「2022東京インターナショナルオーディオショウ」ではひと足先に試作品のデモンストレーションを体験したが、4本のサブウーハーによる「指向性」モードの効果も相まって、売り文句どおりにしっかりと低音が移動するイマーシブ(没入)感を味わえた。9.4.6構成のスピーカーをたった1台で鳴らしている、という事実だけでも驚くべきことだ。今から完成が楽しみでならない。
デモンストレーションに使われたのは、DALIの「EPICON」ならびに「RUBICON」シリーズ。サラウンドバック、フロントワイドスピーカーを含む「9.4.6」構成でDolby Atmosコンテンツを再生した
デノンが一体型AVアンプをデモンストレーションするいっぽう、マランツのセパレート型AVアンプ「AV10」「AMP10」は実機の展示にとどまった。新情報の解禁はなかったももの、ここでは現物から見えてくる情報をお伝えすることにしよう。こちらの続報も期待して待ちたい。
15.4chプロセッシングに対応するAVプリアンプ「AV10」
「AV10」の背面パネル。17.4ch分のプリアウトとしてXLR端子が並ぶ姿は壮観。HDMI端子などの並びにはデノン「AVC-A1H」との共通項が見いだせる
「AV10」の内部。トップとサイドパネルが分離した構造は「AVC-A1H」と共通した考え方だろう。中央縦にずらりと並ぶのはマランツ独自のアンプモジュール「HDAM-SA3」。現状の最新AVプリアンプ「AV8805A」と比べると、まったく異なる新設計であることがわかる。設置時には、奥行きが長いことに注意が必要になりそうだ
「AV10」の対となる16chパワーアンプ「AMP10」
北米での告知どおり、「MODEL 40n」と同タイプのハイグレードスピーカー端子が並ぶ。2chごとでバイアンプ/BTLモードを選択できるスイッチを備えている
「AMP10」の内部。やはりトップ/サイドパネルは別建てで、奥行きが長め
D級増幅ステレオパワーアンプモジュールを8個搭載し、合計16chアンプとしている。Hypex Electronics社の「NCORE」シリーズではないようだ
パワーアンプモジュールの脇には「HDAM-SA2」も並ぶ
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。