「大好きな映画を家で楽しみたい」映画館を自宅に持ち込む贅沢から始まった「ホームシアター」という趣味の世界。今ではモバイルプロジェクターや超短焦点プロジェクターの登場によって、好きなとき・好きな場所でネットコンテンツを壁に映して手軽に楽しむユーザーが増えました。でも、同じプロジェクターを使っても、スクリーンに映すと映像は全然違います。この連載ではそのあたりを、現在のトレンドも踏まえてご紹介します。
最近若い人を中心にテレビ離れが進んでいると言われます。動画と言えばスマートフォンでネット動画を見るので十分、テレビは部屋に置きたくないと言うのです。でも、映画やドラマ、ライブ映像など、大きい画面で見たいというニーズもあるはず。
そこでにわかに注目されてきているのが、プロジェクター。10万円もしないプロジェクターでも、スマホにつないで、壁や天井に映すこともできます。
購入したプロジェクターを使って最初に映すのは、きっと、白い壁紙の貼ってある壁や天井でしょう。でも、次第にもうちょっとちゃんとした画で見てみたいと思うようになるはずです。
実はプロジェクターが同じでも、それを映すスクリーンによって、映像は全然違うのです。クルマや自転車で言えば、タイヤみたいなものとでも言いましょうか。最近のプロジェクターはパワーがあるので映らなくはないけれど、実際に見比べてみると一目瞭然! むしろ「今までなんてもったいないことをしていたんだろう」と思うはずです。
なぜスクリーンが大事なのか。それは、プロジェクターがテレビと違ってひとつの光源から映像を発していること、それを何人かで共有しようとすることに由来します。
懐中電灯を壁に向けるとわかるように、正面中心が明るく、その周囲が徐々に暗くなる円形で光が映し出されます。これを映像として見るためには、隅々までムラなく映す必要があります。
プロジェクターの光は一点(図の光源)から発せられ、スクリーンが反射した光を我々は映像として認識します。スクリーンによってこの反射の仕方が異なり、後述するサービスエリアが広い製品、強く反射する(明るい映像が得られる)けれどもサービスエリアが狭めの製品など、特徴はさまざまです
また、投写映像が真っ直ぐ反射してくる「プロジェクターの真後ろ」で見る人はいません。プロジェクター本体がじゃまになって「見切れる」からです。したがって、きれいな絵が見える位置(サービスエリア)は、広くなければなりません。
プロジェクターで投写した映像は、どこから見ても同じわけではありません。特に明るさに大きな影響があるため、サービスエリアの広いスクリーンが望まれます
以上のことから、プロジェクターの光を受ける面は、映像を均一に、広く拡散しなければなりません。それがスクリーンの役割なのです。
スクリーンの表面をよく見ると、実はツルツルとした真っ平らな仕上げではありません。こうした工夫が広角度への拡散など、スクリーン性能につながります
そして次に大切なのが、平面性です。
表面が波打っていると、当然ながら映像がゆがみます。ニュースやニコニコ動画のようにテロップが横に流れる映像では、スクリーン上を白いミミズが這っているように見えるかも知れません。
布を長い棒に吊り下げたタペストリーのような「掛け図式」が、最もシンプルなスクリーンの形(機構)ですが、オモリを付けたり、引っ張ったりしてピンと張らないと絵になりません。
また、壁投写の場合、壁紙の下地がきちんと平らに養生されていなかったり、職人さんの手仕事による漆喰仕上げだったりすると、平面性の確保は厳しくなります。超短焦点プロジェクターを購入して壁投写すると、真っ先にガッカリするのはこの点でしょう。
漆喰仕上げの壁にプロジェクターの映像を投写すると、どうしてもゆがみが出やすくなります
この「平面性」を確保するため、専門メーカーのスクリーンは、丸まったりよれたりしにくいよう、幕面自体にも裏側に樹脂やグラスファイバーといった下地を加えた2重構造にしています。
表面だけではなく、裏側にもスクリーン性能確保のための工夫があります。こちらはその一例
以上に加えて、各メーカーの腕の見せ所が、色やきめ細かさの再現性です。
元々の作品が持っている細かい情報には、色の数だけでなく濃淡やグラデーション、明るく輝くところと暗く沈むところの描きわけ、4Kや8Kといった解像度が含まれます。それらは、プロジェクター側の性能もありますが、実はスクリーンとの共同作業という側面が大きいのです。
クルマにとってのタイヤやホイールと一緒で、せっかく買ったプロジェクター本来の性能を発揮するためにも、相応のスクリーン選びは大切なのです。
プロジェクター映像の醍醐味は、なんと言っても大画面。壁いっぱいに映して等身大映像も夢じゃありません。最近はテレビも大型化してきて、70V型(インチ)、80V型(インチ)なんてのも登場していますが、そんなものを選ぼうものなら部屋での存在感も金額もすごいことに……。プロジェクターで大画面投写をやるなら、大きければ大きいほどよいのでしょうか?
まず、スクリーンの大きさ選びにおいて、考えるべきことは2点あります。
ひとつは「アスペクト比」と言われる縦横の比率です。
今はスマホ向けの縦長の動画もありますが、主流のコンテンツはテレビと同じ16:9の横長でしょう。昔の日本のテレビ番組は、16:9画面内の左右に黒帯が付く4:3。いっぽうで、洋画の多くは、16:9画面内の上下に黒帯が付く「ビスタ」や「シネマスコープ」と呼ばれる横に細長いサイズです。
現在のスクリーンにおけるスタンダードなアスペクト比はテレビと同じ16:9。シネマスコープの映画ばかり見る、という映画マニアは2.35:1の「シネスコスクリーン」を選ぶこともありうるでしょう
このように、見るコンテンツの割合を考えると、ほとんど洋画しか見ないという映画ファン以外は、購入するスクリーンのアスペクト比は16:9が最もムダが少ないと言えるでしょう。
実は16:9が最適なのは、コンテンツがいちばん多いという以上に、“現実的”なサイズであるということがあります。日本の住まいに置くことを考えても、最も無理なくムダがないのです。
日本の住宅の天井高は、概ね2.5m。8〜10畳の部屋の左右にスピーカー、スクリーン下にAV機器の収納を置いたりすることを考えると、100インチ、頑張って120インチが現実的だと思います。150インチにすると高さ約1.9mで“等身大”が可能ですが、幅は約3,3m。一般家庭では、ほぼ壁一面がスクリーンで埋まってしまうでしょう(正方形の8畳間は、一辺3.4〜3.8m程度)。
スクリーンサイズを示す「インチ」とは、画面の対角線の距離を示しています。ですから同じインチ数でも違ったアスペクト比のスクリーンを買ってしまうと、部屋に収まらないことだってありえます。
4:3では高さが100インチで1.5m越え、シネマスコープでは120インチで縦が1.2mなのに横幅が2.8mにもなってしまいます。
100インチ16:9スクリーンの横幅は2,214mm。その両脇にスピーカーを置くとすれば、3,000mm程度の幅が必要になります。音質のことを考えれば、スピーカー脇には空間の余裕も欲しいところです。なお、120インチ16:9スクリーンは幅2,657×高さ1,494mm。部屋の大きさにかなり余裕が必要になる大きさです
上記のことから、映画館のような黒い枠(黒マスク)のないスクリーンを選ぶ人も最近では増えています。“黒で四隅を締める”のは、映画作品への敬意も示されますが、リビングで映画だけでなくさまざまなコンテンツを楽しむなら、部屋に合わせてスクリーンを選ぶのもよいでしょう。
イタリアで野外映画館として建物の白壁に投写しているのを見たという友人曰く、「黒マスクのない伸びやかな映像はすばらしかった」と。筆者宅でもリビングでは、漆喰白壁の一部のように、窓のサイズに仕立てたスクリーンを窓前に垂らしてディナーを囲みます。
右がアスペクトフリータイプのスクリーン。いっぽうの黒い枠のあるスクリーンにぴったりと映像を投写すると、見た目のコントラストが上がる、というメリットがあります
筆者宅リビングルームの様子。窓のサイズぴったりに合わせたスクリーンを降ろし、超短焦点プロジェクターで映像を投写しています
もちろん、スクリーンのオーダーメイドは既製品より費用がかさんだり、製品やサイズが限定されたりもしますが、「何となく100インチ」と決めつけるのではなく、きちんと住空間を測って適切なサイズ感をさぐりましょう。
なお、かつてスクリーンサイズは最適視距離との関係で2.5H(画面の高さの2.5倍離れて見るのが適切)などと語られましたが、4K映像が普及した今、近づいてもそれほどアラは見えませんし、むしろ視野角一杯に映像世界に没入して非現実を味わうのがテレビと違った大画面の醍醐味だと思うので、もっと前でかぶりつきで見ましょう!
ほとんど黒い枠のないスクリーンを使い、壁の上下いっぱいにプロジェクターの映像を投写する例
スクリーンは住まいに合わせてできるだけ大きいものをアスペクトフリーで……などと期待させておいて恐縮ですが、最後にもっと現実的な話。
実はこれまで、スクリーンの大きさをそれほど稼げなかった最大の原因は、プロジェクターの最短投写距離による制約があったからです。
プロジェクターで100インチを投写する場合、一般的におおよそ3mの投写距離が必要と言われており、8畳や10畳では部屋を縦長に使って100インチ、120インチを投写するのがせいぜいだったのです。
ところが今は、投写距離が短い短焦点プロジェクターや超短焦点プロジェクターがあります。そういったプロジェクターを選ぶことができるのであれば、投写距離の制約からスクリーンや間取りを考えるのではなく、逆に、間取りやインテリアからスクリーンやプロジェクターを選ぶこともできるでしょう。
一般的なプロジェクターを6〜10畳間で使う場合、100インチ以上のサイズを実現するためには部屋の端から端を使うことになるでしょう。エプソンのスタンダードな液晶プロジェクター「EH-TW6250」を例に取ると、100インチの最短投写距離は2,940mm。120インチの最短投写距離は3,530mm。部屋の使い方に制約があるならば、短焦点プロジェクターを選ぶことを視野に入れましょう
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングする「fy7d」代表。ホームシアターの専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、現在はインテリアとの調和を考えたシステムプランニングも行う。