リモート/テレワークという選択肢が一般化しつつある昨今、仕事しやすい自宅の環境作りに気を配る人は多いはず。筆者の場合、目下の悩みはPCモニターをどうするか?
これまではノートPCで作業をしていたのだが、自宅でPCに向かう時間が増えたため、さすがに据え置きのPCモニターがあったほうが便利だなと考えていたのだ。4K解像度さえあれば適当なのでいいか、という案もよぎったが、せっかくなのでAV趣味的な意味での画質も担保されているモデルが望ましい……。
そう考えていたところ、LGエレクトロニクスから多数の有機ELゲーミングモニターが発売されていることに気付いた。有機ELゲーミングモニターがあるならば、有機ELテレビをデスクトップに置いてもいいじゃないか、と。趣味としていちばん気になるのは画面そのものを曲げられる「ベンダブル」有機ELテレビ「LX3」だが、日本導入の告知はされていない。しかも、北米での希望小売価格は2,999USドルとなかなか高価でもある。
※追記:2022年12月1日に日本国内で「LG OLED Flex(42LX3QPJA)」が正式に発表された。
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LGエレクトロニクスの42V型「ベンダブル」テレビ。北米では「42LX3QPUA」という型番で発売されている
元々PCとの接続を前提に企画された有機ELパネル搭載のPCモニターも存在はするが、プロ向けの高価な製品であったり、AV趣味兼用としてはやや小さめ(もしくは大きすぎ)であったりすることが多い。そんな状況の中、ちょうどASUSから「世界初」を標榜する41.5型有機ELゲーミングモニター「ROG Swift OLED PG42UQ」が登場した。これを試してみてもよかったのだが、せっかくならば素性の知れた42V型4K有機ELテレビをPCモニターとして運用してみてはどうか? と思い立ったのだった。
各製品の画質差については後日公開の42V型有機ELテレビ比較レビュー記事をご覧いただくとして、どれも一定以上のレベルにあることは間違いない。そういうわけで、42V型有機ELテレビの中から、価格.com最安価格を理由にLGエレクトロニクスの「OLED42C2PJA」を選出。しばらく自宅のPCモニターとして試用してみることにした。
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「OLED42C2PJA」のオフィシャルイメージカット。メーカーとしてもゲーミングモニター用途を想定しているようだ
自宅デスクの幅は150cmなので、幅93.2cmの「OLED42C2PJA」はすんなりと収まると思っていた。しかし、実際に置いてみるとかなりデカい! PCモニターとして使う場合の印象の話ではあるが、眼前に広がる画面の大面積はインパクトがある。ただ、それで困ることはないし、この大きさにもすぐに慣れてしまった。大きめのノートPC4面分以上の画面サイズがあるので、シンプルに利便性が高く使いやすい。
「OLED42C2PJA」をデスクトップに設置。ノートPCモニターを拡張する形で使うのが基本。デスクトップには据え置き型のPCなどを置く都合上、サイズ的にはこれ以上だと大きすぎる
特に便利だと感じたのは、ウィンドウを縦長に表示できること。テキストを打つ場合や資料を確認する場合など、かなりの大面積を一度に表示/確認できるのだ。このあたりが横方向の面積が広いワイドタイプのPCモニターにはない利便性だろう。
メインで確認するウィンドウを左半分で縦長に表示し、右半分でサブウィンドウを2つ表示、という基本形に落ち着いた。なお、デスクトップの背景は単色のグレー
もちろん、これらの利便性は4K解像度に支えられている。ある程度画面が大きいので、4Kのドットバイドット表示(100%の表示)設定でいけるのではないかと思っていたのだが、さすがにそれだと文字が小さい。ノートPCと向かい合うよりも画面までの距離は少し遠いので、125%でちょうどよい具合だった。ここはユーザーの好み次第。PC側で表示の倍率を調整することになるが、あまり大きな表示にすると一覧性の高さは失われていくので、バランスを考えた設定を検討したい。
また、PC側の表示倍率と文字の大きさの設定にもよるが、文字が見づらい場合には、テレビ側の超解像やシャープネスの項目を調整してみるのもよいだろう。文字の細かいドットが強調されて不自然になっている状態を改善できることがある。テレビをPCモニターとして使う場合には画質モードや画質補正の選択にも注意したい。
暗い部屋で使うので、画質モードは「エキスパート(暗い空間、夜間)」に固定。あまり画質補正を加えない、モニター志向のモードだ。さらに、明るさは適宜落としている
詳細設定から「鮮明度」を確認。「シャープネスの調整」が上がりすぎていると、文字が見づらくなることがある。画質モードに応じて確認と調整をしておきたい
ここで忘れていたわけではない、もうひとつ重要なポイントは有機ELでは「焼き付き」と呼ばれる現象が起こり得ること。長時間同じ映像を表示し続けると、その残像が永続的に残ってしまうのだ。BS/CS放送などでロゴマークが映っている場合など、それを四六時中、日常的に表示していると発生することがある。
この点は割り切りが必要だろう。メーカーでも焼き付き対策はしているが、原理的にこの問題が解決されたわけではないのだから。焼き付き対策のためにできることは以下の3つ。これをやって仕方なければ諦める、そういう気持ちがないならば、有機ELテレビをPCモニターとして使うべきではない。
1 テレビの焼き付き対策機能をオンにする(あれば)
2 暗めの画質モード/単色デスクトップを常用する
3 PCの「タスクバー」などは非表示にする
筆者のデスクトップ環境は、一分の光も入らない全暗も可能な暗い部屋のため、そもそも画質モードは暗めにせざるを得ない。LGエレクトロニクス以外のテレビを使う場合でも同じように暗めのモードを選び、必要に応じて輝度(明るさ)を下げていくとよいだろう。
あくまで推測でしかないが、上の3つを守れば「焼き付き」の危険性はかなり低減できるはずだ。そもそも固定した常時表示をせず、長い時間表示が止まっている場合にはテレビ側でケアしてくれるという2段構え。これでダメならば、まさに仕方ないというもの。
LGエレクトロニクスの有機ELテレビには「OLEDパネルケア」という項目がある。これが「焼き付き」への対策項目だ
軽度の「焼き付き」の対応として「ピクセルクリーニング」がある。以前は「パネルノイズクリア」という名称だった。症状がない限りは実行の必要はない。予防で確認すべきは「画面移動」。映像中に長時間静止している部分がある場合に、その部分をピクセルレベルで動かすという機能だ。そのほか、テレビ放送向けの機能として、「ロゴの明るさを調整する」という機能もある。これは特定の局の放送番組で映像の端にロゴが表示され続ける場合に、その部分の輝度を下げるというもの
Windowsならば「タスクバーをすべてのディスプレイに表示する」を「オフ」。拡張ディスプレイとして使う限りは、基本画面に何も表示されないことになる。MacならばメニューバーやDockを自動的に隠す設定にするとよいだろう
ここまでは画面が大きいととても便利、という話。そしてここからは、趣味のAV機器としてどうなのか、という話。正直なところ、満足度は想定以上だった。
部屋を全暗にしたうえで、画面ににじり寄って見る映画の没入感が非常に高い。自宅AV用のメイン映像表示機器がプロジェクターであるため、ひとつの基準器的存在として、有機ELテレビを導入したい、そう思わせるコントラスト感が魅力だ。内蔵スピーカーの音質については、デスクトップに置いているため反射が強く、ふんわりとした広がりが出る。明瞭な定位などは望むべくもないが、これはこれで悪くはない。
PCモニターとして企画された製品との大きな違いは、画面の表面に光沢のあるグレアタイプであることだろう。全暗にしないと、反射による映り込みが気になる点が弱点ではある。
デスクトップ環境に限った話ではないが、とにかく画質のよいPCモニターやテレビを選びたい、というユーザーは、製品選びの前に少しでも部屋の遮光を完璧に近づけることを試していただきたい。そうすれば映り込みが気にならないだけでなく、おのずとコントラスト感のある映像を得られるし、本当に微妙な差や、メーカーが謳う高画質技術の素晴らしさを100%視覚で感じられるようになるはずだから。
このまま購入してしまいそうな満足度の高さだが、調子に乗って映画をいくつか再生している際に気になる点があった。視野角によるカラーシフト(斜めから見た場合に色が変わってしまう現象)だ。これは画面に“にじり寄って”いるから起こるのだが、画面に正対していても画面端の色味が若干変わってしまう。
有機ELディスプレイでは視野角の問題は少ないといわれるが、あくまで「少ない」のであって、「存在しない」わけではない。Netflix映画「ROMA/ローマ」のようなモノクロ作品を見れば、誰にでもすぐにわかるはずだ。
ちょっと“引いて”見ればカラーシフトはだいぶ和らぐが、映像への没入感は減退する。これを解決するには、カラーシフトの少ない表面処理が施された新モデルを待つか、冒頭の「ベンダブル」テレビの登場を待ってから導入するという方法もある……。そのほかの満足度が高いだけに、この点は結構気になる。一度気になり出すと、白ベースで表示されるPC画面のカラーシフトも気になるようになってきてしまった。
設置時の距離を計測。デスク手前から画面の距離は約60cm。椅子に座った場合の視距離は100cm前後といったところ。画面両端にスピーカーを置くと、試聴位置との3点で100cm前後の正方形を作る形になり、AV的に(スピーカーシステムを聞く形として)望ましいフォーメーションができあがる
冒頭に高価だから、と敬遠してした「ベンダブル」有機ELテレビだが、「OLED42C2PJA」の基本性能がすぐれていたばかりに、より気になってきてしまった。「ベンダブル」ならばカラーシフトの弱点を原理的に克服するだけでなく、映像作品へのさらなる没入感をもたらしてくれるのではないか……。しかも、「ベンダブル」テレビ「42LX3QPUA」の北米の製品ページを見ると、テレビの映像エンジンを搭載し、eARC対応のHDMI端子を装備している。ハブ機能のあるUSB2.0ポートがあるなど、テレビとPCモニターの中間のような製品企画は個人的な要望にぴったりなのだ。
そういうわけで、「OLED42C2PJA」をすぐに購入せず「ベンダブル」テレビを待ってみることにした。とはいえやはり大きめのPCモニターがない状態は不便なので、ほかの方法を考え、ここではミニLEDバックライトの液晶パネル搭載製品を使うのはどうかと思いいたった。こちらは原理的に「焼き付き」の心配がない。
40V型前後のミニLEDバックライトの液晶テレビがあればいいのだが、日本市場では販売されていない。また、ミニLEDバックライトを採用したPCモニターは有機ELと同じく高価なプロ向けのような製品が多い。と考えていたら、Innocn(イノセン)からミニLEDバックライト搭載の27型PCモニター「27M2U」が発売されていることに気が付いた。
「27M2U」の基本スペックは以下のとおり。
●想定市場価格は69,800円(税込)
●IPS液晶パネル(解像度:水平3,840×垂直2,160画素)搭載
●量子ドット+ミニLEDバックライト搭載
●表面処理は非光沢のアンチグレア
●バックライト分割数は384
●ピーク輝度は1,000nit
●リフレッシュレートは60Hz
●電源はACアダプター式
リフレッシュレートが60Hzなのでゲーミング用途には向かないだろうが、今回の趣旨からはうってつけのスペックだ。やや画面は小さくとも、一定以上の画質を求めたいという要望に応えてくれそうではある。さっそくこちらも製品を借用し、しばらく使ってみることにした。
「OLED42C2PJA」と「27M2U」の大きさ比較。27型はPCモニターとして十分なサイズではあるが、42V型のテレビと比べてしまうと「小型である」と言わざるを得ない。「27M2U」は上下のリフトやチルト(角度調整)、スイーベル(左右の角度調整)可能なので、その点は便利
接続端子はHDMI入力×2、DisplayPort×1、USB Type-C×1
普段使いならば画質モードは「標準モード」でよさそうだが、映画を見るのであれば「C.T.設定」(色温度)のデフォルト値「ナチュラル」を「ウォーム」に変更したほうがよいだろう。やや色を乗せる脚色性も感じたので、映画ならば素直に「DCI-P3」を選ぶのがよいと思う。こちらの「C.T.設定」のデフォルト値は「ウォーム」
「ピクチャ設定」から「HDR」、「ゲーム設定」から「ローカルディミング」(ミニLEDバックライトの部分駆動)それぞれを確認。初期値ではどちらも「オフ」になっていたので、ユーザーはこの点に注意したい
問題は、「27M2U」をAV機器として考えたときの画質はどうか? 結論としては、「価格からすれば結構イケる」。上記のように「ローカルディミング」を「オン」にすると、スペックどおりと思わせる画面の明るさやコントラストを発揮してくれるし、映像におかしな脚色意図を感じないのだ。また、視野角の広いIPS液晶であることと画面が小型であることが相まって、視野角の問題はほぼ感じない。カラーシフトよりは、若干明るさへの影響があるなと思う程度だ。
そういった変に手を入れない素材のよさを感じるいっぽうで、手を入れない限界も感じた。最も大きなポイントはローカルディミングの精度だ。分割数がそれほど多くないことはともかく、特に画面全体の暗い映画再生時に、ハロ(バックライト点灯時の周辺への光漏れ)が結構気になる。刻一刻と変化する映像に追従するバックライトの動きが、フワフワと見えてしまうのだ。
発色についても色域が広いことは間違いないのだろうが、それを制御し切れているかどうかは別の問題だ。映像内の赤部分だけがギラついて見えることがあるなど、処理をあまり気にしていないような印象を受けた。
特にHDR映像については、ディスプレイの限界を超えたダイナミックレンジや色域を一種“うまく丸め込んで”表示する必要もある。ローカルディミングの精妙さも含めて、AV趣味的にはもう一声ほしいところではあった。このあたり、テレビに搭載された画質補正技術のありがたさを痛感する。
音質についても、画質と同様の感想だ。可もなく不可もないので、趣味性を求めるならば外付けシステムが必須と思ったほうがいいだろう。
ともあれ、価格のことも考えれば「結構イケる」。HDR映像であっても、このディスプレイであれば、どういう映像設計の意図があるか、はわかりそうだ。もちろん、有機ELのような漆黒や黒のグラデーションは表現できないので、それを求めるならば有機ELテレビを選ぶべきではある。そこを理解したうえならば、「焼き付き」の起こらないミニLEDバックライトを採用したPCモニター「27M2U」という選択肢は十分にあり得る。
基本操作は画面右下のハードウェアキーで行うのだが、操作のしづらさは否めない。また、写真のように電源のインジケーターが常時点灯しているのが気になった。どうしても消したい場合はシールなどを貼るしかなさそうだ
今回の試用では即決にいたらなかったが、「42V型有機ELテレビはPCモニターとして使えるか?」という問いの答えは、大いに使える! だ。PCモニターがメインディスプレイという場合には特に有用だろう。地デジ放送を見ない、という方にも一度目を向けてほしいと思う。AV製品としての画質を重視するならば、もちろんミニLEDバックライトを搭載したPCモニター/液晶テレビの動向からも目が離せない。こちらも魅力的な選択肢だ。
そして冒頭のとおり、個人的には「ベンダブル」有機ELテレビ推し。こちらの新製品にも期待したい。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。