薄型テレビの主力サイズが55V型や65V型になりつつあるいっぽう、40V型クラスの人気も根強いものがある。小さなサイズの製品のほうが価格も抑えられることが多いことも理由だが、リビングで使うにしてもあまり大きすぎないほうが好ましいと考える人やプライベートルーム・寝室で使えるテレビが欲しい人のニーズにもピタリとハマるのだ。
そのため、有機ELテレビも77V型や83V型といった大画面サイズが登場するいっぽうで、2021年には48V型、2022年は42V型のサイズが登場した。このことは、有機ELテレビの高画質を小型サイズでも楽しみたいというニーズが大きいと証明している。
42V型は、2022年の有機ELテレビ最小サイズ。現在発売されている4製品LGエレクトロニクス「OLED 42C2PJA」、シャープ「4T-C42EQ2」、ソニー「XRJ-42A90K」、パナソニック「TH-42LZ1000」を集め、比較視聴を実施した。4機種の画質の違いは、以下動画にて4K/60pで公開中
筆者が今春に初めて42V型の有機ELテレビを見たときには、映像がとても緻密で凝縮感のある映像に驚かされた。大画面の有機ELテレビとはひと味違う、業務用モニターのような精密さが印象的だった。そして、このサイズ感だと、PC用モニターとしての用途も現実的だとも感じた。42V型はデスクトップ環境ではやや大きいと感じる人は多いだろうが、20型くらいのフルHDディスプレイが4枚と考えると、決して大き過ぎはしない。イラスト制作や動画編集、デジタル写真の現像など、プロまたはセミプロの環境にはちょうどよいとも言える。なにより、映画やゲームなどをフルサイズ表示すれば、デスクトップ環境とは思えない大画面で楽しめるのだ。これはなかなか魅力的だ。
そんな新しい魅力にあふれた42V型の4K有機ELテレビ4製品を同時にお借りし、横並びで同時に比較視聴しようというのが今回の趣旨だ。同時比較することで、各社の画作りの違いや明部・暗部の階調、色再現などの違いを細かくレビューできると考えている。
まずは今回テストする製品概要を紹介しよう。有機ELパネルはいずれもLGディスプレイの最新世代パネルであり、基本的に共通と考えていい(いずれも120Hz駆動)。昨年から登場しはじめた重水素置換技術を用いることで、長寿命化や輝度の向上を果たしているし、テレビメーカー各社の有機ELパネルの使いこなしも進んできたことで、より美しい映像を楽しめるようになってきている。
画質の違いとなるのは各社の映像処理エンジンだ。これによって各社の画作りもそれぞれに異なるものになる。もちろん、主要な機能や内蔵するスピーカーにも違いはある。まずはそこを見ていこう。
LGエレクトロニクス(以下、LG)の「OLED 42C2PJA」は、上位機種の「G2」シリーズと同じ高画質エンジン「α9 Gen 5 AI Processor」を搭載したモデル。有機ELパネルは最新仕様だ。高画質機能としては、AIを取り入れたオブジェクト検出によって立体感のある映像を再現するほか、画面をエリアごとに細分化しそれぞれに最適なトーンカーブ処理を行う「ダイナミックトーンマッピングプロ」を採用している。HDR方式はHDR10/HDR10+/HLGのほか、Dolby Vision IQに対応。内蔵スピーカーは2.0chでDolby Atmosに対応する。
ネットワーク機能は、Wi-Fi内蔵でAirPlay 2にも対応。GUIは独自のwebOSによるもので、動画配信サービスにも幅広く対応する。外付けHDDを組み合わせて裏番組の録画も可能だ。そして、ゲーム機能が充実しているのが大きな特徴で、HDMI入力は4つの入力のすべてがHDMI2.1に対応する。機能としても、4K/120p入力、eARC/ARC、ALLM、VRR、NVIDIA G-SYNC、AMD FreeSync Premiumに対応。ゲーム画質モードとしてHGiGゲームモードやゲーム機能を手軽に呼び出して設定できる「ゲームオプティマイザ」も備えるほか、オンラインでゲームが楽しめる「NVIDIA GeForce Now」にも対応とかなりの高機能だ。
LGエレクトロニクスの有機ELテレビとしてスタンダードラインに位置する「C2」シリーズ。上位グレード製品として「G2」シリーズがあり、主な違いは画面の明るさを制御する「ブライトネスブースター」技術だ。なお、42V型をラインアップするのは「C2」シリーズのみ。販路限定モデルとして「A2」シリーズが存在するが、こちらのリフレッシュレートは60Hz。ゲーム用途を検討している場合は注意が必要だ
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シャープの「AQUOS OLED 4T-C42EQ2」は、最新有機ELパネルに独自の映像処理エンジン「Medalist S3」を組み合わせ、発光制御技術「Sparkling Drive」で高画質を目指す。自然で奥行き感のある映像を再現するための数々の高画質技術に加え、映像を分析して最適化する「AIオート」画質モードを備えている。HDR方式はHDR10/HLG/Dolby Visionに対応。内蔵スピーカーは「FRONT OPEN SOUND SYSTEM PLUS」で、2.0ch構成の2ウェイ仕様。ツイーターは前向き配置で、左右のフルレンジスピーカーは下向き配置ながら開口部を前向きとしてクリアで聴き取りやすい音を再現する。このユニットにはネオジウムマグネットを採用して、さらに高音質化を果たしている。
Google TVを採用しており、ネットワーク機能は多彩な動画サービスを直感的な操作で楽しめる。もちろんWi-Fi内蔵だ。外付けHDDと組み合わせ2番組同時録画にも対応している。ゲーム関連機能では、HDMI入力の4つのうち、1系統がeARC/ARC対応で、2系統が4K/120p、VRR/ALLM対応となる。
このほかの機能としては、左右それぞれ30度の向きの調節が可能なスイーベルスタンドを採用。視聴位置に合わせて向きを調整できるほか、テレビの裏側の掃除や機器の配線が便利など実用性の高い機能だ。
「EQ2」(48/42V型)および「EQ1」(77/65/55V型)は、シャープの有機ELテレビ「AQUOS OLED」のスタンダードライン。上位グレード製品「ES1」ラインとの大きな違いは、有機ELパネルの放熱構造にある。有機ELテレビで明るい映像を得ようとすると、どうしても素子が熱を持つ。そのため、各社の上位グレード製品は、独自の放熱構造を取り入れることが多いのだ
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ソニーの「BRAVIA XRJ-42A90K」は、認知特性プロセッサー「XR」を搭載したモデル。データベース型超解像技術をはじめとしたソニーの高画質技術が存分に盛り込まれており、地デジ放送の高品位なアップコンバート表示をはじめディテール豊かな映像を再現する。HDR方式はHDR10/HLG/Dolby Visionに対応。内蔵スピーカーは独自の「アコースティック サーフェス オーディオ プラス」で2.1ch構成。画面の裏側に配置されたアクチュエーターが画面を振動させて音を出すため、画面と音の出所が一致する。自動音場補正機能も備えるほか、同社の「HT-A5000」「HT-A3000」などの対応サウンドバーとの組み合わせでは、テレビ内蔵スピーカーをセンターチャンネルとして使用できる「アコースティック センター シンク」にも対応している。
Google TVを採用し、多彩な動画サービスに対応するほか、独自の映像配信サービス「BRAVIA CORE」も用意することが特徴だ。Wi-Fi内蔵でAirPlay 2にも対応する。録画機能は外付けHDDを使用し、2番組同時録画が可能。4つのHDMI入力のうち、eARC/ARC対応は1系統。4K/120p入力、VRR、ALLMには2系統が対応している。このほか、「オートHDRトーンマッピング」と「コンテンツ連動画質モード」というPS5連携機能も備える。
テレビスタンドは、極薄のスタンドが目立たないデザインの標準ポジションと、サウンドバーなどとの設置がしやすいハイポジションが選択できる。デスクトップでパソコン用のモニターとしても使う場合などにも便利そうだ。
ソニーの「A90K」(写真は48V型)は、BRAVIA有機ELテレビラインアップ中のスタンダードシリーズに属する。上位グレード製品「A95K」シリーズはサムスン電子が供給する「QD-OLED」パネルを採用したことで話題だが、「A90K」はLGディスプレイ製のパネルを採用した「A80K」に近い構成だ。とはいえ、認知特性プロセッサー「XR」を搭載するなど、48/42V型の“小型”モデルながら画質へのこだわりはふんだんに盛り込まれている
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パナソニックの「VIERA TH-42LZ1000」は、最新の有機ELパネルに独自のパネル制御技術「Dot Contrast パネルコントローラー」を組み合わせ、豊かな階調表現を実現した。製造ラインで1台ごとにパネル特性を測定し、最適なホワイトバランスと階調表現の調整を行っていることも大きなポイントだ。HDR方式は、HDR10/HDR10+/HDR10+ ADAPTIVE/HLG/Doby Vision IQに対応している。内蔵スピーカーは2.0ch構成で、フルレンジスピーカーを左右各1個搭載したスタンダードな構成。低ノイズと低歪みのため、音声処理回路を映像回路と分離して配置している。
ネットワーク機能は独自のGUIでWi-Fiにも対応。動画配信サービスへの対応も万全で、独自の多彩なアプリも用意されている。またGoogleアシスタントやAmazon Alexaのスマートスピーカー連携機能を搭載。録画機能は外付けHDDを使用し、2番組同時録画が可能だ。4つのHDMI入力すべてが4K/120p入力、ALLM/VRR、AMD FreeSync Premiumに対応。ゲーム専用のユーザーインターフェイス「ゲームコントロールボード」も備えている。
スイーベルも可能なスタンドは、裏側にあるスイッチを入れることでテレビ台に吸着する「転倒防止スタンド」仕様。地震などでの転倒を防げる安心機能で、極めて実用性の高い機能だ。
パナソニックの「LZ1000」シリーズも、やはり有機ELテレビのスタンダードラインに属する。上位グレードの「LZ2000」「LZ1800」との違いは多いが、決定的なのは、シャープと同じくパネルの独自放熱構造だろう。最上位グレードは「LZ2000」だが、「LZ1800」も2021年の最上位製品「JZ2000」と同等の構造を持っている。画質に関わる構成だけで言えば、「ウォールフィットテレビ(LW1シリーズ)」と同等品だ
ではいよいよ比較視聴の開始だ。4台の有機ELテレビは上段と下段に各2台配置。エイム電子の4K/60p対応HDMIスプリッター「AVS2-18G104」を使用して、BDレコーダーのパナソニック「DMR-ZR1」のHDMI出力を4台同時に接続。HDMIケーブルも4本すべて同じもので揃えるなど、可能な限り同じ条件で比較視聴できるようにした。有機ELテレビもわずかながら視野角の影響はあるため、同時の比較視聴だけでなく、随時移動して各テレビの映像を正面から見て確認している。
比較視聴は基本的に4製品を並べて実施。明かりをつけてリビングルームを模した環境、写真のように全暗にした環境、それぞれで画質モードを変えて各種映像ソフトを再生した。各製品の画質モードについて、明るい環境では画質を自動調整するモードないしは標準/スタンダード系を選び、暗い環境では映画/シネマ系を選んでいる
ディスクプレーヤーとして使ったのはパナソニックの「DMR-ZR1」。4K放送の録画に対応したレコーダーでもあり、同社のUltra HD Blu-ray再生機のハイエンドでもある
「DMR-ZR1」からのHDMI出力をエイム電子の18Gbps対応HDMIスプリッター「AVS2-18G104」で分岐。4画面に同じ映像を同時出力した。この都合で、Dolby Vision収録のソフトもHDR10での再生とした。各テレビにつながるHDMIケーブルはすべて同じ製品だ
まずは部屋の照明をつけた明るい環境で、BD-ROMに記録した4K放送番組やUltra HD Blu-ray(UHD BD)ソフトを見てみた。画質モードは、各機種以下のとおり。LGは「標準」をベースにAI画質調整機能をオン。シャープは「AIオート」、ソニーは「スタンダード」で「明るさセンサー」「明るさ自動調整」をオン、パナソニックは「オートAI」とし、そのほかの項目は初期設定値のまま。室内の明るさなどを検知して映像を自動調整する機能を生かした、リビングルームでの使用を想定したテストだ。
4K放送番組は、NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」とドキュメンタリー番組をいくつか見た。どちらもHLG(HDR)の素材だ。「鎌倉殿の13人」は24fps収録(1秒あたり24枚の映像を記録したもの)で暗めのシーンが多く、映画作品に近い感触だ。
映像の明るさにはそれなりの差があり、いちばん明るく鮮やかな再現となったのは、LG。色温度もやや高めだ。シャープも明るく鮮やかな傾向で黒を締めたコントラスト感のある再現だった。パナソニックとソニーは階調性重視で、強い光はきちんと光るが画面全体の明るさはほどほど。そのぶん、薄暗い室内の場面では陰影が豊かに出て、重厚な雰囲気になる。黒を締めながら階調をきちんと出しているのはパナソニックで、ソニーはパナソニックに比べるとややコントラスト感を強めたメリハリのある再現と感じた。
色の再現性はパナソニックが優位で、明るいシーンでも暗いシーンでも肌の微妙な色合いや陰影が豊かに出る。ソニーもしっかりと色は出ているが、階調のなめらかさなどでわずかにパナソニックがすぐれると感じた。シャープとLGは全体に明るいシーンでは色がやや薄くなり、肌も白く艶やかになる。逆に暗いシーンだと色が沈んだ印象になりやすい。LGは遠景まで精細感が高く見通しがよいのに対し、シャープは背景の精細感を強調しない自然な立体感のある映像となるため、同じ明るい画質傾向でも印象はかなり異なった。
明るい部屋でのシャープとLGは明暗のくっきりとしたコントラスト感のある印象になり、見映えのする映像だ。逆にパナソニックとソニーは階調表現をしっかりと出す画作りで、薄暗い室内の沈んだ色もしっかりと再現するし、着物の色や模様、肌の色も自然だ。特にパナソニックは肌の自然なトーンが美しかった。「鎌倉殿の13人」のように映画的な撮り方をしている質の高い映像では、忠実感の高い好ましい再現性だと感じた。
ここで興味深かったのは、パナソニックの「オートAI」モードの挙動だ。このモードでは、24fps収録の映像で動画補間がオフになる(設定で常に動画補間をオンにすることも可能)。24fps収録の「鎌倉殿の13人」を再生すると、パナソニックだけが本来の毎秒24コマの動きをしたのだ。
ほかの製品は動画補間がオンになっていたので、横並びの比較ではパナソニックだけ動きがカクカクとした感じになった。「鎌倉殿の13人」を毎秒24コマで見るか、毎秒60コマで見るか、このあたりは好みにもよるのだが、パナソニックなら「オートAI」で24fps収録の映画を見る場合にも、映画本来の動きになる。映画を24p表示で見たい人には便利な設定だ。
「OLED 42C2PJA」には「自動」などの画質モードがないため、「標準」モードを選択。自動調整モードを選んだのは、家庭での使われ方を重視したため。普段から画質モードを変える使い方をするのは少数派だろう。最新のテレビであれば、自動系のモードを選んでおき、あとはユーザーの環境に合わせて適宜明るさの調整をするとよいだろう
画質を自動調整する「AIサービス」のオン/オフは「機器設定」から行う。明るい環境下では、これらの機能を併用した。再生映像に応じた画質調整が「AI映像プロ」、周囲の明るさに連動するのが「AI輝度設定」、コンテンツのジャンルフラグに応じて最適化を図るのが「AI映像ジャンル選択」だ
シャープ「4T-C42EQ2」は、自動画質調整モードとして、「AIモード」を持つ。明るい環境下ではこのモードを使用した
ソニー「XRJ-42A90K」の画質モードは「スタンダード」。画質モード選択時に、簡単な解説が表示されるのは親切だ
明るさの自動調整など、自動画質調整の設定はすべて「入」とした
パナソニック「TH-42LZ1000」の自動画質調整モードは「オートAI」
続いて再生したドキュメンタリー番組は、南極の氷河や恐竜の化石の発掘現場での映像だ。ここでは、南極大陸の氷原の“青さ”の表現がかなり違っていた。LGが最も青みが強い。これは色温度が高めなせいもあるが、明るいシーンで赤や青などの彩度の高い色がより鮮やかになる傾向がある。たしかにきれいな映像なのだが、やや派手過ぎるとも感じる。シャープも氷原の青さは強めで、光の加減でほかのテレビでは緑に見える部分も青みがかる傾向があった。また、明るいシーンでの肌の赤みもやや強め。
対して、パナソニックは階調性重視で氷原の青みはやや沈んだ印象になる。しかし、白く輝く部分はまぶしいほどだし、色の変化が実にスムーズで、人物の肌の色も自然だ。ソニーも氷原を明るく精細に描き、青みも適度な再現性。このあたりが“リアル”に近いのではないかと感じる。そして、精細感が抜群に優秀で手前のフォーカス部の細やかさから遠景の微妙なボケ感まで、スムーズかつ見通しよく描く。
恐竜の発掘現場でも、土の質感や露出した化石の表面のディテール再現性はソニーが最も優秀。LGも、地面のでこぼことした感じや骨のざらざらしたディテール感はよく出ている。パナソニックはディテール感よりも骨の形状の丸みや陰影がしっかりと出る感じ。シャープはディテールが不足するほどではないが、比べると穏やかで見やすい映像だと感じた。
続いては、ビコムのUHD BD「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」を見た。8K/60fpsで撮影した東京をはじめとした各地の夜景を、4K/60fps/HDRで収録したもの。きらびやかな夜の街の街灯やネオン、ビルの灯りのまぶしさと、夜空や海、川などの暗さの対比が優秀で、ディスプレイにとってはなかなか表現が難しいソフトだ。各テレビの画質モードや設定はそのままで、自動調整画質か、標準的な画質モードを使っている。
視聴のメインソースのひとつ、UHD BD「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」。シネマカメラ『RED WEAPON HELIUM 8K S35』を使い、横浜〜東京の夜景を8K/60fpsで撮影。それをマスターにUHD BDに仕上げられた。4K/60fps収録のディスクは結構珍しい
冒頭のまだ日が沈んでいない夕方の場面では、夕焼けの見え方にずいぶんと差があった。夕焼けが赤寄りになるのがLGで、画面上の方のまだ明るい空も赤みを帯びている。シャープは、明るい空の部分が黄色に寄る印象。ソニーとパナソニックは夕焼け空も明るい部分の空の色合いも自然だ。階調のスムーズな変化はパナソニックが一枚上手で、わずかに見える雲の陰影もしっかりと描く。それに比べるとソニーはややコントラスト感を強めた印象で、夕焼け空の色のグラデーション表現のなめらかさはLGやシャープに近い。
「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」は、日が沈む直前の夕焼けから始まる。この空のグラデーションの再現から、各社に大きな違いが表れた
日がすっかり沈んだ夜の湾岸エリアのシーンになると、暗部の再現の違いがよくわかる。夜空は街灯やネオンの灯りの影響もあって完全に黒くはなく、黒に近いグレー。逆に海は真っ黒に沈み、波の動きで微妙に明るさが変化している。そんな完全な海の黒さと夜空の濃いグレーをきちんと再現していたのはパナソニック。この表現力は見事だ。ソニーも夜空を濃いグレーで表現するが、海の波間の陰影は沈みがち。シャープとLGは夜空も黒く沈む傾向。
逆に、ビルの照明やネオンの明るい光がまぶしいほどの輝くのはLG。輝度ピークの高い光の再現はなかなか見応えがある。人通りの多い幹線道路や駅周辺の明るい部分なども鮮明だ。ビルよって異なる蛍光灯や白熱灯の色もはっきりとわかる。こうした明るい部分は色も鮮やかで、特に赤色が力強い。これに対して、シャープではオレンジに近い色合いの街灯が黄色に寄るので、明るさ感と見通しのよさが出る。彩度の高い赤はあまり強めず落ち着いた色合いだ。
ソニーも輝度ピークの高さがしっかりと出るし、街灯で照らされた路面まで表情が豊か。パナソニックはギラっと輝くような街灯の明かりはやや穏やかになるが、街灯やネオンの色も自然で反射光までていねいに描く。また、ビルの影の部分までディテールがわかるような暗部の階調感もきちんと描いている。
夜景のシーンでは、黒の「沈み方」に違いが出る。解像度の高くないこの写真でも、LGエレクトロニクス「OLED 42C2PJA」がコントラスト感を重視していることをわかっていただけるだろう。詳細はYouTube動画でご覧いただきたい
明るい部屋での視聴は、視覚が明るい光に順応するし、基本的に明るく見通しのよい映像のほうが人の目にはきれいだと感じられる。そうした点からも、明るい光を力強く描き、見映えのする映像になるLGは好印象。シャープも同様で、少し薄暗いくらいのところまで見通しがよいため、総合的に見やすい印象になる。どちらも色が鮮やかに出るのも好ましいだろう。
リビングで部屋を明るくするシチュエーションが多いのならば、こうした映像が親しみやすいと感じる。ソニーはそのあたりの見映えも意識した映像だが、それでいて薄暗い部分や暗い部分まできちんと描いている。パナソニックはさらにまじめな忠実志向で本質的な表現力はすぐれるが、明るい環境だとやや地味にも感じた。
今度は部屋の照明を落とした暗室に近い環境での視聴だ。画質モードは各社の映画/シネマ系モードとする。LGは「シネマダーク」、シャープは「映画」、ソニーは「シネマ」、パナソニックは「シネマプロ」だ。
映画/シネマ系のモードは、製品によって複数の設定を持っていることもある。LGエレクトロニクスでは、明るい部屋での映画向けモード「シネマブライト」と暗い部屋向けの「シネマダーク」が用意される。いずれの場合も、「標準」よりも色温度が下がることがすぐにわかるはずだ
シャープ「4T-C42EQ2」の映像モードは「映画」。映画/シネマ系のモードでは、いずれのメーカーも色温度が下がることが共通項だと考えてよい
ソニー「XRJ-42A90K」の再生は「シネマ」モードで行った。マニア御用達のモードとして、極力元映像に手を加えない“素”の再生を楽しめる「カスタム」がある
パナソニック「TH-42LZ1000」では暗い部屋向けの「シネマプロ」を選択。明るい部屋向けには「シネマ」という棲み分けだ
このほかにソニーには元信号の忠実再現を重視した画質モード「カスタム」、パナソニックには明るい部屋向きの映画モード「シネマ」、フィルム撮影作品に適した「フィルムシネマ」がある。さらに、LGには映画制作者の意図に近い再現を重視する「フィルムメーカーモード」もある。基本的にはいずれも映画鑑賞に向いたモードではあるが、それぞれに違いがある。暗室での視聴をよく行う人は各モードを見比べて、好みに合うものを選ぶといいだろう。
まずは先ほどと同じく「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」を再生する。さすがにどのモデルも黒をきちんと締めながらも暗部の階調性をしっかりと描いている。液晶テレビでは太刀打ちできない映像で、どのモデルも基本的な実力が高い。しかし、夜の湾岸エリアの場面を見ると、薄暗い部分の表現に違いが出てくる。
港付近のコンテナ置き場を見ると照明の当たらない部分はずいぶんと暗いが、そこを少し明るくして見やすくしているのがソニーとシャープ。パナソニックとLGは薄暗い感じを忠実に再現しているが、色が沈んでしまうLGはやや見通しが悪い。暗所の色もしっかりと描くパナソニックは薄暗いながらも見通しのよい絶妙な表現だ。
ビルの屋上などで光る赤い光は、LGの「真紅」と言える再現はかなり正確。シャープは赤みがかなり強く、「真紅」と言うよりはやや青みを帯びた色になる。LG、シャープともにネオンサインの青も強めで、彩度の高い色がやや派手な印象になる。
いっぽうで、強い光をあまりギラギラさせず、点滅時の色の変化まできちんと描くのがパナソニックとソニー。ソニーはビルの窓の灯りの色の違いの描き分けも正確だし、ペントハウスの部屋の中まで見通せるような精細感の高さで、細かな部分まで実に緻密。パナソニックも精細感は十分だが、窓の奥の部屋のひとつひとつを見るというより、ビル全体の形状やその陰影を含めて見ていたくなる感じ。明るい窓と暗い外壁の陰影の違いまでていねいに描いていて、ビル群のシルエットなどもしっかりとわかる。映像を景色として美しく再現している。
全暗環境での視聴では、暗部の再現性をよりつぶさに確認できる。照明のついた部分がどれほどの明るさで、どのような色に見えるか、同じ夜景でも微妙に異なる
面白かったのは、ナイター用の照明で照らされた競技場のシーン。夜の競技場の芝生が鮮やかに照らされているのだが、LGは実に鮮やかなグリーンとなり、シャープはそこにやや黄色味が加わる印象。パナソニックとソニーがグリーン過ぎず、適正と思われる色合いだと感じた。
暗部の再現性では、最も忠実度の高い階調表現となるのはパナソニックで、ソニーとシャープは暗い部分をやや明るくして見通しをよくする傾向を感じた。また、ソニーは色再現が忠実で、シャープはやや色が沈む。それらに比べるとLGは暗いシーンは苦手で色も沈みがち。逆に明るい部分の見映えで印象づける画作りと言えそうだ。
今度は映画だ。暗部の再現のチェックという意味で、2022年の映画では映像的に最も“暗い”と思われるUHD BD「ザ・バットマン」を見た。各社ともにかなり優秀だが、やはり微妙な差は出る。
冒頭での駅構内の薄暗い通路でのギャングたちによる襲撃シーンを見ると、パナソニックは暗部をしっかりと締めながら階調性が豊かで、暗部の色もしっかりと出る。ソニーは真っ黒の最暗部がほんの少し浮いて(白んで)しまうが、暗部の色は出ているし見通しもよい。シャープはやはり最暗部が浮き気味になり、見通しがよいとは言えるが、色はやや沈む。LGは黒の締まりや階調表現でなかなか健闘しているが、色が沈んでしまうのが惜しい。
バットモービルでのカーチェイスのシーンでは、闇の中からエンジンを轟かせてバットマンが登場する。黒いシルエットのディテールまで見えるのがパナソニックだ。ソニーはシルエットが際立つがディテールはやや沈みがち。シャープはボンネットから見える炎のような光が鮮やかだが、車体は黒くつぶれがち。LGではボンネットの炎が際立ち、背後にわき上がる排気のスモークも真っ白に光る。そのせいもあって、車体のディテール表現はつぶれ気味だった。
走行中にライトで照らされた部分には細かな雨が映る。いずれの製品も雨をしっかりと描写するが、雨の数が最も多いはパナソニック。ソニーは雨のひとつひとつがはっきりとわかるが、数は少し減るという印象だ。シャープも細かな雨まで鮮明だがライトの光がやや黄色に寄り、力強さがわずかに不足する。LGはライトが最も力強く輝くが、雨の数は減ってしまう。
こうした点を見ていても、各社が映像をどのように見せるのか、考え方の違いがわかる。忠実志向のパナソニックとソニーだが、パナソニックは階調重視で情報量が豊かになるし、ソニーは粒立ちのよさというか光の強さや雨の感じをリアルに表現しようとしている。シャープやLGもかなり健闘しているが、明るい部分を見栄えよく見せる考え方のようで、忠実感という意味ではこの作品の意図とは少し違うように感じた。
最後は、同じ「ザ・バットマン」のBlu-ray(BD)版を見た。SDRでの映画の再現をチェックするわけだ。SDRでの映像モードは、LGは、「エキスパート(暗い空間、夜間)」、シャープは「映画」、パナソニックは「シネマプロ」、ソニーは「シネマ」。暗室なので明るさに応じた自動調整はオフとしている。
SDR映像でも基本的な傾向はHDR映像と同様だが、いずれも暗部を少し明るくして見せる傾向になる。自室でテレビを見ていた議員がリドラーに暗殺される場面を再生したが、最暗部の黒をきちんとキープしつつ暗部の階調表現を見せるのがパナソニック。部屋の暗い場所でたたずむリドラーの、本来はほぼ見えないはずの姿が見えてしまうのがソニーとシャープ。LGは暗部の再現は忠実だが色は沈み気味。そのぶん、暗い室内で光っているテレビ画面の再現はいちばんまぶしく鮮やか。
明るい環境と暗い環境、テレビ放送とUHD BDソフトの実写映像と映画作品で横並び比較をしてきたが、それぞれに確かに違いはあり、各社の画作りや考え方の違いがよくわかった。
これらの印象から考えると、明るい部屋でコントラスト感にすぐれた映像を楽しむならばLGとシャープが合う。LGは暗部が沈みがちだが、色再現の忠実度が高いので明るい部屋で映画を見たい人にも向く。シャープはAQUOSらしいテレビ的な画作りを引き継いでおり、人の肌も健康的だし色のりも豊かだ。映画ばかりでなくドラマやバラエティー、スポーツもよく見るという人におすすめだ。ソニーは明るい部屋でも暗い部屋でも水準の高い映像を楽しめるバランスのよさがある。総合力としてはいちばんと言えるかもしれない。パナソニックは映画特化と言っていいほどの表現力が魅力。映画好きにはいちばんにおすすめしたい。階調表現や暗部の色再現など基本的な実力が非常に優秀なので、映画以外のコンテンツでも満足度は高い。ただし、明るい部屋ではおとなしい印象になりがちなので、「オートAI」ならば画質調整で「明るさ」と「色のこさ」を少し上げてやるといい。あるいは「リビング」モードが明るくメリハリの効いた画質なのでそれを選ぶのもいいだろう。
今回のテストでひとつだけ残念だったのは、REGZA(レグザ)が入っていないこと。42V型サイズの有機ELテレビを発売していないためだが、REGZAの有機ELテレビも実力が高いので、42V型もぜひ発売して欲しい。
有機ELテレビはどのメーカーを選んでも失敗はないほどにいずれも実力は高い。しかし、自分の使い方や好みに合わせて吟味すれば、さらに満足度の高い買い物ができるはず。42V型有機ELテレビの値段は発売当初から徐々にこなれてきて、身近になってきている。リビング用はもちろん、自分の部屋で使うパーソナル用途などで選ぶ人はもっと増えると思う。
映画やテレビ放送、そしてゲームを、凝縮感の高い映像で独り占めできる42V型有機ELテレビにぜひ注目してほしい。
映画とアニメをこよなく愛するAVライター。自宅ホームシアタールームは「6.2.4」のDolby Atmos対応仕様。最近は天井のスピーカーの追加も検討している。