レビュー

軟骨伝導イヤホンと骨伝導イヤホンはどう違う? オーテクとShokzの製品を比較してみた

オーディオテクニカから、軟骨伝導技術を採用したネックバンド型のワイヤレスイヤホン「ATH-CC500BT」が登場した。耳をふさがずに音楽を楽しめる骨伝導イヤホンは“ながら聴き派”に好評を博しているが、軟骨伝導技術を採用した「ATH-CC500BT」は、骨伝導イヤホンに対して本気聴きも可能な音質面でのアドバンテージを持ち合わせているという。

はたして、軟骨伝導と骨伝導では何が違っているのか、また、使い勝手や音質でそれぞれどういった特徴やメリットを持ち合わせているのか。今回、軟骨伝導イヤホン「ATH-CC500BT」に加えて、骨伝導イヤホンの代表としてShokz「OpenRun Pro」をピックアップ。実際の製品を使い、軟骨伝導と骨伝導、「ATH-CC500BT」と「OpenRun Pro」それぞれの特徴やメリットを確認してみたいと思う。

Shokzの骨伝導イヤホン「OpenRun Pro」(写真左)とオーディオテクニカの軟骨伝導イヤホン「ATH-CC500BT」(写真右)

Shokzの骨伝導イヤホン「OpenRun Pro」(写真左)とオーディオテクニカの軟骨伝導イヤホン「ATH-CC500BT」(写真右)

軟骨伝導イヤホンと骨伝導イヤホンは何がどう違う?

そもそも、骨伝導とはどんな仕組みを持つ製品なのだろう。すでに承知している人も多いと思うが、概していえば、鼓膜ではなく頭蓋骨を使って蝸牛(かぎゅう)に音を伝える仕組みのことだ。このため、難聴対策にも活用されているものの、対応できるのは蝸牛に伝える部分に発生している難聴で、蝸牛や聴覚神経などの障害には対応できない。難聴者の多くは大きな音を長く聴き続けていることで生じる蝸牛内の劣化が根本的な原因となっているようで、骨伝導が効果的なのはあくまで一部の人のみに留まっている。そう、現在のところ骨伝導はあくまでも音を聴くひとつの方法として活用されたリスニング向けであり、難聴対策をうたっているものはほとんどない。

骨伝導では、耳の近くに振動素子を配置

骨伝導では、耳の近くに振動素子を配置

振動素子を用いて頭蓋骨から蝸牛に音を伝える

振動素子を用いて頭蓋骨から蝸牛に音を伝える

しかしながら、耳穴をふさがない点では大きなメリットといえる。骨伝導イヤホンの振動素子は、こめかみあたりに配置されていることが多く、耳穴をふさがないため、周囲の音がしっかりと聴こえてくれる。現在主流のカナル型イヤホンは遮音性が高いため屋外での使用が厳しく、いつでもどこでも使える骨伝導イヤホンはそのこと自体が大きなメリットといえる。スポーツ選手などから利用が広がっていったのも、そういった安全性の高さが好まれた結果なのだろう。

もちろん、骨伝導イヤホンにもデメリットもある。ひとつは、音量を上げられないこと。周りの音が入ってくるため、骨伝導イヤホンからの音は小さく感じられがちで(実際には結構な音量となっている)、屋外ではBGM的に楽しむことしかできない。また、一般的なイヤホン対して、頭蓋骨内で左右の音が混ざるため音質面でも不利とも言われているし、音漏れも大きい。よいことばかりではないものの、メーカーがさまざまな努力を行い使い勝手や音質を向上させてきた、という経緯もある。その集大成のひとつが、今回取り上げたShokzの「OpenRun Pro」だ。

世界有数の骨伝導技術メーカー、Shokzが手がける骨伝導イヤホンのハイエンドモデル「OpenRun Pro」

世界有数の骨伝導技術メーカー、Shokzが手がける骨伝導イヤホンのハイエンドモデル「OpenRun Pro」

いっぽう、オーディオテクニカの「ATH-CC500BT」は軟骨伝導という新たな技術が活用されている。名前は骨伝導に“軟”がついただけで似ているが、骨伝導とはかなり異なる仕組みとなっている。実は、耳は入り口から外耳道の真ん中くらいまで円筒形の軟骨に覆われていて、しかも軽量のため、こちらを振動させることで効率よく音を発生させることができるのだという。これは2004年発表の論文によってあきらかとなり、2017年にはこの技術を応用した補聴器が作られている。そして2022年、最初のリスニング用ワイヤレスイヤホンとして「ATH-CC500BT」が登場することとなった。

軟骨伝導を用いたリスニング向けイヤホンとして開発されたオーディオテクニカ「ATH-CC500BT」

軟骨伝導を用いたリスニング向けイヤホンとして開発されたオーディオテクニカ「ATH-CC500BT」

軟骨伝導では円筒形の軟骨を用いることで、骨伝導よりも効率よく音を発生させることができるという

軟骨伝導では円筒形の軟骨を用いることで、骨伝導よりも効率よく音を発生させることができるという

当然、メリットも骨伝導と異なる。まず、骨伝導に対して振動素子を強く押さえつける必要がなく、軟骨部分に軽く接触させるだけで音が聴こえるということ。そして、骨伝導に対して音量が大きくしやすいことだ。もちろん、耳穴をふさがないので、屋外でも安心して活用できるという骨伝導と共通のメリットも有している。このように、基本的な特徴としては、仕組みの絶妙さで(リスニング用としては)軟骨伝導のほうがやや有利、といえる状況となっている。

しかしながら、実際の製品を試聴してみると、どちらが優位というよりも、どちらが好みか、どちらが自分の使い方にマッチするか、という範疇に留まっている印象だった。

まず、骨伝導イヤホンShokz「OpenRun Pro」は、振動素子をしっかりと接触させる都合上もあってか、耳掛け型というデザイン以上にフィット感が高く保たれている。そのため、脱落する心配はほとんどなく、スポーツでの利用時にも安心感がある。締め付けが強すぎる、という人がいるかもしれないが、筆者としてはそう思わなかったので、あくまで好み次第というところだろう。

なお、「OpenRun Pro」にはバンドが21mm短い「OpenRun Pro Mini」というモデルが用意されており、頭の小さい人でも高いフィット感が保てるよう配慮されている。メーカー側の対応により、骨伝導ならではのデメリットがしっかりフォローされている印象だ。このほかにも、IP55の防塵防水、デュアルノイズキャンセリング機能による音声通話、マルチポイントペアリング対応、約10時間の音楽再生が可能なバッテリー性能など、最新スポーツ“ワイヤレス”モデルならではの充実した内容を誇っている。

「OpenRun Pro」には、バンドが21mm短い「OpenRun Pro Mini」もラインアップ。こちらを活用すれば、頭の小さい人でもフィット感を得られるはずだ

「OpenRun Pro」には、バンドが21mm短い「OpenRun Pro Mini」もラインアップ。こちらを活用すれば、頭の小さい人でもフィット感を得られるはずだ

対してオーディオテクニカ「ATH-CC500BT」のほうは、もう少しやわらかい締め付けとなっている。耳掛け型なので脱落する心配は皆無だが、締め付け感がそれほど強くないのは大きなメリットといえる。

いっぽうで、最初のほうは振動素子をどの位置に置くのがよいのか迷い、オフィシャルページの画像を参考したほど。結局は、耳穴近くに落ち着いた(こめかみに近い「OpenRun Pro」に対して結構低い位置)が、収まりのよい場所ではあるものの、音色の好みによって微調整したほうがよさそうだ。

「ATH-CC500BT」の振動素子

「ATH-CC500BT」の振動素子

写真のような形で、耳穴近くの軟骨に振動素子を触れさせる必要がある

写真のような形で、耳穴近くの軟骨に振動素子を触れさせる必要がある

機能性についても、最大20時間の音楽再生が可能なバッテリー性能、IPX4の防滴性能、ノイズキャンセリング機能付MEMSマイク採用など、普通のワイヤレスイヤホンを使用している人にも違和感のないスペック内容となっている。いっぽうで、aptX HD対応など、音質にはかなりのこだわりが垣間見られる。

フォーカスのあった低域が持ち味の「OpenRun Pro」と中域重視の「ATH-CC500BT」

さて、実際のサウンドはいかがなものだろう。意外にも、優劣というよりもキャラクターが異なる印象だった。「OpenRun Pro」は、キレのよいサウンドと、(骨伝導イヤホンとしては)望外といえるしっかりとした低域の量感が特徴だ。もちろん、カナル型には比べるべくもないが、低域に確かなフォーカスをもつので、迫力が感じられる。解像感も悪くない。骨伝導イヤホンとしては、かなりのクオリティといえる。今回、比較的静かなカフェ内での試聴も試してみたが、これくらいの音質なら十分に使えると思った。

いっぽう、「ATH-CC500BT」は普通の音量で楽しめるイヤホン、といったイメージだった。音量を大きくできるのはうれしいかぎり。カフェでもしっかり音楽を楽しむことができた。特にJポップはなかなかノリのよいサウンドで、逆に盛大な音漏れがないか心配になったほど(実際は1mほど隣にいる人はまったく聴こえなかったとのこと)。

なによりも、楽曲の楽しさがしっかりと伝わる良質なサウンドがいい。ややウォームだが、中高域はダイレクト感のある音が届いてくる。低域のみ、ボトムエンドへの伸びが少々弱いが、中域重視のウェルバランスのためそれほど気にならない。低域の量感は「OpenRun Pro」こそ特殊というべきで、一般的な骨伝導に対して劣っているわけではない。振動系イヤホンの中の話なら、こと音質に関して「ATH-CC500BT」の良質さは目を見張るものがある。軟骨伝導の可能性を感じさせてくれる、注目度の高い製品といってよいだろう。

このように、軟骨伝導イヤホンには大いに可能性を感じるものの、最新の骨伝導イヤホンも捨てがたい。価格的にも近く、どちらをよしとするかは好み次第だ。装着感や音質傾向から普段使うことの多いシチュエーションに合わせて選んでみてほしい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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