薄型テレビと組み合わせることで、手軽に音質アップを図れるサウンドバー。最近はDolby AtmosやDTS:Xなどの立体音響に対応し、映画館のようなサウンドを楽しめるサウンドバーが人気となっている。そんなサウンドバーの究極の進化系としていま注目されているのが、JBL「BAR 1000」。クラウドファンディングを経て、11月25日についに一般販売がスタートした。メーカー直販価格は14万3,000円とサウンドバーとしてはかなり高価格帯な製品だが……この製品、サウンドバーの究極の進化系とも呼ぶべき存在なのだ。
JBL「BAR 1000」。メーカー直販価格は14万3,000円
数あるサウンドバーの中でも「BAR 1000」がなぜ究極の進化系なのか? というと、それは「BAR 1000」に搭載された完全ワイヤレスの“充電式リアスピーカー”という特異なギミックにある。
実はこの「BAR 1000」、普段は通常のサウンドバーとして機能しつつも、本格的なサラウンドを体験したい時には、サウンドバー本体から充電式リアスピーカー部を分離させ、リアル7.1.4chの完全ワイヤレスサラウンドシステムとして機能するのだ。
サウンドバー本体の左右に配置された充電式リアスピーカーが分離する「BAR 1000」のギミック。フロントのサウンドバー本体とは2.4GHzワイヤレスで接続される
充電式リアスピーカーは、バッテリーが内蔵されていて文字どおり充電式となっている。フロントのサウンドバー本体に装着していると自動で充電され、着脱した後も最大10時間動作させることが可能。普段使いの際はフロントのサウンドバー本体に接続した形で運用、がっつり映画鑑賞したい時などはサウンドバー本体から分離し、リアスピーカーとして活用することで本格的なサラウンドシステムとして運用できるという仕組みだ。
1台でリアル7.1.4chを再現できる「BAR 1000」
つまり、「BAR 1000」には独立して運用できるリアスピーカーもついていて、Dolby AtmosやDTS:Xにも対応、リアル7.1.4chのサラウンドシステムとして運用できるのだからサウンドバーとしてのサラウンドの再現性は極めて高いというわけだが……技術的な側面をもう少し掘り下げたい。
まず、「BAR 1000」は7.1.4chというチャンネル数をカバーしているサウンドバーだ。当然のごとく立体音響対応で、Dolby AtmosやDTS:Xにも対応している。Dolby AtmosはTrueHDのロスレス形式も対応。ちなみにDTS-HD Master Audio、地デジや4K放送のAACにもしっかりと対応している。
7.1.4chの詳細な内訳をみていこう。フロントのサウンドバー本体には、フロント3chを前向きのスピーカーユニット(2ウェイ構成のセンター/レフト/ライト用スピーカーの計6基)で、立体音響の再現に必要なハイト方向の2chを上向きのスピーカーユニット(左右計2基)で搭載しているのだが、技術的な特徴はほかにもある。
充電式リアスピーカーを合体したサウンドバー本体部には、7.1.4chのうちサブウーハーを除く合計10ch分のスピーカーを搭載
「BAR 1000」には、同社のサウンドバー「Bar 5.0 MultiBeam」でも採用された壁反射を用いたビームフォーミングスピーカーも搭載されている。7.1.4chのうちサラウンド2ch(SL、SR、つまり5.1chで言う一般的なサラウンド部分、左右計2基)は壁反射の担当領域になる。
それから充電式リアスピーカーだ。これもただのサラウンドスピーカーではなく、片側にビームフォーミングスピーカーとハイトスピーカーの2ch分(左右計4基)を搭載していて、サラウンドバック(LSB、RSB)と、高さ方向を再現するリアハイト(RTL、LTL)をカバーして合計4chを担当する。
充電式リアスピーカー。ここに左右で4ch分のスピーカーが搭載されている
そして、300Wのハイパワーアンプを搭載した250mm径のワイヤレスサブウーハーがこれに加わる。すべてを足し上げると合計15基のスピーカーを搭載。総合出力880Wというシステムは、サウンドバーとしてはまさに圧巻のひと言だ。
250mmの大口径ユニットを搭載した巨大なサブウーハーもワイヤレス接続
さて、もうひとつの注目ポイントが立体音響への対応だ。現在のホームシアターは、Dolby AtmosやDTS:Xに代表される立体音響・イマーシブオーディオ対応が当たり前になりつつあるが、これはマニア御用達のUltraHD Blu-rayのディスクだけでなく、動画配信サービスのNetflixやDisney+、Amazonプライム・ビデオでDolby Atmos対応コンテンツがラインアップされるなど、コンテンツ側がかなり充実してきたことが大きい。
それぞれのスピーカーchに対して音を割り当てるチャンネルベースのオーディオと異なり、オブジェクトベースの立体音響・イマーシブオーディオであるDolby AtmosやDTS:Xでは、それぞれの音をオブジェクトとしてとらえ、オブジェクトごとに立体的な空間上のどの位置から再生するのかを示す座標データをセットにして記録している。このデータを再生するホームシアター側でリアルタイムに演算し、立体的な空間上に再現することで、まるでコンテンツの世界にいるような臨場感あるサウンド体験を実現しているわけだ。
では「BAR 1000」の対応状況は? というと、冒頭でも述べたとおり、Dolby AtmosやDTS:Xにもしっかりと対応を果たしている。充電式リアスピーカーを分離した状態でテスト音を流し、実際のスピーカー位置を把握して自動最適化するキャリブレーション機能も搭載されており、機能面も申し分ない。
リモコン操作のみでキャリブレーションまで実行できる
サウンドバーでありながら、AVアンプとスピーカーを組み合わせて構築するような7.1.4ch環境をお手軽に再現できる製品、それが「BAR 1000」なのだ。
さて、難しい話はこれくらいにして、ここからは「BAR 1000」をサウンドバーとして普通にレビューしていこう。
65V型の有機ELテレビの前に「BAR 1000」を設置
サウンドバー部分のサイズは、充電式リアスピーカーを合体した状態で1194(幅)×125(奥行)×56(高さ)mm、分離した状態で884(幅)×125(奥行)×56(高さ)mmと、サウンドバーとしてはやや大きめ。サイズ的には、画面サイズ55V型以上のテレビと組み合わせるとちょうどいい。
付属品一式。細かなパーツはすべて壁掛け設置用で使わなかった
「BAR 1000」には、ARC/eARC対応のHDMI出力端子が1系統用意されており、最新のテレビとの接続はHDMIケーブル1本で問題なく接続できる。さらに、HDMI入力端子は3系統用意されており、サウンドバーとしてはかなり多い。いずれも、HDCPバージョン2.3、Dolby Visionのパススルーに対応しており、僕も今回はPlayStation 5を接続するのにこのHDMI入力端子を活用した。ちなみに、レガシーなテレビ向けに光デジタル端子もしっかりと用意されている。
ARC/eARC対応HDMI出力だけでなく、HDMI入力も3系統も用意されているなどかなり豪華な仕様だ
ワイヤレスネットワーク機能はWi-Fi 6まで対応しており、AirPlay 2、Spotify Connect、スマートスピーカー連携も利用できる。このほか、有線LAN端子、Bluetoothも搭載されている。なお、「BAR 1000」は専用アプリ「JBL One」に対応しているが、これはWi-Fi接続やカスタマイズ用。ホームシアター用途での利用に限れば、付属のリモコンだけで操作を完了できる。
ひとまずは「BAR 1000」をテレビにHDMIケーブルを使って接続、充電式リアスピーカー合体のままテレビの地デジ放送の音声からチェックしてみたが……実のところ、この状態でも音質はかなりいい。音の特徴としては透明感と奥行き感があり、単なるニュース番組のアナウンスでさえ音が鮮やかに聴こえるほど。ちなみに、AAC音声入力時に音量操作をすると少し音が途切れるが、こちらはたいして問題になることでもないだろう。
まずは充電式リアスピーカーを合体した状態で地デジ音声からサウンドをチェック
テレビに内蔵されているYouTubeアプリで価格.comマガジンのYouTubeチャンネル動画を視聴してみたが、ただのステレオ音声の動画なのに、音楽が入った時の音の臨場感が十分に感じられる。「BAR 1000」は中低域にサブウーハーを活用しているようで、音の厚みがとてもよくできている。ちなみに、サブウーハーの音量はリモコンからダイレクトに調整できるので、深夜の騒音対策もばっちりだ。
YouTube動画も高音質サウンドで楽しめる
続いて、「BAR 1000」の本命機能である充電式リアスピーカーを分離した状態を試してみた。充電式リアスピーカーを分離して初回設定を行う際は、リモコンの「CALIBR」ボタン長押ししてテストトーンを再生、リスニング位置と実際のスピーカー配置位置の2か所で計測が必須となる。
今回、視聴用のコンテンツとして用意したのが、UltraHD Blu-ray版『トップガン・マーベリック』。PlayStation 5を「BAR 1000」のHDMI入力端子に接続し、Dolby Atmos(Dolby TrueHD)視聴環境を整えた。
充電式リアスピーカーを分離してキャリブレーションを実施
ちなみに、上に掲載した設置時の写真を見て「なぜ充電式リアスピーカーを、こんなソファの縁に設置しているの? もっと離れた場所がよいのでは?」とつっこみたい人もいるかもしれない。だが、「BAR 1000」説明書では、リスニング位置でのキャリブレーションは写真どおりのソファの縁を指定していて、キャリブレーションする際の角度指定まである。これがリスニング位置でのキャリブレーションの本当の推奨位置だという点は覚えておいてほしい。
実際のスピーカー配置位置でのキャリブレーション。説明書では、ソファの縁で45度角度を付けたこの位置が推奨設置場所となっている
視聴環境の準備が整ったので、さっそくサラウンドを体験してみる。やはりと呼ぶべきか……「BAR 1000」による『トップガン マーヴェリック』の再現はすさまじい。映画の開始直後の空母での離発着シーンからもう、映画の臨場感がすごいのだ。まず空母の甲板上でキーンと唸りを上げるエンジン音、そして遠方の戦闘機の距離感、その音の密度がよく出る。移動する音は完全に背後まで回むし、横方向まで空間がつながって聴こえるところは、リアスピーカーのない一般的なサウンドバーとは一線を画す。ジェットエンジンが点火する音は腹に響き、しっかりと馬力が感じられるのも気持ちいい。映画館で視聴するような密度感あるサラウンドに近く、一般的なサウンドバーではなかなか再現できない領域だ。
Dolby Atmos信号を再現していることを確認
続いて、PlayStation 5『Call of Duty: Black Ops Cold War』をプレイしてみたが、戦場に鳴り響く音も、高さ方向を含む位置感がしっかりと再現されていた。わかりやすい例だと、ヘリコプターのプロペラが頭の上を通り過ぎるように下に入ってみると、背後から頭上を過ぎ、前方に通り過ぎるまでのさまが手に取るようにわかる。遠方で飛び立つヘリコプターまでの距離感や音の移動感、戦場に突入した際の銃声の位置。リアル7.1.4chの本当の価値は、このリアルさにあるのだ。
サラウンド対応ゲームの音再現も優秀
JBL「BAR 1000」を自宅にセットして体験してみたが、充電式リアスピーカーを合体したフロントのみの素の音質もよくできていたが、充電式リアスピーカーを分離した状態はサウンドバーとして別次元の製品であるということを改めて感じさせられた。後ろや斜め方向まで音がはっきりとつながり、空間を満たす音の密度がとにかく見事だった。
過去を振り返ると、サラウンドスピーカー付きのホームシアターシステムは多数存在したが、結局「後ろまで伸びるケーブルがじゃま」という身もフタもない理由で流行らず、市場からもほぼ姿を消した。最近では、ケーブルがじゃまで設置が大変という課題を解決するため、別売りのワイヤレスリアスピーカーを組み合わせるという力業で対応した製品も登場してきてはいるが、JBL「BAR 1000」は完全ワイヤレスの充電式リアスピーカーという特異なギミックでこの課題を乗り越えてきた。そのアイデアがすばらしい。
Dolby AtmosやDTS:Xにも対応し、Dolby AtmosはTrueHDのロスレス形式もサポートしている。ほかにも、4K放送のAAC対応、eARC対応、3系統のHDMI入力、Wi-Fi6、AirPlay 2、Alexa、Chromecastなど、機能面は2022年11月末時点ではほぼ死角なしと呼べるほどのものが揃っている。メーカー直販価格は14万3,000円なのでサウンドバーとしてはかなり高価格帯の製品ではあるが、価格に対する納得感も含め、今冬いちばんの注目モデルであることは間違いないだろう。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。