レビュー

自宅での「追いトップガン」はUltra HDブルーレイかApple TV(iTunes映画)で!

前作から実に36年ぶりの続編にして、世界中で高い評価を受けた「トップガン マーヴェリック」。日本での大ヒットも記憶に新しい本作だが、すでにディスクや映像配信といった形での販売/レンタルがスタートしており、家庭でも楽しめるようになっている。

そこでこの記事では、画質・音質的観点から「どうせ見るなら、◯◯で!」ということを探るべく、「トップガン マーヴェリック」を4K解像度で配信しているAmazonプライム・ビデオとApple TV(iTunes映画)の2つの映像配信サービスと、現状最高クオリティを期待できるパッケージメディアであるUltra HDブルーレイで同作を見比べてみた。

筆者のスピーカーシステムはセンタースピーカーを使わない「6.1.4」環境で、Dolby Atmosの再生にも対応する。Ultra HDブルーレイの再生にはパナソニックの「DP-UB9000」、Amazonプライム・ビデオとiTunes映画の再生には「Apple TV 4K」第2世代モデルを使用した。映像出力機器はLGエレクトロニクス65V型有機ELテレビ「OLED 65C9PJA」で、Dolby Visionにもばっちり対応する。

「トップガン マーヴェリック」を見るために何度も映画館へ足を運ぶ「追いトップガン」なる現象も生まれた2022年。ここでは、自宅で「トップガン マーヴェリック」を見るにあたってベストな選択はやはりUltra HDブルーレイなのか? 配信サービス間での違いはあるか? を検証する

「トップガン マーヴェリック」を見るために何度も映画館へ足を運ぶ「追いトップガン」なる現象も生まれた2022年。ここでは、自宅で「トップガン マーヴェリック」を見るにあたってベストな選択はやはりUltra HDブルーレイなのか? 配信サービス間での違いはあるか? を検証する

6.1chのスピーカーはすべてDYNAUDIO(ディナウディオ)製品で揃えており、フロントが「Sapphire」、サラウンドが「Emit 20」、サラウンドバックが「AUDIENCE 52」、サブウーハーが「SUB600」という構成。トップスピーカーにはイクリプスの「TD307MK2A」を4本使用している。ヤマハのAVプリアンプ「CX-A5200」から、フロントスピーカーはMOONのステレオパワーアンプ「860A v2」、それ以外のチャンネルはヤマハの11chパワーアンプ「MX-A5200」に接続する構成だ

6.1chのスピーカーはすべてDYNAUDIO(ディナウディオ)製品で揃えており、フロントが「Sapphire」、サラウンドが「Emit 20」、サラウンドバックが「AUDIENCE 52」、サブウーハーが「SUB600」という構成。トップスピーカーにはイクリプスの「TD307MK2A」を4本使用している。ヤマハのAVプリアンプ「CX-A5200」から、フロントスピーカーはMOONのステレオパワーアンプ「860A v2」、それ以外のチャンネルはヤマハの11chパワーアンプ「MX-A5200」に接続する構成だ

名前は同じでも「中身」は違う。数値から見る各サービス/ディスクの特徴

Amazonプライム・ビデオの仕様は4K/HDR・5.1ch

インプレッションに入る前に、各サービス/ディスクの各種仕様について確認しておこう。仮に映像の解像度が同じでも、圧縮形式やビットレートが違えばクオリティの差は生じ得るし、それは音声でも同じなので、実際にどのような違いがあるのか注目してみてほしい。

Amazonプライム・ビデオの映像・音声仕様は4K/HDR10・5.1ch。4K版の価格はレンタルが399円・購入が2,546円(いずれも税込)。

Amazonプライム・ビデオの「トップガン・マーヴェリック」メニュー画面。「5.1」は音声が5.1chであること、「UHD」は4K解像度であること、「HDR」はHDR映像であることを表している

Amazonプライム・ビデオの「トップガン・マーヴェリック」メニュー画面。「5.1」は音声が5.1chであること、「UHD」は4K解像度であること、「HDR」はHDR映像であることを表している

とにかく安く済ませたい、という人には視聴開始から48時間再生が可能な「レンタル」が用意される。「購入」は時間制限なし。映像の解像度によって若干価格が異なる

とにかく安く済ませたい、という人には視聴開始から48時間再生が可能な「レンタル」が用意される。「購入」は時間制限なし。映像の解像度によって若干価格が異なる

「Apple TV 4K」の「デベロッパ」設定を変更し、再生内容の詳細を確認したのがこちら。HDRはHDR10。「average bitrate」の「video」は映像の平均ビットレート。随時変化するが、オープニングのシーンでは15Mbps前後で大きな変化は見られなかった。「audio format」の「qec3」はDolby Digital Plusのこと。「average bitrate」の「audio」は音声のビットレート。「192.52kbps」。5.1chの数値としては控えめだ。なお、この画面表示にはMac用の「Xcode」による操作が必要だ

「Apple TV 4K」の「デベロッパ」設定を変更し、再生内容の詳細を確認したのがこちら。HDRはHDR10。「average bitrate」の「video」は映像の平均ビットレート。随時変化するが、オープニングのシーンでは15Mbps前後で大きな変化は見られなかった。「audio format」の「qec3」はDolby Digital Plusのこと。「average bitrate」の「audio」は音声のビットレート。「192.52kbps」。5.1chの数値としては控えめだ。なお、この画面表示にはMac用の「Xcode」による操作が必要だ

Apple TV(iTunes映画)の仕様は4K/Dolby Vision・Dolby Atmos

Apple TV(iTunes映画)の映像・音声仕様は4K/Dolby Vision・Dolby Atmos。価格はレンタルが509円・購入が2,546円(いずれも税込)。レンタルはAmazonプライム・ビデオより少々高いが、購入についてはAmazonプライム・ビデオの4K版と同額であり、各種特典映像(iTunes Extras)も付属するので、仕様面からするとかなりお得感がある。

Apple TV(iTunes映画)でも「レンタル」と「購入」が用意されるが、映像解像度によるバリエーションはない。また、Apple TV(iTunes映画)では、一度購入した映画作品がアップデートされた場合、自動でアップデートが適用されるという特徴がある。たとえば購入時に2K解像度だった作品が後日4K解像度でリマスターされた場合、購入者は追加費用なしで4K版を視聴できる。上述のとおり、「iTunes Extras」と呼ばれる特典映像も付属するので、お得であると言える

Apple TV(iTunes映画)でも「レンタル」と「購入」が用意されるが、映像解像度によるバリエーションはない。また、Apple TV(iTunes映画)では、一度購入した映画作品がアップデートされた場合、自動でアップデートが適用されるという特徴がある。たとえば購入時に2K解像度だった作品が後日4K解像度でリマスターされた場合、購入者は追加費用なしで4K版を視聴できる。上述のとおり、「iTunes Extras」と呼ばれる特典映像も付属するので、お得であると言える

映像・音声仕様の詳細を確認したのがこちら。映像のビットレートに注目すると、Amazonプライム・ビデオに比べてやや高い。「audio format」の部分でチャンネル数が「16」となっているのは、Dolby Atmosで最大「9.1.6」対応を示していると思われる。音声のビットレートは「770.22kbps」。Amazonプライム・ビデオよりも高い数値だが、チャンネル数が多いことも影響しているだろう

映像・音声仕様の詳細を確認したのがこちら。映像のビットレートに注目すると、Amazonプライム・ビデオに比べてやや高い。「audio format」の部分でチャンネル数が「16」となっているのは、Dolby Atmosで最大「9.1.6」対応を示していると思われる。音声のビットレートは「770.22kbps」。Amazonプライム・ビデオよりも高い数値だが、チャンネル数が多いことも影響しているだろう

映像のビットレートの差はDolby Visionの分かもしれないと思い、Dolby Vision非対応テレビを使って再度確認。HDR10再生しても、映像のビットレートはあまり変わらなかった

映像のビットレートの差はDolby Visionの分かもしれないと思い、Dolby Vision非対応テレビを使って再度確認。HDR10再生しても、映像のビットレートはあまり変わらなかった

筆者が使用しているヤマハのAVプリアンプ「CX-A5200」のディスプレイ。「Apple TV 4K」からきちんとDolby Atmosが入力されているのが確認できた。中身がリニアPCM(Dolby MAT)で出力されるのは「Apple TV 4K」の仕様のようだ。ただし、元のデータは「qec3」つまりDolby Digital Plus。後述する「ロッシー」仕様だ

筆者が使用しているヤマハのAVプリアンプ「CX-A5200」のディスプレイ。「Apple TV 4K」からきちんとDolby Atmosが入力されているのが確認できた。中身がリニアPCM(Dolby MAT)で出力されるのは「Apple TV 4K」の仕様のようだ。ただし、元のデータは「qec3」つまりDolby Digital Plus。後述する「ロッシー」仕様だ

Ultra HDブルーレイの仕様は4K/Dolby Vision・Dolby Atmos

最後に、Ultra HDブルーレイの映像・音声仕様は4K/Dolby Vision・Dolby Atmos。Ultraブルーレイ+ブルーレイ版の希望小売価格は7,260円(税込)で、配信でのレンタルや購入に比べるとさすがにプレミアム感がある。もちろん、特典映像付きだ。

ディスクメディアの映像・音声仕様はパッケージの裏側やオフィシャルホームページに記載されている。ただし、詳細は記載されないことも多い

ディスクメディアの映像・音声仕様はパッケージの裏側やオフィシャルホームページに記載されている。ただし、詳細は記載されないことも多い

「DP-UB9000」でUltra HDブルーレイの情報詳細を確認したのがこちら。映像のビットレートはやはり映像に応じて上下するが、平均して60〜70Mbps、ピークでは100Mbpsを越える。音声はDolby TrueHD(ロスレス仕様)の48kHz/24bitで、4.9Mbps。どちらも配信と比べるとかなり大きな数値だ

「DP-UB9000」でUltra HDブルーレイの情報詳細を確認したのがこちら。映像のビットレートはやはり映像に応じて上下するが、平均して60〜70Mbps、ピークでは100Mbpsを越える。音声はDolby TrueHD(ロスレス仕様)の48kHz/24bitで、4.9Mbps。どちらも配信と比べるとかなり大きな数値だ

Ultra HDブルーレイの音声は、ヤマハ「CX-A5200」では「Atmos/DTHD」と表示された。ここからも、Ultra HDブルーレイのDolby Atmosの中身はDolby TrueHDつまり「ロスレス」であることがわかる

Ultra HDブルーレイの音声は、ヤマハ「CX-A5200」では「Atmos/DTHD」と表示された。ここからも、Ultra HDブルーレイのDolby Atmosの中身はDolby TrueHDつまり「ロスレス」であることがわかる

配信は「ロッシー」、Ultra HDブルーレイは「ロスレス」。Dolby Atmosの「中身」について

なお、Apple TV(iTunes映画)とUltra HDブルーレイの音声はどちらもDolby Atmosではあるが、前者は「ロッシー」、後者は「ロスレス」圧縮という大きな違いがある。この用語になじみのない読者もいると思うので、ここで「ロッシー」と「ロスレス」について軽く触れておきたい。

「ロッシー」は「非可逆圧縮」を意味し、容量を小さくできるいっぽう、元には戻らない圧縮を施されたデータのこと。音楽データで多用される「AAC」のようなもの、と思ってもらえばよい。こんにちの映像配信サービスの音声は基本的に「ロッシー」となっており、たとえばAmazonプライム・ビデオは「ロッシー」のDolby Digital Plusという形式を採用している。Apple TV(iTunes映画)の音声は確かにDolby Atmosではあるが、こちらの中身は実は「ロッシー」のDolby Digital Plusとなっている。いずれにせよ、「ロッシー」である時点で、オリジナルのクオリティには残念ながら及ばない。

「ロスレス」は「可逆圧縮」(場合によっては「非圧縮」)を意味し、圧縮を経ていても、デコードによって理論上元のデータに戻るというもの。「ロッシー」に比べるとどうしてもデータ容量が大きくなるため、「ロスレス」音声の採用は事実上Ultra HDブルーレイとBDの特権となっている。たとえば「トップガン マーヴェリック」のUltra HDブルーレイが採用するDolby Atmosの中身はDolby TrueHDという「ロスレス」の音声形式であり、これにより「作品本来のサウンド」を期待できる。

【Amazonプライム・ビデオ】:4Kらしい解像感は十分に満足できるレベル。ただし、音質には不満が残る

それでは、実際の視聴インプレッションに移ろう。冒頭のテロップからケニー・ロギンスの「Danger Zone」をバックに空母で戦闘機の離着陸が行われるオープニングのシーンと、終盤の四機編隊で作戦を決行するシーン、主にこの2シーンで確認を行った。

まずはAmazonプライム・ビデオから。

Ultra HDブルーレイを見慣れた筆者からすると映像は粒状感が強めに感じられるが、「ノイズっぽい」とまではいかず、4Kらしい解像感や細部の情報量は十分満足がいくレベル。空模様にせよ空母の甲板の情景にせよ、オレンジ色の陽光が支配的な(朝か日暮れか?)オープニングのシーンでも、グラデーションが階段状になってしまうなどの大きな破綻はなかった。

ただ、HDRに期待される鋭い光の表現という点では不満が残る。「トップガン マーヴェリック」自体、元々HDRを強烈に活用する映像ではないとはいえ、大海原に反射する太陽のきらめきなど、ここぞというシーンではもう少しインパクトがほしかった。

音質面は正直に言って全体的に低調。ロッシーの宿命とはいえダイナミックレンジは狭く、低音の威力にも欠ける。音声仕様が5.1chということを加味しても音の包囲感・移動感ともに乏しく、特に四機の戦闘機が大量の対空ミサイルに追い掛け回されるシーンでは、全体的な迫力不足もあいまって、死と隣り合わせの緊迫感がいまひとつ醸成されなかった。

【Apple TV(iTunes映画)】:画質・音質ともにAmazonプライム・ビデオよりも一段上

続いてApple TV(iTunes映画)を見る。

高めの映像ビットレートとDolby Visionのおかげか、Amazonプライム・ビデオ版よりも間違いなく画質は一段上。粒状感が減りつつ鮮鋭感やディテールの描写は向上しており、色彩も豊かになっている。コックピットに差し込む太陽光をヘルメットやパイロットの汗が照り返すさまは鋭さがだいぶ違い、俄然映像にリアリティが生じる。「映像配信でこれほどの画質を実現できる時代なんだなあ」と素直に感心するレベルであり、総じてかなりUltra HDブルーレイの印象に近づいたと言える。

音声についても、Dolby Atmosだけあって冒頭のテーマ曲が流れる時点でサラウンド感がひと味違う。移動感の表現にもすぐれ、作戦決行〜ミサイルに追い回される一連のシーンでは受ける印象、緊迫感の度合いがかなり違ってくる。瞬間的な威力の向上も随所で感じられるが、この点についてはAmazonプライム・ビデオに比べて「決定的な差」とは言えない。

【Ultra HDブルーレイ】:配信とは別物の迫力! 画質もすばらしいが、特に大きなメリットは音質に表れる

最後にUltra HDブルーレイを見る。

印象そのものはApple TV(iTunes映画)版と近いが、やはり潤沢なビットレートの恩恵は大きく、とにかくシーンを通じて安定感が違う。微妙なグラデーション、ディテール描写、HDRらしい鋭利な輝きの表現などなど、細かい部分の改善が積み重なることで、結果的に明らかな「格」の違いが生じる。

そして画質以上に、比べ物にならないほど大きな差があるのが音。冒頭のテーマ、そこから続く「Danger Zone」と、音楽の充実度からしてまったくの別物である。終盤の作戦シーンでは、戦闘機という巨大な金属の塊がアフターバーナーを吹かして空気を切り裂く重厚さ、それを撃ち落とさんと疾駆する対空ミサイルの無慈悲な飛行音など、Amazonプライム・ビデオ、Apple TV(iTunes映画)とはまるで別物の迫力・包囲感・移動感を体感できる。これは単純に音量の大小でどうにかなるものではない。

今から16年前、初めてブルーレイで「映像作品におけるロスレス音声」を聴いたとき、DVDのロッシー音声とのあまりの違いに驚愕したことを今でも鮮明に覚えている。そしてその感覚は、現在の映像配信とUltra HDブルーレイの比較においても同様だ。

まとめ:「どうせ見るなら、Ultra HDブルーレイかApple TV(iTunes映画)で!」

というわけで、計3種類の「トップガン マーヴェリック」のクオリティを比較したわけだが、結果は「Amazonプライム・ビデオ < Apple TV(iTunes映画) <<<Ultra HDブルーレイ」となった。音質面でUltra HDブルーレイが隔絶するのは最初から予想していたにせよ、同じ映像配信でも、サービスによって決して無視できない差があることを確認できたのは筆者としてもよい経験となった。とにかく最高のクオリティで楽しみたいならUltra HDブルーレイ一択、もっと手軽に見たい場合は可能ならApple TV(iTunes映画)を選ぶべきだ。

さて、ここまで書いてきて、「Ultra HDブルーレイの音がよいのはわかったけど、うちのシステムではたしてその差は出るだろうか?」との疑問を抱く読者もいると思う。

はっきり言って、ごく一般的なテレビの内蔵スピーカーレベルでは、意味があるレベルで音の差を実感することは難しい。しかし、サウンドバーにせよ、ステレオのオーディオシステムにせよ、本格的なホームシアターにせよ、「何かしら音にこだわった再生環境」があるのなら、配信とUltra HDブルーレイ、すなわちロッシーとロスレス音声の差は確実に実感できると断言する。

せっかく再生環境にこだわっているのだから、そこで楽しむコンテンツについても、ぜひクオリティを意識してもらいたい。

逆木一

逆木一

学生時代にオーディオ趣味に出会って以来、その楽しさと奥深さに身も心もどっぷりと浸かり、気づけば評論の道へ。現在は豪雪地帯のど真ん中で、最先端のオーディオビジュアルを日夜追求中。

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