昨年も非常に数多くの完全ワイヤレスイヤホンが登場した。Boseやアップルの新製品など、3万円を超えるような高級機が大きな話題を集めたいっぽうで、手の届きやすい1万円前後の価格で売られている製品でも高機能化や高音質化が大きく進んだ。そこで今回は、2022年後半に登場した1万円前後の価格で購入できる完全ワイヤレスイヤホンの中から、注目5機種をピックアップして詳しくレビューしていきたいと思う。いずれも完全ワイヤレスイヤホンデビューにぴったりな1台なので、ぜひ本稿を参考にしていただけたら幸いだ。
今回ピックアップしたのは、2022年秋冬に発売されたag「PITA」、オーディオテクニカ「ATH-CKS30TW」、GLIDiC「TW-5200」、GLIDiC「TW-3000F」、SOUNDPEATS「AIR3 DELUXE HS」の5機種
ag「PITA」
ag「PITA」は、日本のオーディオブランドであるfinalが全面監修した小型・シンプルな完全ワイヤレスイヤホン。3.8gとコンパクトかつ軽量で、耳からの出っ張りの小さいフラット設計も特徴。カラーバリエーションはBLACK、CREAM、SKYの全3色で、指紋の目立ちにくい粉雪塗装仕上げもユニーク。特別な機能こそないモデルだが、音質で勝負するagブランドらしい入門機種だ。
耳からの出っ張りが少ないデザインも特徴
連続再生時間:5時間(充電ケース込み30時間)
対応コーデック:SBC、AAC
外音取り込み対応:−
ノイズキャンセリング対応:−
低遅延モード対応:−
マルチポイント接続:−
防水:IPX5
聴き疲れしにくいナチュラル志向でありながら、同時に臨場感も兼ね備えたていねいなサウンドが特徴。女性ボーカルの歌声は伸びやかで美しく、男性ボーカルもキツさなくクリアだ。製品コンセプトとしては特にアピールしていないようだが、空間を満たすような重低音の再現性も優秀。日本人の好みにあったバランスよく上質なサウンドをお手ごろ価格で届けてくれるモデルと言えそうだ。
オーディオテクニカ「ATH-CKS30TW」
オーディオテクニカの重低音ブランド「SOLID BASS」から登場した完全ワイヤレスイヤホン。専用のφ9mm SOLID BASS HD TWSドライバーは、ドライバー背面に空気の流れをコントロールするための音響スペースとダクトを配置しており、イヤホン本体はやや大柄だが、専用アプリ「Connect」による音質カスタマイズやマルチポイント接続に対応するなど多機能なモデルに仕上がっている。
大型筐体でパワフルな重低音志向
連続再生時間:7.5時間(充電ケース込み20時間)
対応コーデック:SBC、AAC
外音取り込み対応:○
ノイズキャンセリング対応:−
低遅延モード対応:○
マルチポイント接続:−
防水:IP55
デフォルト設定のままのサウンドは意外にも音空間をうまく作り、その中で躍動感あるサウンドを展開するタイプで重低音はあまり強くはない。女性ボーカルはナチュラルで心地よく響き、男性ボーカルはキレのある再現が見事だ。ちなみに、専用アプリ「Connect」からイコライザーを「Bass Boost – Deep」に切り替えると、製品のコンセプトに近いディープな重低音再生が楽しめるので、重低音好きの人はアプリのイコイコライザーを切り替えて聴いてみてほしい。
GLIDiC「TW-5200」
SB C&SのポータブルオーディオブランドGLIDiCが展開する小型・軽量設計のハイブリッド・アクティブノイズキャンセリング機能搭載の完全ワイヤレスイヤホン。カスタムイヤホンメーカーのカナルワークスが監修した独自の形状を採用し、フィット感も高い。スマートフォンからイヤホンを探せる「Tile」や、ゲームや動画の音声遅延を解消する低遅延モードなども搭載。重低音を強調する「Bass Sound Mode」にも対応している。
イヤホン操作がボタン式というところも扱いやすい
連続再生時間:6時間(充電ケース込み19時間)
対応コーデック:SBC、AAC
外音取り込み対応:○
ノイズキャンセリング対応:○
低遅延モード対応:○
マルチポイント接続:○
防水:IPX4相当
パワフルにズンズンと響く重低音と、クリアな中高域を両立させたサウンドだ。特に女性ボーカルは伸びやかで声が美しく、アコースティックな楽器の音もしっかり再現してくれる。男性ボーカルの歌声もクリアで、低音のリズム再現も得意。右イヤホン3回押しで「Bass Sound Mode」を有効にすると、パワーバランスが重低音寄りにシフトし低音のボリューム感もアップする。ノイズキャンセリング機能もしっかりと効いていて、エアコンの騒音をほぼ無音まで低減できることを確認。低価格なノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンとして狙い目のモデルだ。
GLIDiC「TW-3000F」
SB C&Sが展開するGLIDiCから発売されたエントリー向けの完全ワイヤレスイヤホン。実売7,000円を切るお手ごろ価格の製品ながら、アクティブノイズキャンセリング機能や外音取り込み、ゲームや動画視聴に適した低遅延モードなどもしっかりと備わっている。
アンテナが伸びるオーソドックスなスティック形状を採用
連続再生時間:6.5時間(充電ケース込み19時間)
対応コーデック:SBC、AAC
外音取り込み対応:○
ノイズキャンセリング対応:○
低遅延モード対応:○
マルチポイント接続:−
防水:IPX4
サウンドキャラクターは上位モデルの「GLIDiC TW-5200」に近く、ズンズンと響く重低音と軽やかな中高域を両立させたサウンド。特に女性ボーカルはクリアで聴き取りやすく、楽器もライブ感をともなって広がる。若干高域の聴こえ方はシャキシャキしているが、低音のリズムの刻みはしっかり出る。ノイズキャンセリング機能も、エアコンの騒音をしっかりと低減してくれており、音楽リスニングへの没入感をアップしてくれる。さっと取り出して軽快に使えるスティックタイプの形状、5色の豊富なカラーバリエーション、便利に使える機能性をバランスよく搭載し、入門機にうってつけのモデルと言えそうだ。
SOUNDPEATS「AIR3 DELUXE HS」
SOUNDPEATS「AIR3 DELUXE HS」は、カナル型ではなく耳を軽くカバーするインナーイヤー型を採用し、軽い装着感を重視したモデルだ。ハイレゾワイヤレスのLDACコーデックへの対応もお手ごろ価格の完全ワイヤレスイヤホンとして異色。大口径14.2mmダイナミックドライバーを採用し、自然で心地よいサウンドを特徴としている。アプリによるカスタマイズにも対応。耳を密閉しないため、遮音性が低いことは製品特性と考えよう。
耳へのフィットは軽いが落下はしにくい形状
連続再生時間:5時間(充電ケース込み20時間)
対応コーデック:SBC、AAC、LDAC
外音取り込み対応:−
ノイズキャンセリング対応:−
低遅延モード対応:○
マルチポイント接続:−
防水:IPX4
最大の特徴は、耳を密閉せず軽くて快適な装着感でありながら、カナル型にも似た厚みのあるサウンドを楽しめること。シャープで聴き取りやすい男性・女性ボーカル、空間の中でズンズンと響く重低音の再現も心地よい。楽器の音もきちんとリアルでかつ臨場感あるサウンドだ。インナーイヤー型と言うと重低音が出ない、高域もシャカシャカする機種が多い中、音質をしっかりと作り込んであり、イヤホンの構造と音質のギャップはNo.1かもしれない。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。