レビュー

完全AVマニア視点で見る、「Apple TV 4K」第3世代モデルの価値

アップルが発売しているメディアストリーミングデバイス「Apple TV 4K」。第3世代モデルが発売され、さらに人気が高まることが予想される。動画配信サービスを見るための機能は現行の4Kテレビのほとんどが備えているが、製品によって対応するサービスには違いがあり、主要動画配信サービスへの対応が十分ではないモデルもある。また、Disney+のような登場が比較的新しいサービスを楽しみたい場合にも、対応のためにテレビを買い替えるよりは「Apple TV 4K」などを購入したほうが安く済む。

もちろん、古い2Kテレビなどでもさまざまな動画配信サービスを楽しめるようになる点も大きな魅力で、「Apple TV 4K」に限らず、Amazonの「Fire TV Stick」のような小型端末も人気となっている。

AVマニアの筆者が「Apple TV 4K」を使う理由

「Apple TV 4K」は専門誌で取り上げられるなど画質・音質の実力の高さでも評判となっている。また、購入型映画配信サービスのApple TV(iTunes映画)をスムーズに利用できることもポイントだ。ディスク版よりも安価であったり、しかもディスクの発売よりも早いタイミングで新作映画を購入できたりする場合もあるし、本編だけでなく映像特典コンテンツも充実しているなど、サービスとしての充実度も高い。そして、「Apple TV 4K」はtvOSで動作するパソコンに近い作りのため、tvOSのアップデートで新機能や新サービスへの対応も可能と、将来性の点でもすぐれた作りとなっている。

筆者自身も「Apple TV 4K」第1世代モデルのユーザーだ。メインの映像表示機器がプロジェクターのため、動画配信サービスを視聴するにはこうした端末が必要になる。iPhoneやiMac(仕事用)、Mac mini(音楽再生用)を使っているアップル好きなので「Apple TV 4K」を選んだのは当然の選択。Netflixで映画をオリジナルどおりに4K/24p再生できる点や画質・音質の実力など、AV機器として十分に優秀であり、サクサクとスムーズに動いて使いやすく、ほかの機器に買い替える理由がなかったためだ。

そんな「Apple TV 4K」を、第1世代、第2世代、最新の第3世代モデルまですべて集めて、AVマニア視点で、従来モデルと第3世代モデルの違い、画質・音質の実力などをチェックしてみることにした。

「Apple TV 4K」の「設定」から、「コンテンツに合わせる」という項目を確認してみよう。「ダイナミックレンジに合わせる」はSDR映像のコンテンツはSDRで、HDR映像はHDRで表示する機能。「フレームレートに合わせる」は、コンテンツのオリジナルフレームレートをそのまま再生する機能。24pのフィルムベースのコンテンツを24pのまま再生できる。競合の「Fire TV」シリーズにも同様の機能があるが、そちらではAmazonプライム・ビデオに限定されてしまう。NetflixやDisney+など主要サービスで使える「フレームレートに合わせる」は、とても有用だ

「Apple TV 4K」の「設定」から、「コンテンツに合わせる」という項目を確認してみよう。「ダイナミックレンジに合わせる」はSDR映像のコンテンツはSDRで、HDR映像はHDRで表示する機能。「フレームレートに合わせる」は、コンテンツのオリジナルフレームレートをそのまま再生する機能。24pのフィルムベースのコンテンツを24pのまま再生できる。競合の「Fire TV」シリーズにも同様の機能があるが、そちらではAmazonプライム・ビデオに限定されてしまう。NetflixやDisney+など主要サービスで使える「フレームレートに合わせる」は、とても有用だ

まずは、各世代の主な仕様の違いを確認

この取材では、筆者が所有し現役で使用している第1世代モデル、編集部で所有している第2世代モデル、この取材のためにお借りした第3世代モデルを筆者自宅の視聴室に集めて、視聴している。まずは、それぞれの世代の違いについて紹介しよう。

ずらりと揃った3つの「Apple TV 4K」。左から、第3世代、第2世代、第1世代モデルとそれぞれの付属リモコン。第1世代モデルではリモコンが大きく違っていて、第3世代モデルは本体が小型化していることが主な違いだ

ずらりと揃った3つの「Apple TV 4K」。左から、第3世代、第2世代、第1世代モデルとそれぞれの付属リモコン。第1世代モデルではリモコンが大きく違っていて、第3世代モデルは本体が小型化していることが主な違いだ

詳しい性能やスペックについては以下を見てほしいが、第3世代モデルでは本体が小型・軽量化されていることが大きな特徴。CPUが「A15 Bionic」となり、CPU能力で50%、グラフィック能力も30%向上している。このため、主要な機能である動画配信サービスでは熱の発生も減り、ファンレス設計を採用。ボディサイズのコンパクト化もファンレス化によるものと思われる。

リモコンについては、第1世代モデルのリモコンが使いにくいと評判で、第2世代モデルからデザインが大きく変わった。第3世代モデルもデザインや機能はまったく同じだが、充電用の端子がLightning端子からUSB Type-C端子へと変更になっている。

「Apple TV 4K」 各世代モデルの主なスペック

Apple TV 4K(第1世代)
CPU:A10X Fusinon
HDMI:Ver.2.0a
ストレージ:32GB/64GB
RAM:3GB
動画:4K SDR/60fps、4K HDR/30fps、4K Dolby Vision/30fps
eARC:非対応
Dolby Atmos:対応
リモコン:Siri Remote 第1世代
サイズ:98(幅)×35(高さ)×98(奥行)mm
重量:425g

Apple TV 4K(第2世代)
CPU:A12 Bionic
HDMI:Ver.2.1
ストレージ:32GB/64GB
RAM:3GB
動画:4K SDR/60fps、4K HDR/60fps、4K Dolby Vision/60fps
eARC:対応
Dolby Atmos:対応
リモコン:Siri Remote 第2世代
サイズ:98(幅)×35(高さ)×98(奥行)mm
重量:425g

Apple TV 4K(第3世代)
CPU:A15 Bionic
HDMI:Ver.2.1
ストレージ:64GB/128GB
RAM:4GB
動画:4K SDR/60fps、4K HDR(HDR10+対応)/60fps、4K Dolby Vision/60fps
eARC:対応
Dolby Atmos:対応
リモコン:Siri Remote 第3世代
サイズ:93(幅)×31(高さ)×93(奥行)mm
重量:208g(Wi-Fiモデル)214g(Wi-Fi+Ethernetモデル)

左から第3世代、第2世代、第1世代モデルの付属リモコン。第1世代モデルは上部がすべてタッチ操作ボタンになっている。第2世代モデル以降では電源オンボタンが追加されるなど、操作ボタンにも変更がある

左から第3世代、第2世代、第1世代モデルの付属リモコン。第1世代モデルは上部がすべてタッチ操作ボタンになっている。第2世代モデル以降では電源オンボタンが追加されるなど、操作ボタンにも変更がある

第2の特徴は価格。これまでの「Apple TV 4K」は、ストレージ容量32GBモデルと64GBモデルのラインアップだったが、第3世代では、アップルストア価格19,800円(税込)のWi-Fiモデル(ストレージ64GB、Ethernet端子は省略)、同23,800円(税込)のWi-Fi+Ethernetモデル(ストレージ128GB)というラインアップに変わった。先代の64GBモデルのアップルストア価格は23,800円(税込)だったので、Wi-Fi+Ethernetモデルで言えばCPU性能が向上したうえにストレージ容量が倍になり、価格は据え置き。実質的な値下げとなっている。

昨今の円安や国際情勢の影響でiPhoneやiPadが値上げとなり、AV機器の多くも値上げする製品がかなり多い現状からすると、なかなか戦略的な価格と言える。単に製品の普及をうながすだけでなく、Apple TV(iTunes映画)などの独自サービスの普及に力を注いでいるものと思われる。

スペックを検討すると、第1世代モデルユーザーならば買い替えの価値あり

スペック面で考えた場合に、旧世代の「Apple TV 4K」のユーザーが第3世代モデルに買い替えすべきかどうかについては、すでに詳しい解説やニュース記事も多いので簡単にまとめる。動画配信サービスをメインで使う場合、操作の反応などが大きく向上しているわけではなく、第2世代モデルとほぼ同じリモコンの使い勝手自体も同様。ボディがコンパクトになった点はお好み次第。決して旧世代モデルが大きすぎたり重たすぎたりするわけではないからだ。それでも第3世代モデルの軽さにはかなり驚くが。

第1世代モデルからの買い替えはかなり有効で筆者も検討中。eARC対応や対応する動画(映像信号)がHDR、SDRともに4K/60pとなっている点など、AV機器としての性能向上が大きいためだ。このあたりはソフトウェアアップデートでは対応できない点だから、今後も期待できない。そして、リモコンの使い勝手はかなり大きい。第1世代ユーザーの筆者としては慣れれば決して使いにくいわけではない、と言いたいが、タッチ操作に加えて周囲のリングで十字キー操作ができるようになったこと、十字キーの左右で可変速早送り/早戻しができること、十字キーのリングを回転操作するジェスチャー操作もかなり便利でこのために買い替えてもいいかなと思うくらい(リモコンだけを個別に購入して第1世代モデルで使うこともできる)。

4K/60p動画への対応は、映画中心の視聴なら不要。映画は24pが主流だからだ。しかし、世界初ではないが48pのハイフレームレートを採用している超話題作の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の公開が控えているし(配信版がどのようなフォーマットになるかは不明だが)、現時点でもYouTubeの4K動画はSDR、HDRとも60pで公開されているものが増えていて、それらもオリジナルの解像度とフレームレートで見たいとなると、買い替えは必須になる。

CPUの性能向上とメモリーの倍増については、どうやらゲーム性能の向上のためのものであるようだ。ストレージが大きくなればより多くのゲームを所有できるし、グラフィックのすぐれた最新ゲームならばCPUやグラフィック性能の向上は重要なポイントになるだろう。

スペックで検討するならば、初めての購入や第1世代モデルからの買い替えは大いに"アリ"だが、第2世代モデルのユーザーで動画視聴が中心ならば無理に買い替える必要はないと思う。ゲームをするかしないか、ストレージ容量が必要かなどで判断するといいだろう。

はたして画質・音質の向上はあるか?

ここからは、動画配信サービスを視聴する端末としての第3世代モデルの性能向上をチェックしてみる。CPUや本体サイズ変更などにともない、基板設計も変わっていると思われるので(背面の端子位置の変更などから推測するに)、画質や音質にも違いはあるのではないかと予想していた。

しかし、結論から言うと各世代モデルで明らかな画質・音質の変化はなかった。取材ではビクター(JVC)のプロジェクター「DLA-V90R」と、TVS REGZAの有機ELテレビ「55X9900L」で確認し、何度も各世代を入れ替えながら確認してみた。後述するカラーバランス調整なども行ったうえで確認もしている。

テストはすべて筆者自宅にて行った。使用した映像表示機器は、TVS REGZAの有機ELテレビ「55X9900L」とビクターのプロジェクター「DLA-V90R」。スピーカーシステムはDolby Atmos対応の6.2.4システムだ

テストはすべて筆者自宅にて行った。使用した映像表示機器は、TVS REGZAの有機ELテレビ「55X9900L」とビクターのプロジェクター「DLA-V90R」。スピーカーシステムはDolby Atmos対応の6.2.4システムだ

強いて言うならば、第3世代モデルだけが、色が鮮やかに感じられ、そのためコントラスト感もごくわずか向上したようにも感じたが、ほとんど気づかない程度の差だ。何度も機器を入れ替えていくうちに「気のせいかも」と思ってしまうくらいの違いで、画質・音質の違いを理由に買い替えるほどのものではない。

AVマニアからすると、少々残念ではある。元々第1世代モデルのころからこんなコンパクトな端末なのに画質・音質のポテンシャルはかなり高いと感じていたので、それ以上に向上する余地も改善する余地もなかっただろうと思われる。本当のことを言うと、コンパクト化、軽量化で画質・音質が犠牲になるようなことがなかったことが確認できて安心した。

「Apple TV 4K」は、第1世代モデルから画質・音質の実力は高く、第3世代モデルでもその実力はそのままだった。だから、慌てて市場から消えていく旧世代モデルを探す必要もないし、新たに必要ならば安心して最新の第3世代モデルを買えばいい。しかし、これで記事が終わってしまうと仮にもオーディオ・ビジュアルの専門家の沽券(こけん)に関わるので、もう少し掘り下げて第3世代モデルをチェックしてみた。

「カラーバランス調整」についてチェック。精度は高いが好き嫌いは別れそう

「カラーバランス調整」は、第2世代モデルの登場時にソフトウェアアップデートで盛り込まれた新機能。「Face ID」機能を持つiPhoneのカメラを使用して、使っているテレビ/モニターのカラー表示能力を測定し、正しいカラーバランスに調整するというもの。遅ればせながら、この「カラーバランス調整」についてチェックしてみた。

まずは「Apple TV 4K」第3世代モデルと「55X9900L」との接続で「設定」の内容を確認。対応するテレビなどと接続したときだけ、ビデオの項目に「Dolby Visionを有効にする」が増える。そして、第3世代モデルではさりげなく「HDR10+を使用」という項目も増えている。このあたりはさすがなもので、HDR10だけでなく、Dolby VisionやHDR10+といったHDR映像方式にも対応している。

「Apple TV 4K」第3世代モデルの「設定」から、「ビデオとオーディオ」の項目。Dolby Visionに対応する映像表示機器を接続すると、「ビデオ」の最上段に「ドルビービジョンを有効にする」という項目が表れる。その下の対応フォーマットも、やはり接続する機器に応じて自動で変化する。もし機器のつなぎ替えをした場合は確認するとよいだろう。また、映画をオリジナルのフレームレート(24p)で表示したい場合は「コンテンツに合わせる」から「フレームレートに合わせる」を「オン」にすることも忘れずに

「Apple TV 4K」第3世代モデルの「設定」から、「ビデオとオーディオ」の項目。Dolby Visionに対応する映像表示機器を接続すると、「ビデオ」の最上段に「ドルビービジョンを有効にする」という項目が表れる。その下の対応フォーマットも、やはり接続する機器に応じて自動で変化する。もし機器のつなぎ替えをした場合は確認するとよいだろう。また、映画をオリジナルのフレームレート(24p)で表示したい場合は「コンテンツに合わせる」から「フレームレートに合わせる」を「オン」にすることも忘れずに

「オーディオ」の項目は「自動」を選んでおこう。再生システムがDolby Atmosに対応していれば「アトモス可」と表示される

「オーディオ」の項目は「自動」を選んでおこう。再生システムがDolby Atmosに対応していれば「アトモス可」と表示される

それでは、「カラーバランス調整」を試してみよう。「設定」の「オーディオとビデオ」の項目の一番下に「調整」という項目があり、「カラーバランス」という項目がある。これを選ぶと調整画面となる。ユーザーはガイドに従って対応するiPhoneを画面に近づけるなどの作業を行う。ここで気づいたが、原理的にプロジェクター投写では調整ができそうにない。画面に近づけると自分やiPhone自体の影で映像が映らないため、正しい測定は不可能だろう。

調整が始まると、iPhone(のインカメラ)を接近させた部分が赤・緑・青に点灯し、次いで白色が何段階か明るさを変えながら点灯する。時々エラーも出ることもあるが、正常に測定が進めばこれで調整は完了。どこかの海岸を上空から撮影した映像が映し出され、調整前と後の画質の変化を確認できる。調整後のほうが好ましければ、「調整済みのバランスを使用」を選べばすべて終了。以後、「Apple TV 4K」からの映像出力はすべて(動画配信サービスの違いなどを問わず)、調整済みのカラーバランスで出力される。

調整済みのカラーバランスが好ましければこのまま使い続ければいいが、一度オリジナルに戻すと、調整したデータは消去されてしまうようで、また調整済みの映像にしたいときは再度「カラーバランス調整」を行う必要がある。オリジナルと調整済みのバランスを使い分けたいなどと考えるのはヘビーなAVマニアだけかもしれないが、データを保存しておいてオリジナルと調整済みデータを簡単に切り替えできるようにしてくれるとありがたい。

というのは、「カラーバランス調整」では必ずしも好ましい画質に感じられるとは限らないため。「55X9900L」で試した場合の例だが、確認画面の海岸左側の乾いた砂浜がやや緑に寄る傾向だ。左側の海に近いところの茶色味が強まってくるあたりの色彩もやや緑が強まる。深い緑に見える海は大きく変化はしない。このあたりの砂浜の色合いはまさに人の肌の色に近い色なので、当然人物を映し出す際には影響を受ける。

わかりやすく言うと、顔の影の部分が緑に寄り、ちょっと不健康な感じになる。

たとえば、Netflixのドラマ「ウェンズデー」は、「アダムス・ファミリー」のウェンズデーが主役のドラマだが、ウェンズデーの白い肌が不気味なほど青白い感じになる。ドラマ内でも顔色が悪いと指摘されるし、モノトーンの服装なのでそれが際立つ。同時に、ウェンズデーのルームメイトの女性は健康的に再現されている。

つまり「カラーバランス調整」後の不健康な感じが映像的に正しいバランスで、本作ではそれが望ましい。しかし、最新の薄型テレビは人の肌を健康的な色で見せる機能を持つものがあるため、「55X9900L」に限らず多くのテレビを「カラーバランス調整」なしで使った場合、あまり青白くは見えないかもしれない(映像モードにもよるが)。

いっぽう、赤・緑・青の彩度の高い色への影響は少ないと感じた。中間色の再現で好みが分かれると思う。また、暗部の階調性は「カラーバランス調整」でより豊かになるし、色が薄くなるわけではないがすっきりと見やすい印象もある。こうした点からも、「カラーバランス調整」によってカラーバランスが制作側の意図に近づいているのは間違いないと思う。

が、やはり暗いシーンでは人の肌が緑がかり、不自然な色に感じやすい。これは先述のテレビの補正機能に慣れていることが原因かもしれない。見た目に好ましいことが多いのだが、それがいきなり“正確な”色になってしまうと違和感があるのだ。

念のために言うが、「Apple TV 4K」の出力映像が調整されるだけで、「55X9900L」自体のテレビ放送や内蔵アプリによる動画配信サービスの視聴、その他の入力の機器の映像まで変わってしまうわけではないのでその点は心配ない。

繰り返しになるが、あくまでも「55X9900L」で調整をした場合の話で(かつ筆者の主観なので)、異なるディスプレイやテレビでは異なる結果になるはずだ。実際に自分が使っているディスプレイで調整し、好みで選んでほしい。筆者のような神経質なAVマニアで、しかも機器やソフトの画質チェックもする人には、ある程度の信頼性のある正しい「カラーバランス調整」は役に立つ(だから、なおさら簡単に切り替えできるようにしてほしい)。「カラーバランス調整」は、モニター的な映像チェックに近い使い方をする用途向きだと考えておいたほうがよいだろう。

AVマニアは気を付けたい、「Apple TV 4K」でのDolby Vision再生

今度はDolby Vision映像を再生してみる。Dolby Vision制作のコンテンツを再生してみると、Dolby Visionをあえて無効にしたHDR10再生と比べて大きく映像が変化するわけではない。ただし暗いシーンの階調性がよくなるとか、明るい部分のピーク感が強まるなど、細かな部分にDolby Vision再生の効果はある。

問題は、Dolby Visionを有効にすると「Apple TV 4K」から出力される映像のすべてがDolby Vision扱いになってしまうこと。おそらくはSDRでもHDRでもすべてDolby Visionのフラグが立ってしまっているだけで、肝心の映像情報がDolby Vision化されるわけではない。SDR映像で明暗のバランスがおかしくなるとか、色や階調が変わってしまうようなことはない。アニメを含めていろいろと見てみたがテレビ側ではDolby Visionのマークが表示されるが、Dolby Visionの有効と無効で、Dolby Vision収録作品以外で画質的な変化は生じなかった。

「ビデオとオーディオ」の設定で、Dolby Visionを有効にした状態。すべての映像出力がDolby Vision扱いとなる

「ビデオとオーディオ」の設定で、Dolby Visionを有効にした状態。すべての映像出力がDolby Vision扱いとなる

しかし、「55X9900L」に限らず、Dolby Vision対応テレビはDolby Vision信号を検知すると、画質モードが自動的にDolby Vision系のものに切り替わる。「Dolby Vision:ダーク(ブライト)」などがそれに当たるが、これはテレビが備える独自の映像調整機能の多くがオフになる設定で、各社ともほぼ同様。好みの画質モードを選べないし、効果の高い調整機能がオフのまま固定されて使えないこともある。このあたりの挙動はメーカーによっても多少の差はある。そもそも画質モードもいじらないし、画質調整もしないという人にはなんのデメリットもない話ではある。

筆者の場合、実写映像とまったく映像傾向が異なるアニメ作品はアニメモードや自分で調整した専用のモードに切り替えて見ることが多いが、Dolby Vision扱いになるとそれができなくなってしまう。

Dolby Visionの有効/無効は「設定」で切り替えできるが、それでも見る作品によっていちいちDolby Visionの設定を操作するのは面倒だ。また、Dolby Visionを有効にすると、前述の「カラーバランス調整」の設定は無効になる。Dolby推奨の画質がDolby Visionのため独自の調整はできないということなのかもしれないが、合点がいかないところだ。

Dolby Visionを有効にした状態では、カラーバランスの調整は「必要ありません」と表示され、無効化される

Dolby Visionを有効にした状態では、カラーバランスの調整は「必要ありません」と表示され、無効化される

そもそも、その作品がDolby Visionであるかどうかをいちいち確認している人が多いとは思えない。というわけで、正直Dolby Visionの設定は使いにくい。これはまっとうにDolby Vision収録の作品だけDolby Vision扱いをするようにしてほしいと思う。モニター的な再現をするための機能を持ったプレーヤーというのは「Apple TV 4K」のほかにはあまり例がないし、使い方をわかっていれば役にも立つ。こういう点もAV機器としても水準以上のレベルにある製品であることは確かだ。

しかし、初期設定ですべて決めてしまえば映像は途切れないし、あとは何をいじる必要もなしという、ある種の使い勝手のよさを盛り込んでしまったことで、逆に使いにくい面が生じてしまっている気がする。念のために、筆者としては、Dolby Visionは基本的に無効(Dolby Visionとしての作品評価など、特定の場合のみ切り替える)、カラーバランス調整はしない。マニアにとっては、あまりストレスを感じることなく使えるのはこの形だと思う。

Apple TV 4Kに電源ケーブルなどのアクセサリーを追加すると、画質・音質は向上する

最後に、「Apple TV 4K」のAV機器としての伸びしろについて軽く触れたい。AV機器では、電源ケーブル交換をはじめとするさまざまなアクセサリーを使うことで、画質・音質をさらに向上させるというテクニックがある。とはいえ、2万円ほどの製品に1万円の電源ケーブルを組み合わせるようなことに違和感を持つ人が多いのもよくわかる。そのため、このあたりについては参考程度に読んでもらえればいいし、興味のある人も不相応に高価なアクセサリーを使う必要はない。

「Apple TV 4K」にあれこれとアクセサリーを追加するのは、ラインアップとして高画質・高音質モデルがないためだ。ブルーレイプレーヤーやレコーダーならば高画質・高音質志向の高級品が存在するが、それに該当する製品がないのでアクセサリーでポテンシャルを引き出すという考え方だ。もちろん、電源ケーブルは以前にほかの機器で使ったもので、新規のコストはかけていない。つまり、以前使っていたAV用の電源ケーブルが余っているような、それなりのAVマニアの人は試してみるとよい、ということ。誰もがやるべきというほどのことではない。

筆者が自前の「Apple TV 4K」第1世代モデルに使っているのは、FURUTECH(フルテック)の「Flow-08」というノイズフィルター付き電源ケーブル。それをノイズフィルター付きの電源タップに接続している。このほかにもいろいろとやっているが、さらっと書いて誤解を招いても困るし、記事の主旨が変わってしまうのでここでは紹介を控えておく。

というわけで、「Apple TV 4K」第3世代モデルでも、電源ケーブル交換と、電源タップの吟味をしてみた。すると、画質・音質ともにきちんと効果は出る。画質で言えば、ノイズが減って見通しがよくなるし、発色もよくなる。HDR作品では輝度ピークの力強い光がさらに強まる。

電源ケーブルを付属品からノイズ対策された製品に替えると、音質のノイズ感が減って音の粒立ちがよくなるし、サラウンド音声の空間の広がりも良好になったと感じる。「Apple TV 4K」本体は樹脂製で内部回路のノイズ対策も決して厳重ではないだろうし、電源ケーブルも高品質なものを使っているわけではないだろう。安価な製品ほど、手当をすると画質・音質改善に効果が大きいことは多いのだ。

まとめ:配信動画をひんぱんに楽しむならば、買って損はない

HDR映像の4K/60p出力だけでなくDolby VisionやDolby Atmosにも対応するというのは、AV機器のスペックとして十分に優秀だ。だからそのポテンシャルを十分に引き出してあげたい、というのはあまり一般的ではないAVマニア的な発想だ。だが、第1世代モデルを今やUltra HDブルーレイプレーヤーと同じくらいの頻度で使っている筆者としては、そのくらいしてもバチは当たらないと思っている。「Apple TV 4K」はそれだけの価値のある優秀なAV機器だ。

よりコンパクトになり、ストレージ容量も増えた第3世代モデルはさらに製品の魅力を増したと思う。冒頭のとおり、無理に買い替える必要はないが、動画配信サービスをひんぱんに楽しむなら、ぜひとも「Apple TV 4K」第3世代モデルの導入を検討してみてほしい。

鳥居一豊

鳥居一豊

映画とアニメをこよなく愛するAVライター。自宅ホームシアタールームは「6.2.4」のDolby Atmos対応仕様。最近は天井のスピーカーの追加も検討している。

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