特別企画

オンキヨーのAVアンプ「TX-RZ50」を聞いてきた

ホームオーディオブランドとしてのオンキヨーとパイオニアが現在どうなっているのか、正確に把握している人はどれほどいるだろうか。かつてはオンキヨーとパイオニアブランドのホームオーディオ製品を展開する「オンキヨー&パイオニア株式会社」が存在したが、その後「オンキヨーホームエンターテイメント株式会社」へ形を変え、さらに2022年5月、その「オンキヨーホームエンターテイメント株式会社」は破産手続きを開始した。

このニュースを聞いた方々は「オンキヨーとパイオニアブランドは消滅するのか」と思ったかもしれない。しかし、実際にはどちらもホームオーディオブランドとして存続している。これは、2021年9月にはすでに両ブランドの譲渡が済んでいたためだ。

オンキヨーとパイオニアのAV機器は「オンキヨーテクノロジー」が製造し、日本では「ティアック」が販売する

米VOXX Internationalの子会社であるPremium Audio Company(PAC)とシャープの合弁会社(持ち株比率は85%:15%)「オンキヨーテクノロジー株式会社(OTKK)」がブランドの譲渡先で、この「OTKK」にはオンキヨーとパイオニア製品を支えていたエンジニア約80名が迎えられた。つまり資本関係は一新されたものの、製品の連続性は失われないように、と配慮されたうえでのブランド譲渡だった。そして2022年11月、いよいよ新体制での製品発売が始まったわけだ。

ここでのポイントは「OTKK」がオンキヨー、パイオニアブランドのホームオーディオ製品の企画開発、および生産管理を行う会社であるということ。生産された製品は「PAC」が買い取り、世界市場で販売する。それでは誰が日本国内でオンキヨー、パイオニア製品を販売するのか、と手をあげたのがティアック。北米市場で縁のあった会社同士ということもあり、「PAC」と販売代理店契約を締結。この協業が決まったそうだ。

なお、オンキヨー、パイオニアブランドの過去製品についても、現在はティアック経由で修理などのサービスを受け付けている。

アンプ部の設計にオンキヨーの独自性がある

さて、この協業体制で発売されたのがオンキヨーブランドのAVアンプ「TX-RZ50」「TX-NR6100」とパイオニアブランドのAVアンプ「VSX-LX305」だ。HDMIまわりや機能などの製品仕様基本部分は共通しているが、音質に関わる主要設計はまったく別であり、ブランドごとに音質決定を行うエンジニアがいるという。

今回はオンキヨーブランドの「TX-RZ50」の体験会のタイミングで、クリプシュのスピーカーとの組み合わせたサウンドに触れられたので、そのインプレッションをお伝えしたい。パイオニアブランドの「VSX-LX305」との音質傾向の違いなどについては後日別記事を公開する予定だ。

※2023年1月27日追記 関連記事「オンキヨーとパイオニアのAVアンプは何が違うのか? じっくり比較してみた」を公開しました。

※2023年2月11日追記 関連記事『パイオニアのAVアンプ「VSX-LX305」で「Advanced MCACC」と「Dirac Live」の違いを聞いてきた』を公開しました。

「TX-RZ50」の主要スペックは以下のとおり。
●定格出力:130W(8Ω、20Hz〜20kHz、全高調波歪率 0.08%以下、2ch駆動時)
●内蔵アンプ数:9ch(最大5.2.4/7.2.2対応)
●HDMI端子:HDMI入力7系統(フロントパネル1系統はHDMI 2.0対応、バックパネルの6系統のうち3系統は8K/60HzまでのHDMI2.1対応、残り3系統は8K/24HzまでのHDMI2.1対応)、HDMI出力2系統(2系統ともに8K/60HzまでのHDMI2.1対応、ただし、ゾーン2はHDMI 2.0対応)
●Dirac Liveに対応
●寸法:435(幅)×398(奥行)×202(高さ)mm
●質量:14.0kg

対応機能を表すバッジの中で興味深いのは「Roon Tested」デバイスであること。音楽再生のための総合ソフト「Roon」の再生が可能ということだ。「Roon Ready」との違いはマルチルーム再生時のタイミングを揃えるなど細かな機能にあり、今後のアップデートも検討しているとのこと。なお、現状ではAmazon Musicでのハイレゾ再生には対応しない

対応機能を表すバッジの中で興味深いのは「Roon Tested」デバイスであること。音楽再生のための総合ソフト「Roon」の再生が可能ということだ。「Roon Ready」との違いはマルチルーム再生時のタイミングを揃えるなど細かな機能にあり、今後のアップデートも検討しているとのこと。なお、現状ではAmazon Musicでのハイレゾ再生には対応しない

オンキヨー・パイオニアのAVアンプに共通しているのは、自動音場補正機能として「Dirac Live」を採用していること。周波数特性だけでなく、全スピーカーの位相管理を徹底することが「Dirac Live」の特徴だ。「Dirac Live」のフル機能が利用できるとのことだが、オプション扱いとなる「Bass Control」(低域再生スピーカーの高度なルーティング機能)は今のところ対応していないとのこと

オンキヨー・パイオニアのAVアンプに共通しているのは、自動音場補正機能として「Dirac Live」を採用していること。周波数特性だけでなく、全スピーカーの位相管理を徹底することが「Dirac Live」の特徴だ。「Dirac Live」のフル機能が利用できるとのことだが、オプション扱いとなる「Bass Control」(低域再生スピーカーの高度なルーティング機能)は今のところ対応していないとのこと

「Dirac Live」のための測定は「TX-RZ50」の付属マイクで行う。このマイクは本体と直接つなぐため、PCなどは不要。ただし、専用アプリを動かすスマートフォンとDiracのサーバーにアクセスするインターネット環境は必須。どうしてもインターネット環境が整わないユーザーはオンキヨーブランド独自の補整機能「AccuEQ」を利用できる

「Dirac Live」のための測定は「TX-RZ50」の付属マイクで行う。このマイクは本体と直接つなぐため、PCなどは不要。ただし、専用アプリを動かすスマートフォンとDiracのサーバーにアクセスするインターネット環境は必須。どうしてもインターネット環境が整わないユーザーはオンキヨーブランド独自の補整機能「AccuEQ」を利用できる

高い電流供給能力、スピーカーの制動力を目指した「Dynamic Audio Amplification」コンセプトを採用する。また、フロントL/Rchのみだが、D/Aコンバーター回路の出力に含まれるノイズを低減するフィルター回路「VLSC」を搭載する

高い電流供給能力、スピーカーの制動力を目指した「Dynamic Audio Amplification」コンセプトを採用する。また、フロントL/Rchのみだが、D/Aコンバーター回路の出力に含まれるノイズを低減するフィルター回路「VLSC」を搭載する

パイオニアブランドのAVアンプとの大きな違いは何か、といえばアンプ部の設計ということになるだろう。カタログスペック(静特性)だけを追わず、「動特性」を重視したものづくりがオンキヨーの伝統。たとえばスペック上の低歪みも重視しつつ、実際にスピーカーユニットを動かした場合の歪み・挙動を観測する……といった具合だ。

その象徴的な設計手法のひとつがNFB(Negative FeedBack=負帰還)の最適化。NFB回路とは、入力と出力の信号を比較することで、より正確な出力信号を得ようとする回路のこと。オンキヨーでは、NFB回路は音声再生時にスピーカーの逆起電力を入力側に戻してしまい音質を劣化させる可能性がある、と考えフィードバック量を減らす(一般的なアンプのNFB回路の30分の1程度)ための設計に努めているという。スペックだけを追い求めればフィードバックをどんどんかけて出力信号を較正したほうがよさそうだが、それでは必ずしもよい音にはたどり着かないということだ。

ストレートな力強さ、おおらかに包み込むような音場表現が特徴

取材はティアックのスタジオにて実施。クリプシュのスピーカーによる「7.1.4」システムを体験した。ラインアップは「RP-6000F II」(フロント/サラウンドバック)、「RP-504C II」(センター)、「RP-502S II」(サラウンド)、「RP-500SA II」(トップフロント/トップリア)、「R-100SW」(サブウーハー)。また、パワーアンプとしてティアックの「AI-301DA-SP/S」を追加している

取材はティアックのスタジオにて実施。クリプシュのスピーカーによる「7.1.4」システムを体験した。ラインアップは「RP-6000F II」(フロント/サラウンドバック)、「RP-504C II」(センター)、「RP-502S II」(サラウンド)、「RP-500SA II」(トップフロント/トップリア)、「R-100SW」(サブウーハー)。また、パワーアンプとしてティアックの「AI-301DA-SP/S」を追加している

サラウンドスピーカーの「RP-502S II」(左)は双方向放射タイプ。トップフロント/トップリアスピーカーの「RP-500SA II」は天井からの反射音を利用するイネーブルドスピーカーだ

サラウンドスピーカーの「RP-502S II」(左)は双方向放射タイプ。トップフロント/トップリアスピーカーの「RP-500SA II」は天井からの反射音を利用するイネーブルドスピーカーだ

「TX-RZ50」は、クリプシュのスピーカーとの接続時に「スピーカーコンボ」を使える。サブウーハーを使ったベースマネージメント(各スピーカーの低域部分だけをサブウーハーから出力する)を最適化する機能だ。今回もこれを利用している

「TX-RZ50」は、クリプシュのスピーカーとの接続時に「スピーカーコンボ」を使える。サブウーハーを使ったベースマネージメント(各スピーカーの低域部分だけをサブウーハーから出力する)を最適化する機能だ。今回もこれを利用している

ここからは、「TX-RZ50」でさまざまなUltra HDブルーレイ・ブルーレイディスクを再生、その音を聞いた。基本的には「Dirac Live」はオンの状態だ。

総じて感じたのは、オンキヨーらしい、力強い音だな、ということ。以前から持っていたオンキヨーのAVアンプに対するイメージと変わらない印象だった。クリプシュのスピーカーの特性も相まってだと思うが、おおらかさのあるサラウンド音場に包まれる感覚だ。

Dolby Atmosチェックの定番ソフト「ゼロ・グラビティ」(※Dolby Atmos版は現在入手困難)では、地球に帰還するシーンでの轟音、その中でパラシュートが開く音のキレのよさが際立つ。イネーブルドスピーカーでも高さ方向の表現はしっかりと出ている。水上に不時着した主人公は水中から水上へ上がるのだが、水中の閉そく感と水上の開放感、このコントラストがあってこその「ゼロ・グラビティ」だと感じる。水上(地上)で虫の羽音などが生々しく聞こえてくることが、物語の主題をしっかりと支えているのだ。

「フォードvsフェラーリ」でのエキゾーストノートのキレ味も鋭い。スピーカーを同ブランドの同シリーズで統一した効果もあるだろう。レースに応じて移動する音が、スピーカー間でスムーズにつながる。

「Dirac Live」は音の輪郭・移動の軌跡が明確になる印象だ

「TX-RZ50」では「Dirac Live」の効果をオン/オフできるので、こちらも試してみることにした。自宅で自動音場補正機能を使う場合も、ぜひ試してみてほしい。こうした補整機能は絶対的にプラスに働くものでもないので、適宜調整やオン/オフの使い分けをするのが上級テクニックだと言える。

「1917 命をかけた伝令」のチャプター13。「Dirac Live」がオフの状態でも広い空間に配置される遠くの雨、信号弾が打ちあがる音など、さまざまな位置関係はしっかりと伝わる。しかし、「Dirac Live」をオンにすると、音の1つひとつの輪郭、動きの軌跡がより明瞭になる。それにともなって埋もれがちだった微細な音の情報も浮き上がってくるようだ。

というわけで、少なくともこの日の環境では「Dirac Live」をオンにしたほうがメリットは大きいと感じた。周波数特性の補整については好みもあるので、ユーザーであれば測定データを手動でアレンジすることも検討するとよいだろう。マニアックに突き詰めれば、測定データを部屋の特性をチューニングするための指針にもできる。なかなか使い出のありそうな製品だ。

「Dirac Live」の補整はオリジナルアプリ「Onkyo Controller」(iOS/Android対応、無料)で行う。付属のマイクを本体に接続して、3もしくは9か所でテスト信号を測定する

「Dirac Live」の補整はオリジナルアプリ「Onkyo Controller」(iOS/Android対応、無料)で行う。付属のマイクを本体に接続して、3もしくは9か所でテスト信号を測定する

画面は3か所の測定例。画面の指示にしたがってマイクを動かし、同じテスト信号で計測する。試聴は9か所測定で行った

画面は3か所の測定例。画面の指示にしたがってマイクを動かし、同じテスト信号で計測する。試聴は9か所測定で行った

測定結果(左端)と補正後の周波数特性(中)。これを本体に送り、補整データを反映する。なお、この補整カーブは手動で変更も可能だ

測定結果(左端)と補正後の周波数特性(中)。これを本体に送り、補整データを反映する。なお、この補整カーブは手動で変更も可能だ

まとめ:“変わらない”音づくりのうえに、「Dirac Live」という新機能を備えた「TX-RZ50」

ひさしぶりのオンキヨーブランドのAVアンプ、その品質はどうなのか……。この取材の以前は心配もしていたが、製品に触れてみて何の心配もいらないということがよくわかった。

以前のオンキヨーブランドのAVアンプといえば、自動音場補整には頼らない硬派なユーザーが使う、というイメージもあったのだが、「Dirac Live」を採用した「TX-RZ50」ではそのイメージを捨てたほうがよさそうだ。断定的なことは言えないものの、少なくとも「Dirac Live」の調整を含めてじっくりと使ってみたいと思ったことは確か。

これまでどおりの音質を堅持しつつ、HDMIまわりを最新の仕様にアップデート、さらに「Dirac Live」という新機能も備える「TX-RZ50」はなかなか魅力的な選択肢だと思う。

なお、パイオニアブランドの「VSX-LX305」については2023年1月21日、22日の2日間にかけて無料体験会が開催される。イベントの詳細はティアックストアをご参照いただきたい。

柿沼良輔(編集部)

柿沼良輔(編集部)

AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。

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