レビュー

ソニーの小さいウォークマン「NW-A300」シリーズは買いか? 新旧モデルを徹底比較

日本国内で最大の販売台数を誇る“ハイレゾ”対応ポータブルDAP、ソニー・ウォークマンAシリーズに新モデル「NW-A300」シリーズが加わった。Aシリーズの新モデルとしては実に3年ぶりとなるこの「NW-A300」シリーズは、特に言及はないものの、既存の「NW-A100」シリーズに対して上級クラスへとシフトした内容を持ち合わせている。それでいて、サイズ的にはAシリーズならではのコンパクトさを維持ししており、変わらぬ扱いやすさを持ち合わせている。今回は、このウォークマン「NW-A300」シリーズについて詳しくチェックしてこう。

ソニー・ウォークマンAシリーズの新モデル「NW-A300」シリーズは本当に買いなのか?旧モデルと比較しつつ、じっくりと深掘りレビューしていこう

ソニー・ウォークマンAシリーズの新モデル「NW-A300」シリーズは本当に買いなのか?旧モデルと比較しつつ、じっくりと深掘りレビューしていこう

デザインを変更。課題のバッテリー性能を強化し、音質部分もブラッシュアップ

先に結論を言えば、「NW-A300」シリーズは“買い”のモデルだ。既存モデルに対して音質、デザイン、ユーザビリティのすべてが進化しており、あらゆる角度から魅力的に感じられるからだ。とはいえ、すべての人にとってベストバイというわけではない。

ウォークマン「NW-A300」シリーズ

ウォークマン「NW-A300」シリーズ

まず、ハイレゾDAPは初めて、または久しぶりという人、スマートフォン+スティック型DACアンプでストリーミングやハイレゾを聴いているという人、小型のサブ機がほしい人は購入を検討する価値は十分にあると言っていいだろう。いっぽうで、ミドルクラス以上(具体的には5万円以上)のハイレゾDAPを所有しており、それがとても気に入っている人は購入を見送るべきだ。

ウォークマンで言うなら、上級クラス「NW-WM1A」や、ミドルクラス「NW-ZX500」シリーズを所有している人は入手する必要がなく、特に「NW-ZX500」シリーズを所有している人は、同時期に発売された新製品「NW-ZX707」に買い替える、もしくは上級クラス「NW-WM1A」へアップグレードするかを検討すべきだろう。同価格帯の他社DAPを含めて検討するのも(もの選びがとても楽しいので)おすすめだ。

そう、「NW-A300」シリーズはハイレゾ音源やストリーミングを“高音質”かつ“お手軽”に楽しめる製品としてさらなる進化が押し進められた製品なのである。ゆえに、DAP初心者や気軽に手軽に良音質を楽しみたい人にはベストバイとなり、音質最優先のユーザーにはベターであるがベストではない、キャラクターのはっきりした製品となっているのだ。

では、具体的に「NW-A300」シリーズがどういった仕上がりを持ち合わせているのか、既存モデル「NW-A100」シリーズと比較しつつ紹介していこう。

まず、サイズは56.5(幅)×98.4(高さ)×11.8(奥行)mm、重さも113gとかなりの小型軽量さを誇る。このあたりの数値は「NW-A100」シリーズとほぼ変わらず、シリーズ共通の軽快さは健在。大画面化が進み、手のひらに収まりきらなくなってきている昨今のスマートフォンと比べればかなり小型で扱いやすいはずだ。いっぽうで、外観については「NW-A100」シリーズから変更されており、側面&背面部分が立体的なデザインへと変更。ウォークマンロゴもプリントから彫り込みに変わった。結果として、ワングレード上の質感へと生まれ変わったほか、持ちやすく滑りにくくもなっている。

左から、「NW-A50」シリーズ、「NW-A300」シリーズ、「NW-A100」シリーズ。最新モデル「NW-A300」シリーズでも、Aシリーズのコンパクトなサイズ感という従来路線をしっかりと踏襲している

左から、「NW-A50」シリーズ、「NW-A300」シリーズ、「NW-A100」シリーズ。最新モデル「NW-A300」シリーズでも、Aシリーズのコンパクトなサイズ感という従来路線をしっかりと踏襲している

写真の一番手前にあるグレーのカラーリングのものが「NW-A300」シリーズだ。本体背面のデザインがこれまでのモデルとは異なり、波のような立体的なものに変更されている

写真の一番手前にあるグレーのカラーリングのものが「NW-A300」シリーズだ。本体背面のデザインがこれまでのモデルとは異なり、波のような立体的なものに変更されている

上から、「NW-A300」シリーズ、「NW-A100」シリーズ、「NW-A50」シリーズの順。右側面に用意された物理ボタンのデザインも世代を追うことに微妙に変化していることが確認できるだろう

上から、「NW-A300」シリーズ、「NW-A100」シリーズ、「NW-A50」シリーズの順。右側面に用意された物理ボタンのデザインも世代を追うことに微妙に変化していることが確認できるだろう

とはいえ、いちばんのトピックはその内部、音質にまつわるアップデートだろう。デジタルアンプ「S-Master HX」の搭載は従来モデルから変わらず、アルミ押し出し材から削り出したシャーシやアナログ/デジタル部を分離させた基板レイアウトなどはそのままに、上位モデルにも採用された金入りはんだを全接点に採用、抵抗値を低減した専用バッテリーへの変更など細部をブラッシュアップすることで、広がりや定位感、S/N感など音質面での向上が押し進められている。

「NW-A300」シリーズの内部基板。「NW-A100」シリーズでも採用したアナログ/デジタル部を分離させた基板レイアウトを踏襲しつつ、新たに金入りはんだを全接点に採用することで、音質のさらなる向上を実現したという

「NW-A300」シリーズの内部基板。「NW-A100」シリーズでも採用したアナログ/デジタル部を分離させた基板レイアウトを踏襲しつつ、新たに金入りはんだを全接点に採用することで、音質のさらなる向上を実現したという

また、Android OSが「NW-A100」シリーズのバージョン9よりも新しいバージョン12へと変更されたのもトピックだ。バッテリー駆動時間も最長で36時間(MP3 128kbps)となり、従来モデルから10時間ほどロングライフになっている。いちばんタフな使い方、標準プレーヤー(W.ミュージック)以外のストリーミング音楽サービスアプリでBluetoothワイヤレス再生をした場合でも約18時間(LDAC接続優先)音楽を聴き続けられるというのだから、とても実用的になったと言えるだろう。

音楽再生機能では、圧縮音源をハイレゾ相当の高音質にアップスケーリングする「DSEE Ultimate」がアップデート。既存の「NW-A100」シリーズではW.ミュージックアプリ+有線イヤホン利用時という縛りがあったが、「NW-A300」シリーズはアプリ制限なし、有線・無線(Bluetooth)問わず利用可能となっている。こちら、2022年に発売された「NW-WM1ZM2」「NW-WM1AM2」ではすでに提供されている内容だが、「NW-A300」シリーズでも当たり前に利用できるのはありがたいかぎりだ。

搭載しているAndroid OSはバージョン12。Google Play経由でのアプリ追加ももちろん可能だ。圧縮音源をハイレゾ相当の高音質にアップスケーリングする「DSEE Ultimate」は、使用できるアプリや接続方法の縛りがなくなり、ストリーミングサービスやBluetoothイヤホン・ヘッドホンとの組み合わせでも使えるようになった

搭載しているAndroid OSはバージョン12。Google Play経由でのアプリ追加ももちろん可能だ。圧縮音源をハイレゾ相当の高音質にアップスケーリングする「DSEE Ultimate」は、使用できるアプリや接続方法の縛りがなくなり、ストリーミングサービスやBluetoothイヤホン・ヘッドホンとの組み合わせでも使えるようになった

ほかにも、イコライザーやダイナミックノーマライザー(曲同士の音量レベルを揃える機能)、DCフェーズリニアライザー(低域の位相を伝統的なアナログアンプに近づける)バイナルプロセッサー(アナログレコード的な聴き心地を作り出す)などのデジタル調整機能を搭載しており、自分好みの音を作り上げることができるようになっているのもポイント。ソニー製のイヤホン・ヘッドホンを組み合わせる場合であれば、「Sony | Headphones Connect」アプリを活用してスマートフォンからの耳型データのインポートを行うことで、「360 Reality Audio」の個人最適化も可能だ。こういったAndroid OS採用によるさまざまなメリットがしっかりと享受できる点もうれしいポイントだろう。

イコライザーやDCフェーズリニアライザー、バイナルプロセッサーといったデジタル調整による充実のサウンドカスタマイズ機能が使えるのもウォークマンならではの特徴だ

イコライザーやDCフェーズリニアライザー、バイナルプロセッサーといったデジタル調整による充実のサウンドカスタマイズ機能が使えるのもウォークマンならではの特徴だ

バリエーションは32GB(実使用可能領域は約18GB)/64GB(実使用可能領域は約47GB)の2モデルで、ユーザーから不満の声があがっていた16GBは廃止となっている。また、「NW-A100」シリーズで設定されていた専用ノイズキャンセリングイヤホン付属モデルも「NW-A300」シリーズでは廃止されている。特に付属イヤホンによるノイズキャンセリング機能廃止は、この部分だけを注目するとスペックダウンにも見えるが、実際はイヤホンジャックを上位モデル(「NW-WM1ZM2」や「NW-WM1AM2」、同時発表の「NW-ZX707」)に採用されているLRグラウンド分離の4極タイプへと変更したための措置だ。これによって、さらなる高音質化を手中にしたというわけだ。

3.5mmイヤホンジャックは、LRグラウンド分離の4極タイプを新たに採用

3.5mmイヤホンジャックは、LRグラウンド分離の4極タイプを新たに採用

「NW-A100」シリーズとの差はわずかだが、「NW-A50」シリーズとの差は大きい

ということで、ここからは肝心の音質についてチェックしていこう。今回の取材のために、「NW-A50」シリーズと「NW-A100」シリーズも借用して音質の違いを確認、ユーザビリティも含めて買い替えが必要か否かを確認した。

まず、「NW-A300」シリーズからチェック。その音はひと言で表せばニュートラル志向のサウンド。全体的なまとまりがよく、歌声も自然。ボーカルの立ち位置は近すぎず遠すぎず、ボーカリストそれぞれの声の魅力をしっかりと伝えてくれる。ややメリハリが弱いが、自然な声色のため違和感はない。左右への広がり感も良好で、奥行きはそれほど広がらないものの楽器の演奏が妙に出しゃばることもなく聴きやすい。Jポップもクラシックもそつなくこなす、懐の深さも大いに魅力だ。中高域にわずかな雑味があり、オーケストラ演奏などではさすがに解像感が足りないと思ってしまう傾向はあったものの、それがかえって自然な音色に感じられる絶妙なチューニングだったりもする。今ある資産で最良のサウンドを作り上げた、熟成のサウンドと言える。

次に「NW-A300」シリーズ進化ポイントのひとつ、3.5mm4極ジャックによるグラウンド分離接続の音も確認してみた。比較のためにBrise Audioの変換ケーブル「YATONO-CONV」を4.4mm→3.5mm4極と4.4mm→3.5mm3極の2タイプ借用し、差し替えることで音の違いをチェックした。final「A8000」やビクター「HA-FW10000」、ソニー「MDR-Z1R」、オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」など、音の変化が面白く、高級モデルをメインにいろいろなイヤホン、ヘッドホンを試してみたが、総じてセパレーションがよくなりノイズ感も改善されていた。気になっていた中高域の雑味も解消されるので、できればメインのイヤホン・ヘッドホンはグラウンド分離接続で楽しみたいところだ。なお、上記4製品の中ではfinal「A8000」とオーディオテクニカ「ATH-ADX5000」の2つが音色傾向的な相性がよく、キレのある力強いサウンドを楽しむことができた。

「NW-A300」シリーズのサウンドをチェック。グラウンド分離接続による効果はかなり期待できるので、メインのイヤホン・ヘッドホンはできる限りグラウンド分離接続で運用したいところだ

「NW-A300」シリーズのサウンドをチェック。グラウンド分離接続による効果はかなり期待できるので、メインのイヤホン・ヘッドホンはできる限りグラウンド分離接続で運用したいところだ

続いて、「NW-A100」シリーズと聴き比べてみる。クオリティ的に両者の差はそれほど大きくはないものの、サウンドキャラクターがかなり違う。音色のニュートラルさ、低域のフォーカス感、帯域バランスのよさで明らかに「NW-A300」シリーズが勝っている。比較すると「NW-A100」シリーズの音がクセっぽく感じるから不思議だ。こと音質面においては「NW-A100」シリーズユーザーがわざわざ買い替えるほどの差はないが、これから購入するのだったら間違いなく「NW-A300」シリーズを選びたいところ。音もそうだが、新しいAndroid OSを採用していること、バッテリー持続時間が長いなどの機能面で大いに魅力的だからだ。また、ファイル伝送速度がかなり速くなってくれた点も見逃せない。約1GBの楽曲データを転送した際、「NW-A100」シリーズは30秒以上かかったが、「NW-A300」シリーズでは10秒ほどに。これはありがたい進化だと思える。

用意した「NW-A100」シリーズとの聴き比べを実施。最新の「NW-A300」シリーズとの差は少なく、今「NW-A100」シリーズを使っているという人はわざわざ買い替えるほどではないが、新規にウォークマンAシリーズを購入するなら、最新の「NW-A300」シリーズ一択だろう

用意した「NW-A100」シリーズとの聴き比べを実施。最新の「NW-A300」シリーズとの差は少なく、今「NW-A100」シリーズを使っているという人はわざわざ買い替えるほどではないが、新規にウォークマンAシリーズを購入するなら、最新の「NW-A300」シリーズ一択だろう

さらに、非Android OSの「NW-A50」シリーズとも比較してみたが、こちらは音質面での違いがはっきりと感じられた。「NW-A300」シリーズと比べると明らかにノイジーで高域に歪みも感じられる。発売当初、「NW-A50」シリーズはクラスを超える良質なサウンドを持ち合わせていると思ったが、時代の進化は酷なもので、今さらわざわざ「NW-A50」シリーズを選ぶ根拠は見当たらない。

最後に余興として手元にある「NW-ZX500」シリーズとも比較してみたが、ノイズの少なさで「NW-ZX500」シリーズが圧勝。とはいえ、音色の自然さでは「NW-A300」シリーズも魅力的で、どちらを選ぶかは好み次第といったところ。というか、「NW-ZX500」シリーズで直接比較できる段階で「NW-A300」シリーズのよさが際立っている。

「NW-ZX500」シリーズと比べてみたが、さすがにノイズの少なさは「NW-ZX500」シリーズに軍配が上がるが、旧モデルとはいえ、ワングレード上の「NW-ZX500」シリーズと互角に渡り合えるほどの実力を有している「NW-A300」シリーズもさすがだ

「NW-ZX500」シリーズと比べてみたが、さすがにノイズの少なさは「NW-ZX500」シリーズに軍配が上がるが、旧モデルとはいえ、ワングレード上の「NW-ZX500」シリーズと互角に渡り合えるほどの実力を有している「NW-A300」シリーズもさすがだ

【まとめ】ハイレゾDAPのファーストチョイスにぴったりな1台

このように、「NW-A300」は見た目、使い勝手、音質で十分に満足できる製品に仕上がっていた。サウンドキャラクターに関しては人によって好みが分かれるだろうから、一度試聴してからの導入をおすすめしたいが、少なくともスマートフォンで音楽再生するのに比べて良質なサウンドが手軽に楽しめるようになるのは確かだ。

さらに、利用できるアプリやイヤホンの接続方法の制約がなくなった「DSEE Ultimate」のおかげで、有線イヤホンによるお手軽・高音質な音楽リスニングだけでなく、ストリーミングサービスとBluetoothイヤホン・ヘッドホンを組み合わせた昨今のリスニングスタイルにもうまくフィットしてくれる。弱点だったバッテリー駆動時間も改善され、比較的新しいAndroid OSの搭載でこの先も長く愛用できるのもうれしいところだ。

一応、「NW-A100」シリーズも16GBモデルがラインアップに残るとアナウンスされているが、音質やこの先の使いたいアプリが増えることも考えると、今導入するなら間違いなく「NW-A300」シリーズを推したい。ハイレゾDAPのファーストチョイスとして、「NW-A300」シリーズの導入をぜひ検討してみてほしい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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