アップルのスマートスピーカー「HomePod」(第2世代)が2023年2月3日に発売される。発売前にひと足先に試すことができたので、第1世代モデルとどこが違うのか、どう進化しているのか、さっそくレビューしていきたい。
「HomePod」(第2世代)のアップルストア価格は44,800円(税込)
第1世代の「HomePod」は海外での発売から1年半遅れて2019年に日本で発売され、2021年に生産終了となった。「A8チップ」の不足などが理由と言われているが、本当のところは不明だ。その後、2020年に小型の「HomePod mini」が発売された。
スマートスピーカーブームもやや落ち着いたタイミングでの新モデル登場に驚いた人も多かったのではないだろうか。それでも、アップルは昔から音楽にフォーカスしており、よりよい音を求める人向けのモデルと考えれば、突然の復活にもそれほど驚きはない。
まずは「ほとんど変わっていない」と言われる第1世代モデルとの違いから見ていこう。本体はほぼ同じ大きさだ。高さが4mmだけ減り、重さが0.2kgほど軽くなっている。メッシュ生地を使った円筒型の形状は変わっていない。カラーバリエーションもブラック系(第2世代はミッドナイト、第1世代はスペースグレイ)とホワイトの2色で同じだ。
違う点としては、上部の「Touchサーフェス」のLEDが第1世代モデルでは中央部だけだったが、第2世代では端から端まで光るようになった。あとは、電源ケーブルが本体から抜けるようになったのも違いで、同じように見えるが細かな点が変わっている。
本体サイズは幅(直径)が142mm、高さが168mm。重量は2.3kg。左から「iPhone 14 Pro」、「HomePod」(第2世代)、「HomePod mini」を並べてみた
ミッドナイトモデルは100%再生メッシュ生地で作られている。どの角度から見てもつなぎ目がなく、どんな部屋にでもマッチするデザインは、第1世代モデルから変わっていない
「Hey Siri」に反応するときなどに光る「Touchサーフェス」。端から端まで光るようになり、見やすく、見た目もより洗練された。+/−で音量の調整、タップで再生/停止、ダブルタップで曲送り、トリプルタップで曲戻しなどの操作が可能
本体と同じ色で統一された編み込み電源ケーブル。第1世代モデルでは本体から電源ケーブルが伸びていたが、第2世代は本体から取り外しができるようになった
中身はアップルが注力する「コンピュテーショナルオーディオ」を支えるチップが、第1世代モデルの「A8チップ」から「S7チップ」に変わっている。iPhone用からApple Watch用へとダウングレードしたと思うかもしれないが、「A8チップ」は「iPhone 6」世代のチップなのに対して、「S7チップ」は「iPhone 11」に搭載された「A13 Bionic」をベースにしたチップなので、世代的にかなり進化しており、高性能化を果たしていることが容易に想像できる。
ワイヤレスネットワークは、無線LANが第1世代モデルIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)からIEEE802.11n(Wi-Fi 4)に変わり、世代がひとつだけ古くなっている。IEEE802.11acは5GHz帯を利用するのに対して、IEEE802.11nは2.4GHzと5GHzを利用。速度やつながりやすさのバランスを考えて、障害物に強い2.4GHz帯も必要という判断なのかもしれない。
肝心の音はどうだろう? 「オーディオテクノロジー」を第2世代モデルと第1世代モデルで比較したものが以下の表だ。
アップルのWebページの「オーディオテクノロジー」の部分(+α)を比較したもの
比べてみるとツイーターとマイクの数が減っているのが気になるところだ。高音域の表現力や繊細さ、「Hey Siri」の認識精度が落ちているのかと思ったが、試してみると決してそんなことはなかった。第1世代モデルが手元になく厳密に比較することはできないが、高音域の物足りなさや「Hey Siri」の認識精度が悪いと感じることはなかった。ツイーターとマイクの数が減っても、それを感じさせないのは、「コンピュテーショナルオーディオ」の進化によるところが大きいのかもしれない。
「HomePod」(第2世代)の内部。上部にウーハー、中央にマイク、基部(下)に5つのツイーターが配置されている
実際の音は、第1世代モデルでも感じたが、とにかく低音がすごい。賃貸住宅で深夜に大ボリュームで鳴らすのはやめたほうがいいレベルだ。低音が強めでは使いにくい、低音が苦手という人は、「ホーム」アプリを使って、「低音を減らす」にチェックを入れるといいだろう。同機能を有効にしても、音のバランスが崩れることはなく、人の声が聞き取りやすくなる印象だ。
また、1台で空間オーディオに対応するのもポイント。上下左右、背面のいろいろなところから音が聞こえる効果は控えめだが、1台だけで対応するのはすごい。空間オーディオをより味わいたい人は、2台の「HomePod」を使ってステレオペアで使うのがいいだろう。
昨年デビュー50周年を迎えた松任谷由実さんの「中央フリーウェイ」は、「2022mix」が空間オーディオに対応しているので、非対応の曲と聞き比べてみると、その差は歴然で立体感のあるサウンドを楽しめる。そして、やっぱりいい歌だ。
室内検知テクノロジーも優秀で、壁の近くに置いているのか、壁から距離があるのかを5つのビームフォーミングツイーターのアレイが制御し、どんな場所に設置してもいい音を鳴らしてくれる。
手持ちの「HomePod mini」と比べると、低音はもちろんだが、音の情報量がハッキリと違う。空間オーディオ対応のコンテンツではその差はもっと広がる。サイズも内部構造も価格も違うので当然だが、音質を重視したいなら、第2世代の「HomePod」を選びたい。
使い勝手は第1世代の「HomePod」や「HomePod mini」と比べて、大きく変わっていないように感じた。「Hey Siri」を使った、声による音楽のコントロール、タイマー・アラームの設定、自分のiPhoneの場所の確認など、さまざまなことができる。最大6人までの声を認識し、各メンバーが自分のプレイリストを聞いたり、リマインダーを頼んだり、カレンダーのイベントを設定したりすることも可能。細かな点だが、上部の「Touchサーフェス」のLEDが端から端までに広がり、声を認識しているかどうかが視認しやすくなったのは、うれしい改善点だ。
第1世代の「HomePod」になかった超広帯域テクノロジーが搭載されたことで、iPhoneを「HomePod」に近づけて音楽やポッドキャストの再生を引き継ぐ機能もブラッシュアップされている。第1世代モデルでも同じことはできたが、スムーズに引き継げず同機能をオフにしているという声もあった。第2世代モデルは、音楽再生中のiPhoneを近づけると、数秒で「HomePod」側に再生が引き継がれ、ストレスなく同機能を使えるだろう。
音楽を再生中のiPhoneを「HomePod」に近づけると、直接再生を引き継げる。家族のiPhoneを近づければ、パーソナライズされた曲やポッドキャストの提案を受けられる
設定も非常にシンプルですぐに使い始められる。「AirPods」のように自分のiPhoneを近づけて、画面の指示にしたがって何度かタッチするだけですぐに使い始められる。
ディスプレイもボタンもない「HomePod」の初期設定は、iPhoneを近づけるだけ。「AirPods」でもおなじみの設定手法だ。細かな設定などは「ホーム」アプリで行う
第1世代モデルと同様、2台の「HomePod」があればステレオペアとして使える。その効果は前述のとおり、広がりや空間オーディオの効果がワンランク上がる。設定時に「ステレオペアとして使用」するかを問われるので、設定は簡単だ。ほかのHomePodとステレオペアができるか気になるが、試したところ「HomePod mini」とペアを組めたが、音のバランスがよくなかった。「同じモデルのHomePodスピーカーが2台必要」とWebページに注意書きがあるとおり、ベストなステレオペアを構築するためには、同じ「HomePod」を用意したほうがいいだろう。
このほか、別の部屋に「HomePod」を設置して、電話のようにメッセージ(インターコム)を送り合ったり、同じ音楽を再生したり、さまざまな使い方が可能だ。
ステレオペアは、初期設定時だけでなく、後から2台目を追加したときも手動で設定できる
ステレオペアの効果が特に発揮されるのが、「Apple TV 4K」と組み合わせて、「HomePod」をホームシアタースピーカーとして使ったときだ。「Apple TV 4K」(第2世代モデル以降)は、eARC(Enhanced Audio Return Channel)に対応しており、テレビ放送やほかの映像機器、ゲーム機の音を「HomePod」で出力できる。
「HomePod」の初期設定時に「Apple TV」のスピーカーとして利用するかどうかを設定できる
手持ちの「Apple TV 4K」(第2世代)と組み合わせて、ホームシアタースピーカーとして利用してみた。迫力のある低音と広がりのある音で映画などを楽しめる
「Apple TV 4K」のサウンド設定で、「HomePod」を選べる
「Apple TV 4K」(第2世代以降)はeARCに対応しており、テレビ放送の音声を「HomePod」で再生できる。ほかの映像再生機器やゲーム機器などもOK
スマートホーム機能では、温度と湿度のセンサーが搭載され、温度の変化に応じてカーテンを開け閉めするなどのオートメーションが設定できるようになった。なお、温度・湿度センサーは「HomePod mini」にも搭載されている(これまで搭載していることは明らかになっておらず、アップデートで利用可能になった)。
温度と湿度のセンサーが搭載され、「ホーム」アプリ上で部屋の温度と湿度が確認できるようになった。「Siri」に頼めば、部屋の温度を教えてくれる
温度センサーで温度情報を取得し、指定した温度になったら、「HomePod」で音を鳴らすなどのオートメーションを設定できる
「HomeKit」対応のカメラを利用したオートメーションの設定も可能
今春にはアップデートにて「サウンド認識」が利用できるようになる予定だ。警報音を聞き取り、特定の音と検知されると、ユーザーのiPhoneに通知を送信してくれる。オートメーションの一種で、日本でも利用できる予定だ。
新たに、スマートホームの統一規格「Matter」にも対応した。「Metter」対応のデバイスを「ホーム」アプリで操作できるハブとして動作する。いろいろな「Metter」対応デバイスを「HomePod」(「ホーム」アプリ)に紐付けて、そこから操作するイメージだ。なお、「HomePod」をほかのホームハブに紐付けて、スピーカーとして使うことはできないようだ。
発表時は、第1世代モデルからスペックダウンしている印象を受けた第2世代の「HomePod」だが、実際に音を聞いて、使ってみると着実に進化していることがわかった。「AirPods」などで磨いてきたコンピュテーショナルオーディオとパワフルなハードを掛け合わせ、パワフルでインテリジェントなサウンドを実現している。スマートホームへの対応も着実に進んでいるが、日本では対応機器がまだまだ少なく、その利便性はまだ本領を発揮できていない印象だ。温度・湿度センサーが搭載されたことで、対応機器や使い道が広がるので、今後に期待したい。
円安の影響で価格は第1世代モデルよりも価格は高いが、「HomePod mini」よりも音質にこだわりたい人にとっては、絶好の選択肢と言える。
ガジェットとインターネットが好きでこの世界に入り、はやいもので20年。特技は言い間違いで、歯ブラシをお風呂、運動会を学芸会、スプーンを箸と言ってしまいます。お風呂とサウナが好きです!