モバイルや超短焦点型の登場で、Z世代にも注目されるプロジェクター。もっとも、投写先を壁からスクリーンに変えると断然キレイに見えるのをご存じでしょうか? この連載ではその効果と種類を、イマドキのトレンドも踏まえて紹介します。
連載の第3回までで、スクリーンがなぜ必要か、それが「幕面」と「機構」の組み合わせでできていることがおわかりいただけたかと思います。
そこで編集部からひとこと。
「スクリーンて、結構奥が深くていろんな種類があるんですね。で、ぶっちゃけ、どれを買えばいいんですかねぇ?」
そりゃあスクリーンは、2回目で説明した「幕面」と、3回目で説明した「機構」の組み合わせなのだから、それぞれのコストの足し算でしょ?と。でもそれって、メーカー側の視点ですよね……。
というわけで、ここまでの連載のまとめも兼ねて、ユーザー目線で「自分の部屋に合うスクリーン」選びをシミュレーションしてみましょう。
全暗にできる専用ルームに超短焦点プロジェクターとフレーム式のマットスクリーンを組み合わせた例(写真:株式会社蔵持)
「この部屋でホームシアターをやりたい!」と決めたら、まずはその部屋に合わせてプロジェクターを選択、続いてそれに合うスクリーンを組み合わせることになります。ここは、連載の第1回で書いたおさらいになります。
部屋が広い、ないし縦長に使えるなら、長焦点のプロジェクターが使えます。同じコストを投入するなら、一般に長焦点のほうが短焦点プロジェクターよりも高画質でレンズシフト機能など設置にも融通がききます。100インチの投写に3m前後の距離が必要な長焦点プロジェクターの導入が難しければ、短焦点のプロジェクターを検討しましょう。
そのうえで、見るときに部屋を暗くしてもよいなら、映像が素直で、キレイに見える「拡散型」(マット系)スクリーンをチョイスしましょう。
次は「機構」とサイズ。「機構」については連載の第3回のとおり、予算と求める画質の程度に応じて選ぶことになります。
サイズはどうでしょうか。希望の投写に使える壁面の広さ、プロジェクターの焦点距離を調べ、可能な最大サイズを選べばよいと思いがちです。しかしその際注意すべきは、部屋の天井高、スクリーン下のAVボードとの干渉、スクリーン両サイドに置く(フロント)スピーカーのスペースを無理なく確保することです。
仮に幅3,000mm(3m)ほどスクリーン周りを確保できるとすれば、上図のように100インチのスクリーン(横幅は2,214mm)を配置して左右にスピーカーを配置するスペースが取れそう
また、見るときに座る椅子の高さも重要です。
映画館で最前列に座ると広い視野角の大迫力に圧倒されますが、家で見るときはヘッドレストのない椅子では、2時間の映画鑑賞でも結構首が疲れます。
ですから、できるだけ見上げなくて済むように、スクリーンの中心が人の視線の高さになるようスクリーンの配置を考えましょう。
長時間見上げるのは首がつらいので、スクリーンの中央が視線の高さかそれより少し低いぐらいになるように設置するのがベター。見上げるようならヘッドレスト付きの椅子が欲しいところです
映画は映像と音の芸術。ですからホームシアターの設置においては、同時に音響設備の好ましい配置も考えたいところです。
目の高さと耳の高さはほぼ一緒ですから、スクリーンの中心の高さに座るということは、そこは(フロント)スピーカーの理想的な高さでもあるべきということになります。
実は、人の耳は低音よりも高域に敏感に反応するようにできています。そこで(フロント)スピーカーの高さは、高域を再生するスピーカーユニット(ツイーターなどと呼ばれます)に合わせるのがコツです。
ここまで読んでお気づきだと思いますが、実は部屋に対するスクリーンのサイズと場所を決めるということは、(フロント)スピーカーの理想的な配置や高さも決めてしまうことになるのです。
一般的なトールボーイ型スピーカーのツイーターの高さがおおよそ床から900mmほど。これを100インチのスクリーンの中心に合わせようとすると、下に置くAVボード(ラック)はあまり高くできないことがわかります。120インチにするとなおさら。スクリーンの検討は、居心地のよいリビング空間全体のあり方を考えるのにもよい機会です
映像とスピーカーユニットの位置を揃える、これを文字通り実践しているのが映画館。映像と音響デザインが寄り添うように、「サウンドスクリーン」という音が透過するスクリーンを採用し、背後のスピーカーから音が出るようにしています。登場人物のセリフが大きなスクリーンの口元からきちんとリアルに聞こえるのはそのためです。
家庭用でもサウンドスクリーンはラインアップされています。家庭内にミニシアターを持ち込みたい人はぜひチャレンジしてみてほしいと思います。
イーストンのサウンドスクリーンの幕面サンプル。音を透過するサウンドスクリーンには、イーストン「E8K」のような織物生地のものと、スチュワートのようなビニール生地に細かい穴を開けたものがあります
こちらがスチュワートのサウンドスクリーンイメージ。一般的な映画館の幕面に近い構造です
変わった「機構」のものには、画角に合わせてスクリーンの黒みが変わる4方向マスクスクリーンなどというマニアックなものもあります
次に、「投写距離は取れる」、だとしても「我が家で広いスペースと言えばリビングしかない」という場合。
そういったご家庭がほとんどだと思います。そして、部屋を暗くできないから大型テレビを購入する……。そういった着地点にいたるのはあるあるでしょう。
でも、「いくら薄くてもリビングに大きな黒い物体は抵抗がある」「88V型(インチ)のテレビなんてどうやって搬入する?」「テレビじゃ映画を見た気になれない」などなど……。スクリーンとプロジェクターでなければ実現できない世界があります。
そんな諦めきれないユーザーのために、連載の第2回で書いたとおり、プロジェクターはより明るく、スクリーンもできるかぎり色味を変えずに明るい環境にも対応すべく進化しています。
たとえばソニーのプロジェクター「VPL-XW7000」は、従来1,000ルーメン未満が主流だったプロジェクターの明るさを3,200ルーメンにまで高めています。それと同時に、多少照明の影響を受けても暗いシーンが白んでしまったり、黄色く変色してしまったりしないよう適正に補正する機能「ライブカラーエンハンサー」を設ける工夫をしています。
ソニーの4Kプロジェクター「VPL-XW7000」
周囲の光の影響を受けやすい色も鮮やかに表示するための「ライブカラーエンハンサー」機能。弱/中/強と効果を調整できます
またスクリーン側も照明の影響を抑えつつ、鮮やかに見えるスクリーンが続々登場しています。キクチの「ソルベティグラス」は、環境光の影響を受けにくくプロジェクターの光をすくい取ろうという「回帰型」のアレンジバージョンと言えます。また、より本格的なものをというのであれば、受注生産となりますが、世界中の映画館で愛用されているスチュワート社の「グレイホークRSG3」はさすがの発色です。
世界中の映画館への導入実績があるスチュワートのスクリーン。とても高価ではありますが、ホームシアター用としても「グレイホークRSG3」などが人気です
理想的なリビングシアターを実現するためには、こうした製品を選んだうえで、スクリーンの幕面に直接光源が当たらないような照明環境を作ることが重要です。
部屋の真ん中に高輝度の照明一灯ではなく、狭角ダウンライトや間接照明を適切に配置すること……。これは、ホームシアター環境をよくするだけでなく、インテリアセンスの見せ所でもあるのです。LEDテープライトも活用できそうですね。
スクリーンにできるだけ直接光が当たらないようにしつつ、狭角ダウンライトやブラケットライト(壁掛け)、フロアライト(床置き)、デスクライトなど必要な場所に多灯配置すると、視聴環境だけでなく部屋のインテリアの雰囲気もぐんとグレードアップします
短焦点プロジェクターを使っても投写距離が取れない……。そうなると諦めるしかなかったスクリーン&プロジェクターの世界ですが、近時注目を浴びている“超”短焦点プロジェクターなら、狭い部屋ないしホームシアターの横長配置も容易に実現できます。
しかもプロジェクターへの配線も、フロント周りに置いたAVボード(ラック)で完結します。プロジェクターを天井に吊ったり背面の棚に置いたりして10mもHDMIケーブルをはわせる必要がないのです。
8畳弱の長方形の部屋に一般的な焦点距離のプロジェクターとスクリーンを設置しようとする場合のイメージ。スクリーンサイズは100インチ前後までが現実的です
超短焦点プロジェクターを使えば、横長配置でスクリーンサイズ120インチが可能かも!?
ちなみに、部屋の横長配置は音にもよいとする研究もあるんですよ。チャレンジして、もし音質も改善できれば一石二鳥ですね。
ただし問題は、スクリーンへの投写角がキツいために、スクリーンの平面性がシビアに求められることです。そこは、超短焦点プロジェクター向けのスクリーンを選ぶしかありません。
また、明るい部屋でも楽しみたいなら、連載の第2回で紹介したような、上からの照明の光をカットして下からのプロジェクターの光だけを反射する「耐外光スクリーン」を選びたいところです。
さて、以上でアナタの部屋の設置条件とプロジェクターの関係から選ぶべきスクリーンの種類はおわかりいただけたかと思います。
そして最後に最重要なのがコスト。「幕面」が特殊だったり、「機構」が複雑だったりすると高いのはわかります。でもたとえば、どうして同じマットのフレーム式なのに値段が倍も違うの? についてお答えしなければなりません。
まず幕面については、わかりやすく言えば海外製か日本製か、平面性を確保するための生地が凝った構造か、マットなら拡散性を得るためのエンボス加工が規則的でなくランダムか(ランダムだと、モアレを防ぐ効果を期待できます)、表面処理が機械塗りか手塗りかなどなど。機構部分も、製造の精密性のほか、大きなものなので輸送時に故障しないか、輸入品ならそのコストも値付けに影響します。
これらはもちろんメーカー側の事情ですが、信頼できるメーカーの製品であればきちんとしたものを適正な価格で販売しているはず。大きくてそうそう入れ替えることもないスクリーンだから、いたずらに宣伝文句にあおられることなく、ホームシアター専門店やメーカーにいろいろ質問して納得のいく一枚を手に入れてください!
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングする「fy7d」代表。ホームシアターの専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、現在はインテリアとの調和を考えたシステムプランニングも行う。