レビュー

テレビのリモコンで操作できる! ARC対応アンプ「AI-303」&「AVR-X580BT」レビュー

2022年の年末から2023年の年始の約2週間、「ARC/eARC」「CEC」対応のHDMI端子を搭載する最新アンプ2機種とスピーカー2機種を自宅に持ち込み、高品位な2ch再生でテレビの音を楽しんでみた。アンプに選んだのは、TEAC(ティアック)のプリメインアンプ「AI-303」とデノンのAVアンプ「AVR-X580BT」。いずれも、テレビの音をよくしたい、と考える人にとって有力候補となりそうな新製品である。

TEACのプリメインアンプ「AI-303」。USB-DAC機能を持っているため、PCとつなげばハイレゾファイルの再生も可能だ。従来製品からのアップデートポイントとして大きいのが、今回のメインテーマ「ARC/eARC」対応のHDMI端子の搭載だ

TEACのプリメインアンプ「AI-303」。USB-DAC機能を持っているため、PCとつなげばハイレゾファイルの再生も可能だ。従来製品からのアップデートポイントとして大きいのが、今回のメインテーマ「ARC/eARC」対応のHDMI端子の搭載だ

デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」。現在流通している最新AVアンプは基本的に「ARC/eARC」対応のHDMI端子を装備しているが、その中でも手軽に入手できる価格を重視した選択だ

デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」。現在流通している最新AVアンプは基本的に「ARC/eARC」対応のHDMI端子を装備しているが、その中でも手軽に入手できる価格を重視した選択だ

つないだ製品を“テレビの付属スピーカー”にできる、「ARC/eARC」+「CEC」連携

「ARC(Audio Return Channel)」はその名称のとおり、テレビなどの映像表示機器から音声信号をオーディオ機器に“戻す”ための技術。テレビが受信している、あるいはHDMI接続している外部再生機器(レコーダーやプレーヤー)から送られてくる映像/音声信号のうち、音声信号のみをオーディオ機器へ伝送する。192kHz/24bitまでのリニアPCM2ch音声やDolby Digital/DTS5.1ch音声の再生に対応しており、近年は高品位を期待できるDolby True HD/DTS-HD Master Audioによる5.1ch/7.1ch音声、Dolby Atmos/DTS:Xによる立体音響に対応した「eARC(Enhanced Audio Return Channel)」も登場。最新の音声フォーマットが、HDMIケーブル1本でオーディオ機器に伝送、再生できるようになった。

TEACのプリメインアンプ「AI-303」は、背面右上に「HDMI(eARC)」端子が配置されている。接続としては、この端子とテレビのARC/eARC対応のHDMI端子をつなぐだけ。テレビの音を強化できる。ただし、受け付ける音源はリニアPCMのみ。音が出ない場合は、テレビのデジタル音声出力が「ビットストリーム」になっていないか、確認してみよう

TEACのプリメインアンプ「AI-303」は、背面右上に「HDMI(eARC)」端子が配置されている。接続としては、この端子とテレビの「ARC/eARC」対応のHDMI端子をつなぐだけ。テレビの音を強化できる。ただし、受け付ける音源はリニアPCMのみ。音が出ない場合は、テレビのデジタル音声出力が「ビットストリーム」になっていないか、確認してみよう

デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」は、背面中央上に「ARC/eARC」端子が配置されている。こちらもこの端子とテレビの対応端子をつなぐ。5chアンプを内蔵したモデルだが、今回使うのは2chだけ。一見もったいないようだが、AVアンプの利便性は2chシステムでも光る。ぜひ試していただきたい

デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」は、背面中央上に「ARC/eARC」端子が配置されている。こちらもこの端子とテレビの対応端子をつなぐ。5chアンプを内蔵したモデルだが、今回使うのは2chだけ。一見もったいないようだが、AVアンプの利便性は2chシステムでも光る。ぜひ試していただきたい

「ARC/eARC」対応HDMI端子を搭載するオーディオ機器のうち、市場で高い人気を誇っているのがサウンドバーだ。家電量販店で高級テレビを買ったら、その還元ポイントで買えてしまうぐらいのお手ごろ価格の製品もあり、HDMIデバイスをひとつのリモコンで一括して制御できる「CEC(Consumer Electronics Control)」機能での連携で、一度HDMI接続してしまえば“テレビの付属スピーカー”のように電源のオン/オフや音量調整をテレビのリモコンで一括操作できるようになる。これは人気が出て当然だろう。

TVS REGZAの55V型液晶4Kテレビ「55Z670K」の設定画面。HDMI端子を持ったアンプやサウンドバーと「CEC」連携する場合、「外部入力設定」からこうした設定を行う。もちろん、アンプやサウンドバーが「ARC/eARC」対応のHDMI端子を持っていることが前提となる

TVS REGZAの55V型液晶4Kテレビ「55Z670K」の設定画面。HDMI端子を持ったアンプやサウンドバーと「CEC」連携する場合、「外部入力設定」からこうした設定を行う。もちろん、アンプやサウンドバーが「ARC/eARC」対応のHDMI端子を持っていることが前提となる

しかし、「ARC/eARC」対応HDMI端子搭載のオーディオ機器はサウンドバーだけではない。AVアンプのほか、近年はプリメインアンプにも搭載モデルが少しずつ出てきている。それらを導入すれば、自分の好きなスピーカーと組み合わせて“サウンドバー以上・本格サラウンドシステム未満”の2chAVシステムをシンプルに構築できるし、AVアンプを導入すればサラウンドや立体音響の再生も可能となる。「テレビの音がよくなるのはウェルカム。だけど、毎回アンプの電源を入れたり切ったりするのはめんどくさい」と思っている人は、今も少なくないだろう。けれど、「ARC/eARC」と「CEC」機能の充実によって基本的にアンプを操作する必要はないと言ってよい。“テレビの音をよくする”ためのハードルは、実はずいぶんと引き下げられているのだ。

「ARC/eARC」対応HDMI端子の搭載でAV用途としても使いやすくなった、TEAC「AI-303」

まずは発売されたばかりのTEACのプリメインアンプ「AI-303」をメーカーに借用し、自宅リビングの55V型液晶4Kテレビ、TVS REGZA「55Z670K」と組み合わせて使ってみた。「AI-303」は、TEACが展開する「Reference300」シリーズの新モデルで、横幅約215mmのハーフサイズの外観はシリーズ共通。USB-DAC機能を搭載し、PCとUSB接続することでハイレゾをはじめとする各種デジタルファイルを聞ける。

同シリーズは従来こういったPCオーディオ用途をメインのターゲットとする製品企画で展開されてきたが、今回の「AI-303」の最大のポイントは「ARC/eARC」対応HDMI端子の搭載。つまり本機は、同シリーズの従来モデルのようなオーディオ用途に留まらず、テレビと組み合わせたAV用途としても格段に使いやすいプリメインアンプということになる。

TEACのUSB DAC機能搭載プリメインアンプ「AI-303」

TEACのUSB DAC機能搭載プリメインアンプ「AI-303」

「ARC/eARC」と「CEC」機能を使う場合、基本的にはテレビのリモコンで音量調整をすることになるが、「AI-303」のリモコンにも「ARC/HDMI」呼び出しボタンが用意されている

「ARC/eARC」と「CEC」機能を使う場合、基本的にはテレビのリモコンで音量調整をすることになるが、「AI-303」のリモコンにも「ARC/HDMI」呼び出しボタンが用意されている

TEAC独自の3点支持機構、「Stress-less Foot」を採用

TEAC独自の3点支持機構、「Stress-less Foot」を採用

実はテレビと組み合わせて使う前にデスクトップで数日間、「AI-303」をPCオーディオ用途で使ってみたのだが、その印象がまずよかった。組み合わせたスピーカーは、TEACが輸入販売する英国のスピーカーブランド、タンノイの「Autograph mini/GR」。同社スピーカーの思想と伝統をぎゅっとコンパクトに凝縮した、工芸品のような一品である。

「AI-303」とMacBook AirをUSB接続し、Apple MusicやAudirvanaアプリでストリーミング配信されているさまざまなジャンルのハイレゾ音源を聞いてみると、いずれも音像がピタッと目の前に定位し、豊かな音場がデスクトップに広がる。艶やかな弦楽器の鳴り方や湿り気のあるボーカル再現には英国の老舗ブランドらしい格調が備わっている。同軸2ウェイユニットによる点音源を中心とするこのスピーカーの個性をしっかりと表現するアンプで、50W×2(4Ω)の定格出力も必要にして十分に思えた。

英国のスピーカーメーカー、タンノイの「Autograph mini/GR」

英国のスピーカーメーカー、タンノイの「Autograph mini/GR」

MacBook Airと「AI-303」をUSBケーブルで接続し、ハイレゾ音源なども聞いた

MacBook Airと「AI-303」をUSBケーブルで接続し、ハイレゾ音源なども聞いた

テレビ内蔵スピーカーとは比較にならない、セリフの明瞭性と劇伴の厚み

ではHDMI接続によるテレビの音はどうか。普段リビングのオーディオ用に使っているフォステクスの2ウェイスピーカー「GX100MA」の専用スピーカースタンドを流用し、「Autograph mini/GR」をテレビの横に設置。個人的にこのスピーカーはピュアオーディオ用途で鳴らすべきスピーカーだというイメージがあり、テレビの横に置くのはいかがなものか……と思っていたのだけれど、置いてみると縦長のキャビネットとテレビのマッチングは良好だ。

テレビ内蔵アプリでAmazonプライム・ビデオやU-NEXTの映画コンテンツを見ると、同軸ユニットならではのスピード感で、シリアスな会話劇からアクション映画まで懐深く鳴らしてくれる。スピーカースタンドを使用することで、ユニットをちょうどテレビ画面の真ん中あたりにできたこともきいていると思う。映像と音の一致感、特に人物の口の動きとセリフのシンクロぶりが気持ちいい。音像の定位感や音場の広がり感も、テレビの付属スピーカーとは比較にならないほどアップした。

「AI-303」とタンノイ「Autograph mini/GR」をテレビと組み合わせてセット

「AI-303」とタンノイ「Autograph mini/GR」をテレビと組み合わせてセット

次に、スピーカーをJBLの2ウェイモデル「L52 Classic」に替えて試聴してみた。こちらはセリフが明瞭で、劇伴の再生にしっかりとした厚みと深みが表現される。同環境ではテレビの内蔵スピーカーや数機種のサウンドバーで音を聞いてきたが、それらのどれよりもダイナミックレンジに余裕が感じられ、低音の量感がたっぷりとした鳴り方だ。ブラック/オレンジ/ダークブルー3色のカラーから選べるQuadrexフォームグリルをあしらったフロントフェイスも美しく、テレビに向かうことがより楽しくなる。

「ARC/eARC」対応アンプを使うことの意味は、「高音質なスピーカーでテレビの音を鳴らせること」にあるが、それ以前に「好きなスピーカーが選べることの趣味性」があることも大きいことを改めて実感した。

次に、JBL「L52 Classic」を「AI-303」と組み合わせる。こうして見た目も含めた好みのスピーカーを選べること自体が、サウンドバーにはない楽しみのひとつと言える

次に、JBL「L52 Classic」を「AI-303」と組み合わせる。こうして見た目も含めた好みのスピーカーを選べること自体が、サウンドバーにはない楽しみのひとつと言える

「L52 Classic」のツイーターは、ちょうど画面高さの真ん中あたり。映像と音の一致度を高める工夫だ

「L52 Classic」のツイーターは、ちょうど画面高さの真ん中あたり。映像と音の一致度を高める工夫だ

テレビの「デジタル音声出力」は「PCM」に設定。デノン「AVR-X580BT」でもこの設定をあえて固定した。基本的には「オート」で問題ないはずだが、もし音が出ないなどの問題があった場合はここを確認しておこう。

テレビの「デジタル音声出力」は「PCM」に設定。デノン「AVR-X580BT」でもこの設定をあえて固定した。基本的には「オート」で問題ないはずだが、もし音が出ないなどの問題があった場合はここを確認しておこう。

「AI-303」の「CEC」連携は“完璧”とは言えなかった

ただ、「AI-303」は「ARC/eARC」にも「CEC」にも対応しているのだが、筆者の自宅システム環境下ではごくたまに音声がテレビのスピーカーに切り替わってしまう事象が見られた。テレビの電源をオンにした瞬間に音声が同期せず、数秒間テレビのスピーカーから発音されたのちに「AI-303」の出力に切り替わる、ということも。HDMIケーブルに問題があるのではないかとUltra High Speed認証ケーブルを3本ほど差し替えて試したが、結果は変わらなかった。

「ARC/eARC」によるテレビとオーディオ機器の併用では、両者が“完全に”同期することが使用上の快適さを担保してくれる。「マルチチャンネルまでは考えていないけれど、とりあえずちゃんとした2chステレオでテレビを見たい」というニーズは少なくない。近年のHDMI端子搭載プリメインアンプマランツ「NR1200」や「MODEL 40n」の人気がそれを物語っている。なので、この点に関しては今後ファームウェアアップデートなどによる改善をぜひとも期待したいところだ。

【2023年2月16日 追記】
最新ファームウェアにアップデートされた個体を再度メーカーより借用し、自宅テレビと接続してみたところ、この事象については改善され、完全な同期が実現されていた。テレビとの併用を検討されている方も、安心して使っていただけるはずだ。

あえて2chシステムでも使用したい、デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」

今回はもう1機種、デノンのAVアンプ「AVR-X580BT」も試してみた。「2ch再生のためにAVアンプを使うの?」という抵抗意識を持つ人がいるかもしれないが、結論から言ってしまうと音質的にも操作感的にもすこぶる好印象で、“サウンドバー以上・本格サラウンドシステム未満”というニーズを満たしつつ、将来的には本格サラウンドシステムへの発展も想定することもできる、とても現実的で拡張性のある選択肢だと感じた。

「AVR-X580BT」は、デノンのAVアンプではエントリークラスに位置する製品。昨今のAVアンプはDolby AtmosやDTS:Xなどの立体音響やネットワークオーディオ機能、あるいはAmazon Alexaなどの音声コントロール機能への対応により、多機能・多チャンネルのインフレが止まらないという印象があるけれど、本機は扱うch数を5.2chに絞り、Wi-Fi機能も省略。同価格帯のAVアンプとは一線を画する、ある意味で割り切った製品企画で、その分リソースを音質の向上に充て、5ch同一構成ディスクリートアンプや大型EIコアトランス、ブロックコンデンサーを搭載することが特徴だ。

価格.comの「サウンドバー(シアターバー)」カテゴリーの注目/人気売れ筋ランキングでも上位に入っているサウンドバー「DHT-S217」や「DHT-S517」と同様に、サウンドチューニングは同社「Hi-Fiオーディオ」を手掛ける「サウンドマスター」の山内慎一氏が担当している。

デノンの5.2ch AVアンプ「AVR-X580BT」

デノンの5.2ch AVアンプ「AVR-X580BT」

「ARC/eARC」と「CEC」を活用すれば、「AVR-X580BT」付属リモコンを使用する機会はかなり減る。テレビを見る、あるいはテレビでAmazonプライム・ビデオなどの動画を見る、などの操作であれば、不要だと言ってよい

「ARC/eARC」と「CEC」を活用すれば、「AVR-X580BT」付属リモコンを使用する機会はかなり減る。テレビを見る、あるいはテレビでAmazonプライム・ビデオなどの動画を見る、などの操作であれば、不要だと言ってよい

スピーカーには「AI-303」の試聴に引き続きJBL「L52 Classic」を組み合わせ、まずは付属マイクを使って「オートスピーカーセットアップ」を実行。使用するスピーカーや部屋の音響特性から最適な設定を行ってくれる自動音場補正機能だが、今回は2chなので測定時間も短く、ナビゲーションにしたがって操作を進めてほんの数分で設定は完了。AVアンプはその多機能さゆえ「操作が煩雑そうでとっつきにくい」というイメージを持たれる場合もある。実は筆者もそのひとりで、「できればAVアンプを使わずにAVを楽しみたい」と常々思っていたりするのだが、今回のように入力系統がシンプルであれば操作性も快適で、ここまでは何のストレスも感じない。

ちなみに「オートスピーカーセットアップ」機能のオン時とオフ時で音を聞き比べてみると、その効果をはっきりと感じられた。具体的には、前者ではセリフやドアの開閉音、車の走行音などのフォーカス感が増し、結果的に映像と音の一致度がより高くなる印象だ。「オートスピーカーセットアップ」は、2chのプリメインアンプには搭載されない、AVアンプならではの機能。これを活用できる点においても「あえて2chでAVアンプを使う」メリットは大きい。

「AVR-X580BT」に組み合わせたのもJBL「L52 Classic」。特に音響を整えるための対策をしていないリビングルームでは、「オートスピーカーセットアップ」機能の効果は好ましい方向に働いた。こうしたデジタルでの補正機能は必ずしもよい結果になるとは限らないが、一度試してみていただきたい

「AVR-X580BT」に組み合わせたのもJBL「L52 Classic」。特に音響を整えるための対策をしていないリビングルームでは、「オートスピーカーセットアップ」機能の効果は好ましい方向に働いた。こうしたデジタルでの補正機能は必ずしもよい結果になるとは限らないが、一度試してみていただきたい

付属マイクを使い、テストトーンの計測で補正を行う「オートスピーカーセットアップ」。ここでは、スピーカーを2chに設定する

付属マイクを使い、テストトーンの計測で補正を行う「オートスピーカーセットアップ」。ここでは、スピーカーを2chに設定する

先ほどの「AI-303」と同じように、テレビ内蔵アプリでAmazonプライム・ビデオやU-NEXTで映画コンテンツを見てみると、熱量を持った力強い音が再生される。普段仕事部屋でデノンのプリメインアンプを使っていることもあり、自分にとっては聞きなじみのある音という印象だ。劇伴のストリングスの艶やかさや打楽器のアタック感と低域の解像度の高さに、デノンの「Hi-Fiオーディオ」由来のアンプであることを感じ取れる。それは、Amazon Music Unlimitedでハイレゾ音源をストリーミング再生するとさらよくわかる。こちらもテレビの内蔵アプリを利用すると、濃密な音場に包まれて音楽に没入できる感覚がしっかり味わえる。ピアノの打鍵のニュアンスだけでなく、ペダルを踏む音までが生々しく聞こえてくることにも感心させられた。

「AVR-X580BT」との組み合わせでは主にJBL「L52 Classic」を使ったが、タンノイ「Autograph mini/GR」で鳴らした印象もまったく悪くない。こちらはJBL「L52 Classic」のように音の厚みや熱量を前面に押し出すタイプではなく、スピード感や音色の艶やかな再現力で聞かせるタイプ。室内シーンでの残響感や暗騒音もていねいに再現する。ただ、組み合わせるアンプとしてはTEAC「AI-303」のほうがより相性がよいように感じた。このスピーカーの持ち味を引き出すには、「AVR-X580BT」よりも物量を投じられたアンプのほうが合っているだろう。さらにグレードの高いアンプを組み合わせて聞いてみたくなる。

また、この「AVR-X580BT」については「ARC/eARC」と「CEC」の動作の安定性がきわめて高く、一度HDMI接続をしてしまえばテレビを見るうえで「AVR-X580BT」のリモコンを必要とする場面はほとんどない。電源のオンオフはテレビと完全に同期しており、音量調整も各種ネット動画コンテンツの呼び出しも、すべてテレビのリモコンだけでできる。

こういった使い方であれば、AVアンプ+スピーカーというシステムでサウンドバーと何ら変わらない操作性と上質な2chサウンドを加えられる。もちろん「AVR-X580BT」の内蔵アンプ数はあと3ch分残っているので、「この使い勝手ならサラウンドシステムへの展開もアリかも」という期待も持たせてくれる。サウンドバーに比べると価格的にもスペック的にも少々“ぜいたく”ではあるが、長い目で見ればオルタナティブな選択肢として検討する価値が大いにあると思う。

まとめ:PCとの連携や2ch音質を重視するなら「AI-303」、スムーズな動きを重視するなら「AVR-X580BT」

「で、結局今回のアンプ2機種はそれぞれどんな人におすすめなの?」という話だが、音楽再生に比重を置いた使い方をするならTEAC「AI-303」だろう。今回は主に「ARC/eARC」対応プリメインアンプとしての側面にスポットを当てたけれども、本機の持ち味はやはりデスクトップなどに置いて使える“趣味としてのオーディオ”然とした佇まいと、PCとのUSB接続によるハイレゾ音源の再生能力の高さにある。将来的なテレビとの連携も見据えつつ、まずは「よい音で音楽を」という人にフィットするだろう。

テレビとの連携を第一に考えるなら断然デノン「AVR-X580BT」ということになる。先述のように「ARC/eARC」と「CEC」の動作が安定しているので、“テレビの付属スピーカー”としてストレスなく使えるはずだ。

「テレビの両脇に上質な2chスピーカーを置くことがAVの基本」とよく言われる。テレビが薄くなればなるほど内蔵スピーカー設計の条件は物理的に厳しくなるから、音に物足りなさを覚えたらおのずと別途サウンドバーやスピーカーを用意することになる。

ただ、当然ながらアンプを通さなければ(パッシブ)スピーカーの音は出ない。それこそが多くの人にスピーカーの導入をためらわせる、もしくは多くの人に消去法的にサウンドバーを選ばせる大きな因子になっている。

ここでご紹介したように、“テレビの音をよくする”ためのハードルは、HDMIに「ARC/eARC」と「CEC」が加わったことによってかなり引き下げられている。現状テレビの付属スピーカーで音を鳴らしているけれど、音質的に不満だという人。すでにサウンドバーを導入していて、アップグレードを検討中の人。今回紹介した2機種のような「ARC/eARC」と「CEC」に対応するHDMI端子搭載アンプを導入して、より上質な2ch再生を目指してみてはいかがだろうか。

伊藤隆剛

伊藤隆剛

雑誌編集者、広告デザイナー/プロデューサーを経て、フリーランスのライター/エディターへ。音楽・映画・オーディオ/AV系ガジェットのレビュー、インタビュー&構成を得意分野とする。愛用スピーカーはハーベス「HL-Compact」。

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