レビュー

デノンとマランツのAVアンプは何が違うのか? じっくり比較してみた

2023年1月27日に試聴レポートがアップされたオンキヨー&パイオニアのAVアンプに引き続き、デノン&マランツのAVアンプ最新主力モデルも借りることができたので、自宅での比較試聴記をお届けしたい。僕の部屋に届けられたのは、デノン「AVR-X3800H」、マランツ「CINEMA 50」である。

マランツ「CINEMA 50」(上)とデノン「AVR-X3800H」(下)

マランツ「CINEMA 50」(上)とデノン「AVR-X3800H」(下)

2005年以降、同会社でブランドを展開するデノンとマランツ

デノンとマランツはいずれも長い歴史を誇る名門オーディオブランドだが、2002年にディーアンドエムホールディングスが設立された後、2005年に両ブランドは合併、2017年以降は、Polk Audio(ポークオーディオ)などを有する米国のオーディオ企業体Sound United LLCの傘下に入り、着実な製品開発が行われている。

オーディオアンプやAVアンプ、デジタルディスク(CDやブルーレイ)プレーヤーなど両ブランドは同じジャンルのエレクトロニス製品を数多く発売しているが、ともに長年培ってきたサウンドフィロソフィーに基づいて製品開発が行われているため、音質傾向が大きく異なる。それゆえ両ブランドが並び立っているのだと理解してよいだろう。

またいっぽうで、開発のリソースや製造現場を共用できるため、合理化が容易でコストダウンしやすいというメリットがあることは言うまでもない。この両モデルにおいても、ともに開発したネットワークオーディオ機能「HEOS(ヒオス)」を搭載し、AVアンプの多角的な魅力を訴求している。

「HEOS」の操作はiOS/Android対応の無料アプリで行う。Amazon Music Unlimitedの契約をしていれば、ハイレゾ音源のストリーミング再生も可能だ

「HEOS」の操作はiOS/Android対応の無料アプリで行う。Amazon Music Unlimitedの契約をしていれば、ハイレゾ音源のストリーミング再生も可能だ

「HEOS」はFLAC形式のハイレゾ音源を配信する高音質サブスクAmazon MusicUnlimitedに対応しているが、本格的なネットワークオーディオプレーヤーでこの(ハイレゾファイルを含む)サービスに対応している国内流通ブランドは、実はとても少ない。筆者の知るところでは、デノン&マランツのほかにはヤマハ、Bluesound、Silent Angel、ARCAMくらい。

また「Amazon Musicは音が悪い」との記事を何かで読んだが、筆者はまったくそうは思わない。Silent Angelのネットワークプレーヤーで、同一音源(メロディ・ガルドーの「オントレ・ウー・ドゥ」)でAmazon MusicのFLAC形式のハイレゾ音源とTIDAL(日本未上陸)のMQA形式のハイレゾ音源をガチで比較したことがあるが、Silent Angelのネットワークプレーヤーで聴く限り、断然前者の音のほうが好ましかった。

もっとも、MQAを発案したボブ・スチュワートが手がけたメリディアンのネットワークオーディオプレーヤーやD/Aコンバーターで聞くと「お、TIDALのMQAいいぞ!」ということになったりするのだが……。

【AVR-X3800H】:スレンダーでクセがない、ワイドレンジサウンド

話が逸れた。AVアンプに話を戻そう。デノン「AVR-X3800H」は9chアンプを搭載しており、5.1chにDolby AtmosやDTS:X再生用にオーバーヘッド(トップ/ハイト)スピーカー4本を加えた「5.1.4」、またはサラウンドバックスピーカー込みのフロア7.1chにオーバーヘッドスピーカー2本を足す「7.1.2」再生が可能。ただし、本機にはサブウーハーを最大4基同時駆動できる新機能が加えられたので、新機能を活用した場合をより正確に言うと、「5.4.4」、「7.4.2」構成が可能となる。

わが家の再生環境はセンタースピーカーレス(センターの信号はL/Rスピーカーに振り分けて再生)の「6.1.6」(サラウンドバックスピーカー込みの6.1chにオーバーヘッドスピーカーが6本)だが、今回のテストでサラウンドスピーカーバックは使用せず、オーバーヘッドスピーカーはトップミドルのみを使う「4.1.2」構成でテストすることにした。

オンキヨー、パイオニアAVアンプの比較試聴時に続いて、テストは自宅試聴室で実施。フロントスピーカーのJBL「Project K2 S9900」を中心とした「4.1.2」システムを鳴らす。部屋後方に壁付けしたサラウンドスピーカーと天井に付けたトップスピーカーはLINNの「Classik Unik」

オンキヨー、パイオニアAVアンプの比較試聴時に続いて、テストは自宅試聴室で実施。フロントスピーカーのJBL「Project K2 S9900」を中心とした「4.1.2」システムを鳴らす。部屋後方に壁付けしたサラウンドスピーカーと天井に付けたトップスピーカーはLINNの「Classik Unik」

本機は自動音場補正機能「Audyssey(オーディシー) Multi EQ XT32」を有しているので、付属マイクロフォンを本体に挿してテスト信号を出し、部屋の特性込みのスピーカー出力信号を計測(今回はリスニングポイントとその近傍3か所で)、サラウンドスピーカーとトップミドルスピーカーは「小」と判定され、それぞれ80Hz以下の信号をサブウーハーに振り分ける設定とされた。リスニングポイントから各スピーカーまでの距離と音量レベルの最適化設定もこの測定値を生かしている。

「Audyssey Multi EQ XT32」で自動測定すると、サラウンド/トップスピーカーであるLINNの「Classik Unik」のサイズ判定は「小」となった。クロスオーバー周波数は「80Hz」。サラウンドとトップスピーカーの80Hz以下の低域はサブウーハーから出力される設定だ。この結果はマランツ「CINEMA 50」でも同じだった

「Audyssey Multi EQ XT32」で自動測定すると、サラウンド/トップスピーカーであるLINNの「Classik Unik」のサイズ判定は「小」となった。クロスオーバー周波数は「80Hz」。サラウンドとトップスピーカーの80Hz以下の低域はサブウーハーから出力される設定だ。この結果はマランツ「CINEMA 50」でも同じだった

まずはリスニングモードをEQ(イコライザー:周波数特性補正)などがオフになる「Pure Direct」モードとして、CD(2ch音源)を再生し、音の素性を探ってみる(プレーヤーはパナソニックのUltra HDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」を使い、「AVR-X3800H」とはHDMI接続)。

愛聴盤を何枚か聞いてみたが、音像はスレンダーでクセが少ないすっきりとした音調、定規でまっすぐ引いたようなワイドレンジサウンドだ。

5年ほど前までのデノン製AVアンプは、中低域の充実を思わせる力感に満ちた分厚い音を特徴としてきたが、近年最終的に音を決定する「サウンドマスター」が変わってから大きくその音は変化している。新「サウンドマスター」山内慎一氏のキャラクターが本機「AVR-X3800H」に最も色濃く反映されているのではないかと実感させられたのである。きわめてピュアオーディオ的な感覚で音質を磨いてきた印象だ。

特にクラシック曲の再生がすばらしかった。ベートーヴェンのピアノコンチェルト「皇帝」(ピアノはポール・ルイス)第2楽章で聴けるニュアンスに富んだピアノの響きはきわめて美しく、オーケストラの立体的なイメージを正確に描写する印象だ。同価格帯のプリメインアンプと比較しても、引けを取らない高音質だと思う。

サラウンドのヌケはよいが、やや細身な印象もある

Dolby Atmos収録のスピルバーグ監督版「ウエスト・サイド・ストーリー」のUltra HDブルーレイでその冒頭を見てみたが、くっきりとした明快なサウンド。オーケストラ・サウンドは十分ワイドレンジだし、物がぶつかる音や遠くから聞こえる口笛もクリアでヌケがよい。ただし音像は細身で、個人的な好みを言えば、もう少し低域から中低域に厚みが欲しい。

Ultra HDブルーレイ「トップガン マーヴェリック」で「Audyssey Multi EQ XT32」のイコライザー機能を試してみた。試したターゲットカーブは「Flat」と「Reference」。後者は高域をなだらかに減衰させるカーブで、試してみると、「Flat」よりも耳なじみのよいサウンドになる。特にトム・クルーズとジェニファー・コネリーのバーでの会話など声に感情がよく乗る印象だった。もっとも先述した情報量の多いヌケのよい明快な本機の音の魅力は、イコライザーをオフにしたときのほうがより強く感じられるのも事実なのだが。

「Audyssey Multi EQ XT32」の設定には、周波数特性補正のターゲットカーブを選ぶ項目が用意される。「Flat」「Reference」のほかには「L/R Bypass」があり、これはフロントL/Rchには補正をかけず、そのほかのchをフロントL/Rに合わせるというもの。お気に入りのフロントL/Rスピーカーの特性を優先する、マニアに向けた設定と言える

「Audyssey Multi EQ XT32」の設定には、周波数特性補正のターゲットカーブを選ぶ項目が用意される。「Flat」「Reference」のほかには「L/R Bypass」があり、これはフロントL/Rchには補正をかけず、そのほかのchをフロントL/Rに合わせるというもの。お気に入りのフロントL/Rスピーカーの特性を優先する、マニアに向けた設定と言える

【CINEMA 50】:3次元的音場の広がりと骨太な音像表現を聞かせる

マランツの「CINEMA 50」は、フロントパネル両サイドに金型成形によるディンプルパターンをあしらったシンプルなデザインに仕上げられている。この意匠はピュアオーディオ用プリメインアンプと共通で、実に完成度が高い。以前のデザインよりも、僕は断然好きだ。「CINEMA」を謳ったモデルネームも覚えやすくて、とてもよいと思う。

デノン「AVR-X3800H」同様、AB級増幅の9chアンプ内蔵機で、本機だけで「5.1.4」または「7.1.2」構成のサラウンドシステムを構築できる(正確にはサブウーハー4基使用が可能なので、最大「5.4.4」、「7.4.2」構成となる)。

「HEOS」を用いたネットワークオーディオ再生機能も「AVR-X3800H」同様。ここでもスピーカー構成もオーバーヘッドスピーカーをトップミドル2本のみを使用する「4.1.2」で再生することにした。

自動音場補正機能「Audyssey Multi EQ XT32」で部屋の特性込みのスピーカー出力信号を計測して、レベル・距離補正を行い、まずEQがオフになる「Pure Direct」モードでCDの音を聞いてみる。

プリンスの名演「ア・ケイス・オブ・ユー」を聞いて驚かされたのは、立体的な音場の広がりと骨格のしっかりした音像描写だ。芯のあるボーカルの厚みはデノン「AVR-X3800H」を上回る。ベートーヴェンのピアノコンチェルトを聞いても、聴覚として前景化されるのは、ファンダメンタル(基音)帯域の充実度だったりするのである。

昔のマランツ製AVアンプは、やや細身のすっきりとした音調だったのだが、新しい「サウンドマスター」(尾形好宣氏)を得て、より真っ当なエネルギーバランスを有した本格サウンドが実現されたように思う。もちろんマランツ伝統のS/Nにすぐれた繊細な表現力を維持しながら、だ。

Dolby Atmos収録の「ウエスト・サイド・ストーリー」のUltra HDブルーレイでも、CD再生で実感させられた3次元的な音場の広がりと骨格のしっかりした音像描写を強く印象づけるサラウンドサウンドを聞かせた。細かなサウンドエフェクトの音数も多く、オーケストラの真に迫った鳴りっぷりにも感心させられる。

Ultra HDブルーレイ「トップガン マーヴェリック」のバーの喧騒の立体的な音場は、まさに「そこにいる」実感をともなわせるものだし、トム・クルーズとジェニファー・コネリーの会話もとても生々しく、映画の世界にぐいぐいと惹きつけられていく。

「Audyssey Multi EQ XT32」のEQ「Reference」モードを有効にして聞くと、非常に滑らかな音調に変化、映画をまるまる1本見ても疲れを感じさせないサウンドとも言えるが、やはりここでもEQオフのほうがよりワイドレンジで立体的なサウンドが楽しめたと付言しておきたい。

左が「CINEMA 50」、右が「AVR-X3800H」の付属リモコン。本体だけでなく、リモコンのデザインも大きく異なる

左が「CINEMA 50」、右が「AVR-X3800H」の付属リモコン。本体だけでなく、リモコンのデザインも大きく異なる

【まとめ】音質だけの序列をつけるとすれば、きれいに価格順。マランツ「CINEMA 50」が印象に残った

さて、今回のデノン「AVR-X3800H」とマランツ「CINEMA 50」の比較試聴いかがだっただろうか。先述のとおり、その音のよさをより強く印象づけられたのは「CINEMA 50」だったが、両者は価格.comの最安価格で約75,000円の値段差がある(2023年2月17日現在)わけで、当たり前と言えば当たり前の結果だったのかもしれない。「CINEMA 50」と比較するなら、発表されたばかりのデノンの新製品「AVR-X4800H」と比較するのがフェアだったかもしれない。

まあいずれにしても、従来のマランツ製AVアンプの限界を打ち破ったと思えるすばらしい音を聞かせてくれた「CINEMA 50」を強く推したい気分。ディンプルパターンがチャーミングなデザインの秀逸さにも心惹かれる。

いっぽうデノン「AVR-X3800H」の魅力は、2chオーディオ再生でもサラウンド再生でも、ともにクセの少ないワイドレンジサウンドを聞かせてくれることだろう。

前回試聴レポートをお届けしたオンキヨー「TX-RZ50」の価格.com最安価格(2023年2月1日現在)が19万円台、パイオニア「VSA-LX305」が17万円台、今回のマランツ「CINEMA 50」が23万円台、そしてデノン「AVR-X3800H」が15万円台(いずれも2023年2月17日現在)。こと音質面での魅力度を問われると、きれいに価格順というのが今回4モデルを聞いての感想だ。

「これいちばん安いけれど、音もいちばんよかった」なんて原稿を書ければ書いてみたいけれど、なかなかそうはいかないもの。今回、各メーカーの製品を試聴してみて、価格にはちゃんと意味があるということが改めてよくわかった。

山本浩司

山本浩司

AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」の編集長を経てオーディオビジュアル(AV)評論家へ。JBL「K2 S9900」と110インチスクリーンを核としたホームシアターシステムで、最高の画質・音質で楽しむAVを追い続けている。

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