レビュー

操作習慣に変革を迫る? タッチディスプレイ付きケースな完全ワイヤレス JBL「TOUR PRO 2」

操作習慣に変革を迫る?タッチディスプレイ搭載ケースな完全ワイヤレス JBL「TOUR PRO 2」

完全ワイヤレスイヤホンの充電ケースにタッチディスプレイを搭載するという新発想で話題のJBL「TOUR PRO 2」。でも、それって本当に便利なの?真価を発揮させるにはただのケースではなく、「ケース兼リモコン」ととらえ直して使いこなす必要があるかもしれなません。いっぽうで完全ワイヤレスイヤホンとしての基本性能は文句なしに優秀! ケース抜きでも注目してほしいモデルです。

ハイエンドな基本性能に+αのタッチディスプレイ

JBLから完全ワイヤレスイヤホンの最新フラッグシップモデル「TOUR PRO 2」が登場しました。インパクトが強いのは充電ケースに搭載されたスマートタッチディスプレイ。従来であればスマートフォンのアプリからしか操作できなかった機能のいくつかをケースからも操作できます。

ショートスティック型からさらに最適化されたフォルム!……ですが背後のディスプレイのほうが気になっちゃいますよね

ショートスティック型からさらに最適化されたフォルム!……ですが背後のディスプレイのほうが気になっちゃいますよね

しかしこのモデル、JBLのフラッグシップモデルであるからには当然、タッチディスプレイ抜き、完全ワイヤレスのハイエンド機としての基本要素も強力です。音質や装着感、ノイズキャンセリング機能やバッテリー性能など、そのどれもがハイレベル。そのうえで付加価値や提案性として「スマートタッチディスプレイ"も"搭載」なモデルととらえるのが適切でしょう。「いやケースにそれ必要?」と疑問符を浮かべている、そんな基本性能重視なユーザーにもぜひ使ってもらいたい仕上がりで、タッチディスプレイだけを理由に候補から外すのはもったいない1台です。

とはいえビジュアル的にもインパクトの強いタッチディスプレイを気にせず評価しろというのも無茶な話。避けては通れないそこから確認していきましょう。

タッチタッチディスプレイ搭載ケースは"リモコン"感覚でとらえてみよう

ということで何はともあれ「スマートタッチディスプレイ」から。

このようにディスプレイ面が上になるように置いて使ってもらうことも想定されているらしく……

このようにディスプレイ面が上になるように置いて使ってもらうことも想定されているらしく……

その際に底面となる背面側にはラバー系素材の滑り止めがあります

その際に底面となる背面側にはラバー系素材の滑り止めがあります

基本的には「これまでアプリやイヤホンからしか操作できなかった機能や設定の多くをケースのタッチディスプレイからも操作できるようになった」という理解でOK。再生やスキップ、音量、ノイズキャンセリング/外音取り込みモード、イコライザー、そのほかいくつかの機能や設定を操作できます。

再生操作と音量調整が別画面なのは少し使いにくいかも

再生操作と音量調整が別画面なのは少し使いにくいかも

ノイズキャンセリングや外音取り込みモードなど多くの機能や設定を操作できます

ノイズキャンセリングや外音取り込みモードなど多くの機能や設定を操作できます

ですが言い換えれば、ケースから操作できるようになったことの多くは、これまでどおりアプリからも操作できることにすぎません。であれば、「ケースを取り出してケースで操作するのってスマートフォンを取り出してアプリで操作するのより何が便利なの?」という疑念を持たれるのも仕方ないことではあります。なお、パソコンに接続して使う場合にスマートフォンを使わずケースで操作できる便利さは当然のことですので、ここで改めては説明しません。

実際に試してみて筆者としては、「スマートフォンを取り出して/ケースを取り出して→ロック解除してアプリを起動して/ロック解除して該当機能の画面にスワイプ移動して→操作」の早さには、スマートフォンでもケースでも大きな差はないと感じました。であれば従来どおりにアプリで操作できればそれでよい?

しかしここで条件を変えてみましょう。スマートフォンはカバンの奥に、ケースはすぐに手を突っ込めるポケットの中に入っているとしたら?取り出しやすさの分だけケースからの操作のほうが早くなりますよね。

条件をケース有利に変えるのは不平等ではあります。ですが現実とは不平等なもの。実際そういう使い方もできるわけです。逆にスマートフォンをポケットに入れることにして、この条件ならスマートフォンアプリのほうが早い!というのもありですが。

つまりタッチディスプレイ搭載ケースが便利かどうかは結局、ユーザーがそれを生かす使い方をするかどうかの話になるのではないでしょうか?

たとえばこのケースを単なる充電ケースではなく「充電ケース兼リモコン」ととらえてみましょう。すると自然と、カバンの奥ではなく取り出しやすいところに入れておこうという考えになりませんか?そのように使えば思いのほか便利になるかもしれません。

もちろん「そこまで便利そうとは思えない」「Apple Watch用のアプリを作ってくれたほうがうれしい」のような意見もあるでしょう。それも納得。各自の考え方や利用スタイルに照らし合わせて判断すればよいのです。

ちなみに、イヤホンマニアの方は「ケースからイヤホンを操作できるってことはケースとイヤホン本体は何らかのワイヤレス技術で接続されてるんだよね?どういう仕組み?」も気になっていたりしませんか?日本のJBL担当に質問したところの回答がこちら。

「本社が言うには『詳細は秘密だが一般的なBluetoothの仕様ではない特別な仕組みで接続してある。他社は容易には真似できないだろう』とのことです」

特別な仕組み!将来的にはアプリではなくタッチディスプレイ搭載ケースならではの便利さを示してくれるような、画期的な新機能の提供も期待できるかも。

スマートタッチディスプレイ搭載ケースについては以上です。これを踏まえた上で、以降の音質や装着感、ノイズキャンセリングなど機能性についての部分を読み進め、本機の魅力を総合的に判断していただければと思います。

音質面では「Personi-fi 2.0」での個人最適化に注目

続いて、音質周りをチェックしていきましょう。ドライバーユニットは10mm径ダイナミック型。振動板素材はPEN+DLC、すなわちポリエチレンナフタレート樹脂にダイヤモンドライクコーティングを施したものです。素直な特性の高性能樹脂に硬質コーティングを施して頑強さを向上、異種材の組み合わせによる特性の平均化で音のクセも減らす狙いでしょう。

こちらの分解サンプルの左から2個目がドライバー周りです

こちらの分解サンプルの左から2個目がドライバー周りです

音質周りの機能では「Personi-fi 2.0」は要注目。アプリでの聴覚テストの結果をもとに、音質を個人向けに補正してくれる機能です。「ボタンを押すとテスト音が流れ始める→徐々に小さくなっていくテスト音が聴き取れなくなったところでボタンから指を離す」というテストを、低い周波数の音から高い周波数の音まで左右各耳で行います。

性別、生年、リスニング経験を入力

性別、生年、リスニング経験を入力

こちらのテストにはだいたい5分弱程度の時間を要します

こちらのテストにはだいたい5分弱程度の時間を要します

左右の耳で別々に計測&補正してくれるので、左右の耳の聴力、形や大きさの違いによるイヤーピースの密着度の違いも吸収してくれるはず。ステレオ空間表現の向上も期待できそうです。

実際にテストを受けた筆者の場合、それなりの歳なので10-12kHz以上の超高域の聴こえが衰えており、「Personi-fi 2.0」を有効にした場合には「高音が大幅に増幅」と案内されました。

テスト結果のグラフとそれを受けての補正内容のテキストが表示されます

テスト結果のグラフとそれを受けての補正内容のテキストが表示されます

サンプルサウンドを聴きながら補正をオン/オフして効果を確認

サンプルサウンドを聴きながら補正をオン/オフして効果を確認

ただ「大幅」と言っても実際に聴くと、超高域を+2dB前後イコライジングした程度に近い感触。音色や音楽全体の印象が変わってしまうようなものではありません。その上で、シンバルの明瞭度や細かな音の配置が不自然さなく絶妙に向上するなど、補正としての効果はしっかり体感できます。

もちろん耳が若く健康な方だと補正はほぼ不要で効果を感じられないでしょうが、それならそれがいちばんよろこばしいことです。

イコライザー機能も引き続き充実。なかでも特にひとつプッシュしたいのはプリセットの「STUDIO」。それについては後ほどの音質インプレで説明します。もちろんマニュアル設定でのカスタマイズも可能です。

気に入ったプリセットをもとにしたカスタマイズもできます

気に入ったプリセットをもとにしたカスタマイズもできます

現在では音楽制作側でも、部屋の響きのクセを測定し、モニタースピーカーでの再生にDSP補正をかけるなどの技術の利用は広がりつつあります。リスナー側でも個人の聴力に合わせた補正や好みに合わせた適度なイコライジングを積極的に行っていくのもありでしょう。

とはいえ「補正やイコライジングの類いは一切使いたくない!」のような信条や心情も否定されるものではありません。趣味の世界なのですから、それぞれが自分のやり方で自分を楽しませればよいのです。

ほかには「あらゆるコンテンツで広がりのあるサウンドを楽しめる」という「Spatial Sound」が新搭載。イヤホン側のみで処理するタイプの空間オーディオ機能なので、音源側に依存せずどんな音源にも効果を発揮。これも後ほど実際の使用感をお伝えします。

「Spatial Sound」はムービー/ミュージック/ゲーミングの3モードが用意されています

「Spatial Sound」はムービー/ミュージック/ゲーミングの3モードが用意されています

ハイエンド機を検討するユーザーが残念がりそうなのは、LDACやaptX Adaptiveに対応しない点でしょうか。しかし実際のところ、イヤホンファンでも「普段使いの完全ワイヤレスはiPhoneと組み合わせてるから結局AAC接続」というパターンも少なからずでは?それに該当するようならAAC対応までで十分です。

なおコーデック周りでは次世代標準高効率コーデック「LC3」にも今後のアップデートで対応予定。楽しみにしておきましょう。

素の音のよさに加えてEQも空間オーディオも実用的

では今回の本題とも言える実際の音質について。まず概要から。

近年のJBLイヤホンの音作りは、現代のポップスを好んで聴くリスナー層に向けた適度な演出は加えつつ、しかしその演出をオーディオファンを失望させるような過度なものにはしない、バランス感覚の絶妙さが特徴です。低音のボリューム感をプッシュしつつだらしない膨らみ方にはしないといったところの巧さが光ります。それを特にハイレベルに達成しているのがフラッグシップモデルである本機というわけです。

曲を挙げて具体的なところをお伝えしていきましょう。試聴ソースはApple Musicのロスレス/ハイレゾ、試聴時には「Personi-fi 2.0」による補正とノイズキャンセリングもオンにしています。

宇多田ヒカルさん「BADモード」冒頭では、ギターの金属の弦にプラスチックのピックが触れるカチッとしたその感触が、適度な硬さで伝わってきます。そこにシンバルのやわらかなほぐれも同時に届いてくるのがポイント。本機は単に硬い音のイヤホンではなく、硬さもやわらかさも描き出せるニュートラルな表現力を備えているわけです。もちろん宇多田さんの歌声の、木管楽器的に豊かでやわらかな響きの再現も文句なし。

ベースとバスドラムは、前述のようにややボリューミーに届けられます。とはいえボワンと緩い感触ではなく、心地よい温かみを感じられる良質な厚みや太さです。現代ポップスは低音をしっかり出さなきゃだめでしょ!という方にも不足を感じさせず、いやいや低音が緩いのはだめだよ!という方にも不満までは感じさせない、落とし所の絶妙さが光ります。

ホセ・ジェイムズさん「Bag Lady」はヒップホップのアプローチも取り込んだ現代R&Bの名曲のカバー。そのヒップホップらしさの部分として、ドラムスのドライで硬質な抜けの再現は必須です。加えて5弦ベースのディープなトーンをどう描き出すかも再生側で大事なポイント。ですが正直なところ、本機の低音のボリューム感はその観点からはマイナス要因です。

しかしここでイコライザー「STUDIO」プリセットの出番!200Hzあたりより下の低域をよい感じに整えてくれるセッティングです。

125Hzあたりをしっかり抑えた上で超低域側は自然にロールオフ

125Hzあたりをしっかり抑えた上で超低域側は自然にロールオフ

ベースリフの後半、5弦ベースのまさに5弦で弾かれている超低音フレーズに注目。低音の膨らみが抑えられることで逆に、ベースラインの沈み込みは深くなります。音像の横への膨らみが抑えられることで相対的に、縦への沈み込みが際立つイメージです。ドラムスも同じく、低音の響きがシェイプされることで相対的にアタックが際立ち、抜け感が際立ちます。このイヤホンを使っていて「何か低音がしっくりこないんだよな……」みたく感じたときは「STUDIO」プリセットを試してみてください。

いわゆる空間オーディオの「Spatial Sound」は、ミュージックモードを星街すいせいさん「Stellar Stellar」でチェック。この手の機能は効果のわかりやすさと自然さの兼ね合いが難しいものですが、本機のこのモードは、効果は確かに感じられつつ自然さを損なうこともありません。音場の左側に置かれている、いくつかの音色とパターンを重ねて構築されたドラムス。その立体感の表現は特に秀逸でした。

各モードはミュージック<ムービー<ゲーミングの順に効果が派手になっていくので、単に効果の強さで使いわけるのもあり。たとえば「Stellar Stellar」をゲーミングで聴くのも、Vtuberという存在がバーチャルの世界に浮かび上がる、その非現実的な光景を頭の中に描き出す手法としては面白いかもしれません。

装着感最高! ノイズキャンセリング&外音取込りのみ作り込みも見事

というように音質面は相当にハイレベル。では最後に装着感や使い心地、ノイズキャンセリングなどの機能性を見ていきましょう。

まず特筆すべきは装着感!「ショートスティック型をさらに進化させたハイブリッドデザイン」とアピールされていますが、実際、カナル+スティック型全体の中でもトップクラスの装着感です。耳に触れていないかのように軽い着け心地というタイプではなく、耳にぴたりとフィットしてしっかり密着するタイプ。ですのでパッシブでの遮音性も高く、トータルでのノイズキャンセリング性能にも貢献しています。

シンプルなようでいてフィット感を極めたフォルム

シンプルなようでいてフィット感を極めたフォルム

スティック部分が装着時のガイドになって装着角度がわかりやすいのもポイント。スティックがないタイプだと装着の角度の正解がわかりにくかったりする場合もあります。ちなみに、ノズル&イヤーピースは引き続きオーバル形状を採用。イヤーピースのサイズ選択はアプリでもしっかりとフォローしています。

ノズルもイヤーピースもオーバルな"デュアル"オーバルシェイプデザイン

ノズルもイヤーピースもオーバルな"デュアル"オーバルシェイプデザイン

前述のパッシブでの遮音性も含めて、ノイズキャンセリング性能も現在の最新ハイエンド機として文句なし。これを上回るのはノイズキャンセリングを特に得意とする数社の製品くらいでしょう。地下鉄通勤だからノイズキャンセリング最強じゃないと!とかでない限り、不足を感じることはないはずです。もちろんJBLの過去のハイエンドや現在のミドルレンジからの性能向上も体感できます。

周囲の騒音に合わせてノイズキャンセリングの効かせ方を自動調整してくれる「アダプティブノイズキャンセリング」の効果も確か。実際に住宅街から徒歩で駅へ、駅ホームから電車内、都心繁華街という移動の際に試してみましたが、どの場面でも安定した効き具合を維持してくれました。

ちなみに、外音取り込みはアンビエントとトークスルーを明確に別物と定義して両モードを搭載しています。

●アンビエントアウェア:音楽再生を普通に続けたまま外音も取り込む。イヤホンのシングルタップ操作でノイズキャンセリングと切り替え。外音の取り込み具合はアプリで調整可能。

●トークスルー:音楽再生の音量をグッと小さくしつつ外音を取り込む。ダブルタップでノイズキャンセリング&アンビエントと切り替え。

前者は音楽を聴きながら周囲の音も聴くためのモード、後者は音楽はいったん抑えて人の声や車内アナウンスを聴くためのモードといった位置付け。そこを把握した上で使いわけたいです。

バッテリー周りも強い。イヤホン本体での最大再生時間はノイズキャンセリング機能オンで8時間、オフで10時間。ケース側も本体を3回満充電できる容量を確保してあり、本体+ケースの合計はノイズキャンセリング機能オンで8+24の32時間、オフで10+30の40時間です。

ほかにも、最大音量を85dB以下に制限して耳へのダメージを抑える「ボリュームリミッター」、周囲の音をより積極的に調整して聴こえやすくして取り込む「パーソナルサウンドアンプリフィケーション」などなど、すべては書き切れないほどの機能が用意されています。

カラーバリエーションはブラックとシャンパンゴールド。サンプル機のシャンパンゴールドは、ゴールド感はさほど主張せず落ち着いた色合いという印象でした。耳に当たる部分がマットなグレーで皮脂の付着などが目立ちにくいのも地味にうれしいポイント。

最後にケースの、タッチディスプレイ云々は抜かして、一般的なケースとしての使いやすさについて。

サイズがやや大柄なのは、ディスプレイとその周辺部品、それらを動作させるためのバッテリー容量増加などからでしょう。それでも巨大と言うほどではありません。イヤホン本体の取り出しやすさにはやや難あり。収納時にイヤーピースが外側を向いているため、取り出してから耳に入れる前に、指先で少し持ち変えてイヤーピースを内側に向け直さないといけません。収納するときも同様です。

イヤーピース側を耳に向けるように持ち替えないと耳に入れられません

イヤーピース側を耳に向けるように持ち替えないと耳に入れられません

些細なことですが、そのちょっとした持ち替えで指が滑ってイヤホンを落とすこともありえます。高価なハイエンド機でこそ配慮してほしい部分です。

ハイエンド完全ワイヤレスとしてむしろお買い得

各社ハイエンドと並べても、音質もノイズキャンセリングもそのほかどの要素でも競い合える性能でありつつ、タッチディスプレイ搭載ケースという個性持ち。それでいて実は、人気ブランドのフラッグシップ機の中では比較的にお手ごろな価格だったりもします。タッチディスプレイ搭載ケース云々を抜いて考えてもむしろお買い得!

基本性能重視の方も提案性の強いアイテムに心惹かれる方も、チェックして損はない製品でしょう。

高橋敦

高橋敦

オーディオ界隈ライター。現在はポータブルやデスクトップなどのパーソナルオーディオ分野を中心に、下からグイッとパンしていくためにてさぐりで活動中。

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