レビュー

ヘッドホンアンプで始める本格オーディオ〜「Sound Blaster X5」「K9」レビュー編

このところ、横幅20cm前後のコンパクトな据え置きオーディオコンポをよく見かける。その代表例がヘッドホンアンプ。イヤホンやヘッドホンを屋内でより本格的に楽しむための機器だ。ひと言で言えばヘッドホンやイヤホンを鳴らすためのアンプだが、PCやスマホなど多くのデジタル機器と接続できるUSB-DAC機能を持っている場合が多く、さらに可変出力(音量調整機能付きのアナログ音声出力)があればプリアンプとしても使えるため、アクティブスピーカーなどを組み合わせたスピーカー再生も可能だ。

ハイレゾ音源や音楽配信サービスの普及にともない、パソコンを再生機器とするPCオーディオが普及してきたこともあり、現在ではこうしたコンパクトな据え置き機器でデスクトップ環境でも本格的なオーディオ再生が実現できるようになっている。そこで今回は、デスクトップ環境で楽しめる注目のUSB-DAC付きヘッドホンアンプの注目モデル2機種を用意し、イヤホン再生を試してみた。

コンパクトながらもバランス設計を採用。高音質を追求した注目のヘッドホンアンプ2機種

まずは用意した製品を紹介していこう。PC周辺機器やオーディオ機器で知られるCREATIVE(クリエイティブ)の「Sound Blaster X5」、そしてイヤホンやデジタルオーディオプレーヤー(DAP)も発売するFiiO(フィーオ)の「K9」。どちらもバランス設計のUSB-DAC・アンプ回路を備えた本格的なモデルだ。

左がCREATIVE「Sound Blaster X5」、右がFiiO「K9」

左がCREATIVE「Sound Blaster X5」、右がFiiO「K9」

CREATIVE「Sound Blaster X5」
●入力端子:デジタル音声入力3系統(USB Type-C、USB Type-A、光)、アナログ音声入力2系統(RCA、3.5mmステレオミニ[マイク入力])
●出力端子:ヘッドホン出力2系統(4.4mmバランス、3.5mmアンバランス)、アナログ音声出力1系統(RCA)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数(USB Type-C):〜384kHz/32bit(PCM)、〜11.2MHz/1bit(DSD)
●Bluetooth(受信機能)バージョン:Ver.5.0
●Bluetoothコーデック:SBC
●寸法:216(幅)×170(奥行)×72(高さ)mm
●重量:約879g

FiiO「K9」
●入力端子:デジタル音声入力3系統(USB Type-B、光、同軸)、アナログ音声入力2系統(RCA、4.4mmステレオバランス)
●出力端子:ヘッドホン出力3系統(4.4mmバランス、4ピンXLRバランス、6.3mmアンバランス)、アナログ音声出力2系統(RCA、3ピンXLR)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数(USB Type-B):〜768kHz/32bit(PCM)、〜22.5MHz/1bit(DSD)
●Bluetooth(受信機能)バージョン:Ver.5.1
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive、LDAC
●寸法:200(幅)×224.5(奥行)×72(高さ)mm
●重量:約2,660g

価格の違いもあり、入出力の装備では「K9」のほうが充実しているが、「Sound Blaster X5」もバランスヘッドホン出力を備える。マイク入力も備えるのはゲーム用途としても人気の高い「Sound Blaster」シリーズならでは。

DACやアンプについて、「Sound Blaster X5」ではシリーズでは初となるデュアルDAC構成とし、シーラス・ロジック製の「CS43198」を2基搭載している。さらに独自のディスクリート(単体部品)構成によるヘッドホンアンプ「XAMP」を2基搭載し、完全バランス設計としている。

「Sound Blaster X5」の前面。2つのヘッドホン出力のほか、マイクボリュームなどさまざまな操作ボタンを備える

「Sound Blaster X5」の前面。2つのヘッドホン出力のほか、マイクボリュームなどさまざまな操作ボタンを備える

「Sound Blaster X5」の背面

「Sound Blaster X5」の背面

FiiO「K9」は、DACにESSテクノロジー製の「ES9068AS」を2基、アンプ回路は「THX-AAA 788+」回路を左右に備える完全バランス設計だ。DACこそ違うが、基本的な設計は上位機にあたる「K9 Pro ESS」を踏襲している。ボディはアルミ合金で剛性が高く、付属のスタンドを使って縦置きもできる。

「K9」の前面。左側に各種ヘッドホン出力が、右側には出力セレクターやゲイン切り替え、入力切り替えなどのボタンがある

「K9」の前面。左側に各種ヘッドホン出力が、右側には出力セレクターやゲイン切り替え、入力切り替えなどのボタンがある

「K9」は、RCA/XLR 2系統のアナログ音声出力を備え、幅広いオーディオ機器との接続に活用できる

「K9」は、RCA/XLR 2系統のアナログ音声出力を備え、幅広いオーディオ機器との接続に活用できる

「Sound Blaster X5」は、「Sound Blaster」シリーズとしてかなり本格的なオーディオ機器然とした作りとなっているが、シリーズに共通する豊富な機能も備えている。

PCとの接続時には、専用のアプリを使ってバーチャルサラウンド再生やEQ調整ができるほか、FPSゲームに適した「スカウトモード」など各種のゲームに合わせたサウンドモードも用意されている。そして、マイク入力を使ったチャット機能や、マイク入力などの各種入力の音声を個別に音量調整してミックスできるミキサー機能もあり、動画制作/配信などに有効な機能も備える。

そのほか、光デジタル入力やアナログ音声入力も備えているので、もちろんゲーム機や薄型テレビなどと接続して幅広く使うことも可能だ。

「Sound Blaster X5」用のアプリのトップ画面。ダッシュボード的な画面で、主要機能のオン/オフや調整が行える

「Sound Blaster X5」用のアプリのトップ画面。ダッシュボード的な画面で、主要機能のオン/オフや調整が行える

サウンドモードの調整。「ダイレクトモード」を解除すると、サラウンド機能を始めとする各種の音質調整が可能。イコライザーにはゲームの種類に合わせた多くのプリセットが用意されている

サウンドモードの調整。「ダイレクトモード」を解除すると、サラウンド機能を始めとする各種の音質調整が可能。イコライザーにはゲームの種類に合わせた多くのプリセットが用意されている

再生デバイスの設定画面。ヘッドホン、スピーカーのそれぞれで設定を登録しておける

再生デバイスの設定画面。ヘッドホン、スピーカーのそれぞれで設定を登録しておける

レコーディングの項目では、各種の入力の音声設定が行える。ミキサー機能もある

レコーディングの項目では、各種の入力の音声設定が行える。ミキサー機能もある

いっぽうの「K9」は、据え置き型オーディオ機器としてのこだわりの設計が特徴だ。ポータブル機器への採用を始めとして音のよさで注目されている「THX-AAA 788+」回路の採用を始め、44.1kHz系と48kHz系の2つの超高精度水晶発振器(クロック)を備えるほか、大容量コンデンサーと電源トランスによるリニア電源を採用するなど、本格的な作りだ。もちろん、PCだけでなく、ゲーム機や薄型テレビと組み合わせてもよいし、XLRバランスのアナログ音声出力端子を備えるので、XLRバランス入力を備えることの多い業務用アクティブスピーカーとの相性がよい。変換プラグやケーブルを使わずとも、多くの機器と接続が可能であることはうれしいポイントだ。

「Sound Blaster X5」は4万円を切る価格で完全バランス設計のアンプ、バランスヘッドホン出力を持つため、バランス接続に対応したヘッドホンやイヤホンの入門用として注目のモデルだ。「K9」は、上級機の機能や装備を受け継ぎながら価格を抑えており、コストパフォーマンスの高さではこちらも負けていない。

それぞれの実力を聴いていこう。

【Sound Blaster X5】安価ながらもなかなかの実力。聴きやすさと情報量の豊かさがうまくバランスしている

さっそく、試聴してみよう。まずは「Sound Blaster X5」。PCを再生機器として、双方をUSBケーブルで接続。再生アプリは「Audirvana Origin」を使用。イヤホンはDITA「Dream」をハイゲイン設定で使っている。試聴モードはダイレクトモードだ。

試聴に使ったイヤホンはDITAの「Dream」とTechnics(テクニクス)の「EAH-T700」。「Dream」は鳴らしづらいイヤホン、「EAH-T700」は比較的鳴らしやすいイヤホンとしてのサンプルだ。なお、それぞれの感度とインピーダンスは「Dream」:104dB/22Ω、「EAH-T700」:108dB/19Ω

試聴に使ったイヤホンはDITAの「Dream」とTechnics(テクニクス)の「EAH-T700」。「Dream」は鳴らしづらいイヤホン、「EAH-T700」は比較的鳴らしやすいイヤホンとしてのサンプルだ。なお、それぞれの感度とインピーダンスは「Dream」:104dB/22Ω、「EAH-T700」:108dB/19Ω

アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団による「ブルックナー/交響曲第8番」から第4楽章を聴くと、3.5mmステレオミニのアンバランス出力では、オーケストラの迫力やスケール感がややコンパクトになるが、弦楽器の艶やかさや管楽器の輝くような音色が印象的な鮮明な音だ。軽いドンシャリ気味のバランスだが、聴いていて楽しい。聴きやすく、個々の楽器の音をきちんと再現するきめ細やかさもある。低音はローエンドの力感がやや不足するが、中低音に厚みのある鳴り方なので力不足というほどのことはない。

4.4mmバランス出力とすると、ローエンドの伸びはあまり変わらないものの、力感がさらにしっかりと出てくる。音場の広がりも豊かになるので、オーケストラの雄大なスケール感も味わえる。 より鳴らしやすく、低音の鳴り方もパワフルなテクニクスの「EAH-TZ700」を使うと、表情が一変するのが面白かった。市販のケーブルを使った4.4mmバランス接続として、ゲイン設定はノーマルに戻している。

すると低音のローエンドの伸びもよくなるし、力感もしっかりと出る。そのため、打楽器の音の立ち上がりや音が出た後の余韻もきめ細かく再現できていることがわかる。中高域の華やかさのある音色はそのままに、より芯の通った実体感のある音になり、音場の広さとともに見通しのよいステージ感が得られた。 そこで、テクニクスの「EAH-TZ700」(バランス接続)のまま、ジャズを題材としてアニメ作品「BLUE GIANT」のサウンドトラックから「N.E.W.」を聴いた。テナーサックスが元気よく鳴り響き、エネルギー感もたっぷりと味わえる。ピアノの低音パートの力強さや軽快にリズムを刻むドラムの躍動感のある鳴り方など、なかなか聴き応えのある再現だ。

ヘッドホンアンプとしての駆動力は残念ながらやや不足気味ではあるが、高能率なイヤホンを組み合わせれば、情報量の豊かさや反応のよさなどの持ち味を楽しめることがわかった。鳴らしにくいイヤホンでなければ、駆動力不足が気になることはないと思うし、豊かな情報量と適度な華やかさのある聴きやすい音は入門用としては十分に優秀だ。

【K9】特筆すべきは駆動力。ワンランク上の価格帯製品とも張り合える実力の高さだ

続いてはFiiO「K9」。こちらのゲイン調整は3段階あり、設定はすべての試聴で最もゲインの低い「L」としている。イヤホンはDITAの「Dream」だ。4.4mmバランス出力で「ブルックナー/交響曲第8番」を聴くと、ステージの広さ、奥行きの豊かさが印象的で、空間表現がすぐれていると感じた。各楽器の音の粒立ちがよく、弦楽器の艶やかさもよく出る。音の質感の表現や音像の実体感がしっかりとしているので、ドンシャリな感じではないが、明るく鮮やかではつらつとした印象の音になる。

低音の鳴り方は力強く、ローエンドまでしっかりと伸び、コントラバスの胴鳴りによるうねるような響きも再現されている。「Sound Blaster X5」と比べると、解像感の高さ、ディテールの再現を含めて、ワンランクの上の実力だ。

3.5mmアンバランス出力を使うと、音の厚みやエネルギー感はやや細身となり、音場の広さや奥行きにも少し差は感じる。オーケストラが一斉に音を出したとき、個々の音がきちんとわかるような情報量の多さは維持されているが、4.4mmバランス出力よりも精細感は減退気味。そのぶん、3.5mmアンバランス出力のほうがソフトで聴きやすいとも言える。

テクニクスの「EAH-TZ700」を4.4mmバランス出力で聴いてみると、オーケストラのスケール感や音の厚みがしっかりと出る、肉厚な感触の演奏となる。このあたりはイヤホンによる音の違いがはっきりと表れた印象だ。

音場の広がりは十分に豊かで、個々の音の再現と和音の響きバランスもよい。「BLUE GIANT」の「N.E.W.」でも音の厚みがしっかりと出て、生音の感触が伝わるようなリアルな音になる。ピアノのメロディアスなフレーズとリズムがよく弾むドラムスとあいまって、グルーヴ感も出てくる。

6.3mmアンバランス出力(3.5mm変換プラグを使用)としてもエネルギー感や音の厚みはそのままで、若干音の広がりや奥行きに差を感じる程度。アンバランス出力のクオリティもなかなかのものだ。「N.E.W.」ではピアノの低音パートの重厚な響きもしっかりと出るし、テナーサックスを思い切り吹いたときの迫力もよく伝わる。

イヤホンの持ち味をしっかりと生かす実力は見事。駆動力の高さもあって、鳴らしづらい高級イヤホンでもしっかりと魅力を引き出せるモデルだ。もうワンクラス上の価格帯のモデルと張り合える実力と言ってよいだろう。

【まとめ】映画やゲームにもフィットする「Sound Blaster X5」、音質重視派なら「K9」

価格差による実力の違いはあるものの、CREATIVE「Sound Blaster X5」、FiiO「K9」ともに、今注目すべきモデルだ。PCを置いたデスクトップで、より音質にすぐれたオーディオ環境を整えたいと思う人にぴったりのシステムを構築できるはず。

使ってみた実感と機能を含めた印象としては、「Sound Blaster X5」は、サラウンド機能やゲームに適した機能が充実しているので、音楽だけではなくゲームも楽しんでいる人に特に魅力があるだろう。映画もバーチャルサラウンド機能でより臨場感豊かに楽しめるので、PCで音楽も映画も楽しんでいる人にも好適だ。

「K9」は、オーディオ機器としての実力の高さを求めている人に向く。ヘッドホンやイヤホンの駆動力が優秀で、愛機の持ち味をしっかりと味わえるし、D/Aコンバーター回路のできがよいからか、情報量や音場感もすぐれていた。もちろん、こちらで映画やゲームの音を楽しんでもよいだろう。サラウンド機能などはないが、ソフト自体の音のよさをしっかりと味わえるはずだ。

ヘッドホンやイヤホンだけでなく、スピーカー再生も視野に入る

今回の試聴機FiiO「K9」はアナログ音声出力にXLRバランスを備える。可変出力(アナログ音声出力の音量調整)ができることも含めて、パワーアンプやパワーアンプ内蔵(アクティブ)スピーカーとの接続を考えているからだろう。次回記事では、実際にパワーアンプ内蔵スピーカーとの組み合わせを検討する

今回の試聴機FiiO「K9」はアナログ音声出力にXLRバランスを備える。可変出力(アナログ音声出力の音量調整)ができることも含めて、パワーアンプやパワーアンプ内蔵(アクティブ)スピーカーとの接続を考えているからだろう。次回記事では、実際にパワーアンプ内蔵スピーカーとの組み合わせを検討する

そして、どちらのモデルもプリアンプ的に使える、つまりアンプ内蔵のアクティブスピーカーと組み合わせられることにも注目してほしい。「Sound Blaster X5」や「K9」を持っていれば、あとはアクティブスピーカーを足すだけでスピーカーによるオーディオ再生が楽しめるのも大きな魅力と言えるだろう。

そこで、後日公開予定の後編ではアクティブスピーカーを用意し、スピーカー再生のシステムを試してみることにした。デスクトップでのスピーカー再生に興味のある人はもちろん、大げさにならないオーディオシステムを揃えたいという人にもぜひ注目してほしい。

鳥居一豊

鳥居一豊

映画とアニメをこよなく愛するAVライター。自宅ホームシアタールームは「6.2.4」のDolby Atmos対応仕様。最近は天井のスピーカーの追加も検討している。

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