2020年にイギリス・ロンドンを拠点として設立されたデジタル製品メーカーNothing Technology(ナッシングテクノロジー)がNothingブランドの完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear (2)」を発表した。価格は22,800円(税込)。
上記のとおりNothingはとても若いブランドだが、先代モデルの「Nothing Ear (1)」、背面が光るスマートフォン「Nothing Phone (1)」などデザイン性の高い外観で話題となった製品をご存じの人もいることだろう。詳細は後述するが、「Nothing Ear (2)」の主なスペックは以下のとおり。
「Nothing Ear (1)」で好評を得たという外観のデザインを引き継ぎ、ユーザーからの要望を反映した第2世代モデルだ。
「Nothing Ear (2)」の主なスペック
●Bluetoothバージョン:5.3
●対応コーデック:SBC、AAC、LHDC 5.0(V)
●使用ユニット:11.6mmダイナミック型
●アクティブノイズキャンセリング機能搭載
●外音取り込み機能トランスペアレンシーモード搭載
●バッテリー駆動時間:[本体]最大6.3時間(アクティブノイズキャンセリング機能:オフ)、充電ケース使用時は最大36時間
●ワイヤレス充電Qi対応
●防塵・防滴等級:[本体]IP54、[ケース]IP55
製品の発売に先立って説明会が開催され、Head of Marketing & Co-founderのAkis Evangelidis(アキス・イワンジェリディス)氏がオンラインで製品についての説明を行った。その様子と「Nothing Ear (2)」に触れたインプレッションをお伝えしよう。
オンラインで製品説明をしたAkis Evangelidis氏。デザインコンシャスな(外観意匠への感度の高い)日本のユーザーにも、「Nothing Ear (1)」は受け入れられていると話した
まずEvangelidis氏が触れたのは、Nothingのこれまでの展開について。冒頭のように、Nothing Technologyは今のところスマートフォン、イヤホンを発売するデジタル機器メーカーで、「Nothing Ear (1)」の後に「Nothing Phone (1)」を発売、2022年末にはハーフインイヤータイプの完全ワイヤレスイヤホン「Nothing Ear (stick)」を発売したばかり。
タイプの違うイヤホンを2つラインアップし、「Nothing Ear (stick)」ではドライバーをカスタムメイド品とするなど、徐々にブラッシュアップを図ってきた。製品の仕様だけでなく、この間に会社の体制としても大きく変わってきているそうで、「Nothing Ear (1)」の開発に携わった技術者は30人程度だったが、「Nothing Ear (2)」の開発では170人以上にのぼるという。
「Nothing Ear (2)」のスペックシートには「チューニング」という項目があり、これが「Nothing」という表記になっている。これは、音質のチューニングも自社の開発チームが手掛けられる体制ができあがったという宣言だろう。
「Nothing Ear (1)」ではこの欄は「Teenage Engineering」とされており、スウェーデンの楽器/電子機器メーカーTeenage Engineeringによる音質チューニングが施されていた(同社はヘッドホンなどもラインアップしている)。
そうした体制下で開発されたのが「Nothing Ear (2)」であり、イヤホンの本質部分であるドライバーをカスタムメイドとするなど、多くの改良が加えられている。
会社の体制を整えるとともに、ロンドンに初の実店舗をオープン。今後はイギリス以外での展開も目指すという
「Nothing Ear (2)」ではユーザーからの要望を反映したとのことだったが、改良点として目立つのは以下のポイントだ。
●ドライバーの刷新による音質向上
●接続安定化のためのアンテナ位置の再設計
●アクティブノイズキャンセリング機能に「アダプティブ」モードを追加
●聴覚測定によるサウンドパーソナライズ機能を搭載
●イヤーチップのフィットテスト機能を搭載
まず、イヤホンという製品の本質と言える音質を根本的に支えるドライバーを刷新したことは、何よりのトピックだ。
口径こそ従来と変わらない11.6mmのダイナミック型ドライバーだが、27点で改良が加えられたカスタムドライバーであるという。振動板はグラフェンとポリウレタンを組み合わせた素材とし、マグネットは従来同様のネオジムながらより強力な磁力を得られる「N52」を採用(従来は「N45」)。ドライバーの振動板もマグネットも異なるのだから、まったくの別物と言ってよいだろう。
「Nothing Ear (2)」の分解イメージ。11.6mm径のダイナミックドライバー1基を搭載することは従来と同様だが、ドライバーは新たに開発されたカスタム品。さらに、ドライバーのチャンバーの後ろにもうひとつ別建てのチャンバーを設けて内部容積を稼ぎ、背圧のコントロールを最適化した
別建てチャンバーとは、具体的にはバッテリーの入ったキャビネットをスピーカーキャビネットとしても利用する設計のこと。元々のスピーカーキャビネットとの間に穴を設けている
新規ドライバーを採用したほか、それにともない内部設計も最適化。その結果、周波数特性的には図のようによりフラットに近づき、fidelity(忠実度、迫真性)が増したとしている
接続性改善についての要望は「Nothing Ear (1)」ユーザーからも上がってきていたようだ。「Nothing Ear (2)」ではアンテナの位置を再設計し、結果として接続性が「50%」改善されたと説明された。
BluetoothのSoC(システムオンチップ)には、Bestechnicの「BES2600YP」を採用。以下のソフトウェア関連の新機能はこの変更にともなうものだろう。
●アクティブノイズキャンセリング機能に「アダプティブ」モードを追加
●聴覚測定によるサウンドパーソナライズ機能を搭載
●イヤーチップのフィットテスト機能を搭載
各種機能のオン/オフ、パーソナライズなどは無料の専用アプリ「Nothing X」から行う(画面はAndroid版)。アクティブノイズキャンセリング機能の中に、外音のレベルに合わせてノイズキャンセリングの強さを変える「アダプティブ」モードが搭載された。また、左画面下の「パーソナライズされたノイズキャンセリング」項目を選ぶと、パーソナライズのためのテストが始まる
上画面のように、アクティブノイズキャンセリング機能の強さに「アダプティブ」モードが新設された。最適化により、常に「高」にしている場合などよりもバッテリーの節約効果も期待できるという。
「パーソナライズされたANC」とは、外音に対する耳の中(外耳道)の様子(どれくらい音が聞こえるか)をマイクでモニタリングし、それに合わせたキャンセリング処理をするということ。いわゆるハイブリッドアクティブノイズキャンセリング機能だと思ってよいだろう。
サウンドパーソナライズとは、ユーザーの聴覚に応じた周波数特性の最適化のこと。「イコライザ」の項目から、「パーソナルサウンドプロファイル」のための聴覚テストを実施する必要がある。このテストはMimi Hearing Technologiesによるもの。Cleer AudioやSkullcandyなどの製品でも採用例がある
聴覚テストは誕生年を入力し、音量を調整してスタートする。ノイズの中で鳴るビープ音に合わせて、画面をタップするだけ。左右の耳それぞれで行う必要がある。なお、テストは静かな場所で行うタイプだ
サウンドパーソナライズをオンにした場合、「ソフトに」「おすすめ」「リッチに」という3段階のモードと、0〜100%の「インテンシティ」(強度)を選べる。誕生年を入力することと上のイメージ図から推察するに、主に高域の補完をすることがこのパーソナライズの目的なのだろう
イヤーチップのフィットテストは、やはり外耳道のマイクで行われるようだ。耳がしっかりと密閉されているかどうかを判断し、正しいイヤホンの装着をサポートしてくれる。つまり、低音の漏れと外部の騒音を防ぐための機能だと言える
また、BluetoothのコーデックにLHDC 5.0が加わっている。このコーデックは上写真の「デバイスの設定」から、「高音質オーディオ」をオンにした場合に利用可能だ。最大192kHz/24bitの音声を伝送できるというスペックを優先しての採用だそうだが、もちろんLHDC対応の再生機がなければLHDCでの接続はできない。日本で販売されているLHDC対応のDAPやスマートフォンは現在のところ少数派だ。高音質志向のコーデック対応はLHDCのみということで、ここに物足りなさを感じるユーザーもいるだろう。
最後に、β版の「Nothing X」アプリをインストールしたGoogle Pixel 6aを使い、音楽を再生(コーデックはAAC)してみたインプレッションを記しておこう。結論を言えば、後発の難しさを十分に理解しながら参入しただけのことはあるな、と思わせる音質のバランスのよさ、使い勝手のよさを感じさせてくれた。
「Nothing Ear (1)」発売当時の価格と「Nothing Ear (2)」を比較すると、ずいぶんと値上げした感はあるものの(おそらく円安の影響もあるはずだが)、それだけの価値はしっかりと担保できているのではないだろうか。
アラバマ・シェイクスの「Sound & Color」を再生してみると、冒頭のベースとバイブの響きが空間に浮かぶイメージがしっかりと再現される。解像感はなかなか優秀だ。キックドラムが入ってくると、沈み込み方はほどほどだが、低音の量は十分だし、ルーズすぎない質のよさがあるとわかる。総じてやや低域優勢のゆるやかなドンシャリとでも言うべきか、ゆったりとしていて、耳に痛いところがないのがよい。
音楽ジャンルに得手不得手のあるタイプではなさそうだが、サム・スミスの「Unholy」のような、ビートの利いた、ダイナミックレンジの広くない音源に特に聞きごたえがあった。
ここまでは基本的に「イコライザ」の項目は「カスタム」をベースにフラットな状態としていたが、サウンドパーソナライズの機能を使うと、確かに音源によってはより分離のよさを感じられる。録音のよい音源よりは、多数の楽器が入った、ともすれば平板に聞こえがちな音源に使うと効果がありそうだ。
もちろん、パーソナライズの効果はユーザーのテスト結果にもよるだろう。また、筆者の場合は先の「Sound & Color」で、バイブの響きにモジュレーションがかかってしまうような影響を聞き取れた。ほかの楽曲でも同様の症状があったので、特定の周波数に干渉してしまっているのだろう。今後のアップデートに期待したい。
音楽の再生や一時停止など、基本操作は本体のスティック部分をつまむようにして行う。操作時に異音が出づらく、イヤホンを不必要に耳に押し込んでしまうこともないため、なかなか洗練された方法だと感じた
また、本体の操作についてはある程度のアサインが可能。左右それぞれ別設定とすることもできる
「Nothing Ear (2)」をじっくりと外に持ち出して使ったわけではないが、アクティブのイズキャンセリングの強さは必要十分といったところ。アップルの「AirPods Pro」並みにガツン! とノイズキャンセリングしてほしい向きには物足りないだろうが、筆者は逆に強すぎるキャンセリングに違和感を覚えるので、これくらいがほどよいなと感じた。外音取り込みの「トランスペアレンシー」は最新モデルらしく、自然さのある聞こえ方だ。
そうは言っても、対応Bluetoothコーデックなどに不満を感じる人もいるはず。このあたりはもちろん開発陣も意識しているようだが、ひとまず「Nothing Ear (2)」についてはこの仕様で納得できる人が選ぶべきだ。
ともあれ、この独自の外観が気になったのならば、一度手にとってみても損はないだろう。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。