コンパクトサイズのヘッドホンアンプはデスクトップ環境で本格的なオーディオ再生を楽しめる注目のアイテムだ。前編で紹介したCREATIVE「Sound Blaster X5」やFiiO「K9」は、USB-DAC機能を備え、本格的なバランス構成のアンプを備えるなど、手ごろな価格ながらも実力の高いモデルだ。今回はそれらを使ってスピーカー再生に挑戦してみたい。
CREATIVE「Sound Blaster X5」やFiiO「K9」のようなUSB-DAC、音量調整機能のあるヘッドホンアンプを持っているならば、スピーカー再生のために追加すべきはスピーカーのほかにはスピーカーを駆動するためのパワーアンプだけ。
最近ではコンパクトなパワーアンプもあるが、デスクトップ環境であまり機器を増やしたくはないだろう。そこで注目したいのがパワーアンプを内蔵したスピーカー「アクティブスピーカー」だ。 アクティブスピーカーにはいわゆる「PCスピーカー」も含まれるが、ここで検討したいのは、簡易的なPCの補助的な製品ではなく、本格的なオーディオ再生を楽しめる高音質なモデルだ。
すると視野に入ってくる製品には、家庭用製品だけでなく、業務用製品もある。録音スタジオやDTMで使われるスタジオモニターと呼ばれるタイプのアクティブスピーカーだ。スタジオモニターの主流はアクティブ型と言ってよいだろう。スタジオモニターには大型のラージモニターもあるが、スタジオのコンソールなどに置いて使える小型なモデルもある。試聴位置との距離が比較的近いため、ニアフィールドモニターとも呼ばれる。翻って、家庭のデスクトップの周囲に置いて使うにも最適なスピーカーというわけだ。
CREATIVE「Sound Blaster X5」(左)とFiiO「K9」(右)。どちらもUSB-DACを内蔵したヘッドホンアンプで、アナログ音声出力も持っている。このアナログ音声出力についても音量調整が可能(可変出力を持っている)であることが、アクティブスピーカーを追加するシステムのポイントになっている
PCとヘッドホンアンプ/USB-DACをつないでオーディオシステムを構築しているならば、スピーカーを使ったシステムまではあと一歩かもしれない。ヘッドホンアンプにアナログ音声出力があって、その出力の音量調整が可能であれば、あとはアクティブスピーカーをつなげばOKだ
試聴を行った製品は、JBL「305P MkII」、AIRPULSE(エアパルス)「SM200」の2モデル。価格は大きく異なるが、どちらも2ウェイ構成のブックシェルフ型スピーカー。背面のバスレフポートを備えている点も同じ。モニタースピーカーの定番的なスタイルだ。「305P MkII」の価格.comの最安価格は1本あたりの表示であることには注意したい。
左がAIRPULSE「SM200」で、右がJBL「305P MkII」。「SM200」のほうがひと回り大きい
両モデルの主なスペックは以下のとおり。
JBL「305P MkII」
●2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型ツイーター、127mmコーン型ウーハー
●周波数特性:43Hz〜24kHz(-10dB)
●クロスオーバー周波数:1.725kHz
●パワーアンプ出力:41W(ツイーター用)+41W(ウーハー用)
●接続端子:アナログ音声入力2系統(XLR、TRS)
●寸法:186(幅)×242(奥行)×298(高さ)mm (突起部分を除く)
●重量:4.7kg
AIRPULSE「SM200」
●2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:ホーンロード・リボン型ツイーター、135mmコーン型ウーハー
●クロスオーバー周波数:2.5kHz
●周波数特性:45Hz〜40kHz(±3dB)
●パワーアンプ出力:15W(ツイーター用)+65W(ウーハー用)
●接続端子:アナログ音声入力3系統(XLR、TRS、RCA)
●寸法:185(幅)×318(奥行)×319(高さ)mm
●重量:8.4kg
どちらも2ウェイ2スピーカーだが、大きく違うのはツイーターだ。「SM200」はリボン型ツイーターにホーンを組み合わせた構成で、「305P MkII」は一般的なドーム型ツイーターにウェーブガイドを組み合わせている。
「305P MkII」の前面と背面。背面のバスレフポートは開口部の角を丸めた形状で風切り音を防ぐ。ドーム型ツイーターの周辺が指向性をコントロールするための「イメージコントロールウェーブガイド」。複雑な形状になっているのがわかるだろう
各モデルを詳しく紹介していこう。まず「305P MkII」は、実力の高い従来モデル「LSR305」の“MkII”。ウーハーでは磁気回路を見直して磁界の歪みを改善し、入力された信号に忠実に追従する振幅を実現したという。ツイーターは、ボイスコイルの冷却と制動のために磁性流体を採用。音の立ち上がりや細かな音の再現性を高めている。磁気回路にはネオジム磁石を使用。そして、JBL業務用ラインのスタジオモニター最上位機「M2」で開発された技術を活用した「イメージコントロールウェーブガイド」を採用。指向特性を改善し、広い音場と明瞭な音像定位を得たとしている。
これらのユニットを駆動するパワーアンプはD級アンプで、アクティブクロスオーバー回路を組み合わせ、ウーハー、ツイーターをそれぞれ専用のアンプで駆動するバイアンプ構成としている。プロ仕様のため、入力端子がXLRとTRS(いわゆるフォーンプラグ)端子(いずれもバランス)のみ。CREATIVE「Sound Blaster X5」など、RCA出力のみの機器との接続では、RCA→XLR変換プラグや変換ケーブルが必要になることには注意したい。
また、各種の調整機能が盛り込まれており、入力感度は+4dBu/-10dBVに切り替え可能。高域(4.4kHz)±2dBの調整、低域(50Hz)-1.5dB/-3dBの調整が行える。ボリューム調整も左右それぞれに備える。
アクティブスピーカーの中には、アンプなどのエレクトロニクス回路が片側に集約されていて左右のスピーカーを専用ケーブルなどで接続するタイプもあるが、「305P MkII」は左右でそれぞれにアンプを内蔵し、配線もプリアンプやD/Aコンバーターとそれぞれに接続する。もちろん、電源もL/R用で2つ必要になる。
背面端子/スイッチの拡大写真。「BOUNDARY EQ」で低域を、「HF TRIM」で高域の特性を微調整できる。なおボリュームについては左右を同じ数値で固定。音量調整はヘッドホンアンプ/USB-DACで行うシステムとした
「SM200」の前面と背面。背面は入力端子、各種調整のためのスイッチが充実している。前面は左右に広がるホーン搭載型リボン・ツイーターが印象的だ
AIRPULSEは家庭用製品としてUSB-DACやBluetooth機能までも内蔵した「A80」などオールインワン型とも言えるモデルをラインアップし、人気を博すブランドだ。「SM200」はAIRPULSEの「プロフェッショナル・ニアフィールド・モニタースピーカー」と位置づけられている。
その「SM200」の大きな特徴と言えるのがホーン搭載型リボン・ツイーターの採用で、これにアルミコーン型ウーハーを組み合わせている。小口径ウーハーながらもロングストローク設計とすることで、小型スピーカーとは思えない低音再生能力を発揮するのは設計を担当するフィル・ジョーンズ氏の得意技。本機でもパワフルで解像度の高い低域再生を実現している。
パワーアンプはこちらもD級で、ツイーターとウーハーそれぞれに15W、65Wのアンプを使ったバイアンプ構成となる。入力端子はXLRとTRS端子のバランス入力、RCA端子のアンバランス入力も備える。パワーアンプをL/Rそれぞれに内蔵し、電源も2つ必要とするのはこちらも同じ。
音質調整機能として、高域(4.5kHz以上)と低域(250Hz以下)を±3dBの範囲で調整できるフィルターを備える。これに加えて、ウーハーのハイパスフィルターの開始周波数を20〜100Hzで選択でき、スロープカーブ(減衰特性)も6/12/18/24dBで切り替え可能。この機能は単に低音を調整するだけでなく、サブウーハーを組み合わせる場合の調整にも使える。そして、左右独立の音量調整では、デジタル表示のディスプレイが備わっている。「305P MkII」も必要十分な機能を持つが、入力端子の装備なども含めるとさすがにこちらのほうが充実している。
「SM200」は低域、高域の微調整が可能なほか、「FILTER SLOPE」でハイパスフィルターの調整もできる。要は最低域をどれくらい出すか、の調整だ。試聴時は最大限低域を出す、20Hz/6dBの設定とした
どちらもプロ仕様のモニタースピーカーのため、音質調整機能や業務用機向きの入力端子の装備など、共通する部分は多い。見た目はどちらも黒一色に近い無骨な印象ではあるが、「305P MkII」はウェーブガイドやドライバー周辺部を光沢仕上げにしているなど、デザインにも気を配られている印象だ。もちろんスピーカーだから、肝心なのは音なのだが。
まずは「305P MkII」から聴いた。こちらはバランス入力のみなので、FiiO「K9」を使用して、XLRバランス接続とした。
スピーカーを2mほどの間隔で設置。このくらいの配置でも、中央の音が薄くなるようなことがなく、エネルギーたっぷりの音を味わえた
FiiO「K9」のリアパネル。XLRバランス出力を持っているため、「305P MkII」のようにXLR/TRSバランス入力のみというアクティブスピーカーとの連携がスムーズ。スピーカー再生を視野に入れてヘッドホンアンプ/USB-DACを選ぶならば、こうした接続性も考えておきたい
最初はデスクトップ環境やニアフィールド試聴をイメージして、スピーカーの間隔を1mくらいとすると、音像定位が明瞭で実体感のある音像が目の前に現れた。左右の音の広がりも良好で、JBLらしい音が前に出てくるような鳴り方なので、ボーカル曲などは実に立体的な再現になる。
ジャズを題材としたアニメ映画「BLUE GIANT」のサウンドトラックから「N.E.W.」を聴くと、エネルギッシュなテナーサックスが実体感たっぷりの生々しい音を出す。ピアノの低音パートやドラムスの力強いリズムも瞬発力の高い生き生きとした鳴り方で、聴いていて実に気持ちよい。音調はニュートラルでモニターらしい色づけのない素直な音ということもあり、ライブ感がたっぷりと伝わる。
試しに2mくらいまでスピーカーの間隔を広げて聴いてみたが、音像の厚みが薄れることもなくエネルギー感も十分。本企画はデスクトップ環境のためのシステム提案ではあるが、リビングなどで使っても十分に楽しめるだろう。デザインがやや無骨なことを気にしなければ、薄型テレビと組み合わせるのもよさそうだ。
間隔を広くしたスピーカー配置のまま、クラシックの「ブルックナー/交響曲第8番」から第4楽章を聴くと、スケール感はさすがにやや小ぶりになるものの、音場の広がりと各楽器の粒立ちのよさが両立した再現だ。強いて言えば、楽器の質感や細かな音の再現はやや物足りないとも感じるが、これはかなり格上と言える「SM200」との比較試聴だから気づくレベル。「305P MkII」の価格を考えると、ディテールや情報量も十分に優秀だ。
いちばんの魅力は、勢いのよさと音のエネルギー感がよく出ること。はつらつとした鳴り方をするスピーカーだ。価格はお手ごろと言ってよいと思うが、かなり本格的な実力がある。一般的なRCA端子の音声出力の機器を接続するには変換プラグやケーブルが必要になるが、無理のない予算の範囲でアクティブスピーカーを選ぶなら、第一の有力候補になると思う。
こちらも1m、2m、それぞれのスピーカー間隔で設置、試聴を実施。雄大なスケールの音を楽しめた
続いては「SM200」。こちらもまずはFiiO「K9」を使ってXLRバランス接続で聴いた。音場の広さと奥行きの深さはさすが高級モデル。始めはスピーカーの間隔を1mくらいとしたニアフィールドで聴いていると、ステレオ再生なのにサラウンド再生をしているような音に包まれる感覚さえある。スピーカーの間隔を2mくらいにして聴けば、立体的な音場がさらに雄大になりクラシックの演奏ならばオーケストラのスケール感もしっかりと伝わる。
「BLUE GIANT」の「N.E.W.」では、テナーサックスとピアノ、ドラムスの音を実体感たっぷりの音で鳴らし、それぞれの楽器の質感だけでなくサックスへの息吹や鍵盤を強く叩くニュアンスまでよくわかる。情報量が豊かで、生の演奏を間近で見ているような感覚になる。
こちらも音調としてはニュートラルで色づけのない傾向だが、サックスから出た音が空間に広がる様子や、ピアノの和音がきれいに響く感じまで再現されるので、結果として空間表現力の豊かなサウンドになる。それでいて、音像の厚みやエネルギー感が薄まったり、繊細で力不足と感じられたりするようなこともなく、分厚い音になっているのだから見事だ。
特に感心したのは低音の解像度の高さ。音の感触としてややタイトだと感じるくらいだが、「ブルックナー/交響曲第8番」を聴くと、コントラバスの胴が鳴るような量感の豊かな音の響きも明瞭に再現するし、大太鼓の立ち上がりの速さと響きの豊かさを精密に描写する。ドロドロっと歯切れが悪くなりがちなティンパニの連打も、ダ、ダ、ダ、とキレ味鋭い。
タイトな低音の表現はAIRPULSEのほかのモデルにも共通するが、弟機の「A80」などと比べてウーハー口径が大きいこともあり、低音のローエンドの伸びや力強さが増していて、より精密感が高まったと感じる。
ニアフィールド試聴での演奏をかぶりつきで聴いているような目の前に迫る感じもよいが、最終的にはスピーカー間隔を広めにとって雄大なスケールを味わえる配置のほうがより好ましいと感じた。デスクトップ周辺に置くとしても、PCなどを置く机の両サイドにスタンドを使って、広めの間隔を取れるとよさそう。さらに、じっくりと音楽を聴くときは椅子を後ろに下げてL/Rスピーカーと試聴位置で正三角形を作るようにすれば、かなり本格的なステレオ再生を楽しめるはずだ。
L/Rスピーカーユニットの中心同士をつないだ距離を100cm(1m)としたとき、L/Rスピーカー、試聴位置で正三角形を作ると、図の「a」の長さは約86.6cm。L/Rスピーカー間が200cm(2m)の場合は約173.2cmとなる。これが一般的に言われるスピーカー再生の標準的な形だ
もちろん、FiiO「K9」との実力の差も正直に出してしまうわけだが、CREATIVE「Sound Blaster X5」が思った以上にバランスがよく、聴いていて楽しい音だということが改めてわかった。こちらもスピーカー再生のためのプリアンプとして、十分に活用できそうだ。
USB-DACとプリアンプ機能を持ったヘッドホンアンプを使ってアクティブスピーカーを再生するという試みは、思った以上に面白かった。絶対的な音質という点でも一般的なプリメインアンプなどを使ったステレオ再生システムと同等と言ってよい。
プレーヤー、アンプ、パッシブ型のスピーカーという一般的な組み合わせでは、スピーカーを鳴らしきるという意味でもアンプ選びはなかなか難しいところだったりする(そこがオーディオの面白さでもあるが)。
その点、こうしたアクティブスピーカーなら、きちんとスピーカーを鳴らし切れるアンプを組み合わせて音を仕上げているはずだし、そもそもアンプ選びで迷う心配がない。ここで紹介したようなプロ仕様のモニタースピーカーは、ヘッドホンアンプとの組み合わせのしやすさでも音質面でも、十分な実力があるとわかった。
特にJBLの「305P MkII」のコストパフォーマンスの高さはすばらしい。ヘッドホンやイヤホンから、初めてのスピーカーに挑戦したいという人にアクティブスピーカーはぴったりだ。
AIRPULSE「SM200」は、より本格的なスピーカー再生を求める人にはぜひ試してみてほしい。このくらい質の高い音を聴いてしまうと、次はフロア型の大型スピーカーが気になってしまうとか、本格的なオーディオ沼にはまってしまいそうな危険な香りがするが……。こんな音が最小単位の構成でしかも省スペースで実現できるのだから、よい時代になったと思う。
ヘッドホンやイヤホンでの音楽聴取には、ダイレクトな感触や情報量がそのまま耳に伝わる解像感という点でスピーカーとはまた違う魅力がある。しかし、スピーカーでの音楽聴取には、広い空間に音が現れる独自の魅力があり、部屋の環境も含めた調整もまた楽しい。イヤホンはあくまで外出時のためのもので、スマホの音が鳴ればそれでよい。そう思っている人も、据え置き型のヘッドホンアンプでイヤホンの音を聴いてみると、また違った発見があるはず。どちらがすぐれているということはなく、両方楽しむのが正解だ。
ヘッドホンやイヤホンもスピーカーも両方楽しめる、据え置き型ヘッドホンアンプにぜひ注目してほしい。
映画とアニメをこよなく愛するAVライター。自宅ホームシアタールームは「6.2.4」のDolby Atmos対応仕様。最近は天井のスピーカーの追加も検討している。