JMGO(ジェイエムゴー)が光源に3色のレーザーを使ったAndroid TV 11搭載“スマートプロジェクター”「N1 Ultra」を発表した。2023年4月6日から先行予約を開始し、5月15日から発売開始。希望小売価格は283,360円(税込)。先行予約を申し込むと、専用スタンドがプレゼントされる。
JMGOの最高級プロジェクター「N1 Ultra」。表示解像度は4K(3,840×2,160)だが、表示素子は0.47インチDMDであることから、素子の解像度自体は1,920×1,080であると推察される
左が「N1 Ultra」の同梱品。電源はACアダプターで供給するタイプだ。右が先行予約特典のスタンド。別途単品販売も予定されている
「N1 Ultra」の発表会が催されたので、その様子と「N1 Ultra」の詳細をお伝えしよう。まずは主なスペックについては以下のとおり。
「N1 Ultra」の主なスペック
●映像素子:0.47インチDMD(1チップDLP方式)
●表示解像度:3,840×2,160(4方向の画素ずらし方式を採用)
●光源:3色レーザー(公称の寿命は30,000時間)
●明るさ:2,200ルーメン(CVIA)
●OS:Android TV 11
●オートフォーカス、自動台形補正(縦・横)機能搭載
●デジタルズーム(縮小のみ)対応(光学ズーム/レンズシフト非対応)
●HDR10、HLG対応
●入力端子:HDMI入力1系統(eARC、ALLM対応)、ヘッドホン出力1系統(3.5mm)、ほか
●アンプ出力:10W×2(ステレオスピーカー搭載)
●寸法:241(幅)×203(奥行)×236(高さ)mm
●重量:4.5kg
「N1 Ultra」を一般的な家庭用プロジェクターの文脈で簡潔に説明するならば、レーザー光源を搭載した1チップDLPプロジェクターだ。ここで注目すべきは設置のしやすさを追求していること、“3色の”レーザーを搭載していることの2点だろう。
本体を自在に回転させられるジンバルが付属する。なお、デジタルズーム/台形補整を使わない100インチの投写距離は約2.6mとのこと
まず注目したいのは、設置のしやすさ。写真のとおり「N1 Ultra」は専用のジンバル(スタンド)が付属していて、左右360度、上下135度の方向に自在に回転させられる。もちろん、上を向けて天井に映像を投写することも可能だ。
光源がレーザーということもあり、本体を上向きにしての投写も可能。ただし、写真の状態の場合、入力端子は本体下向きになる。スティックタイプの動画再生機やプラグの大きなHDMIケーブルは干渉する可能性がありそうだ
そこで重要になるのが、オートフォーカス、自動台形補正など、手間のかからない設置補助のための自動調整機能だ。自在に動くジンバルと自動調整機能を同時に使うことで、「置けば最適な映像が投写できる」というスムーズさを実現している。
その実際の動きは以下の動画のとおり。投写した面に応じて自動でフォーカスや台形補正を施してくれるので、とにかく手間がない。
もちろん、シビアに言えば、画質を優先するならば台形補正はしないにこしたことはないし、投写する場所(スクリーン)にもこだわりたい。しかし、プロジェクターを定位置に置きたくない、置く場所がない、と悩んでいる人にはちょうどよい選択肢になりそうだ。
これまでの家庭用高級プロジェクターは光学レンズシフトやズーム機能を付けて設置のしやすさを確保してきた。それは画質を担保するためだが、どうしてもコスト高になることは避けられなかった。「N1 Ultra」は画質の追求はさておいて、ゼロベースで使いやすさを考えた新世代の製品と言えるかもしれない。
設置のしやすさを追求したいっぽうで画質面でも特筆すべき点がある。それが“3色”レーザーの搭載だ。「画質の追求はさておいて」も、画質をないがしろにしているわけではない。
3色レーザーとは、映像投写に必要なR(赤)G(緑)B(青)すべての光源に単独のレーザーを充て、しかもレーザーの色がそれぞれRGBであるということ。LED・レーザー光源の大手メーカー日亜化学工業の新製品「QuaLas(クオラス)RGB」を採用してこれを実現した。「QuaLas RGB」はRのレーザー、Gのレーザー、Bのレーザーがワンパッケージモジュール化された光源なのだ。
従来のレーザー光源モジュールよりも小型化したうえに、2倍程度の高い発光効率を得られたという「QuaLas RGB」。R(赤)が3、G(緑)が3、B(青)が2、合計8チップのレーザーダイオードが搭載されている
従来の一般的なレーザー光源プロジェクターにおいては、G(緑)を得るためには青色のレーザーを使い、それを蛍光体に当てる(励起[れいき]させる)という方法が一般的だった。日亜化学工業によれば、この方法では効率が悪く、緑の色の純度が落ちてしまうというデメリットがあったという。そこで日亜化学工業は高い発光効率を持ったG(緑)のレーザーを開発し、「QuaLas RGB」としてモジュール化することになった。
この「QuaLas RGB」(8チップの新型)が家庭用プロジェクターに搭載されるのは「N1 Ultra」が初めてだという。こうした背景から、「N1 Ultra」は「Android TVを搭載したホームプロジェクターとして」3色レーザー光源を搭載した日本初の製品であるとしている。
左と中央が従来のレーザー光源モジュールイメージ。それぞれJVC/ビクターの「DLA-Z1」「DLA-V90R」に搭載されていたものとよく似ている。「QuaLas RGB」はそこから大幅に小型化され、コストも抑えられたという。さらに、発光効率が高いので発熱も従来より少ない。これまでの家庭用プロジェクターを振り返ると、レーザー光源を搭載したハイエンドモデルは大掛かりな液冷システムを採用していたりもしたが、それが解決されることにもなる。この8チップ「QuaLas RGB」が今後各社の家庭用プロジェクターに採用されることも楽しみだ
純度の高いG(緑)を取り出すことによって、「N1 Ultra」では広色域を実現している。HDR映像に組み合わされる広色域規格として知られるBT.2020の面積比では110%をカバー。すべてではないものの、BT.2020の「ほとんど」をカバーできているとしている。
さらに、「N1 Ultra」の高画質技術は「QuaLas RGB」によるものだけでなく、そこにJMGO組み合わせる独自技術「ライトスペックル低減技術」も大きなポイントだという。これはレーザー光源の原理的なデメリットである「スペックルノイズ」と呼ばれる映像のざらつきを抑えるもの。「上下左右に高速で振動する板によって、1本1本の強いレーザー光を混ぜ合わせ、映像を滑らかにする」としている。
拡散反射面にレーザーを当てると、散乱した光同士が干渉し合い、不規則な斑点状のノイズが出てしまう。これを「スペックルノイズ」と言う
「N1 Ultra」のレーザー光源イメージ。「Laser/レーザー」の部分が「QuaLas RGB」。本機には2つのモジュールが搭載される。「Adaptive/適応」の部分が「ライトスペックル低減技術(Dynamic Light Speckle Reducer Technology)」を利用した高速振動する板。波長同士の干渉を最大96%低減するという。「Microstructure/微細構造」の部分は4層のディフューザー。400のエリアに分かれた複眼構造で、100インチ前後の広範囲に均一な光を拡散する役割を果たす。それぞれの頭文字とControlをつなげて、JMGOはこのシステムを「MALC(Microstructure Adaptive Laser Control)」エンジンと呼ぶ
「QuaLas RGB」自体にもスペックルノイズを抑える工夫がされているという。色の純度が高い(波長が急峻である)からこそ起こる各色の波長同士の干渉を低減するために、画質に影響の少ない範囲でチップ同士の波長をずらしている
「QuaLas RGB」を搭載した「N1 Ultra」の明るさは2,200ルーメン。これは「CVIA」という中国で制定された新しい規格で測定された数値だ。中国ではプロジェクター市場の拡大するにつれ、特に明るさについて紛らわしい、誤った表記がされている、誇大広告がされているという問題が起こってしまったという。そこで統一基準を目指して制定されたのが「CVIA」いうわけだ。
現在プロジェクター市場の明るさの表記は「ANSI」というアメリカの工業製品規格に則ったものが多いが、この「CVIA」は評価の基準がさらに厳しいそうだ。したがって「CVIA」の2,200ルーメンは「ANSI」の2,200ルーメンよりも明るい、という訴求も行われた。
ただし、この点はなんとも言えないところではある。良心的なメーカーでは誇大広告はないはずだが、スペックに表記される測定の条件(具体的には画質モードのほか、全白の出力時などの条件)は異なると想定されるからだ。測定方法が平等であっても、製品側の条件を揃えるのはなかなか難しい。ユーザーとしては数値に踊らされないようにするのが賢明だろう。上記リンクの関連記事にもあったことだが、画質のためにあえて明るさを犠牲にするメーカーもあるくらいなのだ。高画質とは、ぱっと見の明るさ、鮮やかさだけではないものと心得たい。
写真は他社製プロジェクターと同じ映像を同時に投写したもの。「CVIA」2,200ルーメンの「N1 Ultra」が「ANSI」2,200ルーメンの製品よりも明るい映像を投写できたとしている
OSはAndroid TV 11。Amazonプライム・ビデオなどにプロジェクターだけでアクセスし、コンテンツの再生ができるということ。もちろんスピーカーを内蔵しているので、音声、映像をこれ一体ですべて再生可能だ。
なお、スピーカーについてはデンマークのスピーカーメーカーDYNAUDIO(ディナウディオ)との協業によるステレオスピーカーを搭載。ちなみにDYNAUDIOは自社でドライバーから設計開発も行う世界でも数少ないスピーカーメーカーのひとつで、家庭用だけでなく、業務用やカーオーディオ向けのスピーカーを展開する名門ブランドだ。
OSはAndroid TV 11。現状ではNetflixには非対応で、現在交渉中とのことだ
さて、発表会にはJMGOのCEO兼CPOのWill Wang(ウィル・ワン)氏もかけつけ、JMGOというブランドについて改めて紹介した。2011年の設立以来、音声認識に対応したプロジェクターや超短焦点プロジェクターなど、提案性のある製品をリリースしてきており、現在では自社開発特許を300件以上有するという。
発表会には、JMGO CEO兼CPOのWill Wang氏が登壇。JMGOは2011から「スマートプロジェクター」に取り組むメーカーであることを説明した
JMGO製品の輸入販売を行う株式会社日本ビジネス開発の代表取締役社長、矢野雅也氏。今後は「N1 Ultra」の弟機にあたる2K表示の製品「N1 Pro」を展開予定であることも明らかにした
「QuaLas RGB」を供給する日亜化学工業株式会社からは、濱敦智氏が登壇
最後に、AV評論家の大橋伸太郎氏がゲストスピーカーとして登場した
発表会では本体をどこに運んでもよいことと合わせて、部屋を暗くせずとも使えることがアピールされたため、暗室でじっくりと映像を見ることはできなかったが、環境に負けない明るさを確保できていることは間違いなさそうだ。
画質については、ゲストスピーカーのAV評論家大橋伸太郎氏が「打てば響く」「素性のすぐれた」プロジェクターであると評価。デフォルトでは映像モードの選択肢があまり多くないので、暗室で使う場合はオールラウンドに使える「ビビッド」から「コントラスト」や「彩度」を適宜落としていくか、「ユーザー設定」から調整するとよいと紹介された。明るさ優先の画質は、暗室でなくとも使えると訴求するからこその公約数的提案なのだろう。
一応周囲の明るさに応じた映像の明るさ調整機能は持っているが、最新のテレビに搭載されているような画質の自動調整モードは搭載していない。今後のこのあたりの練りこみや新提案に期待したい。
映画の再生ひとつを考えてみても、色温度は制作時の基本となっている6500Kに合わせたいし、ビデオ系のコンテンツであればもっと高い色温度が望ましいだろう。そういう細かいことも「さておいて」、プロジェクターを使う楽しさを知ってもらうための製品なのだろうとは思う。しかし、映像モードも自動で最適化してこそ、真の“スマートプロジェクター”と言えるのではないかとも思う。
「画像モード」は「ダイナミック」「ビビッド」「標準」「ゲーム」「オフィス」「ユーザー設定」の6種
詳細設定には、色温度、コントラスト、色調をまとめて調整する「Adaptive Luma」やフレーム補間機能「MEMC」の項目がある。そのほか、映像調整のための項目自体はかなりオープンになっているため、マニアックに画質を調整していくことは可能だ
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。