TVS REGZAが2023年モデルの第1弾として4月に発売した4K液晶レグザ「Z970M」シリーズと、4K有機ELレグザ「X9900M」シリーズ。前者は、液晶テレビの高画質化技術のひとつとして急浮上しているMini LEDバックライトを搭載したモデル、後者は近年のハイエンド高画質テレビの主流である有機ELパネルを搭載したモデルだ。
それぞれ4K液晶レグザと4K有機ELレグザの最上位モデルにあたり、最上位モデルのレビューはどちらがふさわしいのか……と思案していたら、なんとTVS REGZAから「Z970M」シリーズと「X9900M」シリーズの両方をお借りできることになった。自宅で65V型の「65Z970M」と「65X9900M」をしばらく試用してみたので、今回は画質比較を中心に2023年レグザ最上位モデルを使った頂上対決をお届けしたい。
Mini LEDバックライトを搭載した4K液晶レグザ最上位モデル「Z970M」シリーズ(写真左)と、4K有機ELレグザ最上位モデル「X9900M」シリーズ(写真右)をレビュー。今回は65V型サイズを用意した
Mini LEDバックライトを搭載した4K液晶レグザ「Z970M」シリーズと、4K有機ELレグザ「X9900M」シリーズの概要については下記の発表当時のレポート記事で詳しく紹介している。詳細についてはそちらを参照してほしいが、かいつまんでポイントを解説すると、「Z970M」シリーズと「X9900M」シリーズは、それぞれ4K液晶レグザと4K有機ELレグザの最上位モデルであること、高画質映像処理エンジンは2チップ構成の「レグザエンジンZRα」を搭載し、ミリ波レーダーを活用した「ミリ波レーダー高画質」「ミリ波レーダー高音質」という高画質・高音質化向けの新技術が盛り込まれている点は横並びということだ。つまり、比較すべきポイントは、パネルやスピーカー構成といったハードウェア的な違いによる画質・音質の差ということになる。
Mini LED液晶の「Z970M」シリーズ。今回使用したのは65V型の「65Z970M」
「Z970M」シリーズの65V型と75V型はセンタースタンド仕様で、スイーベル(首振り)にも対応
有機EL「X9900M」シリーズは、65V型の「65X9900M」を用意。2Wayスタンドを採用し、設置場所に合わせて脚の位置を調整可能
もちろん、「Z970M」シリーズはバックライトを必要とする液晶パネル、「X9900M」シリーズは自発光デバイスである有機ELパネルと、使用しているパネルそのものが異なるので、筐体デザインや設置性はそれぞれに特徴があり、画質・音質以外の部分でも多少の違いはあるが、画質・音質に関わらない機能性はほぼ共通している。レグザの上位モデルではすでにおなじみとなっている、外付けHDDによる地デジ全録機能「タイムシフトマシン」をはじめ、ネット機能やリモコンなどの操作性も基本的に同じだ。これらについては、記事の後半で詳しく紹介しよう。
付属リモコン。どちらも同世代だけにまったく同じデザインだ
地デジ全録の「タイムシフトマシン」もしっかりと対応している
Mini LED液晶と有機ELで画質の違いがどれほどなのか、まずは気になる画質に関してレポートしていこう。
Mini LED液晶の「65Z970M」と有機ELの「65X9900M」を2台横並びにして設置し、地デジ放送とYouTubeを視聴してみた第一印象は、2モデルともさすが“ハイエンドモデル”と唸ってしまうくらい高画質ということ。あまりの映像のきれいさに、検証を忘れて思わず映像に見入ってしまった。
まずは明るい部屋で地デジやYouTubeなどをチェック
Mini LEDバックライトのおかげか、2台を横並びで比較視聴していると「65Z970M」のほうが画面の明るさが強烈に感じるものの、有機ELの「65X9900M」でも輝度不足はまったく感じない。両モデルとも画面の高輝度からくるメリハリがしっかり出ているが、色は濃厚でも派手さはひかえめ。Mini LED液晶の「65Z970M」のほうが人肌や赤いテロップで鮮やかさを感じられる傾向があり、それに比べると有機ELの「65X9900M」は色合いがやや地味に感じられるが、暗部側の色の深みはよく出ている。
65V型という大画面で地デジやYouTubeを視聴しても解像度不足を感じないところは、高画質エンジン「レグザエンジンZRα」の実力だろう。そして、おかしな表現だがMini LED液晶「65Z970M」の画面も、となりに設置した有機ELの「65X9900M」と見間違えそうなほど画面全体の密度感が有機ELっぽい。液晶テレビだが、バックライトの緻密な制御で、バックライトの存在を感じさせないくらい高コントラストな映像を実現できているからなのかもしれない。
続いて、PlayStation 5を再生機として接続し、作り込まれた4K HDRのコンテンツを視聴してみたが……やはり高画質が冴え渡る。HDR映像の中でも画面全体の輝度が高いシーンではMini LED液晶の「65Z970M」のほうが画質面で有利ではあるが、暗所や色の深みに着目すると有機ELの「65X9900M」が上手。
『The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark』の1シーン
色鮮やかな花の映像を見ると、液晶の輝度志向の画づくりと、有機ELの階調志向の画づくり違いがよくわかる
両モデルの特性を調べるべく、それぞれ画面が最も明るくなる映像設定で画面輝度も測定してみた。画面の白の面積が10%の状態で「65Z970M」は約2700lux、「65X9900M」は約2177lux、白の面積100%の状態で「65Z970M」は約1102lux、「65X9900M」は約426luxを記録。価格.comのYouTubeチャンネルの映像を用いた計測では、ハイライト部は「65Z970M」で約918lux、「65X9900M」で約758lux、人物の顔は「65Z970M」で約507lux、「65X9900M」で約453lux。
やはり全体的にMini LED液晶の「65Z970M」のほうが明るいが、有機ELの「65X9900M」も一般的な液晶テレビの水準は超えている。中間輝度の多い一般的なコンテンツを視聴するなら、有機ELの「65X9900M」でも必要十分なパネルポテンシャルと言えるだろう。
視野角についても、Mini LED液晶の「65Z970M」と有機ELの「65X9900M」の間で差はほとんどなかった。有機ELの「65X9900M」の視野角が広いのは当然として、Mini LED
液晶の「65Z970M」も視野角の広いADSパネル、かつ高輝度のため、ある程度斜めから視聴しても見やすい。
キッチンからリビングに設置したテレビを見た様子。写真左手前が「65Z970M」、写真右奥が「65X9900M」だ
照明を消した完全暗室の状態で夜景の映像を視聴してみた。こちら、完全に黒を沈めきれていたのは有機ELの「65X9900M」のみ。とはいえ、Mini LED液晶の「65Z970M」も、横に有機ELを並べなければ“ほぼ黒”だし、ハイライト部分のピークは「65Z970M」のほうが伸びている。
完全暗室の状態で夜景の映像を視聴してみた。写真左がMini LED液晶の「65Z970M」、写真右が有機ELの「65X9900M」だが、夜景でも画面全体に明るさのピークがあるシーンではMini LED液晶の「65Z970M」のほうがきれいに感じられる
エリア駆動が働くシーンだが、黒の締まりは有機ELがわずかに上のようだ
Mini LED液晶の「65Z970M」では、バックライトの光漏れにあたるハローが気になるところだが、こちらに関しては正面視聴ではほぼわからないものの、斜めから見るとうっすら白く見えるときがある。完璧な黒を求めるなら、やはり有機ELの「65X9900M」を選ぶほかない。
Mini LED液晶の「65Z970M」では、光漏れ(ハロー)もチェック。写真ではわかりにくいが、肉眼ではやや白っぽく見える
画質関連の新機能についても簡単に紹介しておこう。まず、AIプロセッサーを活用し、映像そのものからジャンルを判定して最適な高画質化処理を施す「ネット動画ビューティPRO」。こちらはデフォルトで有効となっており、映像設定から動作状態を確認することができる。
AIプロセッサーで映像全体を解析し、最適な高画質処理を施す「ネット動画ビューティPRO」。番組情報(EPG)のないネット動画の再生時でも顔認識が働く
ミリ波レーダーを活用した高画質化機能「ミリ波レーダー高画質」は、ユーザーの視聴距離に応じて近距離ではノイズ低減処理、遠距離では人物の輪郭をシャープに立てたクッキリ画質に映像を最適化してくれる。機能のオン/オフによる効果の違いはわざとレーダーの範囲から外れるように隠れて見比べないと確認できないが、ユーザーが意識しなくてもテレビのほうで自動的に最適化してくれるという機能なので、ユーザーが意識しないほうが正しい扱い方と言える。
ミリ波レーダーの機能は「レグザセンシング」としてまとめられている
なお、画質とは関係ないが、ミリ波レーダーを活用した機能として「離席時省エネモード」というものも用意されている。テレビの前から離れると画面を消して省エネ化してくれるというものだが、ミリ波レーダーの反応する幅がテレビ画面の正面幅から横に0.5m程度しかないため、キッチンから斜め見していると画面が消灯してしまった。これは普段自分がテレビを見る位置を考えて使ってみてほしい。
センシングで不在を検知すると一定時間(デフォルトは5分)で消灯。斜め位置から視聴する場合は機能をオフにしておいたほうがよさそうだ
ここからは、音質についてチェックしていこう。2モデルともDolby Atmosに対応する点は共通だが、スピーカー構成は異なっており、「65Z970M」は11スピーカーで112Wの「レグザ重低音立体音響システムZHD」、「65X9900M」は10スピーカーで90Wの「レグザ重低音立体音響システムXHR」となっている。
いずれもレグザのハイエンド機だけあって設計思想は似ているが、Mini LED液晶の「65Z970M」は画面上部のスピーカーにフルレンジユニットが搭載されているのに対し、有機ELの「65X9900M」は画面を振動させるスクリーンスピーカーがあるため、画面上部のスピーカーがツイーターとなっている。背面に重低音バズーカと呼ばれるウーハーを搭載している点は同じだ。
Mini LED液晶の「65Z970M」の上部スピーカーはフルレンジ
有機ELの「65Z970M」の上部スピーカーはツイーター
コンテンツをいろいろと視聴してみたが、「65Z970M」「65X9900M」ともに画面と音の一致感は高い。低音も適度に効いており、テレビ放送が聴きやすいのはもちろんのこと、映画などの音が広がるコンテンツとも相性がよく、臨場感のあるサウンドを楽しめそうだ。
サウンドバランスに関しては、Mini LED液晶の「65Z970M」が高域をキンと効かせた派手なサウンドなのに対し、有機ELの「65X9900M」はナチュラルに音を届けるタイプ。人の声の聴き取りやすさや臨場感を重視するなら「65Z970M」だが、オーディオ好きならナチュラルな「65X9900M」を好みそうだ。映画ではどちらもDolby Atmos対応で重低音の効いたパワフルなサウンドなので、単純に好みで選んでも問題ない。
続いて、ゲーム関連の機能もチェックしてみた。ゲームモードに新たに追加された「ゲームセレクト」は、スタンダード/ロールプレイング/シューティングという3つのモードが用意されており、モードごとに最適な画質調整を行ってくれるというもの。ちなみに、シューティング選択時が最も遅延が少ないそうだ。
ジャンルに合わせた3つのモードから画質を調整できる「ゲームセレクト」
「4K Lag Tester」で表示遅延も計測してみた。4K/60pの場合、Mini LED液晶の「65Z970M」が12.3ms、有機ELの「65X9900M」が2.7msだった。数値にかなり大きな差があるが、有機ELの「65X9900M」は4K/60p信号に限り、等倍速有機ELパネルのように動かして低遅延化を図る「オリジナルフレーム駆動」が有効になるため。なお、新機能の「ゲームセレクト」による遅延差は0.1〜0.2ms程度だったことも報告しておこう。
「4K Lag Tester」で表示遅延も計測。4K/60pのゲームコンテンツを楽しむなら、有機ELの「65X9900M」のほうが表示遅延が少なくて有利だ
最後に、Mini LED液晶「65Z970M」と有機EL「65X9900M」の機能面をまとめて紹介しよう。ここから先は基本的に2モデルとも共通の内容だ。
まずは、ネット動画の対応状況から。いまどきのテレビの使い方を考えれば、ここの充実度は使い勝手を大きく左右すると言っても過言ではない訳だが、今回取り上げた2モデルとも合計18種類のネット動画サービスに対応しており、主要サービスはほぼほぼ揃っていると呼んでいいレベルだ(厳密にはAppleTV+へ対応はナシ)。リモコンに用意されているダイレクトボタンも、11種類のネット動画サービスに加え、カスタム可能なMyChoiceを2つ搭載。ここまでダイレクトボタンが多いと、ネット動画のホーム画面の重要度も下がってきそうだ。
付属リモコンの上部には、ネット動画へのダイレクトボタンがずらりと並ぶ
ネット関係の機能だと、「ざんまいスマートアクセス」が新機能となる。これはキーワード登録型の検索画面で、放送系の録画番組/シーン、YouTube、Amazonプライム・ビデオなどネット動画も含めて一元的な検索ができるところが独自性のあるポイント。
「ざんまいスマートアクセス」。録画番組と一部ネット動画サービスのコンテンツをひとつのUIに統合・横断で検索できるのが便利
レグザユーザーのテレビの利用データを基に、人気の番組などを素早く探せる「レグザナビ」の画面も用意されている
テレビ利用時の快適さという観点では、操作時のレスポンスも重要な要素だが、電源オフからNetflixをダイレクト起動した際の起動時間は約7秒だった。ちなみに、地デジ放送への起動は約8秒で、なんとネット動画起動のほうが高速。電源オンで地デジを視聴している状態からYouTubeアプリの起動は約3秒、Amazonプライム・ビデオの起動は約6秒だった。番組表の表示は約1.3秒と、UI全体のレスポンスはかなり高速な部類に入る。
そして忘れてはいけないのが、レグザのハイエンドの証でもあるUSB HDDを最大2台接続して実行できる地デジ6ch全番組録画の「タイムシフトマシン」。もちろん、今回使用した2モデルともばっちり対応している。新機能ではないものの、地デジ番組の録画予約の煩わしさから解放されるこの機能を目当てでレグザを選ぶ人も多いはず。このほか、録画系では「見るコレパック」による自動録画も登録可能。テレビを録画マシンとして使いたい人にとっては、あれこれ手段が用意されているところはうれしいポイントだ。
外付けUSB HDDを増設することで「タイムシフトマシン」機能も利用できる。最大で8TB✕2台まで接続が可能だ
以上、Mini LED液晶「65Z970M」と有機EL「65X9900M」をチェックしてみた。前半の画質比較については、正直言ってMini LED液晶「65Z970M」と有機EL「65X9900M」もレグザのハイエンドモデルだけあって、どちらも十分過ぎるほどきれい。選び方を強いて言うなら、順当に明るい部屋で利用するならMini LED液晶「65Z970M」が有利、暗室なら有機EL「65X9900M」といったところだろうか。
しかし、4Kテレビの高画質を追いかけてきた身としては、こうして4K液晶と有機ELテレビを横並びで検討できるようになったこと自体が大事件。この2機種を検討している人も頭を悩ましてみてほしい。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。