2021年7月の発売以来、価格.com「イヤホン・ヘッドホン」カテゴリーの売れ筋ランキングで常に上位にランクインし続けてきたソニーの大人気完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」。その後継モデルとなる「WF-1000XM5」がついに発表された。カラーバリエーションは、ブラックとプラチナの全2色。発売は2023年9月1日で、市場想定価格は42,000円前後だ。
ソニーノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホン最新モデル「WF-1000XM5」
「WF-1000XM4」からさらにコンパクトになった本体に、「WF-1000XM4」を上回る世界最高ノイキャン*や、ソニー完全ワイヤレス史上最高の通話品質**を搭載するなど、全方位で進化を遂げた「WF-1000XM5」。実機の写真を交えながら、その特徴を詳しくレポートしていこう。
*左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点、ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る
**2023年7月25日時点。ソニー調べ
「WF-1000XM5」で真っ先に注目したいのが、なんと言ってもノイズキャンセリング性能だろう。「WF-1000X」シリーズは世代を追うごとにノイズキャンセリング性能を高めており、先代の「WF-1000XM4」も高精度なノイズキャンセリング性能に対するユーザーの評価は高かったが、「WF-1000XM5」ではそこからさらにブラッシュアップしたそう。
実際、先代の「WF-1000XM4」は発売時点で業界最高クラスのノイズキャンセリング性能を謳っていたが、「WF-1000XM5」は発表時点で業界最高クラスではなく“世界最高ノイキャン”*と表現が一段格上げされている。
この“世界最高ノイキャン”*を実現に大きく寄与したのが、「WF-1000XM5」で新たに投入されたデュアルプロセッサーとデュアルフィードバックマイクだ。
具体的には、先代の「WF-1000XM4」は、「統合プロセッサーV1」と「デュアルノイズセンサーテクノロジー」を組み合わせた1チップ片耳2マイク(フィードフォワードマイク×1とフィードバックマイク×1)という構成だったのに対し、「WF-1000XM5」では、「統合プロセッサーV2」と「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」という2チップに、フィードフォワードマイク×1とフィードバックマイク×2による片耳3マイクを組み合わせた2チップ片耳3マイク構成へと変更された。
「統合プロセッサーV2」で周囲の騒音レベルに応じたリアルタイムノイズキャンセリング処理の最適化を、「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」で複数のマイクの正確な制御を行うことで、先代の「WF-1000XM4」比で最大20%のノイズ低減を実現できたという。
「WF-1000XM5」では、「統合プロセッサーV2」と「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」によるデュアルプロセッサー構成を新たに採用。前者はリアルタイムノイズキャンセリング処理の最適化、後者は複数のマイクの正確な制御に集中して処理を行うことで、さらに高精度なノイズキャンセリングが行えるようになったという
「WF-1000XM5」のマイク搭載位置を示した図。フィードバックが2つに増えた
実際に大型のBluetoothスピーカーで疑似騒音を流した環境で、最新モデルの「WF-1000XM5」と先代の「WF-1000XM4」のノイズキャンセリング性能の違いを体験してみたが、電車のモーター音や飛行機のエンジン音など「WF-1000XM4」ではかすかに聴こえていた重低音レベルの騒音は、「WF-1000XM5」ではほとんど聴こえないレベルにまで抑えられていた。また、周囲で話す人の声も、「WF-1000XM4」に比べて「WF-1000XM5」のほうがより自然な形でしっかりとマスクされていた。「WF-1000XM4」もノイズキャンセリング性能の完成度は高かったが、「WF-1000XM5」はそれ以上。“世界最高ノイキャン”*というのも大いにうなずける出来映えと言えるだろう。
ノイズキャンセリング性能が飛躍的に向上した「WF-1000XM5」だが、音楽を楽しむデバイスとして最も重要な音質に関してもかなり注力したという。
なかでも注目したいのが、「WF-1000XM5」に搭載された新開発の「ダイナミックドライバーX」だ。ドライバーユニットの口径を先代の「WF-1000XM4」の6mmから8.4mmに拡大するとともに、ドーム部とエッジ部で異なる素材を組み合わせた振動板構造を採用。沈み込む低音域から伸びのある高音域再生までしっかりと再現できる高音質を担保しつつ、同時にドライバーユニットの厚みを抑えることにも成功したという。
写真左が先代の「WF-1000XM4」に搭載されていたドライバーユニット、右が「WF-1000XM5」に搭載された新開発の「ダイナミックドライバーX」。口径が6mmから8.4mmに拡大しているが、厚みがかなり抑えられていることがわかる
また、「WF-1000XM5」では、「統合プロセッサーV2」と「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」によるデュアルプロセッサー構成となったが、1チップ構成だった「WF-1000XM4」同様、オーディオ信号は24bit信号のまま処理を実施。「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」に統合されたDACアンプで高品質のままD/A変換を実施することで、高い音質再現性を実現したという。
ほかにも、96kHz/24bitのハイレゾ相当のデータ量をワイヤレス伝送できるLDACコーデックへの対応、CD音源やMP3などのハイレゾに満たない音源を最大96kHz/24bitのハイレゾ音源相当にアップスケーリングしてくれる「DSEE Extreme」の搭載など、スマートフォンや音源の種別を問わず、いつでもハイレゾ級のワイヤレスリスニングを楽しめるのも大きなポイントと言えるだろう。
実際に「WF-1000XM5」とウォークマン「NW-A300」シリーズとLDACコーデックで接続、ハイレゾ音源をいくつか試聴してみたが、「WF-1000XM4」と比べると低音域に厚みがあり、余韻も自然で、音の定位や奥行きもリアルに感じられた。高音域もクリアで自然な伸びが心地よく、「WF-1000XM5」を聴いた後に「WF-1000XM4」を聴いてしまうと、「WF-1000XM4」が若干派手なサウンドにさえ感じられる。高いノイズキャンセリング性能も相まって、どこでも快適な音楽リスニングを楽しめそうだ。
ウォークマン「NW-A300」シリーズと組み合わせて「WF-1000XM5」を試聴。ドライバーユニットの大口径化のおかげか、低音域に厚みが出て、全体的なバランスもよくなっていた。ちなみに、低音域の再現性が高まったことは、ノイズキャンセリング性能にもプラスに働いているそう
このように、ノイズキャンセリング性能だけでなく、イヤホンに求められる音質にも注力した「WF-1000XM5」だが、イヤホン形状や装着感、デザインについてもかなりこだわったという。
特にイヤホン本体は、耳の小さな人でも耳からの飛び出しを最小限に抑え、無理なく安定して装着できるように、厚みを抑えた新開発の「ダイナミックドライバーX」の採用やメイン基板のSiP化(複数チップの積層実装)などにより小型化をさらに押し進めたそうで、体積は「WF-1000XM4」比で約25%、重量は「WF-1000XM4」比で約20%ダウンしたという。
厚みを抑えたドライバーユニットの採用やメイン基板のSiP化により、さらなる小型化を実現した「WF-1000XM5」。先代の「WF-1000XM4」に比べ、体積は約25%もダウンしたそうだ
写真左が「WF-1000XM5」のイヤホン本体、右が「WF-1000XM4」のイヤホン本体。パッと見ただけでも小さくなっていることがおわかりいただけるだろう
参考までに、主要メーカーのノイキャン完全ワイヤレスイヤホンとのサイズ比較も掲載する。写真左から、ソニー「WF-1000XM4」、ソニー「WF-1000XM5」、アップル「AirPods Pro第2世代」、Technics「EAH-AZ80」、Bose「QuietComfort Earbuds II」だ
装着感に関する部分も、イヤホン本体の小型化によりフットプリントを最小限に抑えつつ、耳に触れる部分に曲線形状を採用し、イヤーピースの根元部分の肉厚を薄くして圧迫感を軽減させるなど、させるさまざまな工夫を盛り込んだそう。実際に「WF-1000XM5」を装着してみたが、耳にスッと収まり、密着感も「WF-1000XM4」から高まっているのに、耳周りの存在感が小さくなったためか、耳にイヤホンを装着しているという感覚は「WF-1000XM4」よりも薄く、軽快な装着感と高いフィット感がしっかりと両立されていた。
「WF-1000XM5」の付属品。イヤーピースは根元部分の肉厚を薄くした新タイプのものが付属
新型のイヤーピースは単体販売も予定されている
「WF-1000XM5」の装着イメージ
イヤホン本体のデザインは、溝が一切なく、汚れが付きにくい一体成型パーツを採用しつつも、表面塗装にひと手間加えることで、2つの素材感をあわせ持つ個性的なルックスに仕上げたそう。マイクを覆うメタリックパーツ部には微細孔を施したアルミパーツを採用し、樹脂製の一体成型パーツとシームレスなつながりを持たせるとともに、風ノイズを低減する効果も持たせたという。
写真だとややわかりにくいが、イヤホン本体の側面には光沢感があり、タッチ操作部はマットな質感となっている
なお、充電ケースに関しては、イヤホン本体同様に小型化が押し進められており、体積は「WF-1000XM4」比で約15%、重量は「WF-1000XM4」比で約5%ダウンしている。ちなみに、イヤホン本体・充電ケースともに「WF-1000XM4」から小型軽量化しているにも関わらず、音楽再生時間は、ノイズキャンセリングをオンにした状態で最大24時間(イヤホン本体8時間+充電ケース16時間)、ノイズキャンセリングをオフにした状態で最大36時間(イヤホン本体12時間、充電ケース24時間)と、「WF-1000XM4」と同等のバッテリー性能を確保。急速充電機能に関しては、3分の充電で約1時間の音楽再生が可能となっており、「WF-1000XM4」よりもパワーアップしている。
「WF-1000XM5」の充電ケース
写真左が「WF-1000XM4」の充電ケース、右が「WF-1000XM5」の充電ケース。厚みが薄くなり、ポケットなどにいれて持ち運びしやすくなった
ここまで、「WF-1000XM5」のノイズキャンセリング性能や音質、装着感について詳しく取り上げてきたが、ソニーの完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデルということもあり、ほかにも見どころは多い。最後に、そのほかの進化ポイントをまとめて紹介しよう。
複数のマイクを最適に制御し、AIを活用した高度な音声信号処理で周囲の環境ノイズを取り除き、発話者の声だけをクリアに抽出する「高精度ボイスピックアップテクノロジー」や、耳まで届く自分の声をセンシングする骨伝導センサー、マイク部の風ノイズ低減機構などを搭載。「高精度ボイスピックアップテクノロジー」は、同社完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds」「LinkBuds S」にすでに搭載されているものだが、「WF-1000XM5」では、搭載マイク数が増えたことと、骨伝導センサーや風ノイズ低減機構などと組み合わせて搭載したことで、通話品質がさらに向上し、ソニー完全ワイヤレス史上最高**の通話品質を実現したという。
2台のデバイスと同時にBluetooth接続できる「マルチポイント接続」。先代の「WF-1000XM4」は発売後のファームウェアアップデートで対応となっていたが、「WF-1000XM5」は発売日から対応となる。
Bluetoothオーディオの次世代規格「LE Audio」に対応。先行して実装された「LinkBuds S」同様、ベータ版という扱いで、対応するスマートフォンと組み合わせることで、動画視聴やゲームなどをより低遅延で楽しむことができる。
対応スマートフォン、対応ヘッドホン、対応コンテンツの3つが揃った状態というかなり限定的な環境にはなるものの、頭を動かすと音の出る方向が変わるヘッドトラッキング機能を利用できる。組み合わせパターンは以下を参照。
サラウンドヘッドトラッキングの組み合わせパターン
通話や歩行といったユーザーの行動の変わり目をセンシング技術で検知し、イヤホンやスマートフォンを操作しなくてもさまざまな操作を行える「Auto Play」。これまで「LinkBuds」シリーズにのみ提供されていた機能だが、「LinkBuds」シリーズ以外で初めて「WF-1000XM5」が対応となった。
イヤホン本体内の加速度センサーを利用し、手が離せない環境で電話の着信やAuto Playを頭の動きだけで操作することができる。iOS/Android OSによって利用できる機能が異なる。
ヘッドジェスチャーのOS別対応状況
簡単ペアリング機能は、Android OSを搭載したデバイスと簡単に接続できる「Fast Pair(Fast Pair 3.1)」と、Windows 10/11を搭載したデバイスと簡単に接続できる「Swift Pair」の2種類に対応。同じGoogleアカウントでAndroid OS 8.0以降の搭載デバイスと「Fast Pair」を介して接続した際は、Android OSデバイスを何台でも接続できる「Audio Swich」も利用できる。
イヤホン本体側の操作に4タップによる音量調節機能を新たに追加。先代の「WF-1000XM4」では、左右のタッチセンサーに「再生コントロール」「外音コントロール」をアサインすると、イヤホン本体でボリューム調整が行えなかったが、「WF-1000XM5」ではこの部分が改善されている。
「WF-1000XM5」のイヤホン本体操作(初期設定時)
専用アプリ「Headphones Connect」で利用できるイコライザーの新機能。音楽を再生しながら同機能を立ち上げ、画面に表示されているボタンを押しながら音質に調整していくことで、誰でも直感的に好みの音質に調整できるという。なお、同機能は「WF-1000XM5」発売日以降にほかの機種でも利用可能になる予定だ。
画面に表示されているボタンを押しながら音質に調整していくことで、誰でも直感的に好みの音質に調整できる「ファインド・ユア・イコライザー」
“世界最高ノイキャン”**を掲げてついに登場した「WF-1000XM5」。先代の「WF-1000XM4」発売から約2年が経過し、ライバル他社からも強力なノイズキャンセリング性能をウリにした完全ワイヤレスイヤホンがいくつか登場しているが、それらと比べても「WF-1000XM5」のノイズキャンセリング性能は装着した瞬間にスゴさがわかるくらい完成度が高かった。
音質も「WF-1000XM4」からさらにブラッシュアップしており、機能面もかなり充実している。しかも、これだけの高スペックなモデルに進化したにも関わらず、バッテリー性能は先代モデル「WF-1000XM4」と同等、おまけにサイズ自体はさらにコンパクトになっている。ノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの先駆者として、ノイズキャンセリング性能はもちろん、それ以外の性能や機能、装着性などに対しても一切妥協しないというソニーの本気度がしっかりと感じられるモデルなのは確かだ。
もちろん、その本気度がゆえに、市場想定価格は42,000円前後と、完全ワイヤレスイヤホンとしては非常に高価な製品となっている。とはいえ、ノイズキャンセリング性能重視で完全ワイヤレスイヤホンを選ぶなら「WF-1000XM5」は最有力候補になるだろうし、全体的な総合力という点でも、この夏発表された多数の完全ワイヤレスイヤホンの中でもトップクラスに入るモデルなのは間違いない。
ソニーが満を持して投入する「WF-1000XM5」、ぜひ一度その実力を体験してみてほしい。ソニーの最高峰モデルにふさわしい隙のないハイスペックな仕上がりに、全方位で満足できるはずだ。
AV家電とガジェット系をメインに担当。ポータブルオーディオ沼にどっぷりと浸かっており、家のイヤホン・ヘッドホンコレクションは100を超えました。最近はゲーム好きが高じて、ゲーミングヘッドセットも増えてます。家電製品総合アドバイザー資格所有。