2023年の薄型テレビの大きなテーマとなっているのが“高輝度化”だ。昨年来、その流れをけん引していたのがMini LEDバックライト搭載の液晶テレビだったわけだが、2023年は早くも有機ELテレビの逆襲がスタート。なかでも今年最も注目されているのが、従来型のWOLED(白色有機EL)パネルを供給するLGディスプレイが新開発したMLA(マイクロ・レンズ・アレイ)有機ELパネル。有機EL層とガラス層の間に微細レンズを配置することで、光の利用効率をアップさせ画面輝度を飛躍的に高めた新世代の有機ELパネルだ。
このMLA有機ELパネルを国内メーカーでいち早くキャッチアップしたのがパナソニック。「VIERA(ビエラ)」の2023年有機ELテレビ最上位モデルとしてMLA有機ELパネルを搭載した「MZ2500」シリーズ(65V型/55V型)が7月21日に発売となった。
その注目度は非常に高く、発売したばかりのかなり高価格帯の製品でありながら、価格.comの「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリーの注目ランキングも急上昇。8月17日時点では注目ランキング1位となっている。価格.comマガジンでは、この機種こそレビューにふさわしい……と思っていた。
だが、同社の2023年ラインアップを見ると、同社初となるMini LEDバックライト+量子ドット搭載の液晶テレビ最上位モデル「MX950」シリーズ(75V型/65V型/55V型)も登場。高輝度化がテーマなら、Mini LEDバックライト搭載の液晶テレビも扱うべきではないか?
……と、そんなところで悩んでいても仕方ない。思い切ってMLA有機ELの「MZ2500」シリーズと、Mini LED液晶の「MX950」シリーズを自宅にお借りし、2機種横並びでレビューすることにした。7月に公開したTVS REGZAのMini LED液晶VS有機ELの比較レビューのパナソニック・ビエラ版的な位置づけでそれぞれの特徴を詳しくレポートしていきたい。
Mini LEDバックライトを搭載した4K液晶ビエラ最上位モデル「MX950」シリーズ(写真左)と、MLA有機ELパネル搭載の4K有機ELビエラ最上位モデル「MZ2500」シリーズ(写真右)を比較レビュー。今回はそれぞれ55V型モデルを用意した
ビエラ2023年モデルに付属するリモコン。2機種ともデザインは共通だ。ネット動画サービスへのダイレクトボタンは8つに増加している
今回取り上げるMLA有機ELの「MZ2500」シリーズとMini LED液晶の「MX950」シリーズについては下記の発表当時のレポート記事で詳しく紹介しているので、詳細についてはそちらを参照してほしいが、それぞれ4K有機ELビエラと4K液晶ビエラの最上位モデルという立ち位置ではあるものの、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズのほうがグレード的には上という立ち位置になっている。これは、2023年8月17日時点の価格.com最安価格で、MLA有機EL「MZ2500」シリーズの55V型モデル「55MZ2500」が359,980円、Mini LED液晶「MX950」シリーズの55V型モデル「55MX950」が215,000円と、1.5倍以上の価格差があることからもおわかりいただけるだろう。
実際にMLA有機EL「MZ2500」シリーズとMini LED液晶「MX950」シリーズを横並びにしてみると、製品仕様にもグレードの違いが見て取れる。2機種ともDolby Atmosに対応する点は同じだが、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズでは上向きスピーカーやラインアレイスピーカーを組み合わせた「360立体音響サウンドシステム+」を採用。スタンド部分も、転倒防止スタンドという点は同じだが、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズは首振りにも対応したスタンドを採用するなど、細かな違いがいくつかある。
MLA有機EL「MX2500」シリーズのスタンドはスイーベル仕様で、手で簡単に首振りが行える
Mini LED液晶「MX950」シリーズのスタンドは吸着機能付きの転倒防止スタンドではあるものの、スイーベルには非対応
そして電源を入れる前に気づいてしまったことだが……MLA有機EL「MZ2500」シリーズとMini LED液晶「MX950」シリーズでは、画面の映り込み具合が決定的に異なるのだ。MLA有機EL「MZ2500」シリーズは光沢系に見えるが実際には低反射、逆にMini LED液晶「MX950」シリーズは見た目こそ半光沢系だが実際は映り込みがかなり大きい。テレビは電源を入れて画面が表示された状態では映り込みは気になりにくいとはいえ、これはスペックを見ても気づきにくい両機種の決定的な違いだ。
Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左)とMLA有機EL「MZ2500」シリーズ(写真右)の映り込みを比べてみたところ。設置場所や照明で多少見え方が変わるとはいえ、Mini LED液晶「MX950」シリーズの映り込みの多さは一目瞭然だろう
最新のテレビを比較するにあたって、やはり気になるのは画質だ。冒頭でも述べたとおり、2023年の画質競争のテーマは画面の明るさアップ。MLA有機EL「MZ2500」シリーズとMini LED液晶「MX950」シリーズで画質の違いはどれほどなのか。まずは、2機種とも明るさが最大になる設定で並べ、価格.comマガジンのYouTube動画を表示してみた。
Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左)とMLA有機EL「MZ2500」シリーズ(写真右)。どちらも画面が非常に明るくくっきりした高画質だ。あまりに画面が明るく、カメラ撮影上部屋を暗く映すしかないほど
Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左)、MLA有機EL「MZ2500」シリーズ(写真右)ともに率直に言って非常に明るく高画質だ。数年前の4Kテレビとはまったくの別モノ。画面全体がくっきりしていて、「画面に映像が映っている」という感覚がなくなってくる。
違いとしては、Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左)が最大の輝度は同レベルでも全体的に白っぽく持ち上げて輝度を稼いでいるのに対し、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズ(写真右)は、明るさはほぼ同等で一画面内のコントラストが出ているということ。
参考までに価格.comのYouTube動画を表示した状態で表示輝度を照度計で測定してみた。ハイライト部はMini LED液晶「MX950」シリーズが約706lux、MLA有機EL「MZ2500」シリーズが約1104lux。人物の顔もMini LED液晶「MX950」シリーズが約545lux、MLA有機EL「MZ2500」シリーズが約848luxと、「MZ2500」シリーズのほうが明るさに限った性能でも一枚上手だ。
もちろん、テレビの画質の基準は明るさだけではない。価格.comのYouTube動画視聴を表示してみたところ、2機種とも若干ノイズが見えた。これをうまく処理するのが高画質エンジンの仕事なのだが……2機種とも高輝度化でノイズが目立ちやすくなってしまっている側面もありそう。また、角度を付けた状態での視聴では、Mini LED液晶の「MX950」シリーズは、VAパネルだけあって視野角の影響を受けやすい印象だ。
Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左手前)とMLA有機EL「MZ2500」シリーズ(写真右奥)の視野角を比較したところ
続いて、Ultra HDブルーレイ『The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark』の4K/HDR映像コンテンツを再生してみると……元が高画質な映像ソースの画質はすさまじい。明るいシーンの圧倒的な輝度感と鮮やかさが2機種ともすばらしく、まさに高画質と呼ぶ他ない。ただ、明暗も含めた色の表現力の豊かさという観点では、やはりMLA有機EL「MZ2500」シリーズが極まっていて……明るい映像を見ても、夜景を見ても、もう本当に異次元なほどに美しい。
Mini LED液晶「MX950」シリーズ(写真左手前)とMLA有機EL「MZ2500」シリーズ(写真右奥)の画質比較の様子
色鮮やかな花の映像では、Mini LED液晶の「MX950」シリーズは全体をやや明るく輝度感を出す方向なのに対し、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズは明暗をよりていねいに描き分ける
夜景の映像は完全暗室の状態で比較。2機種ともとてもきれいだが、細かく見るとMini LED液晶の「MX950」シリーズは黒が若干赤みがかる傾向があるようだ
2機種の輝度特性を調べるべく、それぞれ画面が最も明るくなる映像設定で画面輝度も測定してみた。白の面積10%ではMini LED液晶「MX950」シリーズが約1510lux、MLA有機EL「MZ2500」シリーズが約4100lux、白の面積100%ではMini LED液晶「MX950」シリーズが約810lux、MLA有機EL「MZ2500」シリーズが約766luxだった。
白100%という条件ではMini LED液晶の「MX950」シリーズのほうが約810luxと若干上回ったが、MLA有機ELの「MZ2500」シリーズも約776luxと僅差。そして、MLA有機EL「MZ2500」シリーズの白の面積10%で約4100luxというピーク輝度は驚異的。記事冒頭で述べたとおり、MLA有機ELパネルによる高輝度化がよくわかる結果と言えそうだ。
なお、先月実施したTVS REGZAの2023年最上モデル比較記事でも同一条件で測定をしている。その結果と比べてみても、MLA有機ELパネルのすごさがおわかりいただけるだろう。
Mini LED液晶の「MX950」シリーズはVAパネルだけに、視野角の影響を受けやすい。斜め位置から視聴すると、光漏れにあたるハローがやや見えてしまう
テレビに求められる性能は、画質だけではない。続いて、MLA有機EL「MZ2500」シリーズとMini LED液晶「MX950」シリーズの音質をチェックしてみた。
先に説明したとおり、2機種ともDolby Atmosに対応する点は共通だが、スピーカー仕様は大きく異なる。Mini LED液晶の「MX950」シリーズは、フルレンジ2本にウーハー1本で実用最大出力50W(15W+15W+20W)という構成。スピーカー構成としてはテレビ用として最もスタンダードな形だ。
Mini LED液晶の「MX950」シリーズは、テレビ下にフルレンジスピーカーを、背面にウーハーを搭載する形
これに対し、MLA有機EL「MZ2500」シリーズは「360立体音響サウンドシステム+」と呼ばれるスピーカーシステムが搭載されている。画面下に正面向きのラインアレイスピーカーを、背面上部に上向きスピーカーを、両サイドに横向きのワイドスピーカーを、背面中央にウーハーを搭載し、実用出力は55V型150W、65V型は160Wとなっている。しかも、“Tuned by Techinics”と音質設計も高音質に全振り。Mini LED液晶の「MX950」シリーズにはなかった、リモコン内蔵のマイクで音響環境を計測する「Space Tune Auto」にも対応している。
MLA有機EL「MZ2500」シリーズのスピーカー。画面下には正面向きのラインアレイスピーカーを搭載
背面上部には上向きスピーカーが配置されている
まずはMini LED液晶「MX950」シリーズの音質からチェック。テレビ放送やNetflixで映画やアニメを体験してみたが、人の声をクリアに立てて聴き取りやすく、映画『トップガン マーヴェリック』の低音も十分体験できる。薄型テレビとしては必要十分なくらい高音質だ。
だが、その後にMLA有機EL「MZ2500」シリーズをチェックしてみたところ……テレビのスピーカーとは思えない常識を覆す音に度肝を抜かれた。ただの地デジのニュースを見ているだけでも、アナウンサーの声の質感まで伝わるような情報量志向の高音質で、画面と音の一致感もすごい。Netflixで映画『トップガン・マーヴェリック』を再生すると、高さ方向までしっかりと感じられる立体音響の空間、ジェットエンジンの轟音も文句なしに再現してくれる。サウンドバーなどを追加で用意しなくても、これ1台で本格的なサウンドを楽しめる。これだけでもかなり満足度は高いはずだ。
続いて、いまどきのテレビに求められるゲーミング関連の機能性をチェック。今回取り上げる2機種は、HDMIの4K/120Hz入力対応だけでなく、「ゲームコントロールボード」というゲーミング関連の機能をまとめた専用のUI(正確にはアプリ扱い)が搭載されている。映像モードや音声モードだけでなく、VRRやALLMのオン/オフ、暗部視認性の調整などゲーミングに必要な機能がひとまとめになっており、ゲームプレイ中でもこれらを素早く切り替えられるのが便利だ。また、ゲーム向けに最適化されたDolby Vision「Dolby Visionゲーミング」や、NVIDIA「G-SYNC Compatible」などの最新のゲーム規格にも対応している点も見逃せないポイントだろう。
ゲーミングに必要な機能がひとまとめになった「ゲームコントロールボード」
ゲーマーにとっては遅延も気になるスペック。いつもどおり「4K Lag Tester」で表示遅延を実測してみたところ、4K/60pではMini LED液晶「MX950」シリーズが約11.0ms、MLA有機EL「MZ2500」シリーズが10.6msだった。
最後にそのほかの機能性についてまとめて紹介しよう。ここから先は基本的にパナソニックのビエラ2023年モデル共通の内容となる。
まずはネット動画サービスまわりから。ビエラのスマートテレビ機能は独自UIを搭載しており、ネット動画サービスの対応状況は、2023年8月17日時点で合計23サービス(JOYSOUND.TV含む)。他社で一部漏れることのあるDAZNやApple TV+もカバーするなどなかなか豊富だ。付属リモコンには、そのうち8つのサービスを瞬時に起動できるダイレクトボタンを用意しており、こちらもかなり充実している。
付属リモコンの下部に配置されているネット動画サービスのダイレクトボタン
操作性では、画面下からネット動画サービスなどの対応アプリのアイコンがポップアップするUIがポイント。全画面のホーム画面ではないので、テレビやネット動画などを視聴しながら操作できるのが便利で実にテレビ的だ。なお、ポップアップで表示されるアイコンの配列はカスタマイズできるので、リモコンにダイレクトボタンのないネット動画サービスを優先して登録しておくのがよさそうだ。
対応アプリはポップアップで表示される。アイコンも配列もカスタマイズ可能だ
テレビ利用時の快適性を左右する操作時のレスポンスも測定してみた。電源オフからNetflixをダイレクト起動した際の起動時間は約3.4秒。電源オフから地デジ放送への起動は約3.4秒でまったく同じ。電源オンで地デジを視聴している状態からYouTubeアプリの起動は約4.7秒、Amazonプライム・ビデオの起動は約4.2秒と、特にAmazonプライム・ビデオの起動は超高速だった。番組表の表示は約2秒とまずまず。特にネット動画サービスのレスポンスはかなり高速な部類だ。
そして、ビエラ2023年モデルのユニークな新機能が番組表とネット動画サービスの連携機能。どういう意味…? と思ってしまいそうだが、簡単に説明すると、通常のテレビ番組表に対応するネット動画サービスのコンテンツがあった場合、自動的に再生アイコンが追加されるというものになる。再生アイコンは「同じ番組の過去回がTVer/TELASA/Huluで配信されていますよ」というマーク。つまり、番組表で気になる番組を見つけたら、その過去回をTVer等で視聴できるというわけだ。これはビエラならではの作り込みで、とてもユニークな機能だと感心してしまった。
通常のテレビ番組表に再生マークが追加されている。これは「過去回がネット動画にありますよ」という意味
番組情報にTVerなどへのリンクを設置。このボタンを押すと、TVerアプリが起動して該当番組にジャンプ、再生できるという仕組みだ
今回はMLA有機ELの「MZ2500」シリーズとMini LED液晶の「MX950」シリーズを比較レビューしたが、やはり2023年のパナソニック・ビエラの目玉機種はMLA有機ELパネルを搭載した「MZ2500」シリーズだった。
有機ELテレビでありながら、Mini LED液晶を上回る高輝度化を実現。自発光デバイスの有機ELなので、コントラストも高く、黒の締りも優秀。「360立体音響サウンドシステム+」によるスピーカーも含めて、画質・音質とも今できるすべてをつぎ込んできた感がある。お金に余裕があるなら、ぜひ「MZ2500」シリーズを選びたいところだ。
いっぽう、Mini LED液晶の「MX950」シリーズは、高画質としては画面の明るさ一点勝負を仕掛けたモデルだったわけだが、その明るさも「MZ2500」シリーズには負けてしまっていた。もちろん、「MZ2500」シリーズに比べて10万円以上安いので、この性能差は致し方ない部分ではある。むしろ単純な性能差より、映り込みや視野角など見逃しがちなところに注意点が多いように思えた。2023年のパナソニック・ビエラの購入を検討している人は、今回のレビュー内容をぜひ参考にしてほしい。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。