現在も価格.comの「AVアンプ 注目ランキング」「AVアンプ 人気売れ筋ランキング」で第1位(2023年9月14日現在)という人気を誇るデノンのAVアンプ「AVR-X1700H」がリニューアルされる。
7chアンプ内蔵のAVアンプ「AVR-X1800H」
新製品「AVR-X1800H」の発売は10月3日で、希望小売価格は110,000円(税込)。デノンには最安価のAVアンプとして「AVR-X580BT」があるが、こちらは機能を絞ってコストダウンを図ったモデル。「AVR-X1800H」はDolby Atmos、DTS:Xのデコードにも対応する7chアンプ内蔵スタンダードモデルのエントリーグレードという位置付けだ。オーバーヘッド(トップ/ハイト)スピーカーのアサイン可能な本数は2本で、最大「5.1.2」システムを構築できる。独自のネットワークオーディオプレーヤー機能「HEOS(ヒオス)」にも対応するため、本機だけでAmazon Music(ハイレゾを含む)やSpotifyなどの再生も可能だ。
「AVR-X1800H」の主要スペック
●内蔵パワーアンプ:7ch
●定格出力:70W(8Ω、2ch駆動時)
●HDMI端子:入力6系統、出力1系統(入力は3系統が8K/60Hz映像信号のパススルー対応)
●寸法:434(幅)×339(奥行)×151(高さ)mm(アンテナ除く)
●質量:8.6kg
HDMI入力は3系統が40Gbps(8K/60Hz、4K/120Hzパススルー)対応で、これは従来モデル「AVR-X1700H」と同様。また、HDMI出力はもちろんeARC/ARCに対応する
デノンのAVアンプのラインアップを見ると、上位モデルに「AVR-X2800H」や「AVR-X3800H」があり、どちらも約1年前に発表されている。ここへ来て“1000番台”のモデル名の末尾がようやく“800”となり、新世代製品が揃った格好だ。
とはいえ、従来モデル「AVR-X1700H」はDolby AtmosやDTS:Xのデコードだけでなく「HEOS」にも対応し、HDMI端子は3系統が8K(60fps)パススルー可能と機能的にはすでに現代において必要十分と言えるスペックを持っていた。
「AVR-X1800」にも新機能はあるものの、あくまで付帯的機能に留まると言えるもので、本質は音質の強化にあるという。いわく「デノン史上最高音質の最強エントリーAVアンプ」だそうだ。
GfKのデータによれば日本国内のAVアンプカテゴリーにおいて、「AVR-X1700H」のモデル別売り上げは2023年7か月連続1位。機能的にも必要十分と思われる人気モデルをリニューアルするにあたり、できる限りの音質強化を図ったという自信の表れということだろう。
AirPlay 2、Bluetoothをサポートすることは従来どおり。Bluetoothは受信だけでなく送信も可能だが、従来モデルでは音量調整はイヤホンやヘッドホン側の音量調整機能を使う必要があった。しかし「AVR-X1800H」では、アンプ側で音量調整が可能になった
リアパネルに電源供給用のUSB Type-Aポートが新設されている。Amazon「Fire TV Stick」などを接続する場合、ここから直接電源を取れるため、地味に便利な機能だ
それでは、「AVR-X1800H」では何が改められているのか、デノンAVアンプ定番の手法を含めて、以下に紹介しよう。
「AVR-X1700H」の発表時には、デノンの製品の“音決め”を行う「サウンドマスター」山内慎一氏が開発初期から携わり、「Vivid & Spacious」というデノンが一貫して目指す音質コンセプトを実現したとしていた。「AVR-X1800」ではさらにそれをブラッシュアップしたということのようだ。
現代AVにおける再生コンテンツは、HDMI経由で入力することが主流。その主要入力端子でのジッター(ノイズ)の抑制技術を採用。音質向上を実現したという
要所にカスタムコンデンサーを配置し、チューニングを施すという定番の手法は「AVR-X1800H」でも当然に継承されている。なかでも、電源部のブロックコンデンサーは新開発品。10,000μFのカスタムコンデンサー2個が充てられている
従来モデル「AVR-X1700H」では、音質改善のためにコンデンサーやビス、緩衝材など、トータルで100か所の部品変更が行われたが、再度の選定を経て60か所の電子部品と15か所の非電子部品の交換が行われた。また、グランドパターンの最適化を行い、主要回路にノイズが干渉しないよう改良を加えているという
「AVR-X1800H」では、アナログ音声入出力やDACとプリアンプ回路を1枚の基板内で近接させ、信号経路の最短化を優先したデザインを採用。エントリーモデルの限られた資源の中でもノイズの影響を低減する最適化が図られている
パワーアンプについても経路の最短化が優先されている。最上位機「AVC-A1H」ではパワーアンプ基板が1chごとに独立しているが、こちらは1枚の基板に7chのディスクリートパワーアンプが整然と並べられている。パワートランジスターは「AVR-X1700H」に採用したメーカーとの共同開発品を引き続き採用する
独立したボリューム調整IC、セレクターICを使うことも、近年のデノンAVアンプの定番的手法。どちらもカスタムメイドのICで、必要な機能を必要な場所に配置できることから、信号経路の最適化にも役立っている
D/Aコンバーター素子は2ch仕様の384kHz/32bit対応品を4基採用。テキサス・インスツルメンツの「PCM5102A」の銘が見える
試聴はD&Mホールティングスの試聴室で実施。Bowers & Wilkinsの「702 S3」(写真中央)を中心とするセンタースピーカーレス「4.1.2」システムを「AVR-X1800H」で鳴らした
最後に、音質改善に力を注がれた「AVR-X1800H」を試聴する機会を得たので、そのインプレッションを記しておこう。
デモンストレーションで再生されたのは、いずれもUltra HDブルーレイだ。まず「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の再生では、最新作ならではの音の密度感がしっかりと再現された。「AVR-X1800H」で扱えるオーバーヘッドスピーカーは2本だけだが、それでも水中の閉塞感を演出するくぐもった音が部屋を満たす。いかにもDolby Atmosといった音の移動感があるヘリコプターが登場するシーンでも期待どおりの音の移動感で、サラウンド再現に不足を感じさせない。
旧作のリマスター「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のオープニングシーンは、時計やギターの鳴り響く音が非常に鋭い。特にUltra HDブルーレイでわざわざ新たな音声ミックスを作り直された旧作映画は、こういう再生をしてこそ意味があるとしみじみ思わされる。もう少しウーハーをグリップして深い低音を出してほしい部分もあったが、それは上位モデルに求めるべきものだろう。
「AVR-X1800H」の希望小売価格は110,000円(税込)。昨今の社会情勢を反映しての値付けだろう。上位モデルである「AVR-X2800H」の希望小売価格121,000円(税込)との価格差が小さいことを考えると、なかなか難しい立場のモデルだなとも思う。しかし、「AVR-X1800H」自体に価格相応の価値があることは間違いない。
従来モデル「AVR-X1700H」の価格がこなれていることも相まってユーザーとしては選択が悩ましいところだが、音質の満足度は希望小売価格に比例していると考えてよいだろう。「AVR-X1700H」「AVR-X1800H」「AVR-X2800H」いずれかの選択ならば、Amazon「Fire TV Stick」を使うかどうか(「AVR-X1800H」は「Fire TV Stick」に電源供給できるため)と、そのときの価格、そして予算の都合で考えるのがよさそうだ。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。