デノンから“HEOS対応オールインワン・ネットワークCDレシーバー”「RCD-N12」が2023年10月上旬に発売される。希望小売価格は110,000円(税込)。幅280mmというスリムサイズで、CD再生、Amazon Music(ハイレゾ再生を含む)やSpotifyなどネットワークオーディオ再生に対応、アンプ、ラジオチューナー内蔵など、“全部入り”の往年のミニコンポスタイルの製品だ。もちろん、Bluetoothにも対応する。
CD再生、ネットワークオーディオ再生、プリメインアンプ、ラジオチューナーを兼ねるミニコンポスタイルの「RCD-N12」
HDMIケーブルでテレビと接続しておけば、好きなスピーカーをテレビのスピーカーとして扱える。音量調整はテレビのリモコンでOKだ
CD再生機が限られてきている現代において、CD再生を含む“全部入り”オーディオ製品は貴重な存在だ。しかもスピーカーは個別に選べるという趣味性も担保された特異性もあり、従来モデル「RCD-N10」から人気を博していた。
その人気モデルがさらに機能を拡充し、ARC対応のHDMI端子を新設した。テレビと「RCD-N12」をHDMIケーブルでつないでおくだけで、「RCD-N12」につながったスピーカーを、ほぼテレビのスピーカーとして使えるようになるのだ。テレビの電源をつければ「RCD-N12」が自動で立ち上がるし、音量調整はテレビのリモコンでできる。
これによりテレビとの親和性がグッと高まり、“全部入り”としての価値も非常に高まったことになる。しかも、MM対応のフォノ入力も追加されているのだから、リビングルームにとりあえず1台あれば、基本的なオーディオ再生には困らないと思ってよいだろう。
従来モデルでも光デジタル入力を持っており、電源連動機能はあったものの、テレビとの相性問題があったり、音量調整はあくまでアンプでする必要があったり、使い勝手には難があったことは否めない。その弱点を克服した注目モデルだ。
最も注目すべきはARC対応のHDMI端子だが、MM対応のフォノ、フロントL/Rとサブウーハー用のプリアウトなど、必要十分な装備が厳選されて搭載されていることにも注目したい。レコードプレーヤーも接続可能だし、フロントL/Rのプリアウトを使えばアクティブスピーカーとの接続もスムーズ。また、スピーカー端子がバナナプラグ対応品に改められたこともポイント。従来品よりもスピーカーケーブルの接続性が向上した
ARC対応のHDMI端子が追加されたことが「RCD-N12」の一大特徴と言える。AVアンプを擁するデノンのこと、HDMIの扱いには慣れている。AVアンプ設計チームと連携して、グランドの取り方などデジタルノイズ対策を施してHDMIの高音質化を目指した
MM対応のフォノ入力も新設されたが、実はこのノイズ対策が苦労したポイントだったという。ネットワークオーディオ機能を司る「HEOS」モジュール、スイッチング電源からの影響を低減するため回路の配置などにも留意し、デノン製AVアンプと同等のS/Nを獲得している
Bluetoothはスマホなどの再生を受けて音を再生するだけでなく、「RCD-N12」で再生した音源をBluetoothヘッドホン/イヤホンなどに送信もできる
従来モデルはネットワーク(LAN)への接続のために手動でパスワードを入力するなど、少し手間があったところ、「RCD-N12」ではアプリで簡単な操作が可能になった。また、リモコンの「HEOS」ボタンを押せば、最後に聴いていたコンテンツにすぐに復帰できる。こうした細かな配慮は普段使いするうえでとても効いてくるポイントだ
「RCD-N12」ではコンパクトなキャビネットに新機能を盛り込みつつ、もちろんオーディオ機器としての本質である音質の向上にも取り組んでいる。以下にそのための工夫を見ていこう。
CDドライブメカ自体は従来モデル「RCD-N10」と変わらないが、それを支えるベースがより強固になった。これまでは写真上のように基板を構造体として利用していたところ、しっかりと専用フレームを組んで剛性を確保。さらにベースとドライブメカの間にはインシュレーター的にワッシャーを挟み、音質のチューニングを施した
「RCD-N12」のキャビネットは天面と前面、左右が一体成形されている。従来は前面が別パーツだったが、これを改めたことで剛性を増して、音質向上にも役立っているという
クラスD増幅パワーアンプのICが新世代品へ変更された。定格出力は65W(4Ω)×2。スペック的にはS/Nが向上したほか、効率が上がったため、放熱設計上も有利になったそうだ。また、内部的には「RCD-N10」から4ch分のアンプをBTL接続し、高出力の2chアンプとして使う方法を採用している。つまり、姉妹ブランドマランツ「M-CR612」と基本コンセプトは同じということ。「M-CR612」では4chパワーアンプをそのまま(4chとして)使うか、2chとして使うか選択できる“遊び”がある
デノンのオーディオ製品の音を決定する「サウンドマスター」によるパーツ選定が行われているのは、デノンのほか製品とまったく同様。写真のパーツが採用されたほか、電源回路が一新されている
試聴はD&Mホールディングスの試聴室で実施。スピーカーには、純正組み合わせと言える「SC-N10」と、Bowers & Wilkinsの「707 S3」を順に接続した。「707 S3」の出力音圧レベルは84dB/2.83V/mと低め。やや難しい相手ではある
最後に、従来モデル「RCD-N10」と新モデル「RCD-N12」の比較デモンストレーションが行われたので、そのインプレッションを記しておこう。イーグルスの「Hotel California」ライブバージョンのCDが再生されると、冒頭のアコースティックギターの響きから、まったくクオリティ感が違うことに驚かされた。もちろん、「RCD-N12」の音質が断然よいということだ。
少し帯域バランスが違う、というような微妙なチューニングの範囲の改善ではなく、明らかに解像感が上がっていて、ひとつ上位グレードの製品を試しているような感覚すらある。ここで使ったスピーカーは同じくデノンの「SC-N10」。希望小売価格22,500円(税込、ペア)の製品なのだが、このスピーカーのコストパフォーマンスの高さにも同時に驚かされた次第だ。高域にクセっぽさがあるが、実にまっとうな音質だった。
この後にBowers & Wilkinsの「707 S3」を接続すれば、もちろんさらに高解像度のサウンドが聴けた。音のフォーカスの精度が上がったようで、さらに付帯音の減った間違いないハイファイ再生だ。こちらのスピーカーの(グロス・ブラックモデルの)希望小売価格は293,700円(税込)。これくらいぜいたくなスピーカーを使っても不足なく鳴らせるしっかりしたアンプを「RCD-N12」は搭載している。
機能的にはAVアンプに近づいた「RCD-N12」だが、CDプレーヤーを内蔵しているというアドバンテージはこの製品ならでは
「RCD-N12」は、HDMI端子を装備したことで、さらに汎用性を高めただけでなく、従来モデルから音質まで大幅に向上させている。これひとつでCD再生までできるという“全部入り”機能はほかではなかなか手に入らない価値であり、多くのCDを持っている音楽ファンにぴったりの製品だと言える。
アンプの項目で名前をあげたマランツ「M-CR612」も同コンセプトの製品だが、テレビとの接続性で「RCD-N12」は一歩先を行っている。こうなるとマランツのほうでも、HDMI端子を搭載した新製品が期待されるところだ。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。