JMGO(ジェイエムゴー)の「N1 Ultra」でひと息ついた感のあるミニマムシアターのプロジェクター選びだが、気になる製品がまたまた登場してしまった。BenQのホームシアター向けプロジェクター「HT4550i」だ。
2023年7月7日に発売となったBenQのホームシアター向けプロジェクター「HT4550i」。市場想定価格は45万円前後
長期にわたり使用していた「X3000i」はゲーミング・プロジェクターだったが、それとは異なり、「HT4550i」はホームシアターを主眼に据えた製品(ちなみに製品名のHTはHome Theaterの意味)。我がミニマムシアターのように、(大雑把ながらも)設置場所が確保されている空間にはなかなか相性がよさそう。また、「X3000i」と同じ4色LED+シフト4Kとはいえ、絵作りに関してかなりの違いがあるはずだし、どのくらい映像をカスタムイズできるのかも気になるところ。ということで、急遽「HT4550i」を借用しその実力をチェックしてみた。
結論を先に言うと、「HT4550i」と「X3000i」ではかなりキャラクターが異なっており、映画やテレビ映像の視聴がメインな人、またプロジェクターを持ち運びしない人などには「HT4550i」がベストだった。その理由は大きく3つある。
まずひとつ目が、映像が美しいこと。「HT4550i」は、RGB+Bの4色LED光源を搭載し、単板DMDデバイスを採用するDLP方式のプロジェクターだ。最大3,200ANSIルーメンの明るさを発揮するほか、フィルムメーカーモードを含めた映画コンテンツに合わせた独自の高画質技術が盛り込まれている。HDRに関してもHDR10やHDR10+、HLGなどに対応。ハイコントラストの美しい映像を楽しむことができる。
「HT4550i」は単板DMDデバイス(0.65インチ/フルHD)を採用し、ピクセルシフトで4K解像度を実現するDLP方式のプロジェクターだ。RGB+Bの4色LED光源で最大輝度は3,200ANSIルーメンを誇る
ホームシアター向け製品ということで、DCI-P3カバー率100%を達成するなど、色再現性にも注力。HDR規格はHDR10やHLGだけでなく、同社として初めてHDR10+もサポートした
さらに、2系統のHDMI入力(うちひとつはeARC対応)に加えて4K対応のAndroid TV端末を内蔵しており、動画配信サービスに手軽にアクセスできる。なかでも、Netflixにしっかり対応しているのはうれしいポイントだ。認可のハードルが高いというウワサのNetflixは正式対応していないプロジェクターもあるので、ユーザーにとっては選択時の重要ポイントとなってくる。
HDMI入力は本体背面に2系統用意。HDMI2はeARCにも対応する
4K対応のAndroid TV端末はBenQロゴがデザインされた本体背面カバーの内側に配置されている
ふたつ目が調整機能の細やかさだ。「HT4550i」では一般的な輝度やコントラストだけでなく、ガンマ選択や色温度の微調整もできる。実は「X3000i」もかなり細かい調整が行えるのだが、「HT4550i」はそれ以上だ。RGBごとに細かく調整を行えるため、映像セッティングにこだわる人にとっては喜ばしい内容だろう。かなりの玄人志向だが、この価格帯でここまで細やかな調整が行える製品はそうそうないので、ありがたいかぎりだ。
ガンマ選択や色温度の微調整など、好みの画質を目指して細部まで追い込める充実の調整機能を用意
カラーマネージメントで細かく調整が行えるので、映像セッティングにこだわる人でも安心だ
そして最後のひとつは、価格のお手ごろさだ。45〜50万円という価格は単体で見ると決して“安い”とまで言えないかもしれないが、最近のホームシアター向けプロジェクターはクオリティアップとともに価格も大きく上昇。メインの価格帯でも100万円前後となり、上級クラスだと200万円を軽々と超えるプライスタグが付けられている。そういった現在の状況の中では、シフト4K、LED光源とはいえ、市場想定価格45万円前後というプライスタグは魅力的に感じられる。
とはいえ、「X3000i」よりも10万円前後高い製品であるため、それなりの映像は期待したところ。ということで、映像チェックに関しては「X3000i」より上質なのは当たり前、かなり厳しいチェックをさせてもらった。
ということで、視聴を始めるべく「HT4550i」をミニマムシアターに設置してみる。いつもの天袋に設置すると、6畳間長辺側ではズームを最小にしても100インチスクリーンからはみ出てしまった。ベストは3mくらいの距離、高さもスクリーン上下方面の中央くらいまでだろうか。また、本体に角度も少しつけないとスクリーン上側に外れてしまう。とはいえ、これはミニマムシアターの設置条件が特殊なためで、普通この位置だと吊り下げ設置となるため、上下シフト量に問題はなく、距離の短さも有利に働くはず。
6畳間ミニマムシアターでのプロジェクターの定位置、押入れ上部にある天袋に「HT4550i」を設置してみた
ちなみに、ズームとピントは手動、ダイヤルはレンズ上側に配置されている。ダイヤル自体は「X3000i」とほぼ同じで、突起が大きいため操作しやすい。ピントはリモコンを使った自動タイプがベストだと思うが、ダイヤルの動作がしっかりしているため、ピントは合わせやすかった。さらに、上下左右のレンズシフトが用意されているのもうれしい。ミニマムシアターでは(センターに配置できるため)左右は使わないが、そうそう恵まれた環境ばかりではないのでありがたいかぎりだ。
ズームやピントは手動式。上下左右のレンズシフトも用意されている
なお、インストールメニューの「2Dキーストン補正」はなかなかの優れものだった。操作自体は簡単なのだが、真ん中だけ凹んでいたり、上下どちらかだけすぼまっていたりもせず、見事にスクリーン白地部分にピッタリ映像が入り込んでくれた。
投写した画面の歪みをデジタル補正してくれる「2Dキーストン補正」が思いのほか便利だった
まずはミニマムシアターのテストでおなじみの4K Ultra HDブルーレイ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を使った暗部の階調表現を中心としたチェックを行ってみる。モードはとりあえずフィルムメーカーモードにしてみた。
まず気がついたのが、カラーブレーキングをほとんど感じないこと。単板式のDLPでは大なり小なり感じられるのだが、「HT4550i」ではほとんど感じられない。液晶に対してDLPのマイナスポイントと言われていたカラーブレーキングだが、ここまで感じられないのは大いに驚いた。
続いて好印象を持ったのが、色のりがよいこと。暗部のチェックといいながら色の話をするのは反則なのかもしれないが、「X3000i」との最大の違いがこの部分。プロジェクターなのに光が眩しすぎることなく、自然な明暗が表現できている。色合いも自然、アニメとはいえキャラクターの肌の表現が自然に感じられるし、緑被りがないのは当然として、青も赤も出しゃばりすぎることもない。カラーバランスはデフォルトでも十分いけるし、先々細かい調整をしていけば済む範疇だ。
いっぽう、黒側の階調に関しては、ややなだらかというか、もう少しメリハリがほしいところ。まずは明度を上げてみたが、それだと単に白っぽくなってしまう。そこで、ガンマ調整を使ってみることにした。
ガンマ調整のメニューには“BenQ”(推奨モードということなのだろう)という項目があるが、これだと見通しはよいものの黒浮きを感じてしまう。そこで(1.8〜2.6という調整値のうち)2.2を選び、合わせて輝度も(標準50のところ)52へと微妙に明るくした。結果、夜の戦闘シーンでもきちんと絵が見える階調が実現、存分に楽しめるようになった。
動画表現に関しても、まったく文句のないレベル。速い動きであってもボケることなく、ハッキリと伝わる。好みに応じて、ほんのわずかにシャープネスを上げる程度。それよりも、エッジや色彩が尖りすぎることのないニュートラルなデフォルトの映像設定を楽しみたいと思える。
この設定のまま、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』を視聴してみる。こちらだとやや色が強く感じられた。明度は50に戻し、シャープネスは“BenQ”設定あたりがよさそうだった。
細やかな調整機能が用意されており、映像面ではとても満足な「HT4550i」だが、ユーザビリティに関しても満足度が高かった。「X3000i」を使っていたこともあるが、設定画面は十分にわかりやすい。角度が付いていて手にすっぽりと収まってくれるリモコンも扱いやすかった。操作性に関しても十分満足できる内容と言える。
「HT4550i」の付属リモコン。Android TV端末にもリモコンが付属しているが、こちらのリモコンからもAndroid TVを操作可能
角度が付いていて手にすっぽりと収まってくれる
本体左側面にも操作ボタンが用意されているが、アクセスしにくいので基本はリモコンから操作する形になるだろう
ひとつだけ、新型の内蔵Android TV端末の仕様が気になった。今回、HDMI接続はメスタイプのコネクター(「HT4550i」本体と接続するケーブル側がオス)となっていて、他社のスティックに変えようとすると変換アダプター(HDMIメス−HDMIメス)が必要になる。設置されている場所も本体後側で、大きさもギリギリなので、他の端末に取り替えて使うことは想定されていないようだった。基本的にはそのままいじらず、「Fire TV Stick 4K Max」などを利用したい人は、ほかのHDMI端子を利用するのがよさそうだ。
ちなみに、内蔵Android TV端末でもAmazonプライム・ビデオの『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(ストリーミング/2K)で映像をチェックしてみた。こちらだと、顔や空などのグラデーションに等高線が目立つ。圧縮ノイズも感じられたりと、4K映像の処理についてはディスクメディアとプレーヤーの組み合わせのほうが一日の長があるようにも思う。言い換えれば、それだけ「HT4550i」の映像クオリティが高いということの表れだろう。
このように「HT4550i」は、映像的にも使い勝手も、価格的にも十分に納得できる内容にまとまっていた。特に、デフォルトでも満足度の高い映像を持ちつつ、さらに細やかな調整ができる自由度の高さや懐の深さはうれしいかぎり。画質面を気にするユーザーでも大いに満足できそうだ。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。