2023年の薄型テレビの大きなテーマとなっている“高輝度化”。高画質マニアとしてはMini LEDバックライト搭載液晶テレビと有機ELテレビどちらを選ぶか頭を悩ませているところではあるが、そんな贅沢な悩みに拍車をかけているのが、LGディスプレイが開発・2023年から投入を始めたMLA(マイクロ・レンズ・アレイ)有機ELパネルだ。
すでに価格.comマガジンでは、国内メーカーで初めてMLA有機ELパネルを搭載したパナソニック・ビエラ「MZ2500」のレビュー記事を公開済み(記事はコチラ)。そして今回取り上げるモデルが、同じくMLA有機ELパネルを搭載するLGエレクトロニクスの「OLED evo G3」シリーズ。価格.comマガジンでは、発表時にレポート記事を公開(記事はコチラ)しているが、今回55V型の「OLED55G3PJA」の実機を借りてレビューする機会を得られた。
MLA有機ELパネルを搭載したLGエレクトロニクスの4K有機ELテレビ「OLED evo G3」シリーズの55V型モデル「OLED55G3PJA」を実機レビュー
「OLED evo G3」シリーズの概要を簡単に紹介しておこう。同社の2023年4K有機ELテレビは全部で4グレードあり、最上位に位置するのがMLA有機ELパネル搭載の「OLED evo G3」シリーズとなる。画面サイズは、77/65/55V型の3サイズを展開しており、本稿では最も小さい55V型の「OLED55G3PJA」をレビューしている。
「OLED evo G3」シリーズでは発光効率向上により、いわゆる焼き付きへの耐性も上げてきており、標準で5年パネル保証が提供される(細かな条件はコチラ)。これは焼き付き対策に対する同社の自信の表れでもある。ちなみに、有機ELパネルの焼き付きによる修理も5年パネル保証の対象になることは確認済みだ。
そんなMLA有機ELパネル搭載の「OLED evo G3」シリーズの実力ははたしてどれほどのものなのか。さっそく実機レビューをお届けしよう。
さっそく届いた「OLED evo G3」シリーズの55V型モデル「OLED55G3PJA」を自宅のリビングにセット。なお、「OLED evo G3」シリーズの隣に並んで時々見切れて写っているモデルは、TVS REGZA社のMini LEDバックライト搭載液晶テレビ「Z970M」シリーズの65V型モデル「65Z970M」だ(記事はコチラ)。
写真右のひと回り小さいテレビが「OLED evo G3」シリーズ。写真左側のテレビはTVS REGZA「Z970M」シリーズだ
僕の自宅にはMLA有機ELパネル搭載の有機ELテレビとMini LEDバックライト搭載液晶テレビという最新世代の高画質テレビが横並びに置かれることになったが、画面サイズも異なる上に積極的に画質比較レビューをしている訳ではない点は留意してほしい。ただ、写真を見て誤解がないように、撮影の際には映像モードなどの条件は揃えてある。
スタンド部分のデザイン。本体中央のやや幅のあるスタンドで支える形
余談だが、LGエレクトロニクスの薄型テレビ2023年モデルでは、リモコンのデザインも刷新している。画面上にカーソルを表示して操作するマジックリモコン重視の以前の独特形状から、比較的日本メーカーにも近いデザインとなった(マジックリモコン機能は引き続き搭載)。ネット動画サービスへのダイレクトボタンは全部で7つ搭載。
付属リモコンは縦長デザイン。ダイレクトボタンは下部に配置されている
まずは、「OLED evo G3」シリーズの電源を入れる前の状態で画面への映り込みを確認。見た目は光沢(クリアパネル)に見えるが、映り込みはかなり低く抑えられている。
「OLED evo G3」シリーズの画面の映り込み具合を確認。写真だとわかりにくく、左側のTVS REGZA「Z970M」シリーズも映り込みがほとんど見えないが、実際には右側にある「OLED evo G3」シリーズのほうが映り込みは小さい
ここからは「OLED evo G3」シリーズの画質チェックに入っていくが、その前にひとつ。LGエレクトロニクスの薄型テレビ2023年モデルの一部モデルには「パーソナルピクチャーウィザード」と呼ばれる新機能が搭載されている。これはユーザーが選択した好みの画質傾向をAIが学習し、シャープネスや色温度、ガンマなどを視聴者好みに調整してくれるというもの。初期設定でも設定するようにうながされるし、映像メニューでも選びやすい位置にある。ただ、これを使うと僕好みの画質にカスタマイズされてしまうので、まずはこの設定はスキップした状態でチェックを行っている。
目玉の「パーソナルピクチャーウィザード」だが、まずはこれを使わずにチェックを開始
「OLED evo G3」シリーズの映像モードを「標準」に設定して地デジ放送やYouTubeの画質をチェックしてみたが、MLA有機ELパネルの実力は本物で、画面の明るさ、輝度感はさすが。ただ、全体的にクール系と呼ぶべきか青白さに寄った(色温度の高い)トーンにまとめられている。人物などではやや血色が悪く見えてしまうところがある。
そしてもうひとつ、色表現以上に気になってしまったのが、地デジ放送やYouTubeなどのHD相当のコンテンツで映像のアラが見えてしまったこと。YouTubeでは高輝度部が白っぽくディティールが平坦な程度だが、地デジ放送の画質は悪い意味でクセが強く、画面内のノイズがとても目立ってしまっていた。どうも色の出し方にクセがあるようで、出演者の顔のディティールが潰れて油絵のように見えることも。これは映像モードを「シネマ」や「FILMMAKER MODE」など、色に対する加工の小さいモードに切り替えればある程度回避できる。
まずはYouTubeの動画コンテンツで画質をチェック
とはいえ、「OLED evo G3」シリーズの画面の明るさは目に見えて優秀なのは確かだ。製品出荷時の状態だとパネルの持つ明るさを限界まで引き出す設定にはなっていないようだが、初期設定のまま見るだけでも有機ELテレビとは思えないほどに自然に明るさが出ている。そして映像モードから「OLEDピクセル」などの設定をカスタマイズして明るさがさらに出るように設定してあげると、画面全体の明るさ、ピークの輝度感どちらも高まる。
明るさが最大限出るようにテレビ側の設定を変更し、価格.comのYouTubeチャンネルで公開されている動画を再生した際の画面の明るさを計測してみた。画面に照度計を密着させて測定してみると、ハイライト部は約908lux、人物の顔が643lux。画面全体の輝度感も確保できている。
また有機ELパネルだけあって視野角はとても優秀だったことも報告しておこう。暗室状態も含めて、斜めから見ても正面から見ても色変化はほぼわからないレベルだった。
斜め位置から視聴しても明るい画面で見やすい
続いて、Ultra HDブルーレイ『The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark』の4K/HDR映像コンテンツで画質をチェックしてみる。映像モードは「標準」のままで再生してみたが……4K/HDRの自然映像を中心としたコンテンツでは、明るいところはとことん明るく鮮やか、そして中低輝度も暗く画質ポテンシャルをスレートに発揮する。
なお、映像モードを「FILMMAKER MODE」に設定すると色合い、輝度とも若干落ち着いた形になる。ほかにも明るい部屋での映画視聴をターゲットにした「シネマブライト」、暗い部屋での映画視聴に最適な「シネマダーク」、ISFのキャリブレーションが可能な「エキスパートモード」、「Dolby Vision」と選択肢は豊富だ。
画面全体が明るいシーンで画質をチェック。明るく表現される空の抜け感もよく出ているし、影の部分とのコントラストも優秀だ
色鮮やかな花の映像。「標準」でも鮮やか志向ながら色潰れしない絶妙なバランスに仕上がっている
照明を消した完全暗室で「OLED evo G3」シリーズを視聴してみると、やはり黒の沈み込みは優秀だ。ハイライト部のまぶしさも健在で、一画面内に明暗が共存するコントラストはMLAパネル搭載有機ELテレビならではの魅力だ。
完全暗室の状態で夜景の映像をチェック。黒の沈み込みだけでなく、ハイライト部の表現もしっかり出ている
「OLED evo G3」シリーズの輝度特性を調べるべく、画面が最も明るくなる設定でテストパターンを表示して画面の明るさを測定してみた(※)。結果は、白の面積10%で約4390lux、白の面積100%で約776luxだった。特に100%でのピーク時の値4390luxというは驚異的。MLA有機ELパネルは画面サイズによって画素あたりのMLA(マイクロ・レンズ・アレイ)の数が異なるため、単純な比較はできないが、数値だけで言えば今年同じ条件で測定したモデルの中でトップだ。
※luxは本来1mの距離で測定するが、本測定は照度計を密着させて測定している
なお、TVS REGZAの2023年液晶・有機ELレグザ最上位モデルと、パナソニックの2023年液晶・有機ELビエラ最上位モデルも過去に同じ測定条件で計測しているので、ぜひ参考にしてほしい。
続いて、ゲーマーが気になる表示遅延についてもチェックしてみた。なお、「OLED evo G3」シリーズはカタログスペックで応答速度0.1msという値を開示している。いつもどおり「4K Lag Tester」を使用し、映像モード「ゲームオプティマイザ」かつ入力遅延防止を「ブースト」にした状態で4K/60pの表示遅延を実測してみたところ、4K/60pで1.5msという結果だった。
「OLED evo G3」シリーズには「ゲームオプティマイザ」という映像モードが用意されており、ゲーム機を接続すると自動的にこちらが選択される。NVIDIA G-SYNC Compatible、AMD FreeSync Premium、VRR、ALLMなどゲーマー向けの低遅延機能もひととおり揃っており、ゲーミング機能はなかなか充実している
画質チェックの冒頭でも触れたとおり、「OLED evo G3」シリーズは「パーソナルピクチャーウィザード」という新機能が用意されている。映像モードのひとつという位置づけになっているが、同機能は標準でプリセットされている映像モードとは異なり、画質、特に色バランスを個人に最適化して使ってもらうという考え方のようだ。
映像モードの最初の並び順にある「パーソナルな映像」。こちらが「パーソナルピクチャーウィザード」で設定した映像モードになる
「パーソナルピクチャーウィザード」では、画面に表示された6枚の画像の中から好みの画像を最大2枚選ぶという作業を計6回実施。その結果を基にAIがシャープネスや色温度、ガンマのパラメーターが異なる約8,500万通りのパターンの中からユーザーが好ましく感じるものを判別し、適応してくれる。実際に僕が好みだと感じた画像を選択していくと、“バランスの取れた画質”へと調整された。
また、本機能は微妙なニュアンスもしっかりと反映されるようで、僕もタイミングを変えて選ぶと“バランスの取れた画質”になったり、“鮮明&シャープ”になったりと若干のブレ幅があった(前の機会にどれを選んだか正確に覚えていないだけでもあるが)。ただ、どの画像を選んでも「確かに僕の好みに合っている」と納得できるもので、画質設定の沼にハマる必要のないとても実用的な機能だと思う。
「パーソナルピクチャーウィザード」のやり方はとても簡単で、表示された6枚の画像から好みの画像を最大2枚選ぶという作業を6回実施するだけ
“鮮明&シャープ”に調整された状態で価格.comのYouTube動画を表示してみたところ
ちなみに、「パーソナルピクチャーウィザード」の画像選択画面をよく見るとわかるが、6枚の画像は似たようなものだが、まったく同じものはない。なぜ同じの画像で色合いが異なるパターンではないの?と不思議に思う人もいるだろう。僕も同じ疑問を持ち、メーカー担当者に質問したところ、「研究の結果、まったく同じ映像の色違いから選ぶより、色合いの少し違った同系統の画像を選んでもらうほうが、ユーザーの好みが反映される」との回答だった。この“好み”という部分を狙ったのが本機能のポイントなのだろう。
「OLED evo G3」シリーズのサウンドについては、すべての音源に対して有効な「AIサウンドプロ」によるバーチャル9.1.2chの立体的なサウンドが目玉。AIが映像のジャンルや音を認識し、話声と背景音を区別し音声を最適化、スピーカーシステム自体は4.2chだが、9.1.2chのような臨場感あふれるサウンドを楽しめるという。
まずはサウンドモード「標準」の設定で地デジの音質を聴いてみたが、クリアさも程々、画面下あたりから音が聴こえ、低音も強くもないバランス型。そこからサウンドモードを「AIサウンドプロ」に切り替えてみると………積極的にサウンドをデジタル補正していく。
LGの考えるサウンドは「AIサウンドプロ」を有効にすることで発揮される
「AIサウンドプロ」を有効にすると番組内の音の強弱を揃えるようで、全体的にボリュームが上がり、空間を広がるような定位になるし、低音のパワーもやや上がる。歌番組はライブ感重視でしっかり聴かせるし、NetflixのDolby Atmosの立体感も優秀だ。いっぽう、地デジでチャンネルを切り替えていると動作のラグにも気づく。デジタル処理を駆使した効果なので、さまざまなジャンルの番組を視聴して体験してみるとよいだろう。
「OLED evo G3」シリーズのプラットフォームは、同社独自の「webOS 23」が搭載されている。電源を入れるといきなりテレビ放送を映すことなくホーム画面を表示するという、かなり特殊な作りだ。ホーム画面はいわゆる「Google TV」にも似た全画面にコンテンツやアプリが並ぶタイプで、レスポスもまずまず……なのだが、このホーム画面を含む操作体験が他社のテレビとはひと味違ったものにしている。
「OLED evo G3」シリーズのホーム画面
まず個性的なポイントがリモコンだ。「OLED evo G3」シリーズが採用しているポインター操作対応の「マジックリモコン」だが……僕の知る限り実機を触れた人からは不評。ただ実はポインター操作を無視すれば普通のリモコンになるので、リモコンそのものを動かすという操作性に惑わされず、上下左右の方向キーで操作してみてほしい。
付属リモコンはポインター操作対応の「マジックリモコン」
それから、「OLED evo G3」シリーズを起動すると、必ずホーム画面に連れていかれるところも、テレビとしてクセが強いと感じる部分。ネット動画視聴がメインという人もいるからテレビ放送を特別視しないという理屈も理解できるが、電源を入れても約3秒後にホーム画面で止まるので、「電源ボタンを押して起動してる間にコーヒーを入れてるから、その間にどのチャンネルでもいいから朝のニュースくらい流し始めておいてくれよ」と思ってしまった。
もうひとつ、リモコン上のダイレクトボタンにYouTubeが欠けているところも気になる。Netflix、Disney+、Amazonプライム・ビデオ、TVer、U-Next、Alexa(音声アシスタント)、Hulu、NHK+、App(ランチャー)とあるのに、なぜいちばん人気のYouTubeだけはホーム画面経由になるのか。YouTubeはアプリが出荷時から入っておらず、ストアから別途導入という扱いになっているところにもなにかありそうだ。
リモコンのダイレクトボタンになぜかYouTubeがない
最後に、使い勝手を左右するテレビやアプリの起動時間も測定してみた。電源オフからホーム画面が起動までの時間は約3.2秒と起動時間は思ったよりも高速だが、ホームを表示するとそこで停止することになるので、その画面からさらに操作することを考えると意外と気になるかもしれない。Netflixをダイレクト起動した際の起動時間は約3.0秒となかなかの高速レスポンスだ。
電源オン直後のホーム画面からYouTubeアプリの起動は約3.9秒、Amazonプライム・ビデオの起動は約6.9秒。ホーム画面からテレビを起動する際には約1.8秒とワンテンポ遅れがあるほか、番組表の表示は約4.6秒と他社のテレビと比べるとはっきり体感できるレベルで遅い。ネット動画系は得意だが、テレビ系はやや苦手といったところか。
なお、「OLED evo G3」シリーズはAirPlay対応ソフトを搭載しているので、iPhoneユーザーなら画面ミラーリングも可能だ。
今回レビューした「OLED evo G3」シリーズは、同じくMLA有機ELパネル搭載のパナソニック・ビエラ「MZ2500」シリーズのライバル機と期待している人も多いかもしれない。実際、「OLED evo G3」シリーズの画面も有機ELテレビとは思えないほどに明るく、パネルのポテンシャルの高さは本物だ。地デジ画質は物足りないが、「パーソナルピクチャーウィザード」の取り組みはユニークかつ実用性が高く、日本メーカーと路線は違った画質勝負をしているところも面白い。
いっぽうで、操作性は独路線で、よくも悪くもテレビらしくない。とはいえ、今やテレビの使い方は人それぞれ。日本のメーカーと異なるアナザーチョイスとして選びたくなる個性派モデルと言えそうだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。