2019年9月20日に発売された、キヤノンのAPS-C デジタル一眼レフカメラ「EOS 90D」。
3,250万画素のCMOSセンサーを搭載したAPS-Cデジタル一眼レフカメラ、キヤノン「EOS 90D」
これまでも、さまざまなメディアによってEOS 90Dのレビューが掲載されていますが、当記事では少し趣を変えて、EOS 90Dに望遠レンズを組み合わせ、モータースポーツの撮影をメインとしたレビューをお届けしたいと思います。
なお、今回のレビュー記事に登場する機材は、すべて筆者の私物となります。そう、つまりはEOS 90Dを筆者自身が購入したわけです。というわけで、自腹で買ったからこそわかることや、弱点などを含めてレビューしたいと思います。なお、作例はすべて3,250万画素の「JPEGラージ」で撮影しており、画像データのリネーム、縮小表示写真のリサイズやトリミング例などにはWindows版「Adobe Photoshop CS4」を使用しています。
EOS 90DのメーカーHP(スペシャルサイト)には、SL写真家、野鳥写真家、ペット写真家、飛行機写真家といった方々のインタビュー記事が掲載されています。これらの分野は主に望遠レンズを使っているのが共通点。つまり、キヤノン自身が望遠レンズを主体とするカメラとして位置付けていることは、言うまでもありません。
キヤノン「EOS 90D」に「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」レンズを装着
APS-Cサイズは、フルサイズカメラと比較して1.6倍の望遠効果を持ちます。「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を、APS-C機であるEOS 90Dに取り付けると、フルサイズ換算で160-640mmの焦点距離になります。これに近いフルサイズカメラの組み合わせとしては、たとえば「EOS 5D Mark IV」とシグマ「150-600mm F.5-6.3 DG OS HSM」などがあります。非純正レンズということもあって、価格はどちらも同等です。しかし、大きな違いはEOS 5Dとシグマ 150-600mm F.5-6.3 DG OS HSMの組み合わせでは、3,750gもの重量が腕にのしかかってくることです。それが、EOS 90DにEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの組み合わせなら、重量は2,271g。実に、1.5リッターのペットボトル飲料1本分軽量となってしまうのが、APS-C機の魅力なのです。
長時間流し撮りをしたり、撮影場所の移動距離が長いモータースポーツの撮影においては、カメラはできるだけ軽いほうが労力は少なく済みます
特に、望遠レンズを振り回して流し撮りを多用するようなモータースポーツの撮影においては、この軽さはとてもありがたいです。また、流し撮りで振り回すだけではなく、カメラセットを担いでサーキットの外周を移動するといった労力を考えても、機材はできるだけ軽いほうがいいのです。
今回、富士スピードウェイで開催された「TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」イベントで、EOS 90Dを使ってみました
このEOS 90DとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの組み合わせで、2019年12月15日に富士スピードウェイで開催された「TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」へと出向きました。同イベントは、いわゆるトヨタのモータースポーツ感謝祭で、レースやラリーなど国内外のモータースポーツで活躍するトヨタのマシンやドライバーが集結。入場無料ということもあって、来場者は4万5千人を超えるというビッグイベントになりました。今回、このイベントをEOS 90Dで撮影してみました。
キヤノンのAPS-Cデジタル一眼レフカメラの画素数は、フラッグシップモデルの「EOS 7D Mark II」で2,020万画素、「EOS 80D」などでは2,430万画素ですが、EOS 90Dでは3,250万画素にまで引き上げられています。それを、わかりやすく大きさで比較したのが下の画像になります。
3,250万画素と2,020万画素の画像サイズを等倍で比較した写真
比較写真の拡大画像(6,960×4,640ピクセル、3.84MB)を見る
上の画像は、外枠が3,250万画素、赤枠内は2,020万画素です。等倍にすると、記録サイズにこれだけ大きな違いがあります。これを300dpiで印刷してみると、A3ノビより少し大きいのが2,020万画素。A2にほんのちょっと足りないのが、3,250万画素。A2と言えば、A4サイズのコピー用紙4枚分の大きさです。これだけの大きさで印刷できる写真データが撮れるのが、EOS 90Dのアドバンテージなのです。
これだけ大きなデータが撮れるとなると、トリミング耐性もかなりのものになります。作品として発表するサイズにもよりますが、SNSなどに投稿するレベルであれば、どこまでもトリミングできるのではないかと錯覚してしまうほどです。一例として、一般的なデジタルカメラの画素数に落とし込んでみてトリミング耐性を見てみましょう。
富士スピードウェイで撮影
3,250万画素(オリジナル画像、6,960×4,640ピクセル、10.9MB)
2,400万画素(6,000×4,000ピクセル、8.41MB)
2,020万画素(5,472×3,648ピクセル、7.94MB)
1,800万画素(5,184×3,456ピクセル、7.22MB)
300dpi A4サイズ(3,508×2,480ピクセル、3.75MB)
レンズの解像度にもよりますが、現時点で販売されているキヤノン製レンズなら、おおむねこのレベルでのトリミング耐性はあると考えられます。とくに、Lレンズの現行機種であればかなりの解像感があります。
富士スピードウェイで撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、10.6MB)を見る
上の画像は、EOS 90D+EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMに、焦点距離を1.4倍に伸ばすエクステンダー「EXTENDER EF1.4xIII」を装着して撮影した写真です。
そして、こちらの写真は上の走行写真をピクセル原寸で1,200×800ピクセルに切り出したものなのですが、たとえばSNSなどに投稿するようなレベルであれば十分に通用する画質と言えます。
また、この3,250万画素の威力は、写真そのものの解像度のほかにレタッチ耐性も見逃せません。
ナンバーの塗りつぶし加工といった細かな作業なども、画像データが大きければ楽に行えます
ナンバー付き車両によるレースの取材などでは、レース車両のナンバーを隠す処理をする場合があります。そういったときに、3,250万画素の画像データの大きさが役に立ちます。Adobe Photoshopなどの写真加工アプリを使ってナンバーを隠す場合、ていねいに隠そうとするときはブラシで色を塗るという作業を行うのですが、サイズの大きなブラシが使えますので作業が楽になるほか、塗りつぶした個所を写真になじませるという作業もより細かくできます。こういった、作業の負担を低減できるのも高画素化の恩恵と言えます。
これまで、画素数と連写速度はいわば反比例のような関係にありました。フルサイズ機だと「EOS 5D Mark IV」は3,040万画素で秒間7コマ、「EOS 1DX Mark II」は2,020万画素で14コマです。いっぽう、APS-C機に目を向けても「EOS 80D」は2,420万画素で7コマ、「EOS 7D Mark II」は2,020万画素で10コマと、画素数か連写速度かの選択を迫られていました。モータースポーツの撮影などでは、流し撮りのときのクルマの絶妙な角度や見え方を追求することが多く、連写速度を重視する傾向にあるので、高画素機をコースサイドに持ち込むことは少ないというのが現状です。
富士スピードウェイでフォーミュラマシンを撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、10.9MB)を見る
そこへ、秒間10コマで3,250万画素で撮影ができて、さらに光学ファインダーも使えるEOS 90Dが投入されました。光学ファインダー使用時に秒間10コマでフォーカス追従できるというのは、大きな武器になります。
ダートコースを走るヤリスWRCを1秒間連写
拡大画像(2,400×4,000ピクセル、1.77MB)を見る
上の画像は、WRC(FIA世界ラリー選手権)へ出場して、世界チャンピオンとなったトヨタ「ヤリスWRC」を、富士スピードウェイの特設ダートコースで撮影したものです。ラリーマシンは、1秒間でこれだけ姿勢変化をするので、1秒間に撮影した10コマのすべてが違う姿勢を見せます。この画像をご覧頂ければ、モータースポーツにおける秒間10コマの有用性がお分かりいただけると思いますが、さらにこの姿勢変化に対してEOS 90Dはすべてフォーカスを合わせていることにも注目頂ければと思います。
ダートコースを走る「ヤリスWRC」を撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、11.2MB)を見る
秒間10コマで、光学ファインダーを使って3,250万画素で撮影できるということは、モータースポーツの写真の撮り方そのものも、大きく変わってきます。無理に重く、長い望遠レンズを使わなくても、そこそこの焦点距離のレンズを使ったとしても、ある程度のクオリティの写真が撮れるということになります。
富士スピードウェイ「ADVANコーナー」で撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、4.26MB)を見る
見逃せない点がもうひとつあります。ファインダー撮影時の、フォーカス低輝度限界が「-3EV」であることです。これは、暗いところでもフォーカスが合わせやすいだけではなく、開放F値が暗いレンズにおいてもすぐれたAF性能を発揮します。
富士スピードウェイ「DUNLOPコーナー」で撮影した写真を、A4サイズ300dpiでトリミングした画像/使用機材:「EOS 90D」「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」「EXTENDER EF1.4xIII」
オリジナル写真(3,508×2,480ピクセル、3.42MB)を見る
続いて「テレコンバーター」、キヤノンで言うところの「エクステンダー」を使用してみました。筆者が今回テストしたレンズ、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」に「EXTENDER EF1.4xIII」を装着して、AFが動作した初めてのAPS-Cデジタル一眼レフ機はEOS 7D Mark IIなのですが、それでも測距点はセンター1点のみでした。とりあえず使える、というレベルです。ですが、EOS 90Dではその測距点が27点に拡大し、センターの9点はクロスセンサーとなっています。
同じ撮影場所で、EXTENDER EF1.4xIIIを装着した写真と装着していない写真を比較すれば、一目瞭然です。
「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」に「EXTENDER EF1.4xIII」を装着して撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、9.85MB)を見る
「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」のみで撮影
オリジナル写真(6,960×4,640ピクセル、10.6MB)を見る
EOS 90DにEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMにEXTENDER EF1.4xIIIを装着した場合、望遠端での焦点距離は560mm、フルサイズ換算で900mmの画角に相当します。キヤノンで最も焦点距離の長いレンズ「EF800mm F5.6L IS USM」をフルサイズ機に装着するよりも長い焦点距離を、APS-C機であるEOS 90Dは3,250万画素の秒間10コマで撮れるのです。
また、EF800mm F5.6L IS USMはレンズ単体で4,500gもあり、秒間14コマの撮影ができる「EOS 1DX Mark II」の1,530gと合わせれば6kgを超えてしまいます。秒間7コマのEOS 5D Mark IVと合わせても5.4kgとなり、よほど屈強でなければ手持ち撮影はまず無理ですが、EOS 90DにEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMとEXTENDER EF1.4xIIIの組み合わせでは2,495g、つまり約2.5kgで重量的には半分以下となり、手持ち撮影も可能になります。
重量的には手持ち撮影も可能なのですが、さすがにこの焦点距離では一脚などを使用した方がいいと思います
こんなカメラが十数万円で買えてしまうことは、驚きのほかありません。キャノンの2桁型番機が1桁型番機を食ってしまうのではとも考えられる、まさに下克上と呼べるカメラかもしれません。
EXTENDER EF1.4×III型とI型のフォーカスエリアの違い
なお、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMに「EXTENDER EF1.4x」もしくは「EXTENDER EF1.4xII」を装着した際の測距は、センター1点のみとなります。EOS 90DとEXTENDER EF1.4xや「EXTENDER EF2x」などを組み合わせた動作確認済みEFレンズの詳細については、キヤノンのサイトでご確認下さい。
EOS 90Dは、これまでのEOSデジタルからの買い替えを念頭において開発されたモデルなのでしょう。それは、レガシーアイテムがむだにならないところに表れています。
「EOS 90D」にバッテリーグリップ「BG-E14」を装着
どのメーカーでも、新機種が発売されるとバッテリーグリップなどが専用オプションとして同時に発売されます。ですが、EOS 90DはEOS 70Dの頃から販売されているバッテリーグリップ「BG-E14」が装着可能です。これは、実は大変なことで、機能が増えているにもかかわらず底面の面積、グリップ部の構造を同じにしなくてはならないからです。大きさを変えずに機能を増やし、なおかつシャッターやミラーユニットなどは耐久性が20%向上した12万ショットに対応しています。そのうえ、3,250万画素や秒間10コマを処理するためにはかなりの電力を消費するはずなのに、バッテリーも70D、80Dや7Dシリーズ、5Dシリーズと共通の「EP-6N」となっています。つまり、70Dや80Dの既存ユーザーは、カメラだけを買い替えればすぐにフルセットが揃うのです。
また、広角をカバーした標準系ズーム「EF-S15-85mm F3.5-5.6 IS USM」でもテスト撮影してみました。EF-S15-85mm F3.5-5.6 IS USM は、2009年10月に発売された標準系ズームレンズです。広角側がフルサイズ換算で24mm相当となって非常に使いやすいと評判のレンズで、これまでモデルチェンジがないまま継続販売されています。
「EOS 90D」に「EF-S15-85mm F3.5-5.6 IS USM」を装着して撮影し、ナンバープレート付近を切り出した画像
このレンズで撮影した写真を原寸ピクセルで切り出してみると、特に大きな問題は見受けられないほど良好な解像感が得られています。EF-S15-85mm F3.5-5.6 IS USMのフォーカスユニットを動かすモーターはキヤノン自慢の「リングUSM」で、これはフルサイズ用高級レンズであるLシリーズにも採用されているものです。このリングUSMのおかげで、秒間10コマでもフォーカスはしっかりとついていきます。
ここまで、いいこと尽くめで書いてきたEOS 90Dのレビューですが、弱点もあります。さまざまなユーザーが指摘する弱点と言えば「カードスロット」がシングルなところですが、これはカメラの価格を考えればシングルでも十分ではないかと思います。それよりも、むしろカードスロットに刺さるSDメモリーカードのほうに問題があります。
これまで解説したとおり、EOS 90Dの利点は3,250万画素と秒間10コマの連写速度ですが、これがSDメモリーカードにとっては弱点になります。JPEGでも1枚当たり8MB以上、RAWでは40MB以上となる写真データを秒間10枚も作り出すのですから、カメラの内蔵バッファの性能がよくても、それを書き込む先のSDメモリーカードの性能が低いとなるとさまざまな問題が生じます。
SDメモリーカードに書き込みが終わらないと撮影画像の確認ができないために、確認を待たされるという状態が頻発するのです。今回の撮影では、UHS-I、読み込み90MB/s、書き込み30MBのサンディスク製のSDメモリーカードを使用しましたが、連写を15枚ほどすると数秒待たされるということがたびたび起こりました。その後、UHS-IIで読み込み200MB/s 、書き込み80MB/sのSDメモリーカードにすると画像確認で待たされることは少なくなりました。つまり、SDメモリーカードをかなり選ぶというところが弱点と言えます。確かに、この画素数でこの連写性能のカメラはほかにありませんので、むしろ自慢するポイントかもしれませんが……。
「EOS 90D」の記録メディアはSDカードですが、読み込みや書き込みが遅いSDカードでは、撮影後の画像確認に待たされることがありますので、できるだけ読み書きが速いSDカードを選びましょう
そして、データの大きさに起因する弱点はほかにもあります。RAW現像や画像加工などで使うPCのメインメモリーなども、8GBくらいでは足りません。16GB、もしくは32GBくらいは欲しいところです。クラウドサービスに画像を保存する際も、これまでのEOS 80DやEOS 7D Mark IIに比べて2倍以上の転送時間が必要ですし、ローカル保存するハードディスクやSSDの容量も増やす必要があります。
「EOS 5D sR」など、EOS 90Dより画素数の大きいカメラはこれまでもキヤノンから出ていましたが、連写を多用するようなカメラではありませんし、AF追従で秒間10コマ以上が撮れる3,000万画素オーバーのカメラは執筆時点でソニーのフルサイズ機などしかありません。APS-C のデジタル一眼レフであるEOS 90Dは、軽量コンパクトで安価なのに3,250万画素で秒間10コマが気軽に撮れてしまうという利点がある分、撮影した後のデータ容量が大きくなるということだけは、覚えておいたほうがよさそうです。
逆を返せば、今のところ前述のSDメモリーカードやデータ容量以外の弱点は見つかりません。EOS 90Dは、最近ではかなりの注目商品であるうえに、80Dや7D Mark IIなどからの買い替え需要もあって、かなり売れているようです。そのため、発売からずっと品薄の状態が続いており、筆者の場合も2019年9月20日の初期ロットでの購入に踏み切らなかったばかりに、手元に届いたのが12月初旬になってしまいました。こちらの記事を執筆している2019年12月16日時点でも、大手量販店では注文から入荷まで40日以上かかるというところがほとんどです。価格.comなどで市場価格を調べる際には、必ず在庫状況もチェックしておいたほうがよさそうですね。
自動車系フォトジャーナリスト。主にモータースポーツ分野で活動中。自動車全般を取材対象とし、カメラ、写真用品にも精通。スマートフォン、通信関連、アプリゲームやIoT家電なども取材を行う。月刊AKIBA Spec発行人編集長も兼任。