新型コロナウイルス感染拡大の影響によるテレワークの普及や外出自粛生活で、オンラインビデオ会議の利用者が激増している。普段はオーディオ評論家として活動する筆者も、最近はもっぱら仕事の打ち合わせ用に「Zoom」を活用している状況だ。同じように、今回を機にZoomユーザーになったという人は多いだろう。
そんな中、巷で再脚光を浴びているカメラがある。日本のカメラ・交換レンズメーカー「SIGMA(シグマ)」が2019年10月に発売したミラーレスデジタル一眼レフ「SIGMA fp」だ。このSIGMA fpは、パソコンとUSB接続すればWebカメラとして使える。パソコン内蔵カメラや一般的なWebカメラとは比較にならない高画質画像で、オンライン会議ができるようになるのだ。
実は筆者、普段からSIGMA fpを愛用し、オーディオ機器やスナップを趣味で撮影しているSIGMA fp大好きユーザーである。そこで、この「SIGMA fp+Zoom」を楽しんでみることに。趣味のオールドレンズをいろいろ付け替えて、とにかくエモいZoom配信に挑戦してみた。
オンライン飲み会で、ひとりだけイイ画質で乾杯できる!
SIGMA fpは、3つのコンセプト「ポケッタブル・フルフレーム」「スケーラブル」「シームレス」を掲げた世界最小/最軽量のフルサイズミラーレス一眼カメラである。筆者はこのコンセプトと、事前に公開されたイメージ映像に感銘を受け、製品の発売日に現物を見ぬまま購入した。現在、本業としているオーディオの撮影取材から趣味のスナップ写真撮影まで、仕事とプライベートの両方で、筆者のSIGMA fpは大活躍だ。
筆者がこれまでにSIGMA fpで撮影したスナップ写真の一例(※画像は圧縮表示)
そして上述の通り、テレワークが普及したこのタイミングで、SIGMA fpがWebカメラとして使えることで大注目されている。SIGMA fpは、ビデオ・オーディオ入力デバイスとして機能する規格「UVC(USB Video Class)」と「UAC(USB Audio Class)」に対応したミラーレス一眼カメラなのだ。つまり、市販されているマイク付きWebカメラと同じように使用できるのである(UVC非対応の一般的な一眼レフをWebカメラにしようとすると、外部USBカメラとして認識されないので使えない。詳細は後述)。
ちょっとした写真ならスマホで撮って済ませるシーンが増えている中、SIGMA fpは将来のカメラのあり方を示した斬新なプロダクトであると思う。基本的な使用レビューは、以下の記事を参考にされたい。
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それでは、実際にSIGMA fpをWebカメラとして使ってみたインプレッションをレポートしていこう。基本的な使用方法については、すでに他メディアなどでも紹介されているのでここでは簡潔に説明する。まあ接続と設定方法はそもそも簡単で、一般的なWebカメラと同じだ。Zoomで使用するための手順は以下の通り。
1. SIGMA fpとパソコンを付属のUSBケーブルで接続する
2. SIGMA fpの電源を入れ、天面部のスイッチで「CINEモード」を選択
3. 背面の液晶メニューからビデオクラス(UVC)を選択
4. Zoom を立ち上げ、設定画面 → ビデオと進み、使用するカメラを「SIGMA fp」に設定する(この画面で同時に顔にピントを合わせる)。オーディオは、SIGMA fpまたはパソコン/ヘッドセットなど環境に合わせて設定する。
まずはスタンダードに、レンズ付属の「SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN Contemporary キット」をセッティング
こんな感じで準備完了! USBケーブルでパソコンと接続すれば、一般的なWebカメラと同様に使える
以上、たった4ステップで高画質のオンライン会議環境が整う。これで、背景がボケたエモーショナルな映像を配信できる。
というわけで、「SIGMA fp+Zoom」を実際にやってみた画像が以下である。評判通りのエモさを実現した(以下、本記事のスクリーンキャプチャー画像は、筆者とオンライン会議中の相手方のパソコンに映し出された画面のキャプチャーとなる)。
Sigma純正レンズ 45mm f/2.8を使用し、SIGMA fpでZoom会議をする筆者の画像。背景ボケボケ! エモい!
パソコン内蔵カメラ(左)と比較するとこんなに違う。「同じ人に見えない」という光栄なコメントもいただいた
これまでに筆者とオンライン会議をした人たちが、一様に「何このエモい画像!」と画質のよさに驚いてくれるのがおもしろい。オンライン会議の固定概念を覆す、超絶映像ということか(笑)。
また、色味を調整できるのもSIGMA fpならではの楽しいポイント。上の画像は、カラーモードをハリウッドではやりの「ティール&オレンジ」に設定したところだ。これでオンライン会議に挑んだところ、「土方さんだけフィクションの世界感なんですけど!」と価格.comマガジンの担当編集者も大喜びであった。
さらに、レンズ交換できるSIGMA fpのメリットを生かして、オールドレンズに付け替え、もっと雰囲気のあるZoom会議を演出して遊んでみた。用意するものはオールドレンズとマウントアダプターのみ。
オールドレンズは、1960年代から1980年代のキヤノン、ニコン、ペンタックスや、東/西ドイツ玉、ロシア玉など、安価なものなら数千円から入手できる。これらのレンズは描写や背景のボケが独特で、四隅が暗くなる周辺減光も利用できるなど、現代のレンズでは味わえないような雰囲気ある写真を撮影できる。うまくハマると、まるで空気を映し出すような雰囲気ある映像を撮れるはずだ。
国内外のオールドレンズたち。MF(マニュアルフォーカス)なので手でピントを合わせる楽しさもある。マウントアダプターを使えばこのすべてがSIGMA fpで使用可能。それぞれのレンズの画角や写りの個性を生かしたエモい映像配信にトライしてみよう
たとえば、ニコン「NIKKOR 50mm f/2」を使用して、カラーモードを「シネマ」にするとこんな感じになる。
使用したレンズは、ニコン「NIKKOR 50mm f/2」。ニコンが1970年代後半に発売したレンズだ。同社の50mmオールドレンズ は、f/1.2やf/1.4など、より明るいモデルが人気だが、f/2モデルは市場価格が安いうえに描写もよく、隠れた銘玉である
続いて、カメラは同一位置に固定したままで、レンズをニコン「NIKKOR-H Auto 28mm f/3.5」に交換してみた。レンズの焦点距離が違うと画角が変わってくる。
使用したレンズは、ニコン「NIKKOR-H Auto 28mm f/3.5」。こちらは1970年代前半に発売されたレンズ。レンズの鏡胴先端には「Nippon Kogaku」の名が刻まれる
そのほかにも、特殊なボケを持つことから「インスタ映えするレンズ」として人気の星ボケレンズ「industar-61」や、グルグルボケレンズ「Helios 44-2」、シャボン玉ボケレンズの「Meyer Optik Görlit Trioplan」などでも、背景や画角を工夫すれば使用できるはず。おもしろそうなので、引き続きいろいろ試してみたい。
なお、メーカー側もアダプターの使用は認めているものの、オールドレンズを使うときの注意点として、あくまでも純正ではないレンズとの組み合わせであることは念頭に置いておこう。特に後ろ玉が極端にせり出しているレンズは、内部干渉を起こす可能性があるので十分注意したい。
マウントアダプターは、あまりにも安価なものは精度に不安があるので避けたほうが無難だ。レンズの規格以上に最短撮影距離を稼げるヘリコイド機能がついているモデルもある。上段左はシグマ純正のアダプターで、シグマ製のキヤノンEFレンズやシグマSAマウントに対応させることができる(写真の製品はシグマSA用 「MC-21 SA-L」)
SIGMA fpをWebカメラにして、最近はやりのオンライン飲み会でも盛り上がった。仕事関係者や旧友とZoom飲み会をしてみたのだが、みな配信された筆者の映像を見て「背景ボケててカッコいい」「ひとりだけ画質よくてズルい」と大盛り上がり。これは話題性もあってかなり使えるぞ、と自信を深めた。
Zoom飲み会にて、ひとりだけ背景ボケボケで乾杯する筆者(左上)。自分だけカッコよく映っていると、お酒のおいしさも倍増する気がする
使用したレンズは、CARL ZEISSJENA「DDR TESSAR 50mm f/2.8」。1945年、世界有数の技術を持つカール・ツァイス社は東ドイツ/西ドイツに分裂したが、本レンズは東ドイツのCarl Zeiss jena(カールツァイスイエナ)社製で1970年代に発売されたもの。シャープな写りから「鷲の目テッサー」と呼ばれている
ひとつ注意点としては、SIGMA fpは1度Webカメラとして設定されると、USBケーブルを外すまで絞りや露出、カラーモード(明るさ)が変更できない。なので、事前に映像を追い込んでおくのがよい。以下に、筆者が使用して感じた設定のコツを書き出してみた。
▼レンズの設定
レンズは、卓上に設置するなら24〜45mmくらいが使いやすいだろう。設置距離の自由度があるズームレンズもいい。ちなみに、市販されているWebカメラの焦点距離は18〜24mmが多い(焦点距離の数値が小さいほど広角になる)。キット付属の45mmレンズの場合、とにかく背景を大きくボカしたい場合は絞りを2.8に、ピントの合う範囲を広げたい場合は絞りを5.6〜8くらいに調整するのがよさそうだ。
「24-70mm F2.8 DG DN [ライカL用]」。高性能ぶりが高く評価されているシグマ純正のズームレンズ。24mmから70mmまでの焦点距離を持ち、風景からポートレートまで幅広い用途で使用できる。Webカメラ用途としての相性も良く、f値も2.8と背景をボカしやすい
また、さらに広角を狙いたい場合は、超広角ズームレンズ、シグマ「14-24mm F2.8 DG DN [ライカL用]」を使う手もある。
▼フォーカス設定
自身が動いたときにフォーカスが細かく追従する必要はないので、マニュアルフォーカスでOK
▼配信解像度の設定
相手への映像遅延が気になる場合は「CINEモード」で、「メニュー」→「SHOOT」→「映像記録設定」→「解像度」をFHDにする
▼カラーモード
「サンセットレッド」「フォレストグリーン」など美しいカラーモードが多数用意されているので利用しない手はない。個人的には、上述の「ティール&オレンジ」がいち推し
ちなみに、UVCに対応しない一般的な一眼カメラをWebカメラにしようとしても、外部USBカメラとして認識されないので使うことができない。このようなカメラをどうしても使いたい場合は、別売のキャプチャーボード等を用意する必要がある。なお、先日キヤノンUSAが、Windows用のβ版ユーティリティソフト「EOS Webcam Utility Beta」をリリースしており、キヤノン製の一部のカメラではWebカメラ化が可能になった。一眼カメラのWebカメラ化は、やはりこのご時世で大注目のスタイルなのだ。
その他の注目ポイントとしては、まずバッテリーの持ちについて。筆者の環境で使ってみた限り、SIGMA fpのバッテリー持続時間は1時間くらいだ。仕事の打ち合わせ時間としてはちょうどイイ。しかしオンライン飲み会をすると1時間では時間が足りないので、純正ACアダプターを接続しながら使った。
さらに、小型の卓上三脚があると便利だ。背景や人物の構図を決めるカメラの角度を調整する時間がとても早くなり、自分の顔が1番カッコよく見える角度で配信できるようになる(せっかく画質にこだわるならぜひともやっておこう)。三脚は耐荷重を確認しつつ、各部がしっかりしたものを選びたい(スマホ用はやめたほうが無難)。
筆者宅で使用しているのは、イタリアの有名三脚メーカー、マンフロット社の小型三脚。曲面を多用した美しいデザインを持ち、開脚角度を2段階で調整できるなど機能性も高く、SIGMA fpをWebカム化しているユーザーの間では1番人気と言われるモデル
筆者は使用していないが、高品質な三脚で近年人気上昇中のレオフォト社のモデルもいい。価格は少々高いが、堅牢かつ精密感が高い本格派スペックで、ボディデザインが直線基調のSIGMA fpとのデザインマッチングもよく人気モデルとなっている
それにしても、SIGMA fpのWebカメラ化が世間で盛り上がる日が来るとは、購入時には想像していなかった。実際に使用してみると、カラーモードを適用しつつオールドレンズを使って工夫する楽しみもあるし、レンズ交換式のアドバンテージである画角を自由自在に設定できるなど、Webカメラとして使い勝手がよい。SIGMA fpには今後も多くの機能追加が予定されているとのことで、ファンとしては楽しみである。
というわけで最後に、ひとりのSIGMA fp愛用ユーザーとして感じる、SIGMA fpそのものの魅力を語って本記事を締めくくりたい。
本機はフルサイズセンサー搭載のカメラとして世界最小/最軽量を誇るが、ソニーデザインセンター出身の著名デザイナー・岩崎一郎氏による洗練されたボディデザインもいい。4K動画撮影にも対応し、別売の2.5インチSSDストレージ「Samsung T5 SSD」等と組み合わせることで、シネカメラレベルのCinema DNG RAW 12bit動画も撮影可能。静止画と動画の垣根を越えた高品位な写真/映像を撮影できることが魅力である。
今や高性能レンズの代名詞となったシグマのレンズを“純正”として使えることや、パナソニック(フルサイズ)とライカ共通の「Lマウント」規格採用により、3社のレンズやボディを相互利用できるのもうれしいメリット。それにシグマの独自センサー「FOVEON」を採用するFFF(フルフレームフォビオン)カメラも同マウントで発売予定になっている。
実際に使い続けて思うが、2460万画素のセンサーから出力される静止画像は、解像度と暗所性能のバランスがよい。さらに、広角レンズで問題になりがちな色被りを補正できる「カラーシェーディング機能」も実装されている。結果的に、レンズ全領域の個性を享受できるフルサイズセンサーを生かしたコンパクトなオールドレンズ母艦としても、SIGMA fpは最適だ。本機で撮影した4K動画を、自宅にあるJVCの4Kプロジェクター「DLA-V9R」で投影しても本当に美しい。究極のコンパクト化を達成するために思い切って機能を取捨選択した結果、メカシャッターや光学式ボディ内手ブレ補正機構はオミットされたものの、それを補うほどの魅力が満載である。
これまで筆者は長らく別メーカーのカメラを使っていたのだが、本機の登場によりLマウントへの変更を決意した。そしてSIGMA fpは、筆者史上初めての「カバンの中に常備するカメラ」となった。昨今の外出自粛要請が解除されたら、またSIGMA fpで写真や動画を撮りに出かけたいと思う。それまでは、このエモーショナルな画力をZoomでどんどん活用したい。
ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーAVの評論家として活躍中。